第22話

 あっさりと左右の騎士が倒れて血を垂れ流ししている所、更に真ん中の五人の騎士が、倒れた者の中に入る。

 その、光景を見ていた中衛の騎士、十五人。


「おい、聖女様に掛けて貰ったんだろ?」

「確かに掛かっている。 微かだが、光がある」


 自らの手や仲間の姿を何度も確認しあってざわつかせている。


「だったら、何故障壁無いんだ?」

「あの殻膜の魔法も効いてないのか?」


 動揺が隠せない騎士達だが、ペルセポネと俺は転がっている騎士たちを払い除け、一歩騎士団に向かう。

 来ている事を見えてない騎士団を於いて、ユカリが叫ぶ。


「ハーデスさん! ペルセポネさん! なんで殺すんですか? 殺す必要ありますっ!?」

「向かってくる、邪魔だから殺す。 それ以外ある?」


 ユカリの悲しみと怒りの叫びに対し、ペルセポネがユカリを見つめ凍りついた表情でユカリを睨む。


「で、ですが。 さっきだって! 殺す必要まで無いです。 この人たちだって家族や友人がいて」

「だから? 相手は武器を抜いて殺しに来ているの。相手側も死ぬ覚悟あるって事だよね?」

「で、ですが!!」

「ですがもクソもないっ!! ここは生死を争う場所。ユカリあんたも、死ぬ覚悟、殺す覚悟が、無ければ、あそこでビビって隠れてろ」

「私はっ。 私は勇者です! ビビりもしないし覚悟も出来てます」

「そう……なら。 貴女がそう向かうなら、あちらも、その覚悟あるって事。 ここは戦場なのどちらかが死ぬ、そういう場所」


 ペルセポネの気迫にユカリは、丸め込まれた感を感じる俺だが、この人族を殺しても俺達には関係ない。死者が俺たちの世界である冥界には来ないからな。来たら仕事増えるし、各冥界を守る者達にも迷惑かかるからなぁ。


「ユカリ、殺せないなら瀕死まで追い込ませればいい」

「……はい」


 二人は怒りをぶつけていた声を聞いていたのか騎士達に再び動揺が走る。


「おい、死ぬのか?」

「アイツら……」

「い、いやだ」


 状況を把握出来無い者、仲間をやられ怒りを燃やす者、恐怖に駆られ足がすくみ、倒れ、逃げ腰になる者、様々別れて言った。

 剣を構え、ゆっくりと騎士団に向かうユカリの掛け声に、恐怖に駆られた者は、慌てふためいて聖女と騎士団長が通って言った廊下へ逃げる。

 何人かはぶつかり、転びながら悲鳴を上げて消えていった。

 怒りに駆られた者は少ないが、状況を把握出来てない者を駆り立て、構えて俺たちの方へ視線が向く。

 向かってくると分かり直ぐに攻撃に移る。

 そして、俺とペルセポネの足元に横たわる数名の西洋甲冑を着た者が増えていた。

 ユカリは、更に二人の騎士を倒してはいるが、気絶している。


「なっ、なんて事!!」

「ユカリは、瀕死まで追い込ませ、私が殺すわ。 人間は殺人を侵してはならない……。 からね」

「――――人間!?」

「まぁ、コベソとトンド。 先を急ぐわよ」

「あっ、はいペルセポネ姐さん」

「だれが、姉さんよ!!」


 ペルセポネの怒りを見て、コベソとトンドは少し気後れして縮こまっていたが、ペルセポネとユカリの後を追ってこの部屋から出ていく。



 この、先から微かに聴こえる聞き覚えのある声。


「逃げてくるなんて!!」

「お前たち、何故ここに来た?」

「アイツら強過ぎて……。 応援を」

「はっ? あの勇者、お前たちとレベルが近い筈だ。 数で押せば、圧倒だろ」

「いいえ!! 団長。 アイツらはっ! アイツらは、ムリです」

「ふん。もういいわ。 あなた達は要らないわ」

「な、聖女様! だっ……んちょぉぉっ」


 再び広い場所に出る。

 ここは、見覚えがありこの城のロビー

 天井には豪華なシャンデリアと、床には高級感溢れる赤い絨毯に、壁には煌びやかな装飾されている。

 だが、俺たちが見えるこの場所から印象的なのは、鬼の形相で俺たちを迎えるこの国の聖女と血が滴る剣を握る第八騎士団長と俺達の間に仰向けになっている西洋甲冑の騎士が三体倒れていて、その下の絨毯の模様が流れている血で染まる。


