第163話 出入国審査?

第163話 出入国審査?



 黒曜に乗って地をかけ、その日のうちに国境の町ランセンにたどり着いた。

 なんでかというと一応他国に行くからね。ちゃんとした入国をした方が便利がいいと思ったからだ。


 ランセンは結構大きな町だった。

 国境とはいっても関所があるだけというわけではなく、ちゃんと町になっている。川なのか掘りなのかわからないが真ん中にそれが横たわっていて、橋が架かり、その両側に関所となる砦みたいなやつが立っている。

 帝国に行く人は一つ目の関所で出国手続きをして、二つ目で入国手続きをするという形だ。


 冒険者であればここは普通に通れるはずなんだが…


「結構混んでる」


《ぶっ飛ばす?》


 いや、ぶっ飛ばしてどうする。ここはおとなしく通るのが目的なのだ…


 黒曜が近づいたら馬やマストドンなんかの輓獣が道を開けてくれました。


「こらー、なにをしているかー」

「いうことを聞け―」


 大騒ぎだな。

 弱小な獣にエルダードラゴンに抵抗しろなんて無理な話だったよ。

 前が開いてしまったのでそのまま進行。


 こうなったら一気に抜けてしまおう。と思ったんだけど…


「とまーれー」


 役人が出てきた。

 まあ、こんな場所だ。付け届けぐらいは仕方がないところだろう。と思ったら。


「何とも不振なやつよ。このような竜馬を連れているとは、貴様の馬ではあるまい。

 こちらに引き渡せ。

 当方で詳しく取り調べる」


 こいつなに言ってんだ? とかマジで思いました。

 その男の後ろでは『隊長、ちょっとやばくないですか?』なんて言っている下っ端もいる。


 うーん、黒曜は見た目は立派だから、ついほしくなるというのは分からなくもないが、人間ってホント怖いもの知らずだよな。

 自分より強いものが理解できないんだ。


「えええい、やかましい、とっとと引き渡せ」


「ふむ、引き渡すのはいいが、引き渡した後、起こる問題は私の所為ではないぞ?

 すべてお前の責任だぞ?

