第179話 非道の末路
第179話 非道の末路
「そこまでだ。村人をいたぶるのはやめてもらいたい」
いきなり声がかかった。
「伯爵…」
「アキーラ」
現れた男が晶を呼ぶがテキーラみたいに聞こえる。悪酔いしそうだ。
村人たちが七転八倒している時に現れたのはロミニアという伯爵だった。
いや、別に村人を攻撃したりとかはしてないよ。
歪曲フィールドを張って立ってただけなんだ。
だけど頭悪いというかなんというか、村の男たちが襲い掛かってきて、かってに弾かれて転げて大騒ぎ。
あきれてみていたところに件の伯爵さまが帰ってきたと。
「のろしを見て大急ぎで帰ってきたのだ。まさかこんなことになっているとは…
だがこんなことで僕の愛は変わらない、さあ、アキーラ帰ろう。僕たちの城に…」
「伯爵、これはどういうことですか?
魔族は恐ろしいものだと、そうおっしゃっていたじゃありませんか。
だから私に武器を作ってほしいって…
まあ、頼まれなくても作りましたが…」
正直者だな。
「でも魔族は人類の敵だとおっしゃっていたじゃないですか。
決して相いれないのだと…
それなのに…」
「アキーラ。それは嘘ではない。魔族は人間の敵だ。
だが、獣や亜人達を生贄に出すだけで我々の安全が保障されるのだ。
これは人間の安全を確保するために最も被害の少ない方法なのだ」
なんか雰囲気がメロドラマ風なのに話が殺伐としすぎてる。
この伯爵とか言うのがもっとマッドサイエンティストみたいな雰囲気だと面白いドラマになったかもしれないのだが。
本気でザンネン。
「あなたのいうことは理解できません。
獣人だってドワーフだって同じ人間じゃないですか…
それを…」
「それは違いますよ。あいつらは人間じゃない。ただの獣です。ただの亜人です。我々人間が生き延びるためには他種族を犠牲にすることは仕方がないことなのですよ。
事実一定の食料の提供で魔族を帝国の戦力として計算できる可能性が生まれたのです。
これは天命なのですよ」
これが天命なら出してるのは邪神だな。
「そんなこと認められません。これを見てください」
そういうと晶はキオをひょいと抱き上げた。
「こんなにかわいいのに、彼らだって一生懸命生きているのに。そんなことが言えるだなんて…
目を覚ましてください。
それは間違いです」
いや、確信犯にそういうこと言っても無駄だと思うけどなあ。
「そんな汚らわしい獣の子供にどんな価値がある。
君こそ目を覚ますんだ」
子供のころからそれが当たり前と教えられて育ってきたんだ。
国ぐるみの洗脳みたいなものだからな。目を覚ますも何もない。
それ以外の価値観が存在してないんだよね。
やっぱ教育って大事。
そしてその言葉で晶の目が死んだ魚みたいになった。
「だったら…だったらなんでこの子の母親を追い回したんですか?」
「何? なんだと? あっ、あの時の獣人のガキか…
追い回すも何も私が情けをかけてやろうというのに拒否する方が悪いのだ。
獣とはいえ見目好い女だったからな。
おとなしくしておれば多少の金は恵んでやったものを…」
まあ、洗脳のせいだとしても性根が腐ったらもう救いようがないわな。
「さて、話もまとまったようだから、こいつらシメて帰ろうかな」
よろめくように後ろに下がった晶をささえ、下がらせてから前に出る。
「貴様が今回の一件の主犯だな。なにが目的だ?」
「目的?」
晶の生存確認、意思確認が目的だったんだけど…それを言っても仕方ない。
ならば…
「これ?」
そういうと俺は魔族の、ウインザルの首をまた出して転がして見せた。
伯爵と呼ばれたお男と帝国の兵士たちに動揺がはしる。
「まさか…魔族なのか」
「魔族殺し」
「こんな強力な魔族を倒せるなんて…」
「えー、いやー、たいして強くなかったよー」
いや、マジで。
「そんな、これでは計画が…」
「ふーん、どんな計画か聞きたいんだけどなあ」
「くっ、殺せ、こいつを生かして返してはならん。
総員、全力でこの男を殺すのだ。
…聖女様を救出せよ」
あとから取って付けたな。
「先輩…」
晶が青ざめて袖をつかんでくる。
キオは戦意旺盛で『がるるるるっ』とうなっている。
ここから大太刀周りが始まるかというとそんなことはなくて。
「どん」
俺の言葉と同時に帝国兵が全員突っ伏して地面に張り付いた。
「うっうごけ…」
「おもい…」
「体が…」
「やいや、たかが五倍重力ぐらいで…」
「えっと、五倍ということは体重80kgなら400kg?」
ありゃ? それは確かに重いかも…
自分の上に体重80kgの人が四人乗るぐらい?
