第198話 とりあえず攻撃してみる

第198話 とりあえず攻撃してみる



「うわっ、ひどいことになっているな」


 目に付いた砦は現在戦闘中。

 ゾンビというのかぼろぼろの人間が城壁に押し寄せ、つぶされて積み重なり、その上をトカゲのようなヤツとかゴリラみたいなやつが踏み越えて砦を攻撃している。

 ひっびき一匹の戦闘力は高くないみたいだけど、数がすごい。城壁というか砦が埋まってしまいそうだ。


「よし、久しぶりだけど」


 俺は魔力制御で地面に魔法陣を描きだしていく。

 あそこで覚えた大技だ。


 大きさを調整してできるだけ大きく、しかし城壁ギリギリ、かすめるぐらいまで。


【地より沸き立つ存在もの


「何だ!」

「魔法攻撃か!」


 城壁で守備に当たっていた人たちがちょっとパニック。


「あー、説明している暇がなかったということで」


 説明したからと言って納得してくれるとも限らないからね。


 巨大な魔法陣が白く輝き、地面から湧き立つように白い光が噴き出し、噴水のように踊り始める。


『おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』

『ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっ』


 無数の魔物が白い光におぼれ倒れていく。

 声を上げながら、天に手を伸ばし光の中で朽ちていく。

 残ったのは…しろい塩の柱だけ、あるいは塊だけ。


 うん、これで城壁前にかなりスペースができた。

 積み重なっていたゾンビも塩になって崩れていく。


 横にいてなんを逃れた魔物たちも流れてくる塩のつなみに押し流されて埋まっていった。


 よし、これならしばらくはもつだろう。


 あとは前方に浮いているなんだかよく分からない形のやつだ。


◇・◇・◇・◇


「おや、マリオン殿、来たのかい」


 近づいたらイアハートがいました。

 戦ってました。


「あー、どういう状況でしょう?」


「そういうのはあとにしてほしいかな?」


 ごもっとも。


 イアハートが戦っていたのはさっき見た魔物と違うもっとちゃんとした魔物の集団。

 オークのような魔物がいる。かなりいい防具を身に着け、体格もいいし力もあるみたいだ。

 ただ背中に羽が生えているのが不可解。そして目には虹彩がなく、力を感じるのに正気が感じられない。


 巨大な鳥もいる。普通の鳥の姿だ。ただ口から変なものを吐いてイアハートを攻撃している。

 ついでに地上も攻撃している。

 何もないのに。木々をなぎはらい、森林破壊にいそしんでいる。


 太ったカモノハシみたいな魔物がいる。直立して両手を振り回し、周囲を薙ぎ払っている。

 これもかなり巨大ですごい力を感じる。


 なのに目には光がなく意志のようなものを感じられない。

 他にもいろいろなものが。


 だが中央に浮かぶ球よりはまとも。

 中央に浮かんでいるのは蛇玉みたいなやつだ。

 何匹物蛇が絡み合って玉のようになったやつ。昔動物系のテレビで見たことがある。

 長細いうねうねしたものが絡み合ってそんな感じになっている。


 で、その絡み合うものというのがおそらく巨大な樹木だ。


 節くれだって筋張った大木が蛇のようにうごめきこの球を作っているのだ。

 しかもその一本一本の先端には巨大な花が咲いていて、、しかもその花にはぞろりと牙が並び、近くを飛ぶ、どこか人間臭い魔物や、時に地上に進む魔物を捕食してかみ砕いている。


