第20話
軽装備と言ってもいい防具に剣を両手で持つ三人組の兵士が、既に身構えてこちらを睨む。
三人横に並んでも少し余裕のある石畳の廊下と壁。武器を振るうには少しキツそうだ。
「おい、お前らどうやって出た!?」
「おい、お前らどうやって出やがった?」
「……」
一人無言かい!など突っ込む暇もなく、俺とペルセポネの後ろへ引き下がるコベソとトンド。
「まさか、人間を」
「め、ハーデス。 どうする?」
冥王と呼ぶ癖は、長年抜けないのだろが、上手く変えているペルセポネに俺は、「戦意を削げれはば」と小声でつたえたつもりだ。
ニヤッと笑った口元を見た俺、既に目の前は血の嵐、兵士は倒れ込んで首から血が噴き出していたのをペルセポネは、まるで威圧感を出して死体を見下す。
「コイツ、私の世界の人間では無いものね。 苦しまずに死ねたことに感謝して貰いたい物です」
「おい、殺す必要など」
「ハーデス。 コイツら転移や転生者以外モブよ」
「モブ?」
「確か……群衆だっけ。 主要キャラ以外の奴の事よ」
「でもな、人だぞ」
「――――あっ、この世界の人族、私達の世界には何の影響もないじゃない」
「確かにそうだが、でも殺すとなるとな」
「もう、私達の世界では無い。 それじゃあのエウ……あの女の神が私達の世界の人間を奪い殺してたらどうする?」
「それは、許せん」
「なら、私達を殺しに来たヤツらを殺しても構わないじゃない」
「まぁ、殺しにくるならな」
ペルセポネの言葉に、俺は気づいていた。
この世界の人間、即ち、俺たちの世界に関係ないって事だ。
しかし、転移者や転生者と既存の人の見分けが出来ないが、そう考えると、簡単に殺すのはどうかと、再び悩んでしまう。
「ささ、行きましょう」
「ペルセポネ。 やはりそう簡単に殺すな。 コイツらが転移者だったら」
「大丈夫大丈夫!」
楽観的に返答するペルセポネは目を泳がせてあたが、そこにコベソの一言。
「大丈夫です。 ヤツらは、この世界の人間ですから」
「なんでわかる?」
「何となくですな。 私も転移だから、直感というかそんなので分かる。そうだよなぁ?」
「俺も、分かるな。 コベソが言ってた感じだな」
――――コベソもトンドも頷いているが、直感……。
人の直感、女の直感、良く当たる者もいれば当たらないのも聞く。
そんな、あやふやな事でわかって欲しくは無いけど今はそれしか無さそうだが、殺すのは止めさせる事にする。
「兎に角、殺す必要なかったら殺すな。 その時は気絶か意識無くさせろ。 それでいい」
「えっー!ハーデスそれ、気絶も意識無くすも同じ気がする」
「どっちもだ。 無駄な殺しはよせ」
「――――わかったわ」
しょげるペルセポネの肩を軽く二回叩き、先を急ぐ、三人組兵士が、数回現れたがペルセポネの攻撃と俺の攻撃で軽く足らう。
だが、ペルセポネも俺も、気絶させる事に手間取ってしまい、やりすぎて数人殺してしまった。
そうなると、俺自身この世界の人族の命を軽く見てしまっている事に気づくも、ユカリを救出する方向性を向け、仕方がないと心の中で片付けていた。
「あそこだ!」
「コベソさん、トンドさん。 ペルセポネさんとハーデスさん!ココには来ない……で!」
ユカリは、鉄格子にしがみつき、この階に響き渡るかのような大声を出して俺たちに伝えてくる。
しかし、その声が終わるか否や、俺たちはユカリの部屋の前、鉄格子を挟んで向かい合っていた。
「ココには……」
すると、部屋の奥から白い姿の女性と共に、何とも言えないけど、嗅いだ事のあるあの刺激臭が、俺の鼻に直撃する。
「くっ!!」
「キツっ」
俺も鼻を塞ぐが、ペルセポネも既に塞いでいのだけど、コベソとトンド、更にユカリまで塞ぐ事無くこの場であの、女の神と直面する。
「うふふ、また会えたわね。 あの色男。 私珍しく覚えていたわよ」
女の神エウラロノース、初めて合った時と変わらず、この牢屋という場所に不釣り合いな格好をして話しかけてくる。
「ブーブーブ、ボフォ!!」
鼻と口を抑え叫んでいるペルセポネだが、それを見たエウラロノースは、あっけらかんとし、そして鼻で笑う。
「何言っているか分からないわ。 でもいいの」
コベソとトンドにユカリは、固まっているのかひたすらその場で止まっている。
「勇者である貴女に、ここを出るなら私は応援するわ。 でも、早くしないとこの国とあそこの国戦争が起きるわよ」
楽しそうに話すエウラロノースは、表情に出ないようユカリの顔を見つめ、そして、そのまま話を進める。
