第189話 落としどころはこんなところ

第189話 落としどころはこんなところ



「セーメ殿…なぜそなたが…」


 最後に降りてきたのはネムのおばあちゃん、セーメさんだった。


「これは陛下、ご機嫌麗しゅうございます」


 セーメさんが実に優雅に会釈をする。

 ネムもやったことないけどカーテシーとかはないみたいだね。

 そしてセーメさんの話は続く。


「今回の騒動の落としどころとして参りましたの。とりあえずネムの婿殿の話を聞いてくださいな」


 獣王バラルは複雑そうな顔で俺を見た。

 ギルデインさんは何かわめきながら前に出ようとしたところでドラゴンズの威圧でピタリと黙る。


「ネム嬢の婿殿か…聞いておらぬゆえ状況が見えないが…」


「まあ、今はあんまり難しいことを言っても仕方ないでしょう」


 別に王様だからってへりくだったりする気はない。というか謙譲語とか…知らないわけではないけど全体を通してうまくできるとも思われない。

 だがそれが気に入らないというやつも出てくる。


「きさま! 陛下に対して無礼だぞ。衛兵、こやつをひっとらえよ」


 獣王さんの後ろでギルデインさんが声を張り上げた。


『虎の威を借る狐というのはきいたことがあるが、獅子の威を借る虎というのは虎として情けなくないか?』


「面目ないです」

「ごめんなさいねー、なんであんなになっちゃったのかしら~」


 ぼそっといったんだけどネムとセーメさんには聞こえてしまったらしい。


「きっきっきっ、きしゃま!」


 あっ、ギルデインさんにも聞こえたか…赤くなってプルプルしている。

 獣人の人って耳がいいよね。


「かかれーーーーっ」


 獣王様が止めるのも聞かずにわめくギルデインさん。

 おそらく公爵家の近衛かな、三人ほど飛び出してきたが…


「ふっ」


 吐く息に魔力を乗せて吹きかけてやる。


「ぎゃーーーー」

「かはっ」

「ぶべっ」


 吹けば飛ぶようなという言葉があるが、三人ともまるでトラックに跳ね飛ばされたみたいに吹っ飛んで行った。


「うん、こいつらさっきはしゃいでいた兵士よりも弱いな」


 気概がない気概が。

 せめて踏みとどまれよ。いや、せめてその気概だけでも見せろ。


「さて、お話を聞く気があるかな?」


 獣王さん相手にニッコリ。ギルデインさん石化。

 

 獣王さんは肩を落として、『聞こう』と宣った。

 他に方法ないしね。




「つまり、そのどら…ティファリーゼ殿が言うように、けじめがつけばいいというのだな?」


「そうそう、ドラちゃん達は人間がチビをいじめたから報復に来たわけだけど。そもそもこいつらあまり人間の個体識別とかしないから、とりあえず集まったやつらをぶっ飛ばして気が住んだみたいだよ。

 それに死人が出ないように手加減してくれただろ?

 本気で怒っているわけじゃない」


「むう…それに関しては感謝しかない」


「でさ、始まった喧嘩に決着がついた、あとは負けた方が詫びを入れればいいわけさ、

 国と国との喧嘩じゃないんだ。勝った方が正しい。それがすべてだ」


 いや、国同士の喧嘩でも勝てば官軍かな?

