第159話 帝国の影

第159話 帝国の影



「う~、きゃお!」


「かわいいー」

「らう~、こっちむいてー」


 キャンプです。

 いったん迷宮から帰って百花繚乱のメンバーをキャンプにご招待しました。

 家があったのであきれていたけどね。


 この世界は普通にお風呂があるのだが、町でお風呂を使おうとすると準備が結構大掛かりになる。

 潤沢な水とか、魔石ボイラーの設置とかね。

 なのでこの町ではまだ一部の高級宿にしかお風呂がないのだ。


 でも俺の石の家にはちゃんとお風呂が付いている。

 最近はスライムが住み着いているからスライム風呂だ。

 お湯が平気かって? 平気なんだよ。40度ぐらいなら。


 女性陣が風呂に入っている間。俺は外でお留守番。

 毎日入らせてあげたりはしないよ。

 俺は雑用係ではない。


 まあ、自分で用意する分には水ぐらいは出してあげるけど、簡単に水をお湯に変えられるのって俺とマーヤさんだけだからね。


「こんなところで何しているんですか?」


 ふふふっ、なにと問うかね?


「銃の整備だよ」


 そう俺はキャンプ地の隅でライフルの解体整備をしていたのだ。

 魔道具化しているのでほとんど必要ないんだけどね。

 それにペークシスの補強が入っているから厳密な意味では解体もできない。


 マガジンの調整とかバヨネットのチェックぐらいだ。

 だがこうしていじっていることには意味がある。

 その俺のそばに来てネムはおもむろに口を開いた。


「マリオンさま。マリオンさまって賢者なんですか?」


 なんともストレートな物言いだ。

 隠れ賢者に育てられました設定もここまでか。

 だがはっきり言おう。


「違うよ」


 だっておれってば神様の加護とか勇者みたいな特殊なジョブとか持ってねえし。


「俺の立ち位置がどういうものなのか…俺自身よくわからない。んだけど…マーヤさんみたいな勇者…じゃなかった、賢者ではないよね。ただマーヤさんと同じ世界の出身であることは間違いないよね」


