第173話 いかん。こいつと一緒にいると昔の俺が戻ってきてしまう

第173話 いかん。こいつと一緒にいると昔の俺が戻ってきてしまう



『聖女様をそんな危ないところに行かせるわけには…』


 などという意見が出るのは至極当然のことだろう。

 ましてこの村怪しいしね。


 なのでここは押し切ります。

 強引にというのではなく全く話が通じない風を装って。


「だーいじょうぶ。大丈夫。俺強いからなんも問題ないよ」

「心配ないって」

「気にしなさんな。あはははははっ」


 そのうち村のあれやこれやは『ダメだ。こいつなにを言っても話が通じねえ』とか思ってくれたはずだ。


 そしてそのまま山に突入。


「せめて道案内をー」

「心配ないって~っ。あははははっ」


 とか言いながら皆を抱えとトットコ山の中に。

 ついてこようとした村人はなぜか地面が滑ったり、穴が開いたりしてついてこられず。俺たちを見失った。


 もちろん俺たちはこっそり戻って高みから村を観察。

 その結果村の動きは二つだった。


 一つは大急ぎで村を飛び出していく騎馬(というか鳥)。街道に沿って南下して、たぶんそのまま帝都あたりに御注進に及ぶものと推測される。


「うわー、なんかわくわくするね」


 全くだ。


 問題はもう一組。

 すごく変な格好をした村人3人。これが山に飛び込んでいった。

 そのまま視点を飛ばして観察したが山の奥を目指して進んでいく。


「山に魔物が出て入れないとか言ってた割に山の中にお知らせ部隊を送るか…

 やっぱりこの山なにかあるな」


「これもワクワクするね」


 俺はろくでもない予感がするが…まあ、いいでしょ。にっこり笑って晶の頭をポンポンしてやる。

 よし、本格的に行くか。




「ねえねえ先輩。こうして山を歩いているとサバゲーを思い出すね。着ているのが迷彩服じゃないのが残念だよ」


「あー、うん、なんか雰囲気はあるよな」


 確かにこのシチュだど迷彩の上下とかコンバットブーツとかほしくなるよな。

 腰に手をやってもホルスターもない。

 でも一応着替えはさせた。

 収納のしまうぞう君には大量の予備の装備とかも入っているから動きやすい服にね。


 もちろんちび助『彰雄?』君にもそれなりの服装をさせて、まあ、黒曜がいると普通に獣も魔物も寄ってこないんだけどね。


 かっさらってきたときの室内着でとかでは当然無理だよ。


「あーーーっ、残念だわ。先輩にいきなりさらわれたりしなかったら新作のリボルバーを持ってきたのに…

 今、アサルトライフルの研究をしているのよね。リボルバーまでは実用化できたんだけど、まだオートマチックの連射機能までは手が届かなくて…」


「まあ、ああいう精密加工はこの世界じゃまだ無理だろ。ドワーフとかいないと無理さ」


「ふええっ、ドワーフってやっぱりそういう種族なの?」


 なんだと思ったんでしょう…と聞いたら。


「ドワーフって穴倉暮らしの炭鉱堀ぐらいしかできない劣等種族だって…えっと、王国だと違うのかな?」


 どうも晶はドワーフのことを穴掘りしか能のない生き物。という風に聞いていたようだ。

 ドワーフは穴を掘るだけの能無し。

 獣人は体力だけの馬鹿種族。

 エルフは見た目だけの引きこもり。


 というのが帝国の常識らしい。

 どんな常識だ。


 まあ、奴隷にしてそんな仕事しかさせなけりゃそんなものと言えないこともない。

 他国との交流はあるわけで、冒険者なんかならこの国に来る異種族もいるのだが、まあ、帝都からでなければ情報の秘匿も難しくはないか。


「ドワーフはモノづくり特化種族だからな。金属加工から木工、石材加工まで何か作らせたら彼らの精度には人間では遠く及ばない。

 王国のドワーフなんか以前、勇者から取り上げたリボルバーがあって、まあ、ライホーとか呼ばれていたけど、あれを預けたらあっという間に分解して新型の研究をしていたぞ。

 他にも構造の話であればAUGも見せたことあるから…きっと今頃…」


「先輩、それあたしのアグちゃん?

