第197話 南からくるもの

第197話 南からくるもの



 目標は魔力反応で見えているので追跡は簡単だ。

 そして地上を走る三人に追いつくのも。


 ティファリーゼが魔族の二人を背中に乗せて走っている。かなりのスピードだが、地上で出る速度に違いはない。


「それでも、100キロは出ているかな?」


 感覚的なものなのであまりあてにならないが、その程度は出ていると思う。しかも森の木々をなぎ倒し、起伏のある地形を踏み砕きながらなのですごいすごいとしか言いようがない。


 俺は話ができるようにティファリーゼの顔の前に降下して後ろ向きで飛行する。

 これなら話も…と思ったのだが…


 ずざざざざざざざっ


 ティファリーゼが急ブレーキをかけた。

 ニーニセアは八本の足と蜘蛛の糸でティファリーゼの背中に残ったが、ロッキは思いきり飛ばされていた。


 仕方ない。


「ああ、すまない」


「いや、かまわんよ」


 見た目は電撃を放ちそうな鬼娘なんだが、もちろんそんなことはなく武器はこん棒だ。


『どうしました? ラウニーになにか?』


 ティファリーゼがドラゴンのままで話しかけてくる。声が聞き取りづらいんだよね。


「いや、向こうは全部問題なしだ。ラウニーの護衛も黒曜もいるから問題ないだろう。

 俺はイアハートに話を聞きに来たんだ」


「ああ、それなら一緒に行く? 私たちもそのつもりだったの」


 そのつもりってどこまで行くつもりなんだ?


「イアハートは距離的にたぶん帝国のほうまで行ってるぞ。そこまで走っていくつもりか?

 数日はかかるぞ、そのスピードでも」


「「「・・・・・・」」」


「だから無謀だって言ったじゃない」

「言ってないでしょ」

「あー、私もそんなようなこと言った記憶が…」

「ないんでしょ」

「いやー、あるようなないような?」


 頭痛い。

 このまま進んだらこの国の王都とか貴族領とかみんな吹っ飛ぶところだ。

 間に合ってよかった。


「イアハートの所には俺が行くからお前らはねぐらに戻れ、ちびどもが心配していたぞ。

 それと下にあるラーンを守れ、一応北の魔境は落ち着いたみたいだけど、まだ何があるか分からん」


 そう、これで終わってくれたりはしないような気がするんだよね。


 三人は顔を突き合わせぼしょぼしょ話をした後で。


「必ずイアハート様を連れ帰ってくれ」

「信じて待っているぞ」

「とりあえず待っているわ」


 その気になってくれたようで何より。

 だけどとりあえずってなんだ?

