第180話 しばし穏やかな日常

第180話 しばし穏やかな日常



「みんなー、ごっはんだよー」


 元気な声が屋敷に響いた。

 晩御飯である。

 あちらこちらから応じる声が響き、食堂に人が集まってくる。


 俺もネムとお茶をしながらこれからの予定などを話していたのだが。ご飯であればいかざるを得ない。


 ちなみに大声を出したのは晶だ。


 俺は結局晶を連れ帰り、第二夫人として迎えることになった。


 いやー、あれだよ、よくドラマなんかで『お嬢さんを僕に下さい』みたいなのがあるじゃない?

 あんな感じで晶と二人で正座して、ネムに対して『第二夫人として迎えることになって…』てな挨拶をやったわけですよ。

 人生で一番緊張したよ。マジで。


 ネムとは話ができていたとはいえ、やっぱりどんな反応されるか怖いしね。

 でもやっぱりこの世界の女性は一夫多妻には抵抗がないようで、晶を迎えることには特に反対はされなかった。

 もちろん一番偉いのはネムだ。

 はっきり言うと俺より偉い?


 ただ居場所というのは難しいもので、何もせずにいるのは誰にとっても苦痛でしかない。

 では晶が何をして過ごすのか。別の言い方をするならば家族間のおける晶の役割とか立ち位置はどうするのか。という問題はあった。と思うんだ。


 じつのところ一夫多妻に一番抵抗があったのは俺でね。

 しかも晶との関係は一回切れているわけだ。


 なのでこっちに連れてきていきなり関係を復活させるというのは、もう、ハードルが高すぎる。

 考えた挙句『三か月の婚約期間を持ちましょう』ということにした。


 婚約期間は肉体関係はなし、というか心情的に無理なので、三か月後にちゃんと婚姻をして、そしたらまあ、出来るかな? みたいな。

 というわけで先日、無事クリアしました。


 晶は晶で自分のできることというのを考えていたようで、この家の料理関係の総監督に就任しました。

 というかやっぱ日本人すごいわ。

 食にこだわる日本人。


 町中回って、調味料だの香辛料だのを集めてかなり日本にあったあれやこれやの料理を再現してしまったのだ。

 しかもかなり料理上手。


 現在我が家の料理は晶監修の下、メイドたちが調理を行い、食卓を整えるようになっている。

 もちろんみんなの度肝を抜くような騒ぎだった。

 そして料理に関して晶に何か言うような奴はいなくなった。


 他にも帰ってきたカンゴームさんと協力して新しい銃器の開発にも着手している。

 これは趣味全快でやっているようで、かなり吹っ飛んでいるのだが、帝国で人間の能力だけでやっていた時と違ってドワーフの技術が好き放題に使えて、しかも魔道具の技術も導入されているのでかなり高性能なものがすでに出来ていたりするようだ。


 この間ジープみたいな魔動車の荷台に大きなガトリングガンが設置されている自走砲を見たときには開いた口がふさがらなかった。

 走り回って縦横にダンカンをまき散らす自動車。しかも積んであるのは20ミリバルカン砲なんだそうだ。

 普通戦闘機とか戦闘ヘリとかに積んであるような奴。


 戦車だって蜂の巣さ、あはははははっ。


 はあ~っ


 しかも砲弾は魔法で氷を硬化コーティングしたものを使うそうでコストも安いそうな。

 ミスリルで作った弾丸を使ったときはワイバーンも撃墜できたらしい。


 何やってんだお前ら。


 現在はドラゴンも撃ち抜けるマテリアルライフルを開発中だとか。

 大丈夫か? 文明崩壊しないか?


 そんな感じで晶は見事になじんだ。


 ではもう一人のキオはというと…


「きお、めっ、それはばっちいのよ」


「やだ、もってく」


 庭で泥団子を作ってそれを食卓に持ってこようとしてラウニーにたしなめられていた。

 キオがきて一番喜んだのはラウニーだったりする。


 お姉ちゃんぶりたい年ごろというか、自分より小さいキオが来てうれしかったらしい。

 キオと二人でみんなに愛でられつつ、キオの面倒を見て楽しんでいるようだ。


「もう、しょうがないわね」


 とか言いながら。


「キオ、泥んこでご飯はダメだよ。また明日にしなさい」


「そう、二人ともまずお風呂場でからだをあらう」


 今日、二人の面倒を見ているのはシアさんとマーヤさんだ。

 二人はまだ学校は終わっていないのだが、ここをパーティーハウスとして登録して基本入り浸っている。

 ここからだと学校にも通えるからね。


「あの二人が嫁いでくるのが楽しみですね。にぎやかになりそう」


「何とか回避できないかな?」


「まだ言ってるの? もう諦めたら? 何なら一発やっちゃえば諦めがつく?」


 マジでやめて、女の子が『一発やっちゃえばおとなしくなるさ』みたいなこと言わないでほしい。


「男って本当にロマンチストだよね。女の子に夢見てるんだから」


「だよね、女だって生身の生き物なんだからそういうのは普通にあるよ」


「そうよ、男と女なんだからやればできる。マ〇コ構造なんて変わらないでしょう?」


「でもお味は違うみたい」


「きゃーーーーっ」


 マジやめて、これだから女同士の会話には加わりたくないんだよ。


 何でこんなことになるかというとこれは晶のせいだ。

 嫁は一人でいい。と、言い切れていたうちは良かったんだけど、やむにやまれぬ事情で二人目をもらったもんだから防波堤がなくなってしまった。


「二人も三人も四人も大して違わないわよ」


 みたいなことになってしまった。

 しかも。


「せっかくこれだという男を見つけたのにあきらめるとかありえませんよ。男爵領のためにも絶対逃がしません」


「現地妻」


 と言ったのはマーヤさんだが、この現地妻というのがいいらしい。ネム的に。

 ネムはオスの大きなテリトリーの中で、何人か女が分散配置されているのが落ち着くらしいんだよね。

 本来は一人ずつ分散が落ち着くらしいんだけど。


「あなたの場合はダメよ。一人じゃ身が持たないから。だから一か所に二人ぐらいね」


 この町とラーン男爵領が俺の縄張りでこっちがネムと晶で向こうがシアさんとマーヤさんというイメージがネムの予定らしい。


 フレデリカさんからも責任をとって二人をもらってちょうだいみたいな話があるし、どんどん外堀が埋まっていくような感じで怖い。

 このままだと卒業と同時に嫁が二人増えそうだ。困った。


 でもまあ、ここのところ落ち着いた日々が続いていて、大きな問題もなく、ギルドの依頼で時折森の奥に大物を取りに行くぐらいで穏やかな日々が続いている。

 帝国は聖女がなくなったと大騒ぎをしているというのを伝え聞くがこのキルシュ領というのは王国の一番北で、帝国は南のその先なんで情報も遅いしそもそも帝国人間がここに来ることなどほとんどない。

 問題など起きようはずもないのだ。うん。


 バッチャーーーン。


 とか言ってたら窓になにかがぶつかった。

 割れたりはしなかったが…


「なに?」

「魔物?」


『緊急連絡、救援求む、イアハート』

『救援求む、イアハート』

『救援求む、イアハート』


 見たことのない魔物みたいなのがそんな言葉を繰り替えす。

 メッセージのための使い魔みたいなものだろうか。


『なお、このメッセージは自動的に消滅する』


 ぼん!


「誰だこんなネタ教えたの」


「あ、私」


 マーヤさんだった。

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