第172話 山奥の村

第172話 山奥の村



 さて、やってきました知らない町。というか村。

 帝都から直線距離で40kmぐらい離れた山のふもとの村だ。


「あっちの山のふもとにいくつか村があるの、以前行ったんだけど、また行ってみたい」


 という晶の発言があったのでそこを見てみようということになったのだ。


 40kmなんて自動車があればあっという間だが、この世界では馬車が基本なのでそれなりに遠い。というかかなり遠い。

 歩きでは一日では無理な距離だし、馬車も性能の良いのを使わないと一日ではつかないだろう。


「以前帝国内の村を視察してみないかって言われてね、行った村なのよ。怪我の人とかいて、あの頃は回復魔法もまだ弱かったから十分な手当てができなくて、ちょっと気になってはいたんだぁ。

 …元気になったという話は聞いたんだけどね…」


 わざわざ国のほうから視察を進めて変なところを見せることはないと思うから、整った村である可能性が高いが、まあ、見る場所が一か所でなくてはならないというわけじゃ無し、とりあえず行くだけ言ってみよう。

 ダメなら来る途中に寄った町とか案内してやればいいでしょ。


 黒曜(麒麟バージョン)は飛ぶように走るので晶を乗せて一直線に村に向かって、結構簡単にたどり着いてしまった。


 ちなみにちび助は晶にべったりである。

 やはり母性には勝てないのかもしれないと思う。

 ぶっちゃけオッパイに負けた。


 ちび助は晶のふかふかのおっぱいが非常に気に入ったらしい。

 まあ、三才児じゃな、しょうがない。


 草してやってきた村なのだが、俺たちが村に近づくと何かピリピリした空気を感じた。

 敵意というのではなく、村全体が俺たちを警戒しているような感じだ。


「変だな…単に排他的というのとは違うような…」


「何が?」


 晶は全く気が付いていない。

 そういうのを感じ取る能力がたぶんないんだな。

 それは今まで大きな苦労をせずに済んだということなのでよかったとも思う。


 キョロキョロしながら進んでいくとすぐに年配の男がやってきた。

 門番もいないし、そのくせ警戒レベルが高い。


「何じゃあんたら?」


「初めまして、旅のものなんだけど、宿屋はどこにあるかな?」


 初老の男は名乗りもせずに俺をじろじろ見て…


「この村には宿屋なんぞねえ。こんな山の方に人なんぞ来ねえからな。泊るようなところはないぞ」


「ふむ、空き家でもあれば借りたいんだけど…」


「そんなものもねえ、それに家畜を泊めるような家はこの国にはねえ」


 このジジイ明らかにちび助を蔑視しているな。

 ちび助は晶のおっぱいにしがみついている。

 雰囲気で何か感じているんだろう。


「その家畜はお前の子供か?」


 とこれは晶に言った言葉。


「はーい、そうでーす。彰雄くんでーす。でも家畜って何ですか、失礼ですよ!」


 おいおい、彰雄ってどこから出て来た。

 何を言い出すやらとあきれていたら、ジジイの発言はさらにぶっ飛んでいた。


「家畜を家畜といって何が悪い。

 まあ…(ここで俺をちらりと見て)

 どこで仕込まれたかわからんが、けだもの相手に股を開くような売女じゃそんなこともわからんか。

 とっとと失せろ、ここはお前のようなクズの来るところじゃない」


 晶がびっくり目で固まってしまった。


「ほっ、本当に失礼ですね。村長を呼びなさい」


「わしが村長だ」


「嘘です。前に来たときは気のいいおばあちゃんでした。あなたじゃありませんでした。

 それにあの時私が怪我を治した狩人のクロンさんとか、機織りのナシュさんとか呼んでください。そうすればあなたが偽村長だと分かるはずです!」


 一歩も引かずにケンカ腰である。

 だが晶の話に心当たりがあるものがいたらしい。

 男の後ろで様子を伺っていたものの中から慌てて前に出てきて大きな声を上げた。


「ひょっ、ひょっとして、聖女様でいらっしゃいますか?」


「ええ、そう呼ばれてますね、以前の治療があまりうまくできなかったので様子を見に来たんですが… これってどういうことですか?」


 そこからは村はパニックだった。

 何をどう対処していいのかわからない感じでみんながみんなどうしていいのかわからないような様子。


 少しすると少し身なりのいい男が出てきて…


「あっ、確かクロンさんのお兄さん?」


「ははっ、あの時お世話になった狩人のクムの兄でパロムと申します。現在は前村長の後を継い村長をさせていただいております。

 この度は大変失礼をいたしました。

 あの男は少々ぼけておりまして、自分のことを村長だと信じて疑っておりません。

 特に何かをするわけでもないので今日までそっとしておいたのですが…それが大変なことに…」


「えっと、あの時村にいた人がほとんど見当たらない感じなんですけど…それに村も随分小さくなってますよね…」


「はっ、ははっ、あー、実は山にちょっと強力な魔物が住み着きまして、

いえ、下には降りてこないのですが、その、なかなか、山に入れないとなりますと生活が成り立ちませんで…

 幸い、聖女様ゆかりの村ということで移住先をあっせんしてもらえるような次第でして…

 当時の村人ももう少し住みよい場所に移住を…はい。

 現在この村に居りますのは…その、そう、国から山の監視を仰せつかったものと、その家族でして。

 申し訳ございません」


 嘘八百というがなかなかよく話をつないでくるな。


 晶もバカじゃないので完全に疑いの眼差しだが…


「失礼だがちょっとお聞きしたい」


「はっ、はい、その、あなたは?」


「私の旦那様です。この子は養子です。親子です」


 と晶。とりあえずそれでいいや。


「これは失礼いたしました。こんな田舎では中央の話など伝わってきませんで…まさかご結婚をなさっているとは…」


 平身低頭で顔を上げないのは目を見られないようにするためかな?

 でも無駄だぞ。発散している魔力は嘘をつかないから。


「で、聞きたいんだが」


「はい何なりと」


「ここ、つい最近まで獣人の人がいたよね?

 ああ、とぼけなくてもいい、外の竜馬は俺の従魔でな。あいつは鼻が利くんだ。

 つい先日まで獣人がここにいて、現在はここには人間以外はいない。

 何かあったのかな?」


「・・・・・・ははっ、御主人もおわかりだと思いますが、この国ではあまり獣人は、その、活躍するようなことはありません」


 控えめな表現だな。


「ですが例外が冒険者でして、冒険者であれば獣人も活躍することもできよう話でして、実は先日からまた魔物の、山の魔物の動向が少々目に付くようになりまして、それを踏まえまして冒険者に依頼を出しましてございます。

 それでその冒険者の中に獣人がおりまして、斥候などはやはり役に立つということで、奴隷なのでございますが…

 その冒険者パーティーが昨日から山に調査のために入っておりますので…はい」


「・・・・・・そうですか、なかなか大変そうですね。

 では私も山に行ってみましょう。

 見てお分かりいただけると思いますが私はひとかどの冒険者なのですよ。

 この山の魔物というのにも興味を惹かれます。

 ああ、御心配なく、先行している冒険者の人たちの邪魔などしませんよ。

 この村は晶にも思い入れがあるようですからそれとなくバックアップで、無理はしません」


 そういったときの男の顔は面白かった。金魚みたいにパクパク口を開けて。


「あ、はいはい、私も一緒します」


 晶がそう言ったら目玉が飛び出るほど目を見開いていた。

 人間ってここまですごい顔ができるんだ。

 ちょっとびっくり。

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