 いいのか」


「ふっ、ふざけるな。そんなことは貴様の気にするような事ではない」


 ふむ、そこまで言うならいいか。


「ではこちらにサインを」


 それは神殿で発行してもらった誓紙だというやつだ。

 これにサインをすると内容を神殿が担保してくれる。


 さらさらと引き渡しの要求があったこと、その引き渡しの後の責任はこの隊長がとることなどを書き記して隊長に見せる。

 さすがにこれを見たら隊長の顔色が変わった。


「ここ…このようなものがなくても」


「ふむ、神殿を敵に回すと?」


「隊長まずいっすよ」

「これはちょっとやばいです」


 こいつら何がやばいか本当の意味では理解してないよね。

 俺は黒曜が暴れてどんな被害が出ても責任はすべてお前らが取れよ。と言っているんだが、まあ、世の中は誤解と勘違いで平和が保たれる。


 というわけでここが隊長さんの運命の分かれ道。

 これを出されてサインをしないなどということになれば神殿が文句をつけてくること間違いなし。

 しかし内容を考えるとサインするのもやばそうな気がする。といったところか。


 さあ、隊長の運命やいかに。


■ ■ ■


「やっ、やかましい。これでよかろう」


 隊長が誓紙にサインをした瞬間。ばくんという音がして隊長の頭がなくなった。

 黒曜のお口の中。


「うわあぁぁぁ」

「隊長殿」


 後ろにいた兵士が剣を抜いてかかってくるが、ドラゴンにかなうはずなどなく、振り下ろした剣は黒曜の鱗ではじかれ。

 うっとおしかったのか黒曜の後ろ蹴りで一人がぱちゅん。

 残る一人はファイアーブレスで消し炭に…


 というような幻視が見えたけど、隊長はそこまで根性はなかったらしい。


 だけどそのまま通すようなこともせずに。


「い…一応確認をしないとここを通すわけにはいかない。三日ほど滞在し、三日後に来るといい」


 そう言うと誓紙をつき返し、俺たちに帰れと指示を出す。


《詰まんない》


 あれはお前の願望か? 黒曜よ。

 まあ、まだなんか考えているみたいだから、もうちょっと面白くなるさ。


 町の中も居心地悪そうだ、森でキャンプでもするか。


■ ■ ■


 森の中で石の木の家を出してくつろぐ。


「うん、悪くない」


『そう?』


 一人で物思いにふける。

 もちろん嫁や家族がいるのが悪いとは言わない。あれはいいものだ。というかなくてはならないものだ。

 だが、ある時ふっと時間が空いて、一人でいろいろなことに思いをはせる時間がやってくる。これが不思議と心に響くものがある。


 なので考える。


 晶の存在は今の俺にとってどういうものなのかと。


 この世界に落ちて、はっきり言って死にかけるのを通り越して消滅しかけた。

 晶を向こうに残してやれたというのは…まあ、単なる思い込みであったわけだけど、確かにやり遂げた感があって、地球における自分を思うと『わが人生に一片の悔いなし』といった完結した感覚があった。


 晶が同おもっているのか、あってみないと分からないが、俺にとって、彼女は既に『過去』であるのだ。


 だが同時に親を亡くし、途方に暮れていた俺を救ってくれたのは彼女で、そういう意味で彼女はかけがえのない女性であるわけだ。

 彼女の幸せのためなら俺は出来る限りの手を尽くすことができる。というレベルには。


 だがそれはネムやラウニーの未来に影を落とす者であっていいのか?

 いや、それはダメだ。

 今の俺の第一はやっぱりネムなのだ。


 ネムは俺の話を聞いて晶を嫁Sに迎え入れるつもりでいるようだが、それは必要のないことのように思える。


 いや、違うな。この世界は男一人に嫁さん複数というのは割と普通で、甲斐性のある男が嫁を一人しか持たないということの方が〝悪いこと〟なのだ。

 なのでネムは大して気にしていないのかもしれない。


 あれが気にしているのは序列だろう。

 自分が一番かどうか。

 うん、それは心配するまでもないことなんだけどね。


 しかしこういう時間は悪くない。

 なんとなく整頓が付いた。


 できる限り晶の希望を叶える。

 しかしそれはネムの不都合であってはならない。

 これが優先順位だな。


 よしよし、これで行こう。

 一人でふんふんやっていたら黒曜がびくりと首を上げた。


「呼ばれもせんのに客がやってきたようだね」


「何だ野営だというのに随分いい暮らしをしているじゃないか」


「わっ、山賊だ」


『おおー、山賊だー山賊だー』


 本当に山賊かどうかは知らないが山賊を絵にかいたような男だった。

 その後ろに手下が6人ほど。


「なるほど、立派な竜馬だ。これじゃ隊長さんも欲しがろうってもんだな。こいつを公爵様に献上できれば出世街道まっしぐらだ」


「「「げはは、ぎひひ」」」


 何者だ! と誰何する前に正体が分かってしまった。


「つまりお前たちはあの町の隊長の使い走りで黒曜を狙って追いはぎに来たと…」


「まあ、そういうことよ」


 山賊の頭は肩をすくめてにやりと笑った。

 なんて非、協力的なやつだ。


『なんでわかった!』

『今お前が言ったやんけ』


 見たいなやり取りをして場をなごませようとか考えないのかね。


「何だよ、その残念なものを見る目は」


 残念なんだよ、存在自体が。


「黒曜食べる?」


『人間食べるなっていった?』


「あれは嘘だ。というかその場のノリで言っただけだ」


 日常的に人間を襲ったりするのはだめだと思うけど、戦闘行為の中でパックンとかはアリじゃなかろうか? ドラゴンだし。

 ドラゴンに挑むようなやつは食べられちゃっても仕方ないよね。

 と思ったんだけど。


『バッチい。嫌』


 あー、食料としての需要もないのか。まあ、黒曜も最近はちゃんと料理された美味いもんを食っているからな。わざわざまずいものを食べたくなったりはしないよね。

 そうかー、こいつらはそんな価値すらないのか…なんかすっごく可愛そうに見えてきたぞ。


「あんまりかわいそうだから逃げていいぞ。見逃してやる」


「何でいきなり哀れまれなきゃいかんのだ!」


「うんうん、わかるわかる。強く生きるんだよ。うぷぷ」


「畜生、やっちまブベッ!」


 はい七人とも重力で地面にキッス。

 体重が五倍になったぐらいで動けないとか、鍛え方が足りないよ。

 さて、こいつらどうしようかな…



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