第196話 意外と役に立っていたティファリーゼ
第196話 意外と役に立っていたティファリーゼ
シアさんの故郷に向けて空をかける。
途中、村などはいくつかあるがどの村も損傷は軽微のようだ。
被害らしい被害というと…
「森の中のあれだな」
なんかでっかい存在が森の木々をなぎ倒して走ったような跡。うん。原因は分かるよね。
ラーン近くになったらあとが消えたのは人間の姿になる程度の分別はあったということだろう。
ただ目的地はイアハートの住処に直行だと思う。
俺はそのまま進路を少し山の方向に傾け、イアハートの洞窟に向かう、もうすぐそこだ。
◇・◇・◇・◇
「やっほー、イアハートさんいますかー」
返事がない。
中は暗闇にと度されているが、俺には見えている。前回来た時よりもずいぶん整っているな。
生活臭が出ているというか。
当然中にイアハートがいないのは見えるのだが、細かい気配もあるね。
ふむ。
「イアハートさん、イアハートさん、あそぼじゃないかー」
さて、返事は…
「いまていさつでいませんよ」
まあね、そこまで求めてないよ。
返事があっただけで御の字。
返事をしたのはイアハートが保護していた魔族のチビたちだな。明確な魔族じゃなくていつか魔族になるかもしれない魔物たち。
こいつらも森からここに引っ越していたのだ。
相手を確かめていたんだろう、洞窟の暗闇の中で身を潜めていたそれらは、俺を確認するとわらわらと出て来た。
一度会っているからね。
俺はしまうぞう君からお菓子――と言っても素朴なクッキー類――を出してそれらに与え、続きを聞いてみる。
《ぐらぐらきたの》
《すぐ出ていった》
《まだ帰らない》
「ふむ、ティファリーゼは? 来なかったか?」
《きた》
《隠れてろつていった》
《すぐにいなくなった》
《お姉ちゃんたちも》
《同じことった》
お姉ちゃん? ああ、蜘蛛っ娘と鬼娘か、ニーニセアとロッキだっけ?
「どこに何しに行ったか知らないか?」
《ばあちゃんの後を追いかけていったの》
つまり整理するとあの魔力爆発があって、その後イアハートがすぐに偵察に出たわけか。
その後三人もイアハートを追いかけて出ていったと。
どういう順番なのか聞いてみたがこれは容量を得なかった。
まあ、いいか、重要な話ではない。
「さて、イアハートが行ったの南だな。偵察というし、かなり前みたいだから何か掴んでいるかもしれない」
となるとぜひコンタクトしたい。
追いかけてみるか。
俺はこまい魔物たちにここにこのまま隠れているように言いつけて洞窟を出た。
なぜか抗議の声が上がったがお菓子を追加したら収まったな。
お前ら食い物につられすぎ。
イアハートに注意をしておこう。
一応魔力の登録をしておくか、ラウニーの時みたいなことがあるといけないし。
◇・◇・◇・◇
城に行くついでにと、まず山の上の温泉に行くがこちらは全く異常がなかった。
地震の影響もなかったようで通常運転。
揺れはしたようだがびくともしなかったらしい。
さすがドワーフの名工の仕事だ。
勿論登山鉄道もちゃんと機能している。
なのでそれを眺めながら下に行くとラーンの町につく。
こちらも村や城は異常は…ちょっと汚れてる?
「ご無沙汰していますマリオン様」
衛兵の若者が声をかけてくれた。
「やあ、こちらは問題ないかな? 確認に来たんだが」
答えは別の声で帰ってきた。
「まったく問題ないわね…と言いたいところなんだけど、ちょっと騒ぎはあったのよ」
誰かが呼びに行ってくれたのかマルグレーテさんが出て来た。
スライムまみれのライムさんも一緒だ。ふえたなあスライム。
この人はスライム研究家じゃなくてスライムブリーダーとかじゃないのか?
お役立ちスライムが結構村で飼育されているみたいだし。
「このスライムたちのおかげで助かったのよ」
彼らの話によると北から魔物が押し寄せてきた。という事件があったらしい。
なるほど、北は魔境だからな。やっぱりパニックになったのがいたんだろう。
とするとここに来るまでの村で被害が見えなかったのはティファリーゼが前を通ったせいか?
そこまで考えていたんだろうか?
「結構危ない感じだったのよ。何と言っても私の所じゃ戦力少ないし、いきなりだったから村人の避難も間に合わない。
温泉のせいで人口が増えたのも災いしたわね」
そのせいで警備の人員も増やしている途中らしいがあくまでも途中。
万全じゃない。
気が付いた時には魔物が村の中に入り込んでいたらしい。
あまり強力ではなくゴブリンや大鼠、角兎なんかだが大挙して、第一弾として躍り込んだ。警備の人たちも応戦したが多勢に無勢。
いつものように城に避難して迎え撃つのも間に合わなかった。
「いやー、そこでスライムたちが大活躍してくれてねー」
ライムさんがうれしそうに語る。
大物というのも恐ろしいわけだが、小物の飽和攻撃も恐ろしい。
だがこの辺りのスライムはライムさんの献身的な…趣味?…によってそれ以上に増えていた。
今やここはスライムシティー。
加減させなくていいの?
スライムの特殊能力や魔法で魔物の大群が打倒され、それに人間も加わって魔物を撃退した。
ここまでは良かったが、ここで出て来たのがオーガとかのちょっと強力な魔物。
さすがにこれはというところでまた援軍があったらしい。
これがアルケニーのニーニセアと鬼人のロッキ。
両者とも進化しているのでオーガごときには負けない戦力だったようだ。
「びっくりしたわ、まさか魔物に助けられるなんて」
この時人間との間に争いが起きなかったのは…
「いやー、スライムたちのおかげだね。スライムたちずいぶん彼女たちになついていたし、スライムが愛する者に悪いやつはいない」
いや、それは極言すぎると思う。
「その魔物たちは人の言葉を話していたから多分魔族なのよね、彼女たちが言うには南の方でかなり問題がある事態が発生したみたいで、自分たちは調べに行くから無理をせずに防御に徹するようにって…」
そう言って南に走っていってしまったらしい。
そのあとも北からの魔物は散発的に来ていたらしいのだが…
「戦闘の途中ですごい咆哮が聞こえて、その咆哮の後で魔物たちが一斉に北に引き返していったの…」
ティファリーゼか。ドラゴンの咆哮で魔物が正気に戻ったわけだな。
「それでその咆哮の主は?」
「姿は見てないわ。でもやっぱり南に走り去ったと思う」
「いやー、ここは素晴らしいよね、魔物との共存…その可能性が見えた気がするよ、さすがスライム天国」
まあ、人口比率で言えばここは今や人間より魔物(スライム)の方が多いしな。
共存しているといえなくもない。
彼の頭の中にどんな世界が展開しているのか興味がある。
が、今はそんなことをしている場合でもない。
「どうやら南の偵察に行かないといけないみたいですね」
「そうですね、何かわかったら知らせてください。
あと、あの魔族のお嬢さんたちに会えたらお礼を」
「ええ、会えたら伝えておきましょう」
魔族というのは基本的に人間を避けている。人間の前に出てくるのは基本的に敵対的なやつだ。
一部とはいえ魔族には無害なものもいると知れるのは…いいこと…なのかな?
まあ、いいや、難しいのは後回しだ。
俺はみんなに挨拶をして空に飛び立った。
「イアハートはかなり離れているが、三人娘はあまり離れていないな」
すぐ追いつける。
俺は本気で空をかける。
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