第21話
聖女は、少し下がり前衛に西洋甲冑の騎士が五人、剣と盾を構えている。
ただ、五人並ぶには狭すぎる石畳の廊下。
三人だけ前にでてきて、あと二人は聖女を護衛している。
「お前たち、あいつらを!!」
「はい、聖女様」
牽制しながらもじわじわと歩みを進める兵士三人の後ろで、聖女は静かに手を前、兵士に向ける。
「損害庇保殻膜!!」
薄い半透明の膜と共に兵士の輪郭を光で浮き出される。
「続いて多重障壁!」
そして、薄い半透明の板が三枚程兵士の前に現れ消える。
「ココは任せました。 絶対、そいつらを殺してでも足止めしなさい!!」
「はっ」
聖女は、兵士達に言い残し、白い法衣の裾をたくし上げ奥に走り出す。
ユカリは、この城を抜け戦争を止めなけばならないが、それも目の前にいる兵士をどうするかだな。
そんな事考えていたが、つい先ほどこの城の兵士の息の根を止めているのだ。進むにはそれしか無い。
「私、やります」
まっすぐ兵士に突進するユカリの右手には、鍔が装飾されてもいない極普通そうな剣を握り締めていた。
三人の兵士は、迫ってくるユカリの剣を弾かせはするが、攻撃出来ず防御に回っている。
推されて倒れ、またよろけて倒れ込む兵士だが、直ぐに立ち上がりユカリへ攻撃を再開する。
悔しそうなユカリの声が、この階に響き渡る。
ユカリの剣が兵士の胸元に入るが、兵士の目の前で光の板が現れ、剣が弾かれる。
「た、多重障壁なんてっ」
だが、何度もユカリの攻撃が入ると兵士の前に現れた光の板が、まるでガラスの板が砕け散った様に見え、その破片は直ぐに消えた。
「あれ、ユカリの剣入ってないか?」
「あー、多重障壁の壁で防がれているぞ」
「確か、三枚ぐらい光ってたから、厄介だな」
「何が?」
「障壁を三回壊さないとな」
俺の疑問にコベソとトンドが、隠れながらも解説していると、隣にいたペルセポネがいない。
「後、一枚!!」
息を体全体で呼吸するほど息を切らしているユカリが、剣を構え兵士三人に臨もうとした時に、兵士三人共動きが止まり、そのまま前に倒れる。
「多少なんだか、多重なんだが、がっ邪魔!」
ペルセポネの冷たい目が倒れた兵士を見つつ、剣を兵士の心臓を目掛けて突き刺す。
「きっ、貴様!!」
顔を赤くし怒りをあらわにして、ペルセポネに突っ込む残りの兵士二人だが、崩れ落ちる。
「た、多重障壁……」
「そ……い……まく……」
兵士から出てくる赤い血が、床の溝を這うように流れている。
「おい、無駄な殺しは……」
「奴らから殺しに来たのよ正当防衛ってやつよ」
まぁ、この世界の人間を殺しても、俺や冥界の守護する神に迷惑を掛けることは一切無いからな。
笑顔で返答するペルセポネとその兵士を唖然と見つめるユカリの前を俺とコベソにトンドは、兵士の脇を通る。
「お嬢ちゃん、行くぞ」
「あっ、はい!!」
コベソの声で、我に返るユカリは、俺たちの後から着いてきて聖女が進んで行ったと思う方へ駆けているんだが、二叉に出る。
「まず、この地下から出ないと」
「どっちが正解か……」
コベソとトンドは、眉をひそめ二手の道を見比べいると、何かを発見したユカリの声が、響く。
「あ、あそこに何か光ってる」
「あれ、瓶か?」
「あっちだろうな」
俺たちは、光る物が見えた方へ進むと、やはりコベソの言葉通り、艶がある陶器の瓶とそれに液体が付いていた。
「ありゃ回復薬だな、多分魔力の」
「トンドが、そういうなら聖女は魔力を回復させたと、言う事だな」