 三人が北に引き返すのを見送り、気配は消せよと声をかけて又南に行く。


 色々な町がある。村がある。

 最初は大した被害はなかったがだんだん被害が多かった地区に入ったようだ。

 やはり南側が被害が大きい。

 建物の倒壊等も目立つようになってきた。


「もともとここは地震なんてない場所だ。建物の構造が向いてないんだよな」


 レンガや石積みの建物。

 石積みは余裕がある家で、ないところはレンガ。という感じなのだろう。

 それでも困らないぐらいに安定した土地なんだ。


 だがそれらは地震に弱い。

 石積みはまだしも煉瓦はひとたまりもなかったようだ。


 つまり貧しい家ほどつぶれている。


「もう結構片付けが進んでいるな」


 崩れたレンガは大体端によけられて場所が開いている。たぶん埋もれた人とか救出した後だろう。

 ただ残念なことに全員無事ということはなく、遺体が積まれた広場とかがある。


 その周囲で途方にくれる人も見える。

 なかなか悲惨でため息が出る。


 街道を走る騎馬が見えた。おそらく伝令なのだろう。偶にあちらこちらで走っているのを見る。


 そのまま進むと今度は大きな城壁が見えて、そこからも煙が見える。


「城壁自体はもったみたいだな。でも…」


 やはり簡素なつくりの家々が崩れている。

 この辺りは建築様式がベクトン当たりとは違うみたいだ。

 ただこの町の規模からしてここが王都かもしれない。

 湖のそばで、でかい城が建っている。


 俺はふと気づく。

 イアハートが動かずに停止しているのだ。


「つまり何か見つけたのかな? まあいいや、この隙に追いつこう」


 位置的にはこちらよりだな、戻ってくる途中なんだろうか。


 思いきり飛んだその先には結構大きな砦がそびえていた。


◇・◇・◇・◇ side 兵士


「何だこれは何なんだ」


「いったいこいつらどこから出て来たんだ?」


「すぐにのろしを上げろ、王都に救援を要請するんだ」


 俺はこの砦を守る兵士だ。古参と呼んでいいほど長くいる。

 砦とは言っても内部に町を飲み込んだ構造で、南のオルキデア公爵領と国の中枢たる王都を結ぶ要衝だ。

 だからかなり住みやすい。


 それに砦といってもここは国のど真ん中だ。

 王領を誇示するために砦と城壁があるが、ここが戦場になるような事はまずない。

 平和な町なんだ。


 なのに、なんなんだこれは、南から魔物が押し寄せてきた。

 ゾンビ系のアンデットが多い。

 だがそれだけじゃない。大きな猿のような魔物とか、長い手足を持ったトカゲのようないびつな魔物もいる。


 それがなぜか大挙してここに押し寄せてきている。

 見たことのない魔物だ。


「団長に民衆の避難を進言しよう」


「危ないのですか?」


「分からん、ゾンビは問題ない。この砦は破れないし、やつらは巡らせた壁を超えられない。

 問題はそれ以外のやつだ。初めて見るのが何種類もいる。

 あれが壁を超えるような知能や能力を持っていたらはっきり言ってヤバイ。

 ここは長く戦場になったことがないので戦力が少なすぎる」


 砦の守備兵としては十分な戦力だと思う。だがあの大軍相手に戦争ができるような数じゃない。とても持ちこたえることはできないだろう。

 何もかも捨てて逃げろと言われても民衆にはきつい話。

 だが安全のためにそうせねばならない。


◇・◇・◇・◇


 町に怒号が飛び交う。

 退避を命じられ、素直に聞いたものは手荷物だけを抱えて町を出た。

 今騒いでいるのは大八車に家財道具を満載したやつらだ。

 捨てていくのが忍びないのだろう。


 だが魔物の群れはすぐそこまで来ている。

 そんなことをやっていては間に合うものも間に合わない。


 そして避難をしないと駄々をこねるものもいるに違いない。


「おい、お前、何をやっている?」


「ああ、すみません、騎士団長からできる限り詳しく情報を記してそれを王都に届けるように言われたもので」


 ああ、そうか、それで絵を描いていたのか。

 どれ、うむ、なかなかうまいじゃないか。迫ってくる魔物がよくかけている。


「これどのぐらいいると思います?」


「まあ、少なくとも万はいるだろうよ」


「参考までにこの南はどうなっていると思います?」


「オルキデア公の領地か…この魔物が通過してきたんなら…ということだろう」


「しかし、あそこも公爵領ですよ、それなりに戦力はいるはず…」


 俺は首を振った。

 言いたいことは分かる。だがこの魔物の群れが押し寄せてきているのは事実なのだ。

 オルキデア公が逃げ出して任務を放棄したのでなかったら全滅してということなのかもしれない。

 逃げてくれていた方がありがたいな。

 オルキデアを全滅せしむる戦力をこの魔物たちが持っているなら王都だってまずい。


 だがその所見は役に立つかもしれない。


「さあ、伝令兵。騎士団長のオーダーを果たすのだ、そろそろ行くがいい。そして王都に正確な情報を届けるのだ」


「いえいえ、もう少し待ってください。初見の魔物の能力を確かめないと」


 ほう、いい根性だ。


 そう思う頃とうとう魔物が城壁にたどり着いた。


「隊長、あいつら止まりません、城壁に、うわー、みんなつぶれてく」


 ゾンビが押し寄せ、あとからさらに押し寄せるので壁に押し付けられたものが…

 これで数が減るのはいいのだがつぶれた死体が積み重なればいつか城壁も意味のないものになるかもしれない。


「隊長ダメです。あいつら壁を登ってくる」

「崩しているやつもいます」


 四つん這いのやつはイモリのように壁に張り付いて登ってくる。

 大猿は腕を叩きつけて城壁を壊そうとしてやがる。


 だが幸いなのはこの砦に向かってきてくれていること。

 人のいない城壁を攻撃されると大変なことになる。


 そして一匹のヤモリ型の魔物が躍りかかってきた。

 かなりのスピードで登ってきたな。

 俺はそれを切り捨て。


「もうよかろう、これ以上は役目を果たせなくなるぞ」


「そうですね、これでお暇します」


「この情報を必ず…ふん」


 また上がってきたヤモリを切り捨てて伝令兵を送り出す。

 こいつらの侵攻速度は遅いからここからはなれられれば伝令は役に立つだろう。


 いい仕事になっただろうと思った矢先、ほんの少し伝令を出すのが速かったと後悔した。

 なんだあの巨大な化け物は…

 空を飛んで…この要塞よりもはるかにでかいじゃないか。


 おまけに周りを飛んでいるのは飛行型の魔物か?


 中心のあいつ以外、みょうに人間臭い魔物ばかりだ。

 なんなんだこれは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る