第24話

――――少しまえ大柵の辺りで聖女と第八騎士団長の会話している。


「勇者のパーティなのよ。 アイツらがブラックサーペント倒したと言うの面白い冗談」

「ええ、そうですね。 実際倒したと言うなら勇者とその仲間と共に戦って、トドメをアイツらがしたと」

「そもそも、ブラックサーペントと戦うなんて選択しないわ。 アイツら」

「なぜです?」

「あの四人。 行く事聞かせる為に少し術を掛けて、その時見たのよ」

「見たと?」

「アイツらのレベル」

「勇者パーティなのですから、それは高いと。 私が思うに、我が騎士団より上かと」

「レベル10」

「……レベル10」

「勇者のパーティになったと言う補正が入ってレベル10」

「我が騎士団ととんとん、私よりも低いじゃないですか!?」

「勇者に至っては貴方より上だけど1しか変わらない」

「だからですか。 商隊に紛れて入国しそのままアテルレナスに向かおうと」

「だが、向こうの冒険者、レベルが分からないわ」

「聖女様の、【鑑識眼】でも?」

「ええ、さっきからずっと見てるけど、弾かれてしまい」

「もしかして……」

「ええ、もしかしてだけど――――もしかしてだけど……」

「あの勇者パーティの言う事が本当……」

「ここでヤツらの戦いを見て於くのが」

「そうですね」


 次第に血の気が引き始める二人は、俺とペルセポネに対する勇者パーティ四人組の戦いを気が抜けない程眉間に力を入れ見ていた。



 死体が三人、肉片と化したゴリマッチョ男戦士、内臓が散らばる女戦士とその上に覆いかぶさった女魔法使い。

 男神官は、未だに気絶しているユカリへ回復魔法で治療している。

 ペルセポネが、ゆっくりと俺に近づいて来たと思ったら、剣を逆手に持ち振り下ろす。


「コイツ死んでいるね」


 女魔法使いの背中に刺し、死を確認した後、剣を抜いて足で女魔法使いを仰向けにする。

 回復しながらもその光景を見てしまったであろう男神官は、手で口を塞ぐが、嗚咽が止まらない。

 だが、男神官に更なる追い討ちが、始まり嗚咽どころか無表情な顔となった。


「こいつ、魔法使いなんだから魔石あるでしょ。 この、ぺったんこ。見つけやすくて助かる」

「ペルセポネ。 前にも人の魔石探ったのか?」

「確かぁ……盗賊団だっけかな。 依頼あってそれで」

「はぁ。 それで、殺して大丈夫だったのか?」

「大丈夫大丈夫。 デットオアアライブだったしその依頼。 その盗賊ムカついたから殺した。五月蝿かったし。 あっ」

「もぅ、見つかったのか。 慣れて……」


 ペルセポネは、女魔法使いの平らな胸元を二本の剣でほじくり返して、ポッカリ空いた穴のミンチ状態になった肉片の中に赤く小さな魔石を発見し取り出すと、女魔法使いの服の切れ端で拭っていた。


「これ、小さぁ――――はぁ、仕方ないわね。 胸も魔石も成長段階って罪すぎる。 勇者のパーティになるぐらいなのだから、もっと大きくても良いんじゃ」


 死体をほじくり返されているのに酷い言われような女魔法使い。当人は、大人に見えないほど背が低く、成長段階だったとか年齢とかの反論や弁明など発言ができない、これこそまさに『死人に口なし』だな。

 その後、男神官が「彼女、私達より年上」と呟いていたが女魔法使いは、ゴリマッチョ男戦士よりも年上だったのかと驚いてしまった。



「ちょっとぉぉ! あなた達」


 絶賛の笑みをしながらこの場所に響く程の叫ぶ聖女は、大柵にもたれているかのように手で支えて立っていると、剣を収めた騎士団長が、口角を上げ笑顔で、手を広げこちらにやってくるが目は、笑ってない。


「いや、君たち凄いな。 私の部下にならんか?」

「私達の、ガツオフィレに仕えるのが良いわ!」


 聖女は、自分だけ納得しそれが叶っているような顔をして頷きながら既に上がっていた大柵を抜けていた。

 だが、俺自身コイツらに恨みはある。


「有り得ない。 こいつらにしろ、お前らにしろお前達の王にしろ、この俺を、そして俺の妻もあんな場所に。少しの時間だが閉じ込めたのだ」

「まぁ」

「それは、誤解なのだ」

「誤解?」

「そ、そうよ。 貴殿と、奥方様の強さを知らなくて」

「我が国も勇者が攻めてくるという話を鵜呑みにし、貴殿も勇者しか持たないスキルをもっていた。そこが誤解なのだ」

「ええ、勇者のスキルは勇者しか持ってないと言う思い込みなのよ」

「――――もし、ユカリが勇者でなく仮に俺が、勇者だったとしたら同じ事。 しかも俺は、この聖女様に勇者と認定されたのだ。 勇者が攻めてきたから捕まえて牢屋に入れた。 同じ事になるな」