「私は、戦争が起きて欲しいの。 だって今まで人族と人族の対立なんで無かったのだもの。 人族と魔族しか無かったのだから」
抑える事の出来ない表情が、湧き出るかのように悦に浸るエウラロノースは、俺たちが黙っている事をいい事にそのまま話をしている。
「人族が、人族と殺し合う。 同族が同族を殺す。 単位の問題よ。 戦争という大きな数のぶつかり合い。これ悲痛な叫びしか残らないのよ。 勝った方、行き伸びた者は生きている事に喜ぶけど、死んだ者の家族やら周りの者は、勝利者に恨みや憎しみを抱き生きていく。 これ悲痛な叫びじゃない。 素敵じゃない!?」
「おまえ、狂っている……」
「あら、色男の顔が台無しよ。 そう睨まないで欲しいわ」
「お前が守りたいと言っていた人族を、そんな考え持っているとは」
「もう、飽きたのよ……」
「……」
「勇者が、成長しないと、魔族も攻めてこなし向こうも魔王を送ってこないわ。 それじゃ私の楽しみ、人族の悲痛な叫び聴けないじゃない」
エウラロノースは、鉄格子を人差し指で突っつくと、先程ペルセポネがやった事と同じく木っ端微塵に砕け散った。
鉄格子の塵が舞落ちて、床に溜まる。
「だから、勇者が死のうが気にしないけど、この国カツオフィレの王に夢に夢を見させたのよ。 それが良い引金に、なってくれたわ。 見事、戦争が始まる。楽しみ」
心踊ってそうな満面の笑みをするエウラロノースは、床に落ちた塵を越え、俺たちが来た道の方を眺める。
「聖女ちゃん。 勇者がランドベルクの軍隊に着いたら貴女の……ガツオフィレの軍敗北するわ。 貴女の命も尽きるかもね。 私がそう神託送るけど」
壁の影から出てくる、この国の聖女と聖女を守る兵士が数名現れ、睨む。
「エウラロノース様、私は!?」
「貴女は、ここに居る人たちを退けるか、この場から離さない事ね。 そうすれば戦争が始まりこの国が勝つと思うわ。 ――――でもね」
「でも?」
「この子、勇者ユカリを戦地に向かわしてしまえば、邪険に扱ったあなた達はどうなるか……。 でも、あなた達、この子殺して自分達で勇者召喚しようとしてた物ね」
俺たちは、エウラロノースの言葉に驚くが、その中で目をひん剥いて驚いていたのはユカリと聖女。
「私はどちらでも良いわ。 また召喚しても良いし。 でも戦争はどの道起きるし、勝利の行方が勇者の存亡で関わるから、結末楽しみだわ」
小さくスキップしながら消えるエウラロノースだが、消える直前「聖女ちゃん。 あの子が死んだら貴女の筋書き通りに神託するわよ」と残していった。
エウラロノースが、消えた直後動くユカリにコベソとトンド。俺は抑えていた手を動かすが、微かに残る臭い。
「大丈夫か? ペルセポネ……。 えっ?」
ペルセポネの顔には布マスクを付けていて、それを見た俺にドヤ顔しながらサムズアップをする。
「大丈夫だけど、くっせ〜臭い、ダダ漏れだろ。 あの女!!」
ペルセポネの言葉に反応し、怒りをぶつけるガツオフィレの聖女。
「あの女とは!何?神よ。 エウラロノース様に失礼な」
「あっ? 激臭振りまく神かよ」
「激臭? 何言っているの。 あの方エウラロノース様の香りは尊い匂いよ!!」
聖女の言葉に俺達一行は、静まり返る。
『尊い匂い』ってと思っていると聖女を守る兵士も「そうだ、そうだ」と聖女の言葉を推してくる。
「それは、わかるが! お嬢ちゃんをここから出さないとな」
「そうだな」
コベソとトンドは、そう言うがユカリが居る牢屋にの奥へ行き身を潜める。
だが、それが気になったわけでなく、コベソもトンドもあの女の臭さが、聖女と同じ?俺とペルセポネの鼻がおかしいのか?
「お前たち、特に勇者。 お前はここで命を落として貰う」
「め、ハーデス。 ここは」
「あの聖女だけは、生かせろ」
「えっ? はっ?」
「い、いや。 どうでも良いが、あいつの筋書きとやらが気になってさ」
「なんだ、浮気かと」
「そんなん、しない」
「さっきの女の神。 あいつの事はわかったわ。 あの臭さ近寄る事さえキツすぎ」
「分かってくれたのか!」
「臭すぎて分かったわ」
俺が、エウラロノースに浮気しているというペルセポネの勘違いは晴れたようで、一安心なんだが、俺たちの会話を聞いてなのか、癇癪を起こす聖女。
「一回で覚えなよ。 エウラロノース様の匂いはいい匂いって!!」
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