あっ、そりゃ重いわ。
転んだ時に体勢の悪かった人なんかは息も絶え絶えになっている。
まあ、別に死んじゃダメということはないしな。
「ぐぐぐ、貴様…こんなことをしてタダで済むと…ただではおかないぞ…」
「いやいや、何言ってんの? こちらを殺そうとかかってきたんだ。負ければ逆に殺されるのわかってるでしょう?
それともそんな想像力もないのかな?」
とはいえ伯爵はかなり前衛的な形でつぶれている。
このままでは呼吸が思うようでなくて死んでしまうだろう。
軽く蹴っ飛ばしてあおむけにする。
ああ、もちろん俺は重力の影響とか受けてないよ。平気。
空間をゆがめて惑星の重力をちょっと強くして帝国の連中を押さえているけど、自分たちの周りの空間はフラットにしているから、これで重力の影響は受けないのだ。
「さてー、伯爵君。さっき言ってた魔族との取引とか計画とか、そこら辺を教えてほしいんだけどなあ」
「ふ、ざげ…誰が…はなすか…」
結構苦しそう。でも死ぬほどではないか…
「よし石積でもするか」
舗装とかされてないから探せば石なんていくらでもある。
大きめの石を拾って伯爵君の胸の上に…どん!
「ぬぐおっっっっ」
「早く話した方がいいよ?」
「誰が!」
そんなことをしていたらキオがトコトコやってきた。
石を拾って伯爵君の上にばらばらと置く。
「ぐあああっ」
うーん、キオにしてみれば親の仇だ。
それに獣人というのは本能的に命のやり取りを理解していると思う。
だが、保護者の俺がいて人殺しを推奨することが許されるのか。
まあ、子供に重荷を背負わせるのはいくないよね、
でも、かたき討ちは止めてはダメだと思う。
「よし、きお、これをかしてやる。ぶんなぐれ」
俺はキオに木刀の短いのを渡した。
そして顔を指さしてやる。
「ふん」
キオの気合の一撃が伯爵君の顔に決まった。
「ぐほああああっも、貴様! こんな、ことを、して…」
ぜーぜ―行ってる。
十分な呼吸ができてないんだね。
キオはその後精いっぱいの敵討ちとして伯爵君の顔をぼこぼこに殴った。
キオはシールドで重力の影響は受けないが木刀は別。
伯爵の顔はあっという間に見る影もなくなり、伯爵が動かなくなったところで…
「うあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
キオが大声で泣きだした。
キオの敵討ちは完遂されたのだ。
俺がキオを抱きしめ、ついで晶がキオを抱きしめた。
「おがあちゃん…うえぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
うん、キオはきっともう大丈夫だ。
思いきり泣けるようになったのならよかった。
さて、もう帝国の計画とかどうでもよくなったな。
ろくでなし魔族がいるのなら俺が踏み潰せばいいだけだ。
「たっ…たすけ…」
伯爵の口からくぐもった声が聞こえる。
「やだね」
黒曜が意志のある目で俺を見つめている。
うん、良かろう。
黒曜が龍の姿で天に駆け上る。
俺は晶とキオを連れて村の外に移動。
村から離れたところにも人の反応が沢山あるが、こちらは非戦闘員だろう。退避していたらしい。
ならば遠慮はいらない。
天空を舞う龍の口から炎の塊が村に降りそそぐ。
火葬だな。
ドラゴンの炎は飛び切り熱いのだ。
ドラゴンの姿に離れたところにいる反応がパニックを起こしているのが分かる。
魔族なんぞと手を組むとどうなるか、思い知るといいのだ。
――――――――――
『何があったのでしょう…』
『ドラゴンのにおいがする。ドラゴンに襲われたのだろう…』
焼けた村の後に二つの影。
人間ではない。
『これは…』
その言葉の先にあるのは真っ黒こげになったカラスの頭。
どうやら人間なんかよりは丈夫な物らしく。魔族の頭はそこに残っていた。
ただ、ほぼ消し炭ではある。
『やはり我々が自由に生きるためには力が必要だ…急がせねばならない。帝国も力には興味があるようだ』
『はい、うまくたきつけて探させます。一刻も早く太初の力を、さすれば我らに畏れるものはなくなります』
焼き尽くされた村の後で、二つの異形の影はぼそぼそと話を続けていた。
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