 アグちゃん無事なの?」


 あっ、そうでした。あのライフルはこいつのものでした。


「あー、まあ、いちおう、現存はしているよな…ただ無事ではない。うん、無事ではないぞ」


 源理力バーストで変質しちゃったから。


「ええーーーーーっ」


 今はマーヤさんに預けてあるんだが、そこらへんはあとでいいでしょ。

 説明すんの面倒くさいし。いや、説明すると面倒くさくなる気がする。

 なんか勝手に誤解して納得しているから放置だ。


「そっかー、先輩のゲームのイラスト集は無事だったんだよね~っ、みんなデザインがかっこいいから身分の高い人の鎧とか、剣とか、あのイラスト集から抜粋して作ったりしてね…」


「なに! なんだと、あのゲームの装備を現実に作ったのか!

 かーーーーーっ、なんということだ、なんというもったいないことを!

 帝国なんかに預けたってろくなことに使わないぞ! というか帝国の技術であれを再現できるわけないじゃないか…

 あー、どうしよ、帝都にとりに戻るべきか?

 帝都を消し飛ばしてしまえばできるか?

 なんかできそうな気がして『バキッ』…」


 殴られた。


「晶君、棒でどつくのはやりすぎだと思うよ」


「えへへっ、でも先輩一回そうなると帰ってこないから…」


 失礼な、そんなんはね、もう卒業したんだよ。俺は大人になったの。

 中二病は完治しました。

 リアルファンタジーの中でロマンを追うには別のベクトルが必要なのだ。

 物語ではないのだよここは。


 しかし本当に惜しい。あのイラスト集があれば…あれをカンゴームさんあたりに渡せば、きっと見事に再現して、ものすごくかっこいい騎士とか、すごい傾いた冒険者とかが誕生しただろうに。

 ファンタジーがリアルファンタジーの中でどこまで通用するか見たかったーーーっ。


 はっ、いかん。こいつと一緒にいると昔の俺が戻ってきてしまう。

 もう少し真面目にやらなければ。


 俺は立ち止まって周囲を観測する。


「何をしているのかな?」


「魔力の測定だね」


 山の上の方にとても強い魔力がある。

 動き回っているのか全体的にぼやけていてなんとなく上の方。というぐらいしかわからないのだが、この気配にはおぼえがある。


「たぶん山の上の方に魔族がいるな」


 魔族にも知り合いはいるわけで、普通の魔物とは違う〝濃い〟魔力というか気配がある。

 上のほうから感じられるのはそういった感じのものだ。


「魔族って言うと人類の敵とかいう?」


 帝国でもそういう認識なのか?


「厳密には高度な知能を持った人間と意思の疎通ぐらいはできる魔物というのが正しい定義かな?

 基本的に魔力の質が高いし、知能も高いから敵対すると非常に厄介。

 特に人里に出てくるようなのは敵対的なのが多い。

 かもしんない」


 敵対的でないのは隠れ住んでいるのが多いからな。

 あと極端に知能が高くなると人間と争わない方向に行くのは賢いからだろう。

 多分。


「山に魔族が住み着いたんなら村の対応もわからなくはないかな…

 私のかわいい銃火器チャンでも歯が立たないって聞いたけど…

 どうする? いったん下がる?」


「いやいや。出てきたら伸しちゃえばいいよ。

 魔族って言ってもふつうドラゴンよりは弱いし、ああ、上位の竜よりは弱いし、黒曜は老竜エルダードラゴンだから普通に魔族より強いよ」


 成竜であれば魔族が相手でもそうそう負けたりしない。

 まして老竜においておや。


「でもまあ、どんな魔族か分からないからとりあえず情報収集な。それから決めよう」


 それに村のやつが何で魔族のいる方に人を出したのかわからないからそれも知りたい。

 でも、まあ、慌てることはないだろ。

 今回は足手まといが二人もいるし、じっくり調べていこう。


 というわけで移動だ。

 今回の移動先でキャンプ地を決めよう。


「で、今は具体的に何をやっているのかな?」


「敵の位置の特定だな。一か所から見てもわからないから場所を変えて、方向を出して、三点ぐらいで方向を出せば大体の場所は絞れるよ」


 今は魔族の気配が広すぎてダメだけど、多点観測すればかなり場所を特定できると思うんだよね。

 やっぱり魔力の濃い薄いがあるから。

 これがネムなら信頼して俺一人で確認に行くんだが…


 ちら…


 うん、不安でそれはダメだな。

 地道に行こう。うん。


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