第178話 村の真実
第178話 村の真実
一応、翌日は念のためということで山を探索した。
俺一人で飛び回ることになるのだが、それは勘弁してほしい。
とか思ったら俺が仕事している間、晶はお風呂を満喫していたらしい。
キオと二人でキャッキャうふふだ。
で料理なども作っていて、すっかりキオを餌付けしてしまった。
ついでに黒曜も餌付けしてしまった。
まあ、黒曜だから懐いたりはしないのだが、舎弟として認めたようなことを言っていた。
ちょっと興味深いので聞いてみたら黒曜の中での序列は…
一番、おれ。
二番、ネム。
三番、黒曜。
シアさんとかマーヤさんは黒曜の舎弟。
他の使用人は舎弟の部下。
でラウニーは別格で妹分らしい。
どうやらキオもそのあたりに入りそうだな。
こいつはどうも小さい子が放っておけない性格をしているようだ。
さらに翌日、みんなで連れ立って村に帰る。
山の中で見つけたあれやこれやから、ここに魔族の巣があって、村の連中が何等かの目的で魔族にいけにえを捧げていたのは間違いないようだ。
証拠はないんだけどね、これは確信。
村の見えるところまでくると随分にぎわっている。
それに人もおおい。
いい服着来たやつとか騎士みたいなやつとか、まあ、騎士なんだと思うけど。
「あっ、ロミニア様」
「あうぅぅぅぅっ、がるるるるっ」
そのうち先頭にいる気障男をみた途端、晶とキオが反応した。
まあ、晶の知り合いというのは分からなくもないが、キオの反応は何か。
俺は重力でレンズを作って男をアップにする。
20台後半、30近いかな。
顔がちょっと濃い。まあ、イケメンと言えなくもない?
ただその顔には斜めに三本の、爪でひっかいたような跡が残っている。
と、アップになった映像に飛び掛かってひっかこうとするキオ。
危ないから回収。
ここまでくれば、まあ、誰でもわかる。
「こいつがキオの両親を殺したやつか」
「え?」
ギョッとして俺たちを見る晶。
あっち見てこっち見て口をパクパクさせている。
どうやらよく知る相手らしい。
俺はキオをくすぐってゴロゴロさせながら知っている話をしてやる。
「それ…だったら間違いないかも…あの傷の治療をした時期と…合致すると思う」
聞けばよい友人としてお付き合いしていたらしい。
顔の傷というのは痕になりやすいんだよね、肉が薄いから。
結構ひどい怪我で、治療のために晶に泣きついてきたらしい。
段階的に治療して、今は痕も随分薄れている。
晶も結構いい腕をしているようだ。
ただ晶がモテまくって何人かの貴族が結構頻繁に通ってきていたというのは…まあ、ハニートラップの一種だろう。
晶の方は気の置けない友人みたいな扱いで、研究の話や趣味の話などで盛り上がっていたようだ。
ここだけ聞けばその貴族というのはなかなかに努力家だよね、
オタクの趣味語りに付き合えるやつって同病ぐらいしかないと思うんだけど、この世界にトリガーハッピーはこいつ以外にはいないだろう。
晶を帝国につなぎとめるためとは言え、涙ぐましい努力だ。
まあ、それだけでもないのかもしれないが…
「でも、町の外の様子を話してくれたのもあの人だし…聞いていた話とは全然違うし…」
信じていたものに裏切られた気分なんだろうな。
これでは話にならないと隠れるのを続けているとそのロミニア伯爵と愉快でない仲間たちは装備を整えて山の中に進軍していった。
必ず聖女の身柄を確保せよ。みたいなことを言っている。
多少手荒になっても構わんとかね。
その言葉にもショックを受ける晶。
これはもう方向性が決まったな。
「あー、この状況だとお前の希望があってもお前を帝国に残していくというのはないな。
残ったところでこれ以降、ろくな扱いはしてもらえないと思うぞ」
「ううっ、はい」
連中は大急ぎで山の中に進んでいく。
「ここって魔族の山だろ」
「大丈夫なのか?」
「魔物に襲われたりとかないのか?」
「いや、魔族とは話がついているって…」
「でも…」
