第158話 明かされる謎
第158話 明かされる謎
「いいよー、いいよー、どんどん撃っちゃってー」
「はい」
とりあえず迷宮で魔物を狩りまくる。
とりあえず前に出ているのはシアさんだ。
盾を構え、それで身を守りながらライフルを撃ちまくっている。
ライフルのエネルギーパックは地より沸き立つものをチャージして聖属性に換装してある。
アンデットには覿面に効く魔法なので小物スケルトンは斉射されるだけでさらさらと崩れ消えていく。
じつに効率的だ。
とりあえず倒しまくろうという方針の下、迷宮に挑んで三日になるがまだ件のモルスネブラは出てこない。
「アンデットだけでもう2、300匹倒したよね?」
「正確には289匹」
ツタタタタタタタタタタッ!
ツタタ!
「これで300」
「これでもまだ足りないというのか…」
「過去に襲われたパーティーはどうだったんですか?」
ネムの質問はもっともだ。
「それがね、大物狙いで数の少ないのも襲われているんだよね、多いのだと1000以上とか、少ないと200ぐらいもあり」
ただ稼ぎという意味ではみんなかなり高い。
「まさか稼いだお金に反応するとか?」
「いやー。それはないでしょう」
「きゃあうっ。まてー」
ラウニーが地面にばらまかれる魔石を追いかけている。
楽しそうだ。
時折お眼鏡にかなったものがあるのか口に入れてポリポリ食べている。
あとスライムに倒させたりとかもしている。
聖属性のスライムに倒させているのだ。
こう、アンデットがいるとしぱっと投げつけて。
聖属性だからアンデット死ぬんだよね。いや、死んでるか、アンデットだから。
「それはスライムで倒しているというのではないのでは?」
「うーん、しかし成長しているのはスライムなんだよな…」
経験値ではないと思うが力的なものを吸い取っているのかスライムのエネルギーは確実に増えている。
これはやはりスライムに倒させているというべきではないだろうか。
結局この日もモルスネブラは出てこなかった。
■ ■ ■
翌日も迷宮にもぐる。
ただひたすらにアンデットを滅ぼし続けるのはなかなかに苦痛だ。
こうなるとちょっとほかの仕事をしたくなるけど、勇者も降りていったきり戻ってこない。
「おそらくずっと下に行って、戻ってくるつもりなのでは?」
「じゃなかったら迷宮の最深部まで攻略するつもりとか」
確か現在は20階層まで到達しているんだっけ。
でも何階層まであるのかわかってないんだよな。
それにここはあの施設だろう? 迷宮の核って最下層のずっと下の方に埋まっているはずなんだよね。あの部屋。
「二階層をぐるぐる回るのも飽きましたね」
「うん飽きた」
だけどなかなか移動できない。あともうちょっと倒せば出てくるんじゃ? ひたすらこの階で狩りまくったからな。そんな考えに囚われてなかなか自由になれないのだ。
ただラウニーは今日も元気に小動物スケルトンを叩き潰して歩いている。
多分あれだよ、猫がちょろちょろ動く目標を攻撃せずにいられないみたいな。
疲れると俺に抱き付いて寝ているし。
まあ、黒曜よりはずっと可愛げがある。
あいつは最初だけであきちゃって森の中でスライムと一緒にくつろいでいるだけだ。
何か燃えるものを感じないらしい。
穴倉だからかな?
「あれ、ミルテアさんだ」
「おっ、ほんとだ」
いつの間に来たのかね。
二層と三層の境界あたりで、勇者に絡まれとるわ。
■ ■ ■
「もう~、やめてください。私たちは聖職者ですよ~」
「聖職者だからって別にエロイことは禁止されてないだろうが。俺は勇者だぞ。いい思いさせてやるからよ、付き合えって」
静かに近寄るとそんなやり取りがなされていた。
さすが下半身に理性を装着し忘れたバカ。
「確かにこの世界の神官は結婚を禁止されたりはしていないですよ。でも身持ちの悪い神官なんていないんですよ。
女の子に声をかけるなら婚姻証明書を用意してからにしなさい。
あと神聖契約してくれるなら考えます」
「うっ」
勇者がたじろいだ。
下半身の理性と結婚という手続きが別問題なのは日本人の感性だな。
そして遊びたいやつは結婚が襲ってくるとすぐに逃げる。
気合がたらんのだよ。
にしても後ろに自分のパーティーの女たちを控えさせてそれでもなお女に粉をかける。
いろんな意味で本当に勇者だなこいつ。
と思っていたら。
ツタタタタタタタタタタッ!
