第14話

 ここから来るなと言わんばかりに睨みつけ少し胸を張り威圧的な態度を取るペルセポネに対し、勇者ユカリの隣にいるゴリマッチョ男戦士と女戦士が、一歩前に出てくる。


「なんだお前はぁ? ふんっ、冒険者風情が!」

「そうだ! こっちは勇者のパーティだって知ってるっしょ」


 戦士二人は、見下す顔をしなが、ペルセポネに近づく、とぐろを巻いていたブラックサーペントが、起き上がりこちらに目を向け、大きく口を開き威嚇の声を上げる。

 ペルセポネに迫る戦士二人を引き留めようと勇者ユカリが割って入る。


「まぁ、二人ともここは……」

「そっ、そうだな……。 ユカリ殿も言っている事だし。冒険者!! 助け呼んでも手なんて貸さんぞ」

「お前のやられっぷり見ててやるっしょ」


 ブラックサーペントと戦士二人の目が合ったようでゴリマッチョ男戦士の顔が強張り目が泳ぎ、女戦士は青ざめてつつ、そう口にこぼしゆっくりと元いた馬車の所まで下がっていた。


「ふん、邪魔なん……」


 ペルセポネは、そうボソッと呟いた後、ユカリ達を背にしブラックサーペントと対峙し、二本の剣を抜くが、構えていない。

 まだまだ、ブラックサーペントと俺たちの距離はあり、顔を上げいるだけのブラックサーペントは、動いてこちらに来ようとする気配すら無い。

 その状況で、コベソが、俺を呼ぶんだが。


「ハーデスさん。 武器って?」

「あぁ、一応持っておいた方が良いか!」


 俺は腰に付けていた剣を抜き取る。

 そう、街でバッグを買い忘れてしまい、念の為帯刀していたショートソードの柄を持つと、コベソの腑に落ちなさそうな顔をしている。


「槍、じゃないんですねぇ……」


 槍?なんで槍だと思った?


「それじゃぁ、これ使ってくれ」


 コベソは、布に巻かれた長尺な荷物を俺に渡してきて布を剥ぎ取り中身を手に取る。


「これは?」

「ハルバード――――」


 すると、ゴリマッチョ男戦士と女戦士の汚い笑い声がする。


「なんだぁアレ。 槍に斧なんかつけて!!」

「そうそう、色んなの付けて! 意味無いっしょ。 見た目だけで、俺すげぇーってかぁ」


 男神官も女魔法使いも酷く笑っているようだが、勇者ユカリだけは、冷静にブラックサーペントを含めてこっちを眺めている。

 コベソも一瞬チラッと勇者側の方を見るがすぐに視線を変え「まぁ、この世界じゃ珍しいか……」とボソッと呟く。


「専属の護衛になった品だ。 そうだ、冒険者ギルドで登録の時石使ったかい?」

「あぁ、魔力呪印だっけか」

「そう、それと同じ感じで使えば、魔法効きにくい奴にも、うってつけのはず」


 勇者側に喉を鳴らして威嚇するブラックサーペントと、その向かいにいるペルセポネは未だに動かない。


「ペルセポネさん、胴体傷つけ無いで欲しい!!」


 コクっと頷くペルセポネ。


「そんなん出来るわけねぇだろ! ブラックサーペントだろ」

「ランク上位の魔物にそんなん出来んの勇者パーティだけだわ!」


 と自分たちは、引き下がっているのに調子良い事を吠える戦士二人だが、黒い岩が、徐々に崩れていくと、笑い続けていた勇者パーティの四人の声が、聞こえなくなりミシミシッと地面をずって這う音しか聴こえない。