「だらしない。 どうせ、功が欲しくて一人一人向かったんだろうけどなっ!!」


 血が着いた剣を振り払う騎士団長とその横に聖女が、俺たちに突き刺さるような鋭い視線を向ける。

俺たちが武器を構え、コベソとトンドは身を隠すと俺たちが着た反対側の廊下から、聞き覚えのある声が入ってくる。


「居たぞ! ユカリ殿だ」


 勇者パーティ四人の姿が見え、ゴリマッチョ男戦士が満面の笑みで手を振っているのを気付いた俺たちの視線を、騎士団長が勘づき聖女もその方向をむく。

 勇者パーティ四人組がいる所は、その場所を通れば外に出れる筈だが、第八騎士団長と聖女が阻んでいる。


「あれは、もしか……!?」

「あれは、勇者のパーティでございます。 まさか、ここで、この場所で挟撃を喰らうとは」


 騎士団長が剣の柄を両手で硬く握り締め、ユカリに剣先を向けてはいるが、勇者パーティの動向を伺うのか横目でチラチラと目を動かしている。

 その騎士団長に近づく聖女は、小声で俺達には聞かれないようにし、何か言っている。

 話終わったのか騎士団長は、構えていた剣を下ろし、そのまま鞘に収めると、聖女と共に、両手を軽く上げて降参の意を表す。


「俺たちは降参する。 さっさと戦場に行け」

「ええ、私が悪かったわ。 欲を出してしまって……。 勇者様、早くこの無駄な戦いを止めて!!」

「でしたら聖女様、貴女が共に行けば……」

「いいえ、勇者様。 私が言っても我が国と、ランドベルク。 いえ王と王の確執があり、この戦争でそれを取り払おうとしているのです」


 ユカリは、剣をしまって駆け足で勇者パーティの元に駆け寄ろうとした時「勇者様!世界を平和に」と熱い言葉を掛けられた涙を袖で拭いて、誰よりも早く向かう。


「ユカリ殿!!」

「ユカリ!」

「さっさユカリ殿。 早く先に……」


 感動の再会みたいな状況をみてた俺達も、外に出よう足を進めると、聖女がの顔が悪辣な顔へ変わる。

 そして、大きな音を立て強硬な大柵が、勇者パーティ四人が、いた出入口の通路とこのロビーを隔てている。


「なっ、扉開かない」


 ユカリの扉を何回も叩く音が、通路で響きこちらにも聴こえてくる。そしてその状況を見ている第八騎士団長も聖女と同じように悪辣な顔になっていた。


「おい、お前ユカリを出させろ」


 怒りを露にしたペルセポネは、剣を持ち戦闘態勢になっているが、それも臆しない第八騎士団長と聖女。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 通路の方から女性の苦痛な悲鳴が耳に入ってくる。


「あらら、コイツやったっしょ」

「ユカリ殿〜。 そんなに暴れちゃぁダメですよォ」


 笑い混じりの女戦士とゴリマッチョ男戦士の不快な喋り方が聴こえてくると、大柵が持ち上がって出てくるのは女魔法使いと男神官、笑いが止まらない女戦士に、背中の服が破け地肌と大きな切り傷があり、血が出ているユカリの手を持って引きずるゴリマッチョ男戦士はいやらしい顔で聖女を見る。


「聖女様、約束守ってくださいねぇ」

「ふん。 本当は消したいけど……。 いいわ。貴様が、確りと大事にするなら」

「絶対ですよ。 あぁ、早くこの女とぉ!」


 片手でユカリを起き上がらせようとするゴリマッチョ男戦士は、腰を揺らしユカリの顔を自分の顔に近づけながらクンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。


「おい、聖女様。 私達の約束も守っるしょ?」

「はいはい。 守ってあげるから、アイツら殺しなよ」


 聖女はそのまま通路へ行き大柵を下ろし、その柵を守る第八騎士団長は、剣を持って立つ。



「おい! っしょ、おまえ!!」

「今俺は、ユカリど……。 ユカリちゃぁんを」

「何言ってるっしょ。 キモ」

「もぅ堪んねえ。早く終わらせて、ユカリちゃぁんと愛に浸りたいぜ」

「だったらコイツらぶっ殺さなきゃっしょ」

「だな。 二人も頼むぞ」

「……ぁぁ」

「……(コクッ)」


 不快な顔と腰付きのゴリマッチョ男戦士は、腰にある小さいポーチから大きな戦斧を持ち構え、女戦士も大盾とロングソードを取り出して構える。

 男神官も女魔法使いも既にブツブツと聴こえないが口元が動いていた。

 部屋を仕切られた大柵から聖女の声が飛んでくる。


「いいかぁ!? 絶対に殺せよ。 魔法かけてやるから【損害庇保殻膜】、【多重障壁】っぶはっ」


 魔法回復薬を飲み干して、空にした小瓶を壁に叩き割ると「はぁっ、【全能力向上】」と勇者パーティ四人組に向かって手を出していた。

 すると、四人組の身体の輪郭が光ると同時に、四人の前に板が三枚現れ消える。

 そして、身体から蒸気に見えてしまうオーラが湧き立つ。


「数段に強くなった私たちを、舐めちゃぁダメっしょ」

「これだ、これっ!!」

「やはりっしょ。 あの聖女様についてよかったァ」

「あぁ、お前たちが、ブラックサーペント倒したとしてもだなぁ!! 今の俺達には敵わんぞ」

「そうそう。 ブラックサーペントをあっさり一撃で倒しちゃうあんた達でも、私たち勇者パーティは、めっちゃ強いっしょ」


 不気味な笑いをする勇者パーティ四人の言葉を聞いた聖女と第八騎士団長は、目を丸く開いた口が塞がらなくなっていた。

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