「これって何?」


 つい口を突いて出た。


「あたしの昔馴染みでグージェルという魔族さね。面倒見のいいやつなんだがね…人間を目の敵にしていてね。

 随分昔に袂を分かったんだよ」


 なるほど、同じ面倒見のいい二人でも人間と争わない方針のイアハートでは確かに袂を分かつしかないか。


「ずいぶん様変わりしちまったが…魔力は変わらないからね」


「ふむ、下にいる無数の魔物は何です?」


「人間さね」


 あー、やっぱりそうなのか…


「せんだってのことさね。

 南の方ででっかい魔力の爆発があってね、こりゃ一大事と様子を見に来てみたら…」


 まず最初にあったのはやはり大量の魔力の爆発。

 高濃度で大量の魔力があふれて津波のように地上を席巻したようだとイアハートは言う。


 つまり震源地を中心にした地上のダンジョン化だ。


 空間もおかしくなるし生き物もおかしくなる。

 そこで暮らしていた人間も魔物化してしまったのだろうと推測された。


 その後あったのが物理的な爆発。


 震源地と思しき場所がしたから吹っ飛び、大地が揺れ、衝撃が広がった。


「最初、変質した人間はわずかだったと思うんだがね、なんせ生きている人間はある程度耐性があるんだ。

 ところが次の衝撃でたくさんの人間が死んだ。

 これが普通のダンジョンなら吸収されて迷宮の栄養になるんだが、この迷宮はそう言うものを必要としていないらしい。

 おそらくだが魔力が潤沢にあるんだね。

 死んだ人間が魔物化することでそのあたりが迷宮化して、無事だった人間まで歪んだ法則に飲み込まれる。

 あとは鼠算式に魔物が増えて魔物が増えた分迷宮が広がる。

 その繰り返しさ。

 そしてこの迷宮の中心があのグージェル。

 あいつをどうにかしないとこの世界がまるごと迷宮に飲み込まれちまうよ」


 えーーーーっ、ちょっと大事過ぎない?

 ちょっと考えてみる。


 ないな。

 〝あいつ〟のことを考えてもこの世界全体を迷宮化するほどの魔力はないだろうと思える。だからそれはない。

 でもこの大陸が汚染されるぐらいは十分ありうるかな?


 どっちにしても大ごと。


「あの中心の魔物をぶっ飛ばせばいいのかな?」


「残念だけどそう言う結論になるかね。このままじゃ人間も魔物もみんな迷宮の魔物みたいになっちまうよ」


 それは困る。


「じゃあ今度は俺が攻撃してみよう」


 魔力が過多だからあの状態ということは…


「よしいけ、【天より降り注ぐもの】!」


 上空に黒い魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い光が、まるで雨のように振りそそぐ。

 最初はしとしとと。ついで豪雨のように。


 ぎしぎしときしむような音が聞こえる。

 雨に打たれた魔物たちの断末魔だ。


 黒い雨は降りかかる対象の魔力を、それに見合う分消滅させて消えていく。

 空を飛ぶ魔物が、地を這う魔物が次々に力を失って倒れていく。


 巨大な球体、魔族のグージェルも雨に打たれ、上から黒ずんで…


「いけるか?」


 思わず口にしちゃったよ。その所為というわけじゃないと思う。

 俺ってフラグって信じてないし。


 でもグージェルは回復してしまった。


「なんて魔力量だ」


 俺の魔力ってほぼ無尽蔵だけど出力には限界があるんだよね。

 どうも俺の出力では削り切れないみたい。


「でもまあ、付き従っている魔物は結構倒せた」


 グージェルの真下は無理だったがドーナツ状にかなりの大穴を開けられた。


「結構容赦がないのう」


「あああ、元人間の事? あれは助けようがないでしょ?」


 ひょっとしたら何か…方法があるとは思えないけど、ひょっとしたらということもある。

 でもそのひょっとしたらを探して無為な時を過ごせば普通の人に被害が広がるからね。


 いや、別にセイギノミカタを気取るわけじゃない。

 少ない犠牲で多くの人を助けようなんて思っているわけじゃ…少ししかない。


 でもあったことのない赤の他人を助けるために自分の身内を危機にさらすなんて選択肢はないのだ。

 キルシュは結構遠いし、巨大な湖もあるから当分直接的な被害はない。それは確実。


 王都の人を、出来れば助けたいと思っているのは嘘じゃないけど、被害が出るのがキルシュ領ではなく、もっと言うとベクトン辺りではなくまず王都なのも安心材料。


 つまりエゴだよね。


「まあ、正しかろうよ、全知全能でない以上選択をせねばならないのは当然のことじゃからね」


 だよね。


「というわけで、環境破壊をためらわずにドコドコ行ってみよう!」


 大技連発で。

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