第36話
ユカリは呆然となる。
消え去ってしまったのが魔王だと言う事。
念願の【破邪】のスキルと獲得したが、使う前にあっさりと殺してしまった事。
それにしても、『魔王』って世界を恐怖にする代名詞と思っていたら、あっさりと腕や胴体を切断してしまった。
これはユカリに悪い事したなぁと思う反面、魔王バスダトを倒さなければ【破邪】のスキルを得られなかったから到しかないと言う事だな。
――――そのユカリが獲得した【破邪】のスキル。 殺した後に得たので、既に倒れ瀕死じょの魔王バスダトには、物理攻撃無効等のスキルが、発動出来ていなかったのかもな。
しかし等のユカリは、俺の考えても気にぜず、何かブツブツと念仏を唱えているように聞こえてくる呟き。
俺が抱いているのにペルセポネは、俺の腕から降りて手を差し伸べユカリの元に向かう。
「終わったのよ」
「ペルセポネさぁぁぁあぁん!!」
泣きじゃくるユカリは、ペルセポネに抱きつこうとするが、鼻水が垂れていて、避けている。
「なっ、なんでぇえ? ペルセポネさん。 魔王を魔王をっ」
「鼻水っ!! 汚い」
「そんな事ないですよぉ。 勇者の鼻水ですよぉ」
「勇者でも誰でも鼻水は汚い」
涙を拭いて、ブュッと鼻水を飛ばすユカリを見てペルセポネは呟く。
「あんた、その顔にその行動合ってないわよ」
――――確か、鈴木ゆかり。 一時期話題となったようだ。学校紹介の番組でテレビに写り『美少女』『キレイ』など話題が合ってからのあの事故だからな。
「ところで、ユカリ。 あの神エウラロノースに会えるのか?」
「私は、会いたいですね。 魔王倒してし、早く私の居た世界……地球に戻りたい」
「戻れるのか?」
「約束してくれたから」
「会わなくてはな……会う事が出来れば、それからだな」
目を輝かせるユカリに、魔王バスダトの身体が合った地面を見つめるペルセポネは、そのまましゃがみこみ握り拳を構え、地面に突く。
地面が若干揺れを感じたのは、魔王バスダトが残した鎧と兜が揺れ、地面に少しだけ亀裂が入れている。
「魔王の魔石ぃ〜」
悲しむペルセポネに向かうユカリは、ペルセポネの肩に手を置く。
「ペルセポネさん。 魔石また見つかりますよ」
「魔王の魔石よっ。 魔王現れないとダメじゃん」
ユカリは、ペルセポネの顔の前に光る物をだす。
「じゃーーん!! これ何でしょう?」
「これ、七色に光る物。 まさか?」
「そう、まさかの魔王バスダトの魔石ぃっ!!」
「これは私の物ですからダメです」
「キィッ!! 自慢ね。 人間がぁっ、私に自慢するとはっ」
七色に光る、大きくまるで岩のような物体に飛び出て羽のようになっている魔石。
――――魔石の美術観点は知らないが、独特な形状となれば売れるのか?
少し日が傾き始め、ランドベルク軍が遠くに密集し騒ぎ声がここまで届く。
「ユカリどういう事よ。 神、来ないじゃない」
「来るかどうかもわからん。 人同士の殺し合いを楽しみにする人族の神だ、むしろ来たら驚きだ」
「会うとは言ってましたけど、何処で会うとかまでは」
「結局。 あの女は嘘つきって事だね」
「このまま、来なければ日が暮れる。 俺達もあっちに向かおう」
「魔王倒したけど、何かトラブってるかも。 勇者のレベル設定無視されていたから」
「神の気配すらないからな。 来ないなら来ないで、こっちから引っ張ってやるけどな」
「ハーデス、ユカリ。 まぁ行きましょ。 勝ったのだこら美味しい料理貰えるかもよ」
俺達は、ランドベルク軍が待機している場所に向かう。
出っ張ったお腹の肉をグイングインと揺らして駆け寄ってくるコベソに続いて、ボンボンと腹を揺らすトンド。
「ハーデスさん、ペルセポネさん。 いやぁー魔王倒しに行っちゃうとは〜全く心配すらしてなかったけど、心配しましたよ」
「ほんと、ユカリのお嬢ちゃんだけ心配だったな」
「あぁ、生きてるかって」
「ひ、酷いです。 コベソさんとトンドさん。 私こう見えても勇者なんですから」
高く笑い声を上げるコベソとトンド。
「ユカリ嬢ちゃん。 ランドベルク王が、帰還を求めているんだ。 アテルレナスとは逆方向になるけど?」
「ええ、いい意味で目的果たせたので。 アテルレナスに向かうのはどうかと」
「そうだよな。 魔王倒す為に向かってたしな」
俺達はコベソたちと乗ってきた馬車に乗りランドベルクに向かう。
既に、撤退しているランドベルク軍が、ローフェンの街の宿や兵舎で埋め尽くさるとコベソが判断した為、国境の街ゼレヌで休むことにする。
「ローフェンの支店でも良いんだが、王やその側近とか貴族に騎士とかに会いたくないし、話すらしたくない」
などのコベソは、ゼレヌに着く前に愚痴を吐き出しのが本音であり、トンドも同意している。
ヒロックアクツのゼレヌ支店に着く俺達は、馬車から降りコベソ達の後を追い支店に入る。
ゼレヌの街を早朝に出発してから二日後、俺達は、ユカリとコベソにトンドと共に馬車に揺られながらランドベルクの城に到着し、そのまま謁見の間に案内される。
「よく来た、ユカリと冒険者の二人……そしてヒロックアクツ商事の者よ」
カツオフィレで見たより何故か貧相な飾りの王座に、座る金髪の凛々しくはっきりとした顔立ち、真っ直ぐ透き通った瞳をし、向かいに立つ俺達を眺めている。
「魔王バスダトを滅ぼし、世界の危険を回避した事を嬉しく思う。何より勇者ユカリ、お主がいたからこそ、この国も救われた。礼を言うぞ」
頭を下げる事はしないが、口調から心が篭っていると感じられる。
ここ謁見の間、下に縁が黄色で刺繍された赤い絨毯が敷き詰められ、空が望める窓から日差しが入ってこの部屋を明るくしている。
聴こえて無いようだが、周りにいる文官や騎士長などの私語も稀に聞こえている。
――――クラフ?人の名か?
