第183話 事態は混迷を深めていく
第183話 事態は混迷を深めていく
side ネム
『まったくもう、まったくもうったらまったくもう!』
私は結構怒っている。
いきなり嫁入りが決まったから帰ってこいとか何を考えているんだか。
私が結婚したことは連絡したし、神様の承認も…あれ?
神前結婚だったことは報告して…ないかな?
いやいや、関係ないぞ。
ちゃんと結婚したことは報告したんだから。問題ない。うん。
「姫様」
「なに?」
言葉に棘が混じるな。
わたしを姫様と呼んだのは王国の騎士だ。
うちの公爵家ではなく王国のといのが問題よね。
物事を穏便にと考えるなら王国の騎士よりも公爵家の兵士の方が効率がいいはず。何と言ってもおばあちゃんとフレデリカおばさまは親友だから。
でも王国所属の騎士が来た。
まあ、顔見知りではあるんだけど。
そこら辺になにか意味があるのかもしれない。
いきなり結婚とか帰ってこいとか言われて頭にきて飛び出したら外で彼らが待っていて、お迎えに上がりましたとか。
まあ、悔しいけど今はその部隊の馬車の中だわね。
「まさか獣王国まで走っていくつもりですか?」
とか聞かれるとね、頭に血が上ってその気でいたのは内緒だ。
でも、うん、考えてみたらそんなことできるはずがない。
でもお送りしますとか言われて馬車に乗ったのは失敗だったかもしれない。
ものすごくスピード出して道を急いでいるんだよね。
これははめられたかも。
まあ、マリオン様と結婚してからなぜかものすごく強くなっている気がするから、たぶん今なら獣王さま、つまり国王様にも負ける気はしないんだけどね。
まあ、いざとなったらみんなぶっ飛ばして…
ひひーーーーん!
うわーーーっ、
なんだ!
ドラゴンだ、ドラゴンが?
腹が立ってぶつぶつやっていたら、いきなりそんな声か聞こえてきて、同乗していたメイドたちが吹っ飛んできた。
ふふーん、今の私ならこの程度簡単に受け止められるのさ。
二人のメイドをひょいひょいと受け止め。ぶつからないように向きを変えてシートにおろしてあげる。
馬車も急制動をかけて止まってしまった。外はものすごい騒ぎ。
「姫様、いけません」
「あぶのうございます」
「だいじょぶだいじょぶ」
ドアを開けたら黒くて大きな翼を生やしたドラゴンが悠々と天を舞い、時折地上に黒いい雷をおとしている。
「何だ黒曜じゃない」
ドラゴンがこっちに気づいた。
この気配を見間違うはずもない。
《サブマスター、ラウニー、キオ、アキラ怪我。こいつら悪いやつ》
なんですとー!
◇・◇・◇・◇ side・護衛騎士ナギル
わたしは獣王国において護衛騎士の栄誉を賜っているナギルという。
獣人族というのは戦闘バカなやつが多く、護衛役など振っても護衛対象を忘れて戦闘にのめり込むものが多く、騎士として要人の警護を任されるのは大変な名誉なのだ。
今回、王陛下から下された役目は公爵家の姫君であるネム・インクルード・フォーレシア嬢をお迎えし、その護衛をすること。
公爵家から要請があり、王国が動いた形だ。
なんでも友好国から姫さまに縁談が持ち込まれたとか。
公爵家が直接でいいような気がするのだが、姫様は現在コウ王国のキルシュ公爵家におられるとのこと。
フレデリカ・キルシュ様は獣王国においても有名な戦士。冒険者。
そのことをおもんばかってのことだと思うのだが獣王国から迎えを出して粛々とお帰り頂くように。とのことだった。
だったのだがなかなか思うようには進まない。
公爵家から同行した闘士が事情説明のために姫様の元を訪れ、その間にこちらはフレデリカ・キルシュ様に正式に面会を申し込んでご挨拶を…
と動いていたらなぜか姫様が勢いよく飛び出してきて、獣王国に帰るといきり立っておられる。
一体何があったのか。
お待ちくださいといってもお聞き届けなく、一人でずんずん行ってしまう姫様を放置もできず、またお迎えのための馬車も用意してきたことから姫様とともに帰ることを選んだ私。
しかしキルシュ家への無礼もできないので副官をご挨拶に残してきたのだが…
姫様は大変にご立腹の様子でその圧力に負けてとにかく急ぐ。全力で急ぐ。
もし怠けようものなら走っていかれるのではないか。というような状況だ。
ならば仕方ないとかなり急いで移動していたが、上からいきなり黒い雷が降ってきた。
巨大な黒い竜、いや、龍か?
大きな翼を生やした蛇体のドラゴン。
なぜこんなのがいきなり攻撃してくる。
部隊はもうパニックだ。
だが姫様だけは御守りせねば…
と思ったのだがこの黒い龍、姫様にかしずいてないか?
姫様に耳打ちしてないか?
姫様怒ってないか?
何がどうなっているんだ。
わたわたしていたら今度は後ろになにかが落ちる音。
とても大きくて重たいものが落ちる音。
砂煙が張れて最初に見えてきたのは金属質なとがった何か。
そしてすさまじい咆哮。
ぐおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。
聞いた瞬間膝が砕けそうになった。
これがうわさに聞く魂砕き、ドラゴンの咆哮には勇気を挫く力があるって…
咆哮によって砂煙が一気に吹き散らされてそこから銀色に輝く装甲を持った俊敏そうなドラゴンが顔を出したのだ。
口の端から火をこぼし、目が威圧的にこちらを睨んでいる。
激おこだ。激おこドラゴンだ。
なぜだ。なぜこんなところでドラゴンに前後を挟まれねばならないのだ。
ひょっとして私、死んだ?
◇・◇・◇・◇ sideマリオン
黒曜の気配を追いかけて空をかける。
さすがに空が苦手なティファリーゼもラウニーのためと思えばある程度の我慢はできるようだ。
まあ、なんで怖いのかわからないけどね。
こいつなら絶対成層圏からおっこったって平気だぞ。
かすり傷もつかないのに違いないことがなぜ怖いのか。
黒曜の気配は結構あっちにフラフラこっちにフラフラしている。
多分臭いだな。臭いをたどっている。
そして進行方向にネムの気配がある。
うーん、状況が分かんない。
そのうち黒曜はネムのいるグループに追いついたみたいで、周辺を破壊しながら威嚇しているっポイ。
周辺にまき散らされた空間のひずみが轟音を立ててまるで黒い雷みたいだ。
かっこいい。今度俺もやってみよう。
いや、そうでなくって。
いつの間にか黒曜はネムと合流したっぽいな。
ネムの気配もなんか怒っている感じ。
うーん、状況がさらに混迷。
ここは一発戦力を投入してみようか。
「ティファリーゼ、先に行け」
「は?」
「よくわからないからとりあえず先に行ってネムの保護頼むな。俺はもう少し周りを探って見る」
「え?」
「よしいけ」
俺は上からそのグループの最後尾付近にティファリーゼを撃ち込んだ。
ネムがどういう立ち位置なのかわからないからな。万が一人質に取られたりしたら困る。だがまさかドラゴンが人間の保護に動くとはだれも思うまい。
ふふふっ、完璧な作戦だ。
『うにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
カッ飛びながらドラゴン形態に戻るティファリーゼ。
「これはあれだな。実際落っこちてみて何ともなかったら、空恐怖症も克服できるみたいな荒療治?
うん、行けるんじゃね?」
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