シアさんがそこらの地面に向けて銃を斉射した。
「あっ、すみません。足元に魔物がいたもので」
撃たれた魔物がチリチリと空気に溶けるように消えていく。
みんながギョッとしてこちらを見ている。
「あっ、すげー、アサルトライフルじゃん。しかも最新式、アグだっけか」
「ご存じで?」
眼光鋭いおっさんが勇者に確認を取る。
「おう、地球のさ、最新鋭のライフルだぜ。
プルバック式っていってさ、機関部が後ろにあるんだ。あの構造のせいで短い銃身で威力を落とさないってさ。
つまりあんたも勇者なわけだ?」
おっさんの目がキラーンと光った。
でも間違っているぞ勇者よ。プルバックは後ろに引っ張ると走る車のおもちゃだ。
これはブルパップな。
そんで勇者はプルバックがいかに優れた機構か力説している。確かにあれはいいおもちゃだがな。
まったく気づく様子のない勇者の傷は広がる一方。
「だから聖女様もよそろそろこういういいものを作るべきだと思うんだよな。
あとライフルだったらポットとか付けるべきだろ?
そこらへん分かってないんだよなあの女はよー」
あの女か…女で晶マークでガンオタで…
もうこれ間違いないんじゃないのか?
というか間違いないよね。
やれやれ、一回帝国に行かないとだめだな。まあ、飛んできゃすぐだけど。
あっ、あとバイポッドな、ライフルに魔法瓶つけるなや。
「ぶふっ!」
あっ、マーヤさんが吹きだした。
お腹抱えてうずくまっちゃった。
ツボったか?
「何いきなり吹きだしてんだよ、へんなやつだなあ…」
「ブハッ! きゃはははははははははっ、だめ、もーだめ、おかしいーーーっ」
ついに転げだしてしまった。
ラウニーが真似して転げまわっている。
平和だなー。
その後勇者パーティーはおっさんに率いられて迷宮を出ていった。
「まさに勇者とゆかいな仲間たちだな」
ていったらまたマーヤさんが吹きだしてしまった。
箸が転がってもおかしい年ごろというやつだ。
うん。
■ ■ ■
その後二階層と三階層の通路で一休み。
しまうぞう君からお茶セットなどを出してくつろぐのだ。
「いつ頃来たんですか?」
「おとといからだよ~、町で探したんだけど、どこにもいなくて~」
はい俺たちは町の外でキャンプしています。その方が快適だから。
「でもここはいいですね。回復魔法一発で魔物がどんどん倒せるから~」
「いえいえそれはリーダーだけですよ、神聖系でないとそんなに簡単じゃないんです」
「でも殴るだけだから~」
こういうのを四方山話に花を咲かせるって言うのかね。
にしても女ばっか。男俺だけ、無理にでも黒曜を連れてくるんだった。
肩身が狭い。
「ところで帝国の聖女って何か知ってます?」
話が途切れたところで話を振ってみる。
「えっと、帝国に降臨した来訪者の一人ですよね。クラスが聖女で、でも帝国で軍事力の強化に貢献しているとか?」
「ええ、私も聞いたことがあります。かなり重要なポストで~なかなかの美人だとか」
「でも帝都から出たことがないというので本当の所は分かりません」
まあ、とりあえず行って会ってみるしかないかな。
「そういえば~、その武器、ライホーでしたっけ? 神聖武器なんですね?」
物思いに沈んでいるとミルテアさんがそんなこと言った。
神聖武器ってなんね?
「いえ、ここのアンデットって普通、倒すと黒いのがもやっと出るんですよ~、でも神聖魔法とか使うとそういうのがなくて、さっきスケルトンを倒したときも黒いもやが出なかったからそうなのかなって…」
「そうなの?」
「そうなんですよ、アンデットを倒すと黒いもやが倒した人に絡みついて、回復とかかけるとそれもきえるんですけどね、ちょっと気持ち悪いですよね。あれ」
なるほど、さすが神官。そういうことか…
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