「チッ」


 聖女が、舌打ちをしながら早歩きで後ろに下がると、騎士団長は、剣の柄を握りそのまま抜剣し、身体を揺らしていた。


「騎士団長! そいつはランドベルクの勇者の一人、そいつは絶対に殺せ」

「はっ! この前も名乗ったが……。 第八騎士団の団長バクム、いざ勝負!!」


 剣を構え俺と対峙する騎士団長バクムは、ジリジリと間合いを取りつつ俺の左側ハルバードの上部を左手が持っているからか、そこを狙っている。

 そして、警戒しつつ間合いを取る騎士団長バクムの身体が数回光り、聖女から【損害庇保殻膜】【多重障壁】【能力向上】を掛けられいた。

 男神官の手が下がり、ユカリの背中についた傷口が完全に消えていたのを確認しペルセポネは、ユカリを背負ってコベソの所まで運んでいる。


「やってしまえ。 騎士団長貴方なら倒せる!!」


 聖女のその言葉と同時に俺は、ハルバードで騎士団長バクムの顔に目掛け突き刺すが、これを、交わすとバクムの顔が青白くなっている。

 剣とある意味槍の攻防が繰り広げられ、その音はこの部屋を響き更に弾かれる音が、重なっていく。


「――――ハァハァ」


 身体で呼吸する騎士団長バクムは、額から汗が多く浮き出て顎から滴る。


「もぅ、良いか?」

「何が、この戦いまだまだ終わらん」

「俺たちはここか早く出て、あの勇者の願いの『戦争を止める』をやるんだ」

「それは、無理だな」

「何故?」

「私は騎士団長なのだよ。 経験と実力は兼ね備えているんだ」


 バクムの後ろから、「やったれぇ!!」と、聖女は、応援なのか叫んでいる。


「私のスキル……」


 その言葉を言い放つとバクムの身体が赤く湯気と共に陽炎が立つ。


「スキル【飛躍】!!」


――――飛躍?


 俺が思った時にコベソが大きな声で叫び、俺に伝えてくる。


「そ、そのスキル今までのレベルが!倍になった」


――――はっ?倍?


 ハルバードを構えを崩さずバクムと睨み合っておる中で、いきなり倍と言われてもなと思い、瞬時に俺よりも強かったらと仮定して対処を対策する。


「そうなのだよ。 この【飛躍】というスキル今現在の状態を倍にするのだ。 因みに弱体化魔法は無効となる」


 笑いながら剣を振り回し意気揚揚とステップを踏んでいるバクムは、ステップを踏んだ勢いで俺に襲いかかってくる。

 攻撃速度も力強さも先程とは打って変わって段違いに変わるのが分かるが、それでもバクムの強さに合わせて攻撃の姿勢は変えず、奴の剣を受け流しつつ攻め続ける。


「やるな、貴様。 今の私について来れるなんて」

「そのスキル。 解除するまで続くのか?」

「――――ふん。 貴様に言う義理もない」

「そうか……」


 ため息を小さく吐く俺を見たバクムは、呆れ顔で剣の振り回す音が軌道と合わないほど俺に向けて斬撃を繰り出しそれを防ぐ俺は、ハルバードで斬撃の隙をついてバクムの左肩を狙い突き刺す。

 驚くと共に苦痛な叫び声を上げるバクムは、そのままよろけ後退する。


「まさか、この甲冑の肩を貫くとは!!」

「そこが、がら空きだ」

「チッ。 冒険者風情がっ。 騎士団長を舐めるな」


 バクムは、剣を構え鬼の形相で俺を睨むが、俺はそれに気にする事も無くハルバードを両手で持ち力を込めて、左下から斜め上に勢い付けて振り切る。


「なっ、驚かせるなよ。 肩に響くだろ」

「こんな感じで、いけたか?」

「は? 何を言っ……」


 バクムの後ろで大爆発と言えるほどの音と共に、埃煙が津波のように広がっていき、腕で口や鼻を塞いでいるバクムは、辺りを目で確認し音がした方へ目をやると、急いで音の元に駆ける。


「聖女様っ!! 大柵が落ちるとは」

「た、助けなさい」

「こ、これでは。 人を呼ばなくては」

「あ、あそこにいる神官を……。 連れてくるのです!!」

「はっ」


 落下し粉々に砕ける大柵の瓦礫が、聖女を巻き込む。聖女は、ギリギリの所で逃げられなかったのか仰向けになって右腕と右脚が、瓦礫に挟まれていた。男神官を睨み片手には剣を持ってツカツカと向かう。

 その前にバクムは、俺の目の前に迫ってくる。


「貴様の相手は、後でしてやろう。 まずは聖女様の回復だ」

「何、甘い事言っている。 今は生きるか死ぬかの場面だ」

「だが、聖女様の命が大切だ。 貴様も勇者なら――――」

「俺は、勇者では無いし。 我が妻をあんな場所に入れたお前達を許さない」

「お前の妻と聖女様。 どちらが尊く、どちらがこの世界に重要だ。 そんな事もわからんのか。やはり冒険者風情ぇっ!!」

「今は戦闘中だ。 自分が殺られないと思ったのか?」


 俺の横を通り過ぎ、男神官がいる所に歩くが、俺が振り返り、隙だらけの背中の中心を目掛けハルバードでバクムの胴体を貫く。

 背中から胸の中心に激痛を喰らうバクムは、貫かれたハルバードの先を見ると、口から血を吐き出しながら「きっ、汚い」と言い残し力尽きる。


「アホか。 敵に背を見せるとは。本当に騎士団長様なのか?」


 俺はハルバードを抜き取りバクムの死体を床に転がすと、口をパクパクさせている聖女は身動き取れず、意識を失っていたユカリが目を覚ました。

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