「も、もう一匹だと!」

「ちがう。 全部で三匹っしょ」


 驚愕で大きな口を開いたまま、ただ、呆然とブラックサーペントの方を向いている四人。

 ペルセポネは、二本の剣をまるで鳥が羽を広げた動きをし剣を上へ上げている。

 その行動を「何しているんだアイツ」とゴリマッチョ男戦士の言葉を余所に、勇者ユカリも言葉を発する。


「一匹倒した……」

「ユカリ殿それは、有り得ん!」

「倒すなんて、そんなの出来ないっしょ」


 ユカリの目も微かに青く発光している。

 ペルセポネは、勢い良く剣を下ろすと、ブラックサーペントの口角から赤い血が垂れ始めると、頭上半分が地面に落下し、血が吹き出す。


「ブラックサーペントの頭ぶっ飛んだぞ!」

「アイツ何したんっしょ?」

「見えなかった……。 多分、剣をあげる前、既に剣を抜いて倒してたって事?」


 戦士二人の目が点になり飛び出る程大きく見開き、口を開いたまま大きく開けたまま、ブラックサーペント一匹が一瞬にして倒れた光景を、見ている。

 戦士の後ろにいた男神官と女魔法使いも、驚きを隠せずに、ただ唖然と立ち尽くしている。

 ペルセポネが剣を下ろした瞬間、もう一匹ブラックサーペントが牙を光らせペルセポネに向かい噛み付こうと突撃する。

 だが、ブラックサーペントは、顎から地へ落ちるが、その時既に口角から上の頭がすっぽり無くなっていた。

 倒れたブラックサーペントに、妙な影が出来ると直ぐに無くなっていた頭が空から落ち、地面に埋没していた。


「あれも、いつの間に」


 落ち着いて、独り言を漏らすユカリだが、その回りは、既に固まって目を動く事さえ出来ず点になったまま、ただその光景を眺めるだけ。


 最後の三匹目のブラックサーペントは、首を仰け反り空気を吸う。

 口を大きく開いたまま、キラリと光る牙から緑色の液体が垂れていた。


「あれ! 毒だぞ」

「ハーデスさん! 毒霧来るぞ!」


 未だに目が微かに青く光っているコベソとトンドが、大声で伝えてくる。

 ペルセポネが、剣の柄を握りしめ構えの体勢に移る。

 その時、俺は咄嗟にコベソから貰ったハルバードを持ちペルセポネとブラックサーペントの間に叫びながら無我夢中で飛び込む。

 胴体が膨らんだブラックサーペントは、頭を前に動かし吸った空気を吐き出そうとした時、俺は、ハルバードを両手で握りしめ、ブラックサーペントの膨らんでいる胴体に突き刺す。

 もちろん、ブラックサーペントが、頭を高く上げていた為に、胴体に指すことになったのだが、ハルバードを抜くと刺傷からドロドロと鮮血が流れ落ち、頭から倒れ込むと、何とも言えない苦痛の奇声を上げ、辺りの草を体ですり潰し、のたうち回わりだす。

 地面には、牙から出てた緑色の液体が零れ、地面に生えていた草花が、次第に枯れると共に血で赤く染まっていく。

 俺は、袖で汗を拭うとペルセポネが、ニヤニヤと俺の脇腹を肘で突っついてきた。

 俺は、そんなペルセポネを見て顔をしかめる。


「なんだ?」

「め、ハーデス!」

「だから、なんだ?」

「毒霧から守ってくれて」

「当たり前だろ! ここにいる全員に掛かったら大変な事になるだろ」


 ニヤニヤがしながらも頬を抑えくねくねとするペルセポネ。


「ブラックサーペント飛びかかる時に言ってたのもう一度言って欲しいなぁ」

「俺、何言ったかぁ?」


 確かに飛びかかって何か叫んでいたけど、すっかり忘れている。

 すると、ペルセポネの声から俺の言葉を聞いて、羞恥心で顔が熱くなった。


「ハーデスが言ったのは……『俺の愛する人に汚ぇのかけるんじゃねえ!!』」


 俺は、周囲を見る事も嫌になり顔を下げ、次第に耳も熱くなっていた。

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