第195話 風雲急
第195話 風雲急
「やれやれ、やっと落ち着いた」
ベクトンに帰ってきました。
ここに来るまでもいくつか宿場や村があったが、どれも大きな影響はなかった。
だがベクトンはそうもいかなかったようだ。
なんといっても大都市だ。
おまけにすぐ北が魔物の領域になっている。
さらに町の中にも騎獣という名の魔物が沢山いる。
人間は目を回してふらつくぐらいだが、動物は敏感なのか結構大騒ぎをして、町の中を暴れ回り相応の被害を出し、その鎮圧に走り回っているうちに北から魔物が押し寄せてきた。
あれだよ、別になにかから逃げて来たとかではなく、ものすごくハイになって魔物がヒャッハー状態?
黒曜でもいれば寄り付かなかったんだろうが留守だったからね、結構門の外で戦闘になったみたい。
まあ、黒曜が帰ってきたら冷水を浴びせられたように冷静になって多慌てでかえっていったけど。
そう、そんな騒ぎの時に帰ってきてしまったのだ。
晶とマーヤさんは魔法でけが人の治療に、神官の人たちとともに走り回っていて、俺もそれに加わることになった。二人とも勇者だか聖女だかなので回復魔法は得意なのだ。
ただ働きづめだったので交代で帰らせて休ませる。魔力は無限じゃないのだよ。俺と違って。
俺の方は魔力切れもないし眠らなくても平気なのでしばらく回復作業に付き合った。
家のことはネムにお任せだ。女主人だしね。
「旦那様、今、城から使い物が参りまして、フレデリカ様がお会いしたいと」
おおう、休んでいる暇がねえ。
◇・◇・◇・◇
「ご無沙汰してますね、師匠」
「うむ、ずいぶん走り回っていたようだが大丈夫ですか?」
迎えてくれたのはロッテン師だ。
フレデリカさんの執事のくせにあまりくっついてこないよなこの人。
なんかこの城の管理の実権を握っているというか…
「フレデリカ様がお待ちです、こちらへどうぞ」
師匠で行ってみれば目上なんだが、こういう時はお客様扱い。
ちょっと居心地が悪い。
そしてフレデリカさんの執務室。
「マリオン君、ごめんね、呼び出しちゃって、今はなれられないのよ」
「この状況では仕方ありませんよ」
机の上の書類と格闘しているフレデリカさんを見ると文句も言えない。いう気もないけど。そしてフレデリカさんの話は。
「早速だけど聞きたいの。あれってなにかな?」
フレデリカさんがそう口にした瞬間〝ズン〟という振動が来た。
「何だ?」
そのあとゴゴゴゴと地鳴りが来て、グラグラと揺れる感じ。
「また?」
「いえ、今度は本当に大地が揺れてますね」
そう、今度は物理的な振動だ。おまけに建物がびりびりと震える感じがする。平たく言うと地震なんだが…それだけでもないような。
この大陸には地震というのがないらしい、今気が付いたが地震の記憶が全くないのだ。地面が揺れるのは魔獣が暴れるときぐらい。
それは冗談だが、つまりこの世界の人は地震というのを知らないのだと思う。フレデリカさんもちょっとびっくりしていた。
そして城の中は大騒ぎになっている。
「ギャー――ー、お皿が落ちたー」
「ディオンのカップが―――」
「始祖様の肖像画が傾いたぞー」
さすが。地震になれてないとそんなものだろう。
震度はたぶん3ぐらいか? 俺の感覚からすると大したことないんだけど…
ただこれも方角がね…
「何だったの?」
「こちらの方角のずっと先で何かあったみたいですね…その前のくらくらも同じ方角です」
「オルキデア公爵の領地の方向ですね。距離はお分かりになりますか?」
ロッテン師が即座に断じた。たぶんそうだね、つまり帝国の方向ということだ。
だけどさすがに距離は分からない。
でもかなり遠くだよね。
こういうの検証したことないからわからないんだよね、公爵領かその先の帝国あたりだと思うんだけど…
まあ、当てにならないから。
「それでマリオン君、あれって何だと思う?」
「あれというのが先だっての生き物だけが揺れたものならたぶん大規模な魔力の爆発のようなものだと思います。
その後の大地の震動は…何が何やら、ただ、方角が同じなので全く関係ないとは思えないんですけど…」
「南か…」
フレデリカさんはしばらく組んだ手の上に顎を乗せて考え込んだ。
「ねえ、マリオン君、しばらくここにいて町の防衛に協力してもらえるかな? 今はその方がいいと思うんだよね。
偵察は専門の者を…」
そう言った瞬間ロッテン師が一礼して部屋を出ていった。たぶん専門の者を送り出すためだろう。あるいはすでに出ているものに支持を飛ばすためか。
「…向かわせるから、君がここにいるといないとじゃ安心感が違うからね、黒曜君たちもね」
ふむ、調べに行けとか言われるかと思ったんだが、そんなことなかったか。
俺や黒曜を戦力として動かせるほうが得だと思ったみたいだね。
「ただもう少し情報が欲しいですよね、ちょっと、一日ぐらい開けてもいいですかね?
ラーンまで行ってきたいんですけど」
「ああ、そうよね、シアちゃんもいるものね、ラーンの様子は気になるでしょう。そうね一日ぐらいならいいわ、行ってらっしゃい」
ふむふむ、ラーンを気にして防衛がおろそかになっても困るとか考えたのかな。
許可が出たからありがたく。
そんな話をしている間も伝令は出たり入ったりしていて冒険者ギルドが周辺地域の偵察に出たとか、防衛のための戦力が配置できたとか、町の鍛冶屋の総代であるカンゴームさんから武器の確保を始めるとかそんなのが出たり入ったり。
さすがと言える。
俺はいったん家に帰り、ネムにいったんラーンの様子を見てくると告げて、シアさんへの伝言を頼んだ。
シアさんはねくたばっているが、それがよい、起きていたら一緒に行くとか言い出しそうだし、そうなると時間が余計にかかるからね。
それに目的のメインはイアハートに意見を聞きに行くことなのだ。
さすがにちょっとまずいでしょ。
俺は明日の昼間には戻るといいおいてベクトンを飛び立った。
ここの防衛はその間黒曜にお任せだ。
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