第184話 ドラゴンパニック
第184話 ドラゴンパニック
はっきり言いましょう。ダメでした。
「うわー、ドラゴンだー」
「後ろからも来たー」
「助けてくれー」
ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「あれは完全なやつあたりだな。
よほど怖かったらしい」
「マリオン様」
「やあ、ネム、迎えにきたよ」
黒曜がちらりと俺を見たような気がする。
言外に『お前がやったんじゃね?』みたいな意志を…気のせいだな。うん。
『おれもあばれる。いい? いい?』
そっちか。
「ちょっと待っとけ」
「マリオン様、いったい何が…」
というのでネムに事情の説明。
その間も暴れるティファリーゼに撥ねられて獣人が空を飛ぶが、死人は出ていない模様。
獣人の指揮官みたいなやつが統制を取ろうと奮闘しているが、暴れるティファリーゼに収拾がつかない模様。
「そんなことが、みんなは大丈夫?」
「勿論、ちゃんと治療はしてきたからぴんぴんしているよ。晶はまだのびてたけど…」
「このままではダメね、そんなことしたやつはちゃんとつるし上げないと、たぶんタイミング的に後から合流したのだと思うから多分、分かるでしょう。
それを含めて国に行って話をつけてこないと…」
「あー、それは無理かな」
「なぜ?」
「ドラゴン二匹がキレてるからね、しかもこいつら老竜だから、たぶん獣王国はなくなってしまうかも」
ネムがちょっと青くなる。
「黒曜ってエルダードラゴンなんですか?
あっちも?」
ドラゴンの進化段階として成竜までは人間も戦えるといわれている。
だけど老竜になるとこれはもう災害みたいなもんだ。
確か大昔に討伐事例が一件だけ?
獣王国の運命やいかに。
「きさま、何者だ。名を名乗れ!」
うーん、しかし確かにこのままでは収集が…
「人の名を聞くときはまず自分から名乗るものだ。それとも名乗りを上げられないほど恥知らずか?」
ちょっと嫌味。
「何だと、聞いて驚け、私は獣王様より護衛騎士の栄誉をたまわる騎士ナギルだ。此度の姫さまお迎えの隊長である」
「おお、つまりお前が責任者だな。ほれ」
ズオンと空気がきしんだ。
「うわっ、なんだ」
「体が…」
「おもい…ぐっ」
ふむ、有象無象の動きを抑えるには重力場が一番。
「おっ、おもいーーーーーーっ」
あっ、いかん、ティファリーゼを外すのを忘れていた。
◇・◇・◇・◇
「おおっ、獣人強いな」
重力増加で大部分が動けなくなっているけど、それでも動いてくるやつがいる。
さっきのナギルも何とか動いているな。
よたよただけど。
あと動けない奴は息も絶え絶え。強さの幅が大きいんだな。なかなかみんなが動けなくなるような力加減が難しい。
「少し弱めるから元気に動く奴はぺしってして」
『わかったーっ』
死人が出ない程度に重力を弱くすると元気に動く奴が出てくる。
それでも動きに精彩はないけどね。
そう言うのは黒曜が上を飛んで尻尾でぺしってしてる。
結構ダメージが入るみたいでそのまま動かなくなりました。
と思ったら。
ズンッ! という音がして。
「ぎゃあーーーーーーっ」
悲鳴が上がった。圧力がかかっているせいか血がドバドバ出てるな。死ぬんじゃないかな?
「どしたの黒曜?」
『こいつ悪いやつ』
この場合の悪いやつは家でおいたをしたやつらだ。
ティファリーゼも気が付いたのかふんふん臭いをかいで、一人の男の襟首を咥えるとブンブン振り回して空に放り投げた。
飛んだ。
落ちた。
重力8倍ぐらい。
変な形で地面にめりこんだ。
「二人死亡か…」
全部で四人とか言ってたか?
