第199話 王国の防衛体制
第199話 王国の防衛体制
「だーめーだー」
「うーん、何をやっても元に戻るの」
周辺への影響を考えずに魔法を撃ちこんだ。
グラビトンウェーブも撃ったし爆縮魚雷も連発した。
まあ、さすがにキックとか旋風投げとかは遠慮したが。
それでもかなりの大技の連発だったのだ。
なのに、ああそれなのに。
「あの再生力をどうにかせんとどうにもならんな…」
イアハートの言う通り、削っても削っても元に戻る。
減らしても減らしてもどんどん増える。
まるで無敵の細胞だ。
ちなみに現在ちょっと休憩中。
さすがに息切れしたよ。
どこで休憩しているかって? イアハートの背中に乗せてもらっている。回避はお任せだ。
唯一の救いは周辺にいた魔物の多くが殲滅できたことか。ついででね。
遠くを見れば細かい、人間のなれの果てがまるで引き寄せられるようにグージェルに向かって進行してくるが近場は倒したのでまだ時間がかかるだろう。
それにグージェルも休憩中。
「何やってんのかね?」
「見たところ魔力はどこかから無尽蔵に供給されているみたいだね。これをどうにかしないと終わりはないだろうさ。
だが再生に関してはそれだけでもないみたいだ。
あんたの魔法で随分魔物が消し飛んだが、グージェル自身が傷付くと魔物を食らいまくっていた。
全くああなると哀れとしか言いようがない」
周囲の人間のなれの果てのことか? それともグージェルのことか?
「まあ、どちらにせよ元を絶たないとだめということだね。ちょっと調べに行きたいけど…」
「おそらく大丈夫だろうて、あの様子だと皇族の魔物がたどり着くまで動かんと思うぞ」
「ふむ、ならこの隙に行ってみるかな」
俺はイアハートに無理をしないように言って奥に進むことにした。
とにかくこの一件の爆心地へ。
◇・◇・◇・◇
「ここって…帝都だよね……」
以前一回来ているので位置関係的に間違いないはず。
はずなんだが、本当にそうなのか? と疑いたくなるような光景だった。
ぶっちゃけクレーターである。
大きさは数キロは優にある巨大なクレーター。
きれいに穴が開いていて、どれだけの爆発があればこんなことに? と思わずにいられない。
当然その周囲も何もない。
吹き飛んでしまっている。
町の外縁部はクレーターの端よりも大きかったはずだが瓦礫すら残ってないし、周辺にあった森などもなくなってしまっている。
ここに来るまでの光景から嫌な予感はしていたのだ。
オルキデア公爵領に入ると無事な建物がなくなってきていたし、帝国に近づくと地震で倒壊したというより横から殴られて吹っ飛んだような残骸が増えてくる。
多分巨大隕石の衝突みたいな騒ぎがあったんだな…
「クレーターの中心は…この辺りか」
ゆっくり中心を探して飛び回っていると…
「んん?」
何か覚えのある感触。
魔力の感触か? それとも空気のにおいか…
「これって、最初に閉じ込められたあそこと同じ空気だ」
極めて高濃度の魔力。魔力に交じる源理力。
呼吸するだけで生きていける仙人空間みたいなやつ。
懐かしいと同時にぞわぞわといやーんな感じがよみがえる。
はっきり言ってあまりかかわりたくないなあ…
地面に降り立った時になにかがパチリとつながったような気がした。
◇・◇・◇・◇ side 伝令
「役目、大儀」
俺は国王陛下の言葉で深々と頭を下げた。
南の砦から情報を持ち帰り、軍の上司に報告したらそのまま国王の前に連れてこられた。
我ながら魔物の情報とか詳細に書き記してきたのでいい仕事をしたと思ったんだが、それがかえって面倒になる。
とはいっても誇り的に手抜きもできんし…
「へへへへへ、陛下、直ちに退避を考えるべきではないでしょうか?」
ここは会議室だ。
俺の報告が届いた後すぐに会議が招集され、王都にいる貴族が招集されてその前で報告をさせられた。
筋道を立てたいい報告だと思うんだが信じたかないのか何なのか嘘をつくな! とか、いい加減なことを言うな! とか言うやつがいてあきれたね。
まあ、王様とか宰相とかはまともそうだからよかったよ。でなかったらこの国終わりだぜマジで。
「そうです、とりあえず…キルシュ公爵の所に避難するべきでしょう。我々が護衛をいたします」
「そうだそうだ」と賛同の声が起こる。
こいつらは王都の周辺に位置する伯爵だとか侯爵だとかのはずだ。一応名前を…よくわからんな。名前を聞けば情報は頭に入れているけど、俺みたいな下っ端兵士じゃ会う機会なんかないからな。
にしても一番先に逃げることを考えるというのは情けない。
いや、普通の貴族ならそう言う気弱な発言があってもおかしくはないけど、こいつら王都周辺の貴族というのは王都を守るために盾になるためにいるやつらだろ?
