第15話

 ブラックサーペントを倒した後、野営地を見つけ夜を明かし、日が上がると同時に先に進む俺たち。

 国境には流通が盛んな街がある筈なんだが、今現在いる国ランドベルクとその先の国カツオフィレの争いから、仲も悪く、ガツオフィレへ向かうランドベルクの商人は、入国時に高い関税を吹っ掛けられるらしいと言うが。

 貿易やら商いなど異世界物には、そんな話が多くある。だが、俺が体験したい異世界物では、小金稼ぎとして物品を売るとか有りかもしれないが、コベソの商業的な話は、殆ど右から左へ受け流し後部から外を眺めていた。

 その話を真剣に聞いている勇者ユカリ。

 あのブラックサーペントを倒した時、勇者パーティの四人を元いた馬車に乗り、ユカリだけ俺たちの幌馬車に乗り込んでいた。


「そうなんですね」

「カツオフィレは、物価は変わらんけどな。 ランドベルクの品だけ高い」


 直ぐに溶け込んで、しかも数日前に合ったばかりなのに、ユカリ自身コミュニケーション能力が、高いんだろうか?

 ペルセポネが、ユカリまじまじと不可解な面持ちで聞いていた。


「そういえばユカリは、何しに鰹のヒレ? に行くの?」

「……カツオフィレは、ただ通り過ぎるだけですけど、目的地はアテルレナス」

「そう、そこ。 なんで?」

「ランドベルクでは、もうレベル上がりにくくなって、そこでアテルレナスに行くんですよ」

「さっきのブラックサーペント倒せば良かったのに」

「すみません。 あれは、前に私達パーティがヤツらの巣へ向かって討伐しようとしたら、失敗して怒らせてしまったんですよ……」


 コベソとトンドは若干口が開き、ユカリの言葉を呑み込めない様な顔をし口にする。


「いや、あの依頼。 ゼレヌの街から出てて商人の中じゃ早く解決して貰いたい依頼だったんだよ」

「まさか、勇者のパーティが事の発端とは……」

「すみません、レベル上げたくて」

「まぁ、ウチは被害出てないから良いが、ローフェンとゼレヌの流通が止まったのは事実だ」


 コベソの強い言葉が、ユカリを小さくしていた。


「そんなのどうでも良い。 ソコに巣があるのなら近いうち出て来ていたんだから、私が倒す為に現れた可哀想なヘビよ。 一匹は取られたけど……」


 俺をチラッと見るペルセポネだが、俺は気づかない振りをする。

 なぜなら、あの時叫んだ言葉を思い出すと、未だに恥ずかしいし顔を合わすことなどしばらく無理だ。


「ウチは、ブラックサーペントの皮と肉を手に入れられたし」

「ブラックサーペントの毒も手に入れたからな。 治療薬など開発出来るから嬉し限り」


 コベソとトンドは、ホクホクな顔をしている。

 皮と肉は、分かるがトンドの『毒を手に入れた』とは気になるが、聞くとペルセポネの方を向いてしまうので俺は、外をひたすら眺めている。


「で、ユカリはなんでその、当たるレタス? に行く?」

「――――アテルレナスに、ダンジョンに行くんです」

「ダンジョンって敵を倒すと強くなったりするやつ?」

「そうです、私達早くレベル上げないと」

「なんでそんなに急ぐんだ?」

「実は……」


 コベソの質問をユカリは、深刻な顔をして返答し始めた。


「……聖女が、神託を受けたんですよ。『早く魔王を倒せ』とそして、『アテルレナスに行きダンジョンでレベルを上げ、ダンジョンを踏破せよ』と言ってきたんだそうです」

「そうですって、勇者さん。 アテルレナスのダンジョンの踏破、歴代の勇者でも極わずかしか出来て無いはずじゃ」

「ユカリでいいです。 歳下ですし――――」

ユカリの直視にこ恥ずかしそうに目をそらすコベソに言った後、話し続ける。

「――――でも、ランドベルクではレベルが上がるのキツいですから、ちょうど良いのかも知れません。ダンジョンでレベル上げて魔族から人族を助けられれば」


 元気な表情を作るユカリからは、不安の影が伝わってくる。


「でも、問題は」

「そう、ゼレヌの街にある関所だ。 ウチらは商隊なんだ。勇者という存在がウチらに居るということを隠せねばなならない」

「?」

「さっきも言ったがカツオフィレとランドベルクは睨み合っている。敵なんだ。 敵の勇者なんて入国させる訳には行かないし……」

「なんで? 勇者は、人族を魔族から守る為に」

「カツオフィレから見ればランドベルクの勇者は敵。自国に敵が攻めてきたと取るだろう。 ここぞとばかりに戦争をする言い分となる」

「でも、勇者……」

「そして、『ランドベルクで召喚した勇者は弱い』という風潮も出来るし、神に対して『ガツオフィレで召喚を』とアピールにもなる」


 コベソが、説明をすると、頷くユカリにペルセポネが不可解な表情をし、コベソに聞いている。


「なんで、神にアピール? 神って見てるの?」

「多分な。 勇者であるユカリが近くにいるから見てるかもなしれん。 わからんけど」

「きっ!!」


 ペルセポネの発言を、直ぐに止めるよう腕をクロスさせ注意を促すコベソとトンド。


「聞いているかもしれないから、誹謗中傷的な言葉は使わない方が良い」

「……」


 ペルセポネは、少し目を丸くしたあと、口を結び黙り込む。


「兎に角、ユカリは、勇者だと言うことを黙る。 あの四人にもそれを伝える事だ。 王からも伝えているはずだが」

「そろそろ野営の、準備か」

「コベソ、そろそろ近いのか?」

「ハーデスさん。 静かだったから寝ているのかと!!」


 俺が急に聞いてきたものだから、コベソは、驚いていた。


 コベソは、その後に続いて「でも、後半日と少しぐらいで着く予定だよな?」と御者に聞いて御者も「そのぐらいですかね」と返答をする。


「それにしても、魔物の遭遇少ない気がする」

「あぁ確かに」


 コベソは、走って勇者パーティの四人の元に行くユカリの姿を見つめて応えている。


「どうした?」

「どう見てもまだ、十六、七歳って感じだよな」

「あぁ、確かにな。 手を出すと犯罪だぞ」

「ハーデスさん。 ないない! あっ、そう勇者には、貴方と同じスキルだけど、それ弱い敵を払い除ける力もあるんだとか」

「つまり、自分より弱い敵が寄ってこないという事か?」

「そう、だからレベル上げしにくいんだろ。 ランドベルクでは」


 とコベソは、俺に礼して、野営の準備している使用人の所にトンドと共に向かう。

 その時「ありゃぁ高校生だろ。これからって時になぁ」とボソッと呟いていて、トンドも頷いていた。

――――なんでそれを?

――――しかも『高校生』と言う単語を言っているんだ。もしかしてコベソもトンドもなのか?と地面を見て考えてはいるが、その地面に焦点は合ってない。

 すると、そおっと俺の後ろ忍び寄る。


「あの二人、転移か転生者だね。 くっくっく」


 怪談話を始めるかの様な静かで語り出す口調のペルセポネ。突然耳元で言われるのだ、その事に俺は鳥肌が立ち、ハッと声が出ず悪寒が走り身震いする。

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