第185話 クールダウンには焼肉を
第185話 クールダウンには焼肉を
「とは言うものの、俺としても別に獣王国に滅んでほしいわけじゃない」
と言ったらナギル君がすがるような顔で俺を見上げる。
こいつなんか犬みたいだな。
耳が垂れてて気が付かなかったが犬系の人かな?
「だからと言ってこいつらを止める方法はない」
おっ、眉が下がってうなだれた。面白い。
「しかし被害を減らす方法がないわけでもない」
あ、また顔を上げた。
「しかし」
あっ、ネムにつつかれた。悪ふざけが過ぎたかな。
「こいつらはドラゴンで、成長したドラゴンというのは知能が高い。
なのできっちりけじめ付ければそれで収まるという話はよくあるだろう?」
これは本当だ。
進化段階の進んだドラゴンはむやみやたらと破壊をまき散らす存在ではないらしく、和解したとか言う話はよく…はないか、たまにある。
逆に対応を間違えて国が消し飛んだとか言う話もあるんだけどね。
「ドラゴンたちは闘争を望んでいる。
別に獣王国と、というわけではない。
今回の騒動の犯人とだ。
ここら辺が知能が高いといわれるゆえんだな」
「では、どうしろと…」
俺はうむ、と頷き。
「今回あほをやったのはネムの公爵家だろ?
だったら公爵家が相手をするべきだ。
当然その二人は先陣を切るべきだ。
そして公爵家がこいつらに力を示せれば、こいつらの気もおさまるだろう」
まあ、黒曜はな、ぶっとばせばいいやとか思ってそうだけど、ティファリーゼはたぶんけじめに拘る。
「た…例えばですが…この二人がドラゴンと戦って…誇り高く散った場合は…その…」
うん、気持ちはわかるぞ。事態を悪化させたのが無事なんだからそいつらに責任を取ってほしいよな。
「その場合、ドラゴンたちが満足するような闘争が成るかというと難しいと思うぞ。
お前たちだって腹が立った時ありんこ踏んで気が張れたりしないだろ?
肝心なのはドラゴンに『こいつらやるな』と思わせることができるかどうか。
できなかったら本気で国が亡んじゃうよ?
いやでしょそれ?」
やっと納得してくれたみたいだな。
「というわけでこれからはマラソンタイムだ」
「は?」
「とりあえずこのままこいつらが殴り込みをかけると町や市民に多大な被害が出ると思うんだよ。
戦うな、は無理でもこいつら待てはできるから」
できるよねたぶん。
「だからこれから丸一日。こいつらを待たせておくよ。
その間に君たちは全力で国まで走って、上に状況を説明して、町の外で迎撃準備を整えるように。
そこで楽しい闘争ができればたぶん収まると思う。
というかそれしかない。
ああ、返事はいらないぞ。本気でそれしかないから。選択肢はない。
というわけで走れ!」
そう、メロスのように。
君たちの走りに大切な人の命運がかかっているのだ。
でもやっぱり動き出さない。
「10、9、・・・」
「急ぎなさい。本当に、死ぬ気で走るんですよ」
俺がカウントダウンを始めたらネムが声をかけて手をパンとたたいた。
それで獣人たちはみんな走り出した。
跳ね飛ばされたりけがをしたやつも多いのだろうけど、みんな全力で走っていく。
特にナギル君は。
「あとを任せるぞ、俺は先行する。かならずみんなたどり着け!」
そう言って走り出した。
他にも犬系の獣人とかは先行するみたい。
走るの得意なんだろうな。
少し遅れるほかの獣人たちは件の二人を気にしながら走り出した。
絶対に逃がさないという気概か感じられる。
まあそれでも。
「姫様、申し訳ありません」
「この責めは必ず」
とか言ってまじめに走っているから…まあ、何とかなるかもしれないね。
◇・◇・◇・◇
『これからどうするの?』
「すぐ殴りこんではダメなんですよね」
はい、ダメですよ。
黒曜とティファリーゼの質問に俺は余裕で返す。
「いったん家に帰って風呂にでも入ろうか?」
飛べばあっという間だし、残してきた連中のケアも必要だろう。
「うううっ、でもあいつらを放置するのは…なんか気が収まらない」
「まあまあ、けじめはちゃんとつけるから。それよりもラウが心配しているからいったん帰って顔を見せないとね」