まあ、いいだろ。
それでこいつらの気が収まるとは思わないけど、それでも少しは気が張れるだろう。
「くっ、きさま、なんでこんなことを…これは獣王国に対する攻撃だぞ」
「おーっ、ナギル君頑張るねえ、だけど消し飛んでなくなる国なんぞ知らんよ。こいつらは老竜だぞ。老竜二匹に襲われて無事で済むほどお前の国は強いのか?」
だったらかえって楽しみ。
もしこいつらが勝てない奴がいるなら、俺が戦ってみたい。
「なんで…老竜が…」
というのでちょっと事情を説明してあげた。
この二匹が可愛がっているちび助を攻撃してけがをさせた奴がいると。
まあ、本格的にけがをしたのはほかのやつなんだが、それでも多少は怪我をしたからな。
「ドラゴンてのはいろいろな種類がいるから一概には言えんのだけど、そのチビも竜族で、幼竜への攻撃は親は怒るからな。
こいつらはとりあえずそいつらをつぶしたらお前らの国に行くんじゃね?」
「えっと、穏便にとか無理ですか?」
と口を挟んできたのはネムだけど…
「無理」
断言します。
「マリオン様でも?」
おお、俺に対する信頼が厚いぜ。
「えっと、環境破壊を無制限にしていいんなら勝てます」
特に黒曜はな。重力兵器の打ち合いを制限なしにやったらどんなことになるか。
そんな話をしているんだけどナギル君の耳はに入っていないみたい。
なんかぶつぶつ言ってます。
少し話をしようか。
◇・◇・◇・◇
荒野のど真ん中なのでテーブルとか椅子とかセットします。
お茶も出します。
座っているのは俺とネム。あとティファリーゼ。
ドラゴンが美女に化けたんでみんなびっくりしていたが、ネムもドラゴンが知り合いに化けたんで吃驚してた。
そのティファリーゼは腕を組んで鼻息が荒い。
あと威圧感がすごい。
黒曜の方も黒麒麟に戻っているけどこちらは落ち着いているな。
ラウのことは怒っているけど、戦闘を楽しむのは別の話。と思っているようだ。
あと、怒っていても相手が弱すぎる。蹴散らして終わるものに目くじら立てない。
黒曜は野生だからな。
そんなわけで優雅にお茶を飲む俺たちの前で獣人の戦士たちがひれ伏している。
戦闘にいるのはナギル君で、そのすぐ後ろに家で暴れた奴が座らされている。
二人は死んでしまったが二人残っているからね。
で、俺はナギル君に事情の説明をしてあげたわけだ。
「申し訳ない、私の管理不行き届きだ…私の首一つで納めてもらえないだろうか…」
犯人二人の主張は結構めちゃくちゃだった。
まあ、キオが本気でかかっていったのは確かなようだが、子供を攻撃したのは事実。
ましてかばうために飛び出してきた晶にけがをさせたのも事実。
ラウニーもケガをしたが、これはラウニーの方が強かったというのがおちなんだが、まあ、ラウニーにケガ(かすり傷)させたのも事実。というかつまり本気で攻撃したのも事実。
にもかかわらず『生意気な子供に対する教育的な指導だ』とか『誇り高い闘士に喧嘩を売るのが悪い』とか言い出す始末。
「負けて逃げたくせに誇り高いとは笑わせる」
と言ってやったらナギル君も不服そうに文句を言っていた。
だがフレデリカさんの手紙を見せたら真っ青になって謝罪を始めたわけだけど…
「ムリ」
俺は断言します。
「なぜです」
分かっていないようだから説明しよう。
「ナギル君ね、お前さんは国際問題だと思っているんだろう。
でもこれは国際問題ではないんだよ」
ナギル君は不思議そうな顔をした。
まあそうだろう。彼の認識では獣王国の闘士が、まあ、彼の部下ではなく同行していた公爵家の部下らしいが、大事な友好国で問題を起こし、御老公と呼ばれた超有力な人の勘気を被った。という認識なんだろう。
でもそれは外れなんだ。
「問題はお前たちが老竜二匹を怒らせた。ということなんだよ。
ドラゴンが政治的な取引に応じてくれると思うか?
思わないよな。
でもこいつらは結構理性的だから、戦って力を見せればたぶん引いてくれるよ?
俺がこいつらを曲がりなりにも抑えていられるのはこの後、こいつらが獣王国に殴りこんで大暴れするのを止めないからだよ。
それを止めたら俺のいうことだって聞かないさ。
こいつらを止める方法は、戦って退けるほかにないんだよ。
だからこうして話し合いの場を設けているの」
「?」
「獣王国が何で滅びるのか、理由もわからないと…納得できないだろ?」
ネムも頭痛そうにしてます。
ナギル君は唖然茫然。
ほとんど死刑宣告だからね。
まあ、本当に放置する気はないんだけど。
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