――――本当に小さすぎる声だ。クラフという人物?誰の事だ?
「勇者ユカリよ。 ここからは聖女より、我らが神エウラロノース様から受けた神託の話を聞くが良い」
続けてランドベルク王は、話を隣の玉座に座る聖女に振ると立ち上がりながら目を閉じ、息を整える聖女。
「エウラロノース様はとある事情で貴女と会えないそうで、その代わりに神託を……『勇者ユカリよ、そして隣にいる方々よ良くぞ人族の尊厳と生命を守り、魔族とそれを率いる魔王を倒してくれました』と、そして――――」
再び深呼吸し心を落ち着かせているのか、聖女は、胸に手を当て続きの神託とやらを述べていく。
「そう、『魔王は、二体……』――――」
ランドベルク王は頭を抱え、この謁見の間を囲む様にいる文官や騎士長のざわめきが、増えると聖女は軽く咳をし、周囲を黙らせる。
「ここから……『勇者ユカリよ、残り二体は更に強いかも知れません。今よりもレベルを上げ魔王、魔族を倒し人族を守ってください』と――――」
ユカリは、少し顔を青ざめ目を潤い、涙と鼻水を流さないよう、顔の中心に力を入れ堪えている。
「あと、エウラロノース様は、ユカリに伝えてと『向こうの世界に戻れるように計らっています。心配なきよう』……と」
聖女は、その言葉を終えるとゆっくり座る。
ユカリもまた聖女から神託を聞くと泣きそうな顔から覇気を取り戻し、真剣な目に変わる。
「四十八年周期に現れる魔王――――今期、魔王三体出現という魔王災厄の時。 勇者ユカリよエウラロノース様の神託を真摯に受け、勇者として迫る魔王に魔族、我ら人族を守る力を身につけてくれ」
「はいっ」
地球に帰還できる希望と達成への目的が出来て、熱意が再び湧き上がるユカリは、その想いが伝わる程のハキハキしたいい返事をランドベルク王に返す。
王に一礼して俺とペルセポネは、コベソ達に付いてこの城を出る。
ユカリは、王や聖女と話がある様で、城に残っている。
人族の神エウラロノースが、あの場に現れなかったのは俺として……いや冥王としては、業務執行出来なかったのが痛い。
それを見越してなのかペルセポネが、俺の肩を揉んで笑顔を見せてくれた。
「まぁ、そんなに焦らない。 肩の力抜いて、異世界まだまだ何かあるわ」
「そうだな」
この世界、魔王が四十八年毎に誕生する仕組みらしい。エウラロノースに話を付けられなかったが異世界憧れ、今この異世界を動き回っている事に喜びを得ている。
話が終わったユカリが戻り俺達は、ランドベルク城下町から離れ馬車を進めているとコベソが、相談を持ちかける。
「ハーデスさんとペルセポネさん。 このままローフェンに向かっても良いか?」
「依頼……」
「いいぞ、あの場所の事か?」
「あぁ、回収終わってるか確認だ」
ゼレヌの街を出て1日目、ヒロックアクツ商事の社員が、ローフェン付近で行った魔族との戦争により転がった魔族の死体から物品回収に務めていた。
血みどろや土汚れになった魔族の衣服に鎧、そして剣や斧といった武器が、十数台の荷馬車に綺麗に積み重なってそれぞれ分類に分かれていた。
「うむ、これで終わりか?」
「会頭、あの場所……岩が散乱されている場所入り込んでの作業が困難で回収出来ませんでした」
「あの場所?」
「まるで岩が降ってきたのか、魔族殆ど押し潰されていてて……」
「押し……潰され?」
「それと、あそこ全魔族、胴体と下半身真っ二つ」
「真っ二つ!?」
「ええ」
コベソの目が、俺とペルセポネに向けられる。だけど俺達は、その目に気付かないフリをし、別の方向を眺めていた。
「魔王の鎧とか無かったか?」
「魔王? 大きな戦斧はここから右、あの先に落ちてましたけど、それ以外はあれらですね」
「そうか、魔王の鎧や武器が無い……のか」
腕を組んで考え込むコベソとは離れていたトンドが、戻って社員みんなに挨拶をし俺達が乗る馬車に乗り込む。
そして俺達は、この場を離れローフェン付近に進み、ヒロックアクツ商事社員が、百人ほど居たのかと、離れるこの場を後ろから眺めてていた。
その百人ほどで仕分けと死体の埋葬を終えていたのにも驚いていたが。
カツオフィレと国境の街ゼレヌに辿り着くと暮らす人々や街の雰囲気は変わらないのだが、警備兵やらがピリピリした態度で通行する者達を見ている。
それすら気にせずこの馬車は、門を通り抜け支店へと向かって行き、支店に到着すると真っ先に降りて満面の笑みで支店に入るコベソが、入った瞬間驚きの叫び声が外まで響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます