第164話 帝国の最初の町

第164話 帝国の最初の町



「ふんふん、なかなかいいものを持っているじゃないか」


 俺は黒曜の背に揺られながら追いはぎから巻き上げた通行証を指ではじいた。


 銀色のプレートで出来た免許証ぐらいのカードだ。

 帝国内の通行を許可する通行許可証というもので、もちろん有料。

 帝国側の関所でお金を払ってもらうようになっている。


 目的地が決まっていればそれなりの、自由に動き回りたいのならかなりの金額を払わなくてはならない。

 といってもばかげて高いというようなものではない。

 これがあれば国内の移動がスムーズになるというので、それであれば。と考えられる程度の金額になっている。


 俺が持っているのは二番目にいいもので、国内であれば大体問題なく動けるらしい。


 何で追剥たちがこんなものを持っているのかというと彼らが密入国のブローカーをやっていたからだ。


 関所でオルキデア公爵配下の役人が金のありそうなやつに目星をつけて、そいつに言いがかりをつけて入国を妨害。


 困っている金持ちに親切ごかしでブローカーが接触。

 正規の値段の10倍ぐらい吹っ掛けて通行証を売り、帝国に案内する。というのが彼らの商売。

 金を持っていてなおかつ帝国にどうしても行きたいやつを見極める職人技が必要だとか言ってた。

 であればあのへなちょこ隊長、結構能力が高いのか?

 だったらもっとまともなことに力を使えばいいのに。


 まあ、そんなわけで質の悪い連中だが持っていた通行証は本物だったりする。

 つまり両方の関所の役人たちの副業なのだ。

 ほんとたち悪い。


 で、そのたちの悪い追剥たちが今どうしているかというと俺の後をついてきていたりする。

 基本どうでもいいと思っていたんだが『助けてください、うちには小さな子供達が』とか言うんだよ。

 それが単なる言い逃れというには真剣な感じで…


 試しにその子供たちの所に案内しろって言ったら本当に山の中の小屋で子供たちを養ってやがんの。

 俺たちはならず者だが人殺しや非道はしない。と堂々としていたからまあ、仕方ないかな。と思うことにした。


 そしたら前述の密入国ビジネスのこととか詳しく説明してくれて、しかも通行証をくれたわけだ。

 しかもやつらが持っているものの中ではかなりグレードの高いいいやつを。


「こいつがあれば帝国内は自由に移動できますんで」


 案内についてきたやつがそう教えてくれる。

 子供を養っていた段階で見逃すことにしたので『ココでお別れ』とか言う流れかて思ったんだが、最後の仕事なんで町まで案内します。とかいう。


 まあ、確かに町に行くには正解ではあった。

 正規ルートなら街道一本道なんだが、密入国ルートだと結構わかりづらい。

 町に寄るのなら案内はあった方がいいだろう。その程度にはわかりづらかった。


「旦那。あちらが帝国の一つ目の町、アズエトリです」


 よしよし、帝国一つ目の町だ。


「じゃあ、ちゃんと足を洗ってまっとうな仕事をしろよ」


「へい、御迷惑をおかけしやした。今後は真人間に立ち返って、世のため人のために尽くしたいと思いやす」


 うそくさ。


「できないことをやるとか言うもんじゃないぞ」


 世のため人のために生きるやつはあまり真人間ではないと思う。


 周りにあまり迷惑をかけずに生きていくのが真人間だ。

 あまりだよ。全くは無理だと思う。


 ただ足を洗って別の町に行くのはいい考えだと思う。


 明らかに今回の仕事を失敗したわけだしね。

 そのうえで彼らを見逃してくれるほど役人どもが寛大か? と聞いたら自信がないというし。まあ、ろくでなし貴族連中だからな。

 口封じなんて考える可能性はある。


 それにこいつらが姿を消したところで密入国ビジネスがなくなったりはしないだろう。

 あれはもう、根腐れレベルだ。


 これがキルシュだったらこの紋所が! とか言って役人をとっちめればいいわけだけど、ここじゃそういうわけにもいかないしな。

 ここら辺はあとでフレデリカさんに相談しよう。


「ではここでさらばだ」


 と行きたいところなんだが、追剥たちは所在なく立ち尽くしている。

 なんとなくわかるけどねえ…


「どうした?」


「へい、その、これからどうしていいのか…とか、思いやして…このままこの仕事を続けるのがやばいのは分かっちゃいるんです。

 いつかまともでない死に方をするんだと…腹はくくっていたんですがね、いざ死にぞこなってみると、どうしていいやら…

 そもそもまっとうに暮らせるなら、あんなことしてないわけで…」


 こちらが本音か。

 まあ、そりゃそうだろうね。


「じゃあ、これをやるよ」


 俺はしまうぞう君から麻袋を取り出した。

 中身は…


「こいつは魔石じゃないですか…」

「しかも結構いい型だ」

「麻袋いっぱいじゃないですか、一財産ですよ」


 これはターリの迷宮でアンデット乱獲したときに回収した魔石だ。

 別にお金に困ってなかったから換金もせずに放置してたんだよね。

 モルスネブラの魔石をギルドに収めたからかなりの額になったし、その後でこれを換金してくださいと、言う機会がなくてズルズルとね。


 収納の肥やしにしておくのももったいないしここが使い時だな。


「これだけあれば何か始めるときの元手にはなるだろう。

 どこで何をやるかは知らん。

 俺的には帝国だのオルキデア公爵領だのまっとうな場所とは思えないから、まあ、どこかに移動して好きにしろ、子供らのためにもな。んじゃな」


 涙を流して手を振る追剥たち。

 まあ、自分が養っていた子供たちに感謝するがいいさ。

 そゆこと。


 そしてやってきました帝国の町。

 アズエトリというらしい。


 ここがまた、いかにもな町だった。


 門は立派でかなり装飾過多。

 横柄そうな門番がいて、


「通行証を見せろ」


 とか言うから手に入れたばかりの通行証を見せる。


「むっ、二級通行証か、よし、行ってよし」


 おお、さすが高いだけあってなかなかの効き目だ。金は払ってないが。


「おお、冒険者さん、なかなか羽振りがいいみたいですな?

 わたしはこの町で承認をやっているポメリアというもんです。宿屋などもやっております。いかがですか?

 結構いい宿ですよ。

 良い女も取り揃えております。きっとお気に召す者もいると思います」


 ひとつ前にならんでいた商人風の男がそう声をかけてきた。


「なんで冒険者と分かったんだ?」


「いや、すみません、通行証をちらと見てしまいまして、そのいでたちにその竜馬、さぞや名のある方とお見受けします。

 私の所は冒険者のための商品もようさん扱っております。

 お近づきのしるしに勉強させてもらいますよ」


 俺は改めて通行証を見たら『冒険者活動のため』と書いてあった。

 まあ、どんな目的かぐらいは分かるようになっているよな。普通。

 ということはあの追剥たちは結構いい仕事をしてくれたわけだ。


 で改めて男を見る。

 ニコニコ顔のテカテカ顔だ。

 だからと言ってよろしくない商人というわけではないだろうが、この国の現状を見るとあまりいい気はしない。


 なぜってこの辺りはきれいに整っているが、奥に行くとこの町は途端にスラムっぽくなるからだ。

 町に入る前に一応空から地形を確認したのだ。

 中心にあるたぶん富裕層のためのエリア。豪華絢爛

 そして門まで続く表向きの客用のエリア。整然清潔

 それ以外はかなりボロボロだ。


 この国で金持ちをやっているというだけでかなり怪しい人物に見える。見えてしまう。


 俺は冒険者ギルドに顔を出さないといけないからと言って誘いを固辞したんだけど、自分の店と宿屋の位置と名前をしつこいぐらいにアピールしていった。

 商魂たくましい。


 それ自体は悪くないのだが…


「まあ、いいや、取り合えずとっとと用事を済ませよう」


 俺は冒険者ギルドに足を向けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る