壁に明かりが灯っているが、足元は見えずらく、何があるか不安である。暫く進むと光が広がり階段を昇って俺たちは、地下を出て少し進むと大広間に着く。
だが、そこには銀色の西洋甲冑の騎士が三十人、俺たちと対峙し、その騎士達の後ろから聖女の声が高らかに上った。
「きぃっ!アイツらを殺せ」
「第八騎士団! 聖女様からの命だ! 抜剣!!」
聖女の隣には、装飾されたマントの騎士団長は、手を高く挙げ、そのまま振り下ろす。
剣の柄に手を掛けていた騎士達は、揃って剣を抜き構える。
「第一帯、攻撃開始」
三十人いる中で前衛、中衛、後衛にそして、左右真ん中と均等に別れて、前衛が歩き出す。
聖女が、手を前に騎士団に向けて突き出すと、前衛の騎士達に、先程地下で兵士に掛けていた多重障壁ともう一つ、損害庇保殻膜と言う魔法を使っている。
「今度は騎士、強硬な鎧」
剣を構え、迎え撃とうとするユカリは、前に出ているが、コベソとトンドは、部屋に入る前の廊下で隠れて、その前に俺とペルセポネが、この状況を見渡している。
「なぁ、あの【損害庇保殻膜】ってなんだ?」
「――――わからない」
「あの、【損害庇保殻膜】ってやつヤバい」
「ヤバい?」
「多重障壁は、障壁を数枚作って相手の攻撃を防ぐ魔法なんだが」
「それは、何となくわかる」
ペルセポネも頷いているが、コベソの目が微かに青く光ながら騎士団の侵攻を睨むように見ている。
「その損害庇保殻膜は、簡単に言えばヒットポイントだ」
「はっ?」
俺とペルセポネは、思いがけないコベソの言葉で驚くが、それが見えないコベソは、そのまま話を進めていた。
「掛けられた対象者は、致死量までダメージをその殻膜が肩代わりしてくれる、ってヤツだ」
「つまり、致死量以上切り刻めば、いいって事だね」
「――――ペルセポネさん、そ、そうだな」
「あいつ、また飲んでるぞ」
トンドが、聖女を指さすと、その聖女は、陶器の小さな小瓶の中身を飲んでは投げ捨て、床に破片が飛び散っている。
その数四本程で、腰に手を回し後ろから取り出しているようだ。
騎士五人からの猛攻撃、斬撃の嵐を受け流したり、交わしたりとユカリは、見事攻撃を退けてはいるようだが、その反面攻撃に転じてない。
そして、ユカリの脇を通る五人ずつの騎士達だが、ユカリを通り過ぎ時に奥から聖女の声が再び部屋に響く。
「お前たち、そいつらを殺してしまいなさい! 絶対にココから出させるな!」
そう言い残しつつ「騎士団長、早くあの場所に」と聖女は、騎士団長を連れこの部屋の先にある廊下を進んで行ってしまった。
「あの女、何か企んでいるな」
「ペルセポネ?」
トンドの呟きにコベソも頷いたのを横目で見えていた。だが隣にいたはずのペルセポネが、また居ない。
「うわっ!!」
左側にいた騎士五人の銀色の鎧がみるみる赤く染まり、項垂れるとそのまま倒れて血が床に広がっている。
そして、この俺もペルセポネの動きを見て、ハルバードで右側五人の騎士の首を突き刺し倒している。
この世界の人族と言う存在を何の躊躇もなく殺せるのは、ゲーム的な感覚に近いのだろ。この世界の人族、ゲームで言う敵キャラクターという感覚であって、自分たちの世界の人間界にいる人間では無い。もちろん、人間界の人間を殺害する事は、躊躇うだろうし、殺す事を優先しない。
ペルセポネとの解釈は違うと思うが、この世界は異世界であると同時に俺からしたら仕事で来てはいるが、遊びの様でもある。
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