「そうだ、やっぱりラウが大事よね」
『ぼくもラウと遊ぶ』
よしよし、これで少しは落ち着くだろう。
そうすれば少ない被害で丸く収まるぞ。たぶん。
「えっと、それでいいのかな?」
「いいのいいの。いったん帰ってゆっくりしてから改めて獣王国に向かおう。
で、出て来た公爵家とあのアホをぶっ飛ばしてけじめをつけたらめでたしめでたしだ。
その方向でひとつ」
ネムが首をひねっているが、みんなが幸せになるためにはこういう不条理なことも必要なのだよ。
「よし、帰ろうか」
「わわわわわ。私は急に具合が悪くなったわ、少し休んでから行く」
あっ、勘のいいやつだな。
飛んで帰るのに気が付いたか。
「じゃあ黒曜はネムを乗せてね」
『わかったー』
ネムを黒曜の背に押し上げ。先に飛ばせる。
ティファリーゼはその間に逃亡を図ったが、ティファリーゼを連れていかないとラウニーが悲しむだろう。
うん、間違いない。
これは意地悪ではないのだ。
「いやだーーーーっ。絶対嫌だー」
巨大化してドラゴンに戻り、地面にしがみつくティファリーゼ。
苦笑しか出てこない。
「馬鹿だなあ…そんな程度で逃げられるわけないじゃん♪」
重力制御に重さに制限などないのだよ。
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
「はいはい、わかったわかった」
俺は重力場で包み込んだティファリーゼを持ち上げて黒曜の後を追った。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
◇・◇・◇・◇
帰ったらみんなびっくりしていた。
まあ、すぐに帰って来るとは思わなかったんだろう。
ネムはすぐに屋敷や家族、使用人の安否確認などをして大事ないのでほっとしていた。
さすが女主人だ。
シアさんたちも知らせを聞いて来てくれていた。
「らう~こわかったよー」
「いいこいいこ」
ティファリーゼは幼児退行を起こしてしまった。
ラウニーが嬉しそうにいい子いい子している。
フレデリカさんはいったん帰ったらしいんだけど家の執事の報告でもう一回飛んできた。
申し訳ない。
そのうえでクールダウンのために時間稼ぎをしている旨を説明した。
「それは良い考えね」
と感心してくれた。
「はい、腹が減ると怒りっぽくなりますからね。とりあえずゆっくり休ませて、美味い物をたくさん食べさせましょう」
俺はしまうぞう君から収納していたいい肉を沢山だし、バーベキューを始めることにした。
働いているみんなにはご苦労だが頑張ってもらいたい。
王様とか公爵とか馬鹿をやったやつらがどうなろうと知らないが、君たちの頑張りに獣王国の無辜の民の安寧がかかっているのだ。
黒曜もティファリーゼもラウニーに焼いたお肉をもらって機嫌が直って居るみたいだしね。
「いやー、ラウニーもいい子に育ったねえ」
「ほんとかわいいわね」
ラウとキオが頑張って働いているの見てほっこりしている晶、けがも完治してもう問題ないみたいだ。
「ごめんなさい、うちのバカのせいで皆さんに迷惑をかけて」
「あらあら、いいのよそんなこと。セーメ《あの子》がこんなバカをやるはずないから多分ギルデインでしょうね、
この際だから言ってぶっ飛ばしてきなさい」
セーメというのはネムのばあちゃんでフレデリカさんの昔の仲間だ。
ギルデインというのがネムのパパで現公爵みたいだな。
なんか勇者の必殺魔法みたいな名前だ。
とりあえずネムとの中を邪魔しないようにぶっ飛ばして来よう。
というわけで、腹いっぱい美味しいバーベキューを食べて、御風呂にゆっくりつかって
翌朝改めて殴り込みに向かう。
「ところでマリオン君、詳しい事情は帰ったら聞かせてね?」
「あー、はい、そっすね」
「まあ、ドラゴンに喧嘩売るような真似はしないけど…」
と、最後にポツリと。
「きゃい、やるぞー」
かくして我々はラウニーの先導で戦いに…
あれ? ラウも行くの?
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