 どちらに責任があるかとか、正義はどこにあるかとか、うん、あんまり見かけないよな。


「では、こちらからの謝罪があればということか… ならばそれで…」


「イヤイヤ待って、まだそういうわけにはいかないんだよ。

 けじめという意味ではもう少し残っていてね、実はうちのチビが『ちゃんとやれば負けないのにーーーっ』って言って怒っている。

 町中では本気で暴れないようにって教えてきたからね。

 でも、そんな状態でまけて、そのままというのは納得がいかないんだってさ。

 でね、チビが納得いかないっていうと、うちのドラちゃん達、甘やかしーだから何とかしないと気が済まない。

 だからそちらの代表と試合して、ちゃんとやりたい、やらせたいってことなのさ」


「つまり試合をして勝てればいいと?」


「いや、もちろん本気でやってくれてかまわないよ、そうでなけれゃ納得なんかしないからね、それでラウニーの気は済むから大丈夫」


 ラウニーさんの希望です。


「あら~、かわいいのに勇ましいわね。うらやましいわ」


 セーメさんがうらやましがっている。そうでしようそうでしょう。

 ネムも鼻高々だ。

 だけどラウニーってまだ幼児なんだけどね。


「あと、もう一つ、悪いやつはぶっ飛ばすということで、今回の騒動の大本が健在でしょ? これに関しては俺も、ネムも、ドラちゃんたちも納得がいかない」


「おう。わるいやつはぶっとばすー」


「と、うちのらうにーも言っている。

 ただこれに関して、俺たちが出るとまあ、たぶん死んじゃうしー…俺としても一応義理の親父だからねえ」


「誰が義理の父か、みとめてな!」


 バカンという音がしてギルデインさんが黙った。殴ったのはセーメさん。


「ははうえどの」


「というわけでね、息子のバカは母親が償うべきということで、私が徹底的に教育的指導をするということで納得してもらったの。

 もちろんあなたが私に勝てればそれでいいのよ。

 でも、今回のことはさすがにあきれたわ。

 徹底的に叩きのめしてあげます」


「というわけで、この二戦のイベントマッチを組んでくれればあとは手打ちということで、

 お詫びの品は美味しいお肉とかでいいよ」


 詫びは取るよ、それとこれとは別だ。すでに喧嘩には負けたんだ、負けた以上は膝をつけ。


「わかった、異存はない」


「へ、へいか!」


「そなたも獣王国の貴族なら堂々と戦え、そなたのやったことの責任だ」


「わしがやったわけではない。兵が勝手にやったんだ」


「何寝ぼけてるんですか。上が下の物の失敗のけじめをつけないで誰がついてくるんですか!」


 ギルデインさん今度はネムに怒られている。


「そもそもお前が勝手に家を出たりするからだろうが、第一儂は結婚など認めん。認めておらん。そうだ、ならば儂が勝ったらネムを返してもらおう」


「あー、それは俺に対する決闘の申し込みだね、まあ、獣王国の人ってそういうものだと聞いているからお相手しましょう。

 ただしイベントバトルじゃないから手加減はしないよ」


 なぜそうなる? とか言ってうめいているが、さっき吹っ飛んだ兵士(現在手当て中)と俺の間を視線がせわしなくいったり来たりしている。

 なんでネムの結婚の話がセーメさんとのイベントバトルでケリがつくと思うのさ。


 分からん発想だ。


「うむ、話がまとまったようだな。ワシとしても異存はない。というか他に選択肢がない。

 ただこのままというわけにもいかないので、明日、闘技場で、状況を国民に知らせたうえで執り行おうと思う。どうかね?」


 俺は仲間たちの顔を見回すと…


「それやめた方がいいな。後ろの黒いのがワクワクしてるぞ、もう一回こいつとやるか?」


 それに観衆がいてラウニーになにかあるとまたドラちゃんズが切れるよ。

 ここまで来たのはお前らがラウニーをイジメたからなんだぞ?

 闘技場で罵詈雑言とか飛んだら元の木阿弥だぞ?


 獣王さんひきつってた。


「で、では城の修練場で…貴族たちの立会いの下で…立会人は厳選するし、状況は叩き込んでおくゆえ、王国としても襲撃されました、ドラゴンは帰っていきましたではその後のやり様がないのだ」


 それは分からなくもないな、勝手に帰っていったのではいつまた勝手に襲ってくるか分からないものね。

 ただそれに俺たちが付きあうというのはどうなんだろう?

 人的被害をここまで減らしてやったんだから、結構気を使っていると思うんだけどねえ…


「そこを何とか、内政的にどうしても終わった形が必要なのだ」


 セーメさんが耳打ちしてくれたんだけど、この国ではもめごとはみんなの見ている前でど付き合いでケリをつけるというのが伝統らしい。

 どこの海賊国家だ。


 付き合う必要は感じなかったけど、ラウニーがそれでいいというからそれを受けることになった。

 ただし期日は明日。明日午前中にやって、お家に帰りたいんだってさ。


 俺たちの宿泊先に関してはセーメさんが請け負ってくれたのでお世話になることにした。

 ギルデインさんの家なのだが、彼は獣王さんが〝じっくり話をしたい〟ということで、王宮に泊ることになった。


 まあ、頑張れ、ちょっといろいろ情けなさすぎて義理の親として敬う気持ちが萎えてきている。うん、仕方ないよね。


 さて、今日は終わりだ。とっとと休むぞ!

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