「何を寝ぼけたことを言っているのかね、そんな暇があったらすぐに領地に使いを出して軍を招集し給え」
そう言ったのは宰相様だな。
そしたら、『いや、敵の規模もわからないのに』とか『今は涙を呑んで捲土重来を』とか、そもそも戦ってすらいねえじゃねえか。
そしたら宰相様が『その方らの職務は王都を守る事、それを成さぬというなら貴族の位にある必要はない』とか言われて黙り込んだ。
いやそうでもないか。
「だったら公爵家の戦力も招集するべきでは?」
とか言い出して怒鳴られている。
当然だ。公爵家というのは三家あってそのすべてが辺境守護職。キルシュ家は東の獣王国と北の魔境から人類を守るための家で、西のアゴローラ公爵家は西の魔山に住むドラゴンたちの対処がお役目。
ドラゴンたちは最近大人しいが北の魔境はせんだってすさまじい魔獣が南進して大規模な戦闘があったと聞いている。
この軍隊は軽々に動かせないはずだ。
そして最後のオルキデア公爵家は砦のさらに南、どうなっているやら、という話だ。
そこら辺を指摘されて侯爵以下はぐぬぬとうなっている。
あほだね。
「現状では打てる手は限られている。王都守護職の侯爵家、伯爵家は直ちに全兵力を王都に集めよ、公爵家があれば他の方向は心配いらぬ。七日以内に集結を完了せよ。
遅れることは許さぬ。
公爵家に命じる。
もし七日を超えて遅れる家あらば逆族とみなす。公爵家の戦力であれば一部を差し向けるだけで殲滅できよう。
公爵家も軍の準備を」
「「ははっ」」
キルシュ家、アゴローラ家の当主は淀なく返事をした。
つまり実戦慣れしてるんだよな。
及び腰貴族たちは真っ青になっている。
ここまで言われれば遅れることなんかできるはずがない。遅れたらことが終わった後にどんな目にあわされるか。そう言う話だ。
だけど救いなのはそんなのは全体としては少ない方ということだ。
多くは速度感をもってきびきびと動いている。
今は社交のシーズンでほとんどの貴族家がそろっていたのが奏功したね。
「し、しかし、もし王家に何事かあれば取り返しがつきません、陛下の退避と陛下の護衛は…」
おっ、侯爵様勇者だぜ。この状況でもそれを言うか。
「ふむ、それはもっともだ」
陛下の言葉に腰抜け侯爵の顔が輝いた。だけど。
「キルシュ公爵家には王女を避難させる。護衛に万全を持って臨め。アゴローラ公爵家には王子を預ける。
この国の未来じゃ、必ず守れ。
守護職の貴族は余を守って先陣を切るがいい。
ファムノス侯爵よ、その方に一番槍の名誉を与えよう。疾く支度を整えるがよい」
そうそう、ファムノス侯爵な。王都の隣に位置する公爵家じゃん。ちょっと南寄りかな。魔物の侵攻ルートしだいで王都より先に戦場になりそうな感じ。
真っ青になっているぜ。
どんな世界でもバカっているからな、全体としてまともなのが多いのは良かった。さすがにそうでないとやり切れないぜ。
王様の指示が出ると三々五々貴族たちは動き出し、各貴族家の、やる気のある貴族家の軍関係者たちが俺の所に話を聞きにやって来た。
俺はできるだけ正確に魔物の情報を話してやる。俺にできる最大の貢献だ。
俺の絵は好評でわかりやすいとほめてもらえた。
さて、これで何とかなればいいけど、そうでなきゃ砦の連中が浮かばれないぜ。
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砦まだ健在だったりする。
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