第165話 帝国の冒険者ギルド
第165話 帝国の冒険者ギルド
アズエトリの町は大きい。
そしてかなりきれいな街だ。
見えるところは。
「まあ、ここはほら、コウ王国との玄関口だろ? あまりみっともないところは見せられないわけよ」
黒曜が人気者で、連れていると自然と人が寄ってくる。
これほど見事な竜馬なのだから無理もないと思う。
黒曜のほうも最近は慣れたもので、人間が寄ってきてもほとんど気にしなくなった。
なのでおとなしい竜馬に見えるのだろう。だがそれは間違いなのだ。
「おおっと」
黒曜の進行方向にいた若いやつが押しのけられている。
体当たりとか蹴り飛ばすとかでないので問題にはならない。
ただ、大きい動物が動けばそういうこともある。そういう認識だ。
だが俺は知っている。
『あれ美味しそう。俺は食べるぜ。俺は食べるぜ』
こいつは人間に慣れすぎて回りの人間を路傍の石程度にしか認識していないのだ。
どうせ襲ってきたところで脅威にならないし、普通に歩けば人間の方が勝手によけるのだから。
そういうことが分かってしまったので全く気にしないのだ。
なので周りの美味しそうな臭いに興味津々。
多分踏み潰しても気にしないのだろう。
でかい動物の足元に身を投げるやつなんていないからそれでいいのだ。
■ ■ ■
そしてたどり着いたギルドの建物は、これまた立派なものだった。
かなり大きな石造りの手の込んだ建物で、内部は重厚なつくりの豪華なものになっている。
少なくともこれは見事だ。
「カウンターがあって、奥は酒場か」
酒場も高級で古めかしいバーといった作り。
建物に入るとすぐに人が寄ってくる。
きれいな女のひとで、でも目つきがよくないな。
人の格好をじろじろ見てから寄ってきた。
「いらっしゃいませ、アズエトリ冒険者ギルド会館にどのような御用でしょうか?」
「最近帝国にわたってきたんだけどね、しばらく帝国を旅しようと思って、帝国内の…おすすめの町とか、帝都のこととか情報が欲しいんだ」
「そうですか。帝国の…ご存じかわかりませんが、情報には」
「勿論対価は十分に」
そういいながらコインを一枚渡す。チップというか袖の下というか。
「まあ、ありがとうございます。
奥にご案内しますわ。
その手の情報に詳しいものを用意いたします」
ものすごく吃驚した目をしていた。
金貨だったからか?
耳を澄ませると。
『すごいわ、どこの貴族様かしら』
とか聞こえてくる。こういう町はお金で何でも片付きそうだから奮発したけど、ちょっと多かったかな?
だが結果オーライであるようだ。
案内嬢は奥から身なりのいい男性を連れてきて引き合わせてくれた。
かなり金を持っている。と思われたのだろう。
「アズエトリ冒険者ギルドにようこそ。
情報をお求めとか。
もちろん当ギルドはあなたの期待に添えると自負しています。
さあ、奥の部屋にどうぞ」
にこやかに話しかけてくる男性。
デブった金の亡者みたいなのが出てくるかと思ったが意外にスマート。
服の着こなしも隙が無いし、出来る銀行マン。しかもかなり階級高し。といった感じか。
遠くから案内の女性に引きずられてくるようにして歩いてきて、でも俺のことを鋭く観察していたのは気のせいじゃないだろう。
「良いお召し物ですね」
「恐れ入ります、手がかかっていますので」
「ほう」
まずは軽いジャブの応酬だ。
こういう時にお金の話はしてはいけないのだそうだ。
ネムに聞いたんだけどね。
お金の話をするのは成金なんだそうだよ。
真の金持ちというか上流の人は金額ではなく良い品であることを自慢するのだそうだ。さりげなく。
つまりお高いのは既に前提条件なんだよね。そのくせお高いことに価値はないのだ。
すごい世界だ。
案内された個室もすごかった。
革のソファーにピカピカのテーブル。おそらく何かの魔物素材。
この世界の魔物って大きいのがいるからね。
テーブル全体を一つの牙とか甲羅とかから削り出すこともできるのだ。
もちろん超高級品。
運ばれてきたお茶もなかなかに高級品。
ネムのおかげで最近は口が肥えてきているので違いが分かるのはありがたい。
でもこっちは付け焼刃なのでぼろが出る前に話を進めてしまう。
俺は副ギルド長と名乗った彼に話を持ち掛ける。
求めている情報はこの国の地図。
二つ目は銃器を作っているものの情報。
「地図は問題ありません。少々値が張りますが、当ギルドでも上級冒険者のために正しい地図は用意してございます。
金貨で20枚ほどかかりますが」
「王国の金貨でも問題ないかな?」
「ええ、もちろん、王国の金貨は質がいいのでかえってありがたいぐらいです」
この段階で情報が二つ。
上級冒険者というのはお金を持っている冒険者だな。
そして帝国は経済状況があまりよくない。
財政が苦しくなると金の含有量の少ない金貨を使ってお金を水増しするってよくやる手だ。
これ、いってみれば裏付けのないお金だから金の価値が下がったりするんだけど…
俺は王国の金貨が100枚ほど入った革の袋を収納から出してテーブルに置いた。
「これは…
…失礼、他にはなにか?」
札束で顔をひっぱたくというのがあるが、まさか自分がやることになるとはね。
まあ、金貨の入った皮袋なので物理的には鈍器だ。そりゃ効果があるさ。
「実はお隣でライホーというのを見かけてね。
なかなか面白いものでとても気に入ったんだ。
でもやはり隣国だからね。
できればオリジナルの、最新のものが欲しいんだよ」
「なるほど、それは…この町でもちょっと難しいかもしれません、それに…」
彼はちらりと皮袋を見た。
「ああ、それはあくまでも情報料です。面白いものがこの程度で賄えるとは思っていませんから」
「それは…お話が速くて助かります。
そうですね。
ここでは難しいですが、帝都のギルドであればご希望の物が手に入るかもしれません。
紹介状を用意しましょう。
それを帝都のギルドに出してもらえれば、必ずお役に立てるでしょう」
彼は落ち着いた様子で皮袋を持ち、『少々お待ちください』と言って部屋を出ていった。
もちろんすべて信用しているわけではないのでゆったりと椅子に腰かける態で魔力視を使い、様子を観察する。
いや、すごいね。ルンルンでスキップしているよ。
お金を金庫にしまわせてすぐに机で何か書き始めた。
どうやら嘘を言っているわけではないようだ。
戻ってくると紹介状と地図が用意されている。
ついでに新しい、お茶が用意されてひたすらおべんちゃら。
うん、まあ、わかりやすいね。
しばしお茶を楽しんでいたら…
コンコンコンと控えめなノック。
「何だね?」
気色ばむ彼に怯みながらも女性が入ってきて…
「申し訳ありません、ですがその、そちらのお客様のお連れになった竜馬がその…」
ありゃ、黒曜が何かしでかしたか?
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