ありゃ、規律がなってないねえ、おかげで確証ができてしまったよ。
「貴族もバカ。軍隊もバカ。実に帝国らしい」
「ででで…むぐぐ」
立ち上がって大きな声を出そうとした晶を捕まえて口をふさぐ。
「でもいい人もいるんだよ」
「うん」
小さな声でやり直し。
それはそうだろう。
ろくでなし国家だからと言って国民すべてがろくでなしなはずはない。
だが格差というのはあって、晶が接してきたのは大体搾取する側なのだろうと思う。
自分にとって〝良い人〟がすべての人にとって〝良い人〟であるとも限らない。
絶対善も絶対悪も存在しないんだよ。
善悪は相対的。
少なくともあいつらは俺やキオにとっては悪。それだけが真実だ。
晶に対して俺は責任を感じているけど、俺の善と晶の善が食い違ったときにどうするべきなのか…
まあ、とりあえずこいつらはぶっ飛ばすけどね。
◇・◇・◇・◇
しばらくの間晶は考え込んでいた。
連中が山に入ってからもう結構時間がたつ。
ということで俺達はそろそろと村に帰還した。
俺たちの姿を見つけるとパタパタと動き出す村人たち。
建物の陰に走るもの。建物の影を使って包囲するように動く者。
村長のパロムが進み出てきた。
「これは聖女様。ご無事で何よりです。ご心配を申し上げておりました」
「あー、えっとありがとうございます」
「それでその…山のほうでは何か…」
ここで俺が割って入る。
「残念ながら先に行ったという冒険者は発見できなかったよ。ひょっとして戻っている?」
「いえ、残念ながら…そうですか。魔物に発見されたのかもしれません…」
「その魔物だが、そっちも発見できなかったよ。
いたのは弱いやつばかりだった。
例えばこんなのとか」
俺はにやりと笑ってウインザルの首を収納から放り出した。
カラスの頭とは言え、元は3mの巨体のもの。相応に大きい。
地面に転がった巨大なクビの目が村長に向けられている。
「うわああぁぁぁぁっ」
「そんな、魔族が」
「ウイングロード様!」
「いやいや、恐れることなどないだろう。ほら」
そういうと今度は魔族の魔石を取り出して見せてやる。
ウインザルとアンフェスバエナのものだ。
「あの頭の二つある蛇の方は跡形もなく消し飛んでしまったから魔石だけだ。
ひょっとしてお前たちの言っていたのはこのか弱い魔物のことなのか?」
村長は腰を抜かしたように座り込んでいる。
まあ、魔族って普通は絶望的な相手みたいだしな。
「まさか、お前たちがおびえていたのはこの脆弱な魔物のことなのか?」
俺は力を放出しながらにやりと笑って見せる。
かなりの重圧のはずだ。
「そういえばこいつおもしろいことを言っていたな…なんでも帝国との取引とか?」
もちろんハッタリです。
こいつらそんなことを聞く間もなく死んじゃったから。
「お前ら魔族と取引して獣人とか生贄にしてたよな?」
うっすら重力をかけながらのしかかるように村長に近づいていく。
「しっ…仕方なかったんだ…上からの命令で…俺は反対だった…」
まあ、嘘だね。
嘘でなかったとしても情状酌量なんかしないけど。
地球でも『動機』とか『殺意の有無』とかよく問題にしてたけど、そういうの被害者に関係ないよね?
避けえぬ事故ならともかく悪事に加担した以上、容赦しないのだ。
とりあえずぶんなぐろうかと手を上げたら。
「何をしている。取り囲んで逃すな。
魔族と取引をしていることが知られたら帝国は大変なことになるぞ」
「村長!」
「子爵様!」
その男の声に周りがばらばらと動き出す。
「あのジジイは最初に出て来たぼけ老人…ということにされたやつだな。
やっぱりあいつがリーダーだったか」
家の陰から飛び出してきた村人たちが格好に似合わない剣だの盾だのを装備して俺たちを取り囲む。
大太刀周りの後印籠が出るといいんだが…帝国じゃ効果ないよね。
とりあえず実力行使か?
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