第157話 復活の勇者(バカ)
第157話 復活の勇者(バカ)
ある日勇者を見た。
パーティーメンバーを引き連れて、迷宮に入っていくところだった。
「なはっなはっ、なはっ、なあぁぁぁぁぁぁはははははははははははははははははははははははははははははははははははっ」
どこに行ったのかと思っていたらまだのさばっていたようだ。重畳。
「一人いたら三十匹いるとかそんな感じですかね」
それは…ありそうで怖い。
だがパーティーメンバーを確認できたのはよかった。
勇者の他に神官風の服を着た女。剣士風の女。
これがいかにもな感じで露出が多い。よく日に焼けた肌をしていて胸は大きい。
その大きい胸をどういう趣旨か革のベルトを巻いて隠している。
下はホットパンツでそれに装甲ブーツとガントレット。ちょっと狙いすぎかもしれない。
さらに大きな三角帽子をかぶった魔女といった感じの女性。
あとは初老の男性。これが噂のお目付け役だろう。眼光鋭く動きにも隙がない。斥候だろうか。
あとは荷物持と思しき粗末な格好のガタイのいい男が二人。
そして騎士が四人。
二組というべきか、帝国風の鎧を着たやつと、キルシュ家の鎧を着たやつだ。
「みよ、愚民ども。この勇者シュバルツがお前たちを苦しめる強大な魔物を倒して見せよう。
これはキルシュ家の依頼によるものだ。
キルシュ家ですらこのわたし、勇者シュバルツにすがらねばならん。この事件はそれほどに困難な事件なのだ。
割礼して視よ。この勇者の力を、その威光を」
「刮目、恥さらし」
そうね、たぶん言い間違えたんだよね。
「いっそのこと去勢までやっちゃえばいいのに」
女の人って怖いんだよ、興味のない男のブーラブラなんかちぎれようが何しようが気にならないんだから。
「にしてもなんでキルシュ家の騎士がくっついてるんだ?」
「それに関しては面目ないとしか」
あっ、カウナック君だ。
カウナック君が出た。
勇者はお立ち台に乗って周りの人々を見下ろしていたが俺たちに気づいて、というかマーヤさんに気付いてとっさに股間をかばってそそくさと迷宮に入っていった。
トラウマになったな。ざまーみろ。
■ ■ ■
「えーっ、勇者と取引したんですか?」
ギルド本部に移動して話を聞いたらエサイアス氏が勇者を雇い入れたという話が聞けた。
「あれが言うこと聞くの?」
「はい当面は」
かなり破格の報酬を提示したらしい。
「勇者の方にも事情はあるようで、何らかの功績を欲していたのは連絡を受けていました。今回のモルスネブラは、ドラゴンや魔族に比べればインパクトは低いのですが、危険度7~8とかなり高く、その討伐は確かに一つの功績になります」
「まあ、そうだろうね、でもインパクトが足りなくないか?」
あの勇者がモルスナンチャラを倒しました。といったところで『はーさいでっか』というのがいいところではないだろうか。
「はい、なので英雄殿よりも先に。というのが重要になります。王国の英雄、魔族殺しのロイド殿ですら倒せなかった魔物を倒した。
そういう形でなら十分な功績です。それを喧伝するのは兄が請け負うと」
「それってキルシュ家の面目がつぶれるのではないのか?
帝国って王国の潜在的な敵国だよね?」
「そうなんです、ただ実益がないわけではないのでうまくいけば、うまく綱渡りができれば功績になるかも。というところです。兄も功績を欲しがっていますので…
帝国の勇者をいいように転がして功績を上げた。という評価につなげられれば。という感じなのではないかと…」
そりゃまた随分と危ない橋を渡ったね。下手すりゃ利敵行為とか言われて断罪されるレベルだぜ。
「そこらへんは兄も無能ではありませんから、勇者が女好きなのを利用して海千山千のお姉さんたちを導入したようです」
詳しい話を聞いたが確かに無能じゃないな。やり手といっていい。
例えば一人二人女をあてがっても報酬としての女だ。飽きれば要求がエスカレートすることも考えられる。
だがエサイアス氏はプロのお姉さんたちを大量に送り込んだ。
しかも性的な奉仕のためではなく、勇者をおだてるために。
可愛いお姉ちゃんたちが入れ代わり立ち代わりちやほやしてくれるのだ。
成果を上げればこれでもかと持ちあげてくれるのだ。
しかもある程度身持ちが固く見えるようにふるまうことを言い含められているらしい。
ベッドまでは連れていけないが常に近くですり寄ってきて、お触りぐらいは自由。しかもその女の子たちが常に自分をもてはやしてくれるのだ。
勇者は盛り上がった。
なかなか勇者の特性をついたいい作戦だ。
エサイアス氏も金や女の使い方は心得ていたということか。
そんなわけで今勇者は調子こいて迷宮攻略に突撃していったわけだ。
ばかだねー。
■ ■ ■
まあ、それはさておき、今回も第二階層で被害が出て、しかも生存者があるというので話を聞きに行った。
「あ、あたし怖くて…なにもできなくて…ううっ」
と声に詰まるのは犠牲になったパーティーの生き残り、戦闘力のないヒーラーの人だそうだ。
「彼女の話から攻撃に全く参加していなかったから見逃されたという可能性が浮上してきました」
というのは冒険者ギルドの職員さんだ。
「まあ、それだけじゃわからないから過去に犠牲になった人たちのデーターも見せてもらえる?」
「えっ、はい、でも普通のパーティーですよ」
というのもマーヤさんがゲーム脳を発揮して『あいつの出現には何らかの条件が必要なのかも』みたいなことを言ったからだ。
特定の条件を満たすとエンカウントするモンスター。
ゲームなんかではよくあるやつだ。
大概普通のモンスターよりも賢かったり強かったり何か特殊な恩恵があったりするんだが…まあ、現実では無理だろうな。
なのでギルドでデーターをあさりまくって…
「全部のパーティーがかなり稼いでいる」
マーヤさんがそんなことを言い出した。
「でも、稼いでいるということは頻繁に迷宮に出入りしているわけだろ? エンカウント率が上がるのは自然なことでは?」
「ここにもう一つパーティーがいる」
意外なことにロイド君のパーティーだった。
公爵家から大量の報奨金が出たのでお金には困っていないらしい。
ゆとりをもって潜っていて、しかし魔物の討伐よりも戦っている人たちの援護を頑張っているらしい。
うん、立派立派。
「でも彼らはモルスネブラに出会っていない。なにが違うのか」
ふむ、確かに迷宮にアタックしている数では断トツだな。
「特定の魔物を一定数倒すと隠しボスが出てくるゲームがあった」
ああ、あったあった。俺も好きだったゲームRFにも出てたな。子分のかたき討ち、みたいな感じで、ものすごく強いのよ、一撃でぷすーみたいな。
全滅したわ。
でも倒すと召喚できるようになるとか噂があって、挑戦しまくった。結局ガセだったけどね。ちくせう。
「まだはっきりとは言えない。でも弱いアンデットを殺しまくると呼ぶのかもしれない」
「へー」
「ほー」
新しい視点だ。
「ふむ、とりあえず一層、二層でアンデットを倒しまくってみるか?」
「でも正解かどうかわかりませんけど」
「いいのいいの、どうせ他に手がかりもないから、ダメなら次を考えればいいのさ」
ただ当てもなく歩いているよりましだよね。
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