 賢者というのはこのコウ王国で異世界人を呼ぶ言い方だ。

 この国では勇者よりも賢者の方が通りがいいのだ。

 そういう意味では俺も賢者かもしれない。


「普通の来訪者を助けるのはたぶん神様で、でも俺がここに来た時に助けてくれたのは古の龍だった。という話かな。

 その龍の所でしばらく一緒に暮らしていたんだよね。魔法とかそいつに教わった」


 とまあ、ネムには一通りの話はしました。

 俺的にはどうでもいい話なんだけど、晶がなあ…放っておくわけにもいかないし、あれにかかわるとなるとネムには話をしないといけないから。


 俺がどういう存在か。それに関しては『よくわからない』で納得してくれたようだ。

 たまに異世界から人が渡ってくる。

 良い人もいるし悪い人もいる。

 大昔からの話を集めるとどんな風にかかわっているのかもよくわからない。


 ただわたってきた人の中に勇者とか聖女とか特殊な人がいるというだけの話なのだ。

 実際渡ってきた人がすべてそうなるかというとこれは疑問だ。

 俺の時のことを考えると何もできずに命を落とし、誰にも気づかれないものも多くいるのだろうと思う。

 隠れ賢者なんて都市伝説が存在できるぐらいにはよくわからない話なのだ。


「えっと、では、その晶さんでしたか。結婚とか?」


 正妻のネムさんとしては気になるでしょう。


「僕の嫁さんはネムさんだけど?」


 ネムはシアさんたちも俺の嫁で構わないと思っているみたいだけど、彼女たちはあくまでもあとから来たものなのだ。

 だが晶は俺の以前からの知り合いということがはっきりした。

 女の勘というかどういう関係だったのかなんとなくわかるみたい。

 となれば気になるということだろう。


 だが俺の嫁はネムさんなのだ。これは揺るがない。


「ネムが俺の嫁であることに変わりはないよ。これは絶対」


 そう言うとネムはなんとなく余裕を取り戻したような感じがした。


「ただ、なんというか、あれがここにいるなら…」


 俺が助けられたと思っただけで実際は役に立っていなかったのかもしれない。

 であれば申し訳ない話だし、状況次第では救出しないといけないということになるかもしれない。


「俺にはあの娘が快適に生きていけるように手を貸してやる義務ぐらいはあると思うんだよね。だから確認はしないと…」


「・・・・・・わかりました。

 マリオンさまの妻は私ですね。そのうえでその人がどうしたいのか、それによって協力はします。

 あー、その人の望む形かはわかりませんか…なにがしかの」


 うん、それは当然だろう。

 身勝手な話かもしれないが最優先はネムなのだ。


 そのうえで出来るだけのことはしよう。そういう話である。


「まあ、ここの一件が片付いたらね。ちょろっと帝国にいって確認してくるよ。

 飛んで行って帰ってくるだけだからあっという間」


「はい、了解です。

 でも場所とかはわかるんですか?」


「それはこれからすぐにわかる予定ですね」


 俺は立ち上がるとそしてAUGを手に持ったまま森の中に進んて行く。


「気を付けてくださいね。

 こどもはもう寝る時間ですから」


 おおう、ラウニーはお眠になったか。こりゃあまり騒げないな。


■ ■ ■


 森に生みこんだ俺は銃の射撃テストを開始する。

 といっても暗闇の中、離れた位置にある木の幹を撃つだけなのだが…それでも引っかかるやつはいる。


「それはあのお嬢さんのものではなかったのかね?」


 俺が撃った木の影から一人の男が出てきた。勇者のお目付け役と思しき男だ。

 眼光鋭いナイフのような男。


「うーん、ご職業は暗殺者か何かですか?

 ここまで気配を感じさせないというのもすごいですね。今もって全く気配がない。

 殺気もない。でもやる気満々ですよね?」


「いや、あなたこそ大したものですよ。なんで私の居場所が分かったんです。

 ふつう気づかれるはずはないんですが…」


 空間密度を把握しているというずるをしているからだよね。

 質量をもつ存在なら必ずわかるのさ。

 もちろん言わないけどね。ただにっこり笑っておこう。


「ふむ、実はお聞きしたいことがありまして、そのライホーですが、うちの勇者君の話では異世界から持ち込まれたものではない。というんですよ。

 向こうから持ち込まれたものをベースにして作られた魔道具ではないかと…」


「おお、意外と物を考えているね、なかなかいい線だよ」


 地球にもビーム兵器はなかったからな。ビームを撃つ以上地球産ではない。


「ふむ、となると、そういう物を作れる技術がこの国にあるということですね…」


 返事はなし。


「わが国でも一定数のライホーが完成して、これなりに戦果も挙げてきたので公開のつもりで勇者とともに他国に出したんですが…早計でしたね。

 まさか技術力で負けるとは…

 聖女様も存外頼りない」


 そう言うと男は肩をすくめて首を振った。


「いやいや、そういうことを言うものじゃない。

 あなた方が情けないのはドワーフたちを大事にしないからだよ。こういった精密機械は彼らの独壇場じゃないか。

 人間だけでやろうとすれば、まあ、その聖女様? その人のおかげで開発の手間を端折れるとしても生産力や制度の確保で数十年はかかると思うよ。

 俺たちの世界だってこいつが実用化されてからここまで洗練されるのに数百年はかかっているんだから」


 男はちょっと顔をしかめた。


 もうちょっと簡単に考えていたんだろうね。

 でも産業革命もなく、精度を職人の手作業に頼っているこの世界で、精密機械の大量生産なんかできるはずがない。

 リボルバーがちゃんと機能しているだけでも大したものだ。

 さすがガンオタ。面目躍如だろう。


「それでどういった用事なのかな?」


「ああ、一応スカウトですよ。わが国ではあなたのような勇者には好待遇を約束しています。

 いかがです?

 そのライホーのことを教えてくれれば帝国はあなたに巨万の富を約束できますが…」


「いやいや、そちらの勇者君みたいな子供じゃないんだ。自分の食い扶持ぐらいは自分で稼ぐよ。それに巨万の富ぐらいは自分でどうとでもなるからね。

 まあ、技術者としてあんたたちの銃を作ったやつには興味があるが。なかなかいい趣味だよね。ピースメイカーとかさ。

 ロマンを感じるよ」


 俺は技術者ではないから張ったりです。


「ほう、聖女の同類ですか? わたしには理解できない趣味ですが…でしたら帝国にご招待しますか? 趣味が合いそうですし」


「いやいや、特に会う必要は感じないかな。そのうち会う機会があったらお互いの趣味をたたえるような感じで」


「なるほど。その時はぜひ帝都でなさってください。

 歴史に残る対談になるかもしれません。

 帝都に良いステージを用意いたしましょう」


「ですがそのためにもぜひその手にあるライホーを譲っていただきましょう。

 聖女殿への良い土産になります。

 彼女ならきっと解析できるでしょう」


 過大評価じゃね?


「譲るとかないと思うんだけど」


「いえいえ、譲っていただきますとも」


 男がそう言うと近くにあった気配が動き出した。

 意外と実力者がいるな。


「まあ、わかりやすくて好きだよ、こういうの。でもここら辺はもう就寝時間が過ぎているんだ。子供は寝る時間だからね。

 ちょっと場所を変えようか」


 その瞬間俺と男と俺たちを離れて監視していた二人の人間が空に向かって真っ逆さまに落っこちていった。




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