第153話 エサイアス暴走
第153話 エサイアス暴走
はい確定。俺が出てきたあそこでした。
あそこ迷宮化しちゃったんだね。
まあ、魔力溢れまくりの場所だったから当然か。
正確な位置とか把握してなかったし、今も記憶にないけど、状況から間違いないだろう。
迷宮から回収されたお宝(当時の事務用品)というのはあそこで見たのと同じものだった。
一体どういう経緯で見つかったんだろう。
「もともと古い遺跡のあった場所だったんです。
遺跡自体は前から知られていて、でも調べても何もなかったし、森の中の秘境見たいな扱いだったんですけど、
ある時冒険者がその廃墟にあった大きな石の一角で地面が崩れていることに気が付いて、
その下を確認したら空洞があって、ひょっとしたらと潜ってみたら迷宮だったという流れですね」
「その冒険者はなぜそんな秘境に?」
「その遺跡ほとんどがれきが残っているだけの場所だったんですけど、そういうのが好きな冒険者だったみたいですね。
なのでそこをお宝の隠し場所にしていたようです」
お宝? なぜかくすんだ?
「あー、その冒険者ってのが犬系の獣人族でな、あいつら種族てきな特性として気に入ったお宝を埋めて隠す性質があるんだよ。
まあ、全部がってわけじゃないんだけどな」
なるほど、本当にワンコなんだ。
魔物の素材でいいものが手に入ったその冒険者はいつもの隠し場所である遺跡にそれをかくしに行った。
で穴を掘っていたら積み重なったがれき、その大きな石の下が崩れているのを発見したのだそうな。
つまり俺が穴をふさぐためにぐりぐりやって崩れちゃったところだ。
一応埋めたんだけど、さらに崩れたかなんかしたんだな。
で、覗いてみたら小型動物の骨のアンデットがちょろちょろと。
これは迷宮に違いないと大急ぎでギルドにほうこくしたんだって。
なんでもその冒険者。自分のお宝を回収してから報告すればよかったのにそういうのすっとばして報告したらしく。結局埋めてあったお宝が見つかってしまったらしい。
まあ、全部ギルドが引き取ってくれたらしいんだけど、本人はすごく落ち込んていたそうな。
「ええ、あのタイプの人はお宝を現物で持っていることに意味を見出す人が多いみたいですから」
なるほど、彼らの習性はネムの耳に入る程度には有名と。
会う機会があったらねぎらいの言葉をかけておこう。
その後ギルド主導で調査が入り、一層とか二層の安全性が確認されたところで迷宮が解放された。
そんな感じでいいのか? と思わなくもないが、そもそも迷宮をギルドが全部調査してから解放するなんて無理に決まっている。
なのである程度目星をつけたらあとは冒険者が探索しながら解明していく訳だ。
実力のあるパーティーが一層ずつ攻略して、大昔のお宝(事務用品)が回収されるようになって。だんだん人も集まってくる。
「おまけにこの迷宮、ちょっとおもしろい特徴があってね。
倒した魔物から取れる魔石がかなりいいものなんだよ。
魔物自体はそれほど強くないのにワンランクかツーランク上の魔石が取れる。
一層、二層の魔物を倒すだけでもそれなりに稼ぎになるいい迷宮なんだが…まさかあんなトラップがあるとは」
ここで言うトラップというのがあの魔物のことだ。モルスネブラだね。
「頻度は低いから普段はかなり下の階層にいる魔物だと思う。
ただまれに階層を渡って被害を出すこういうのもいたりするんだ」
『さまよう災厄』とか言うらしい。
これによって迷宮の危険度は上がったわけだが、冒険者は減らない。
命を的の商売だ。それが嫌なら最初から迷宮なんかに潜らない。他にも護衛やなんやリスクの低い仕事はあるのだ。
こういったところに集まるのはみんなチャレンジャー。
「ギルドも手をこまねいていたわけではないよ」
とギルマスのセルジュさんは言う。
といっても前述の通りギルドが必要な戦力を持っているわけではない。まあОBとかで強力な人とかはいるんだろう。師匠みたいな?
でもギルドは軍隊ではないのだ。
こういう時にギルドがやるのは賞金。をかけること。
それによって強力な冒険者を誘致して魔物の討伐を行う。
モルスネブラには現在『重要討伐対象魔物』という名目で討伐者にギルドから金貨200枚。公爵家から同じく200枚。あと国の学術機関なんかがちらほらとでまとめて125枚。の賞金がかけられているらしい。
「金貨525枚ですか。結構高額ですね」
5200万円ぐらいだ。
ここは物価が安いから使いでとしては1億を超えるだろう。
他にも情報を持ち帰ったら金貨10枚とかそういったこまごましたのもある。
確かにギルド頑張っている。
「今回のことで敵がアンデット系だということが分かったからね。その手の魔物の討伐が得意なやつらもやってくるだろう。
直に討伐されるさ」
まあ、そうだろうな。
あいつ神聖系にめっちゃ弱かったし。
その手の人が集まればすぐかもしれない。
その手の情報もすでに公開されていて、アンデットに効果のあるアイテムとかも結構持ち込まれているので逃げるぐらいは問題なくできるのではといっている。
やっぱ訳の分からない敵は弱点が分かるまでが大変なんだよね。
■ ■ ■
「ええい、なぜあんな所におばあさまの手のものがおるのだ」
エサイアス・キルシュはテーブルをドンと叩いた。
だがそれで気分が晴れたりはしない。いら立ちは募るばかりだった。
なので続けてテーブルを叩く。
ドンドンドン。ドドンがドン。
少し気が晴れた。
「おばあさまも戦力を送るつもりであるなら事前に連絡をくれてもよさそうなものだ」
いや、だからあの手紙がその連絡なのだろう?
とエサイアスにくっついていた太鼓持ちのおっさんは思った。
太鼓持ちをやっているが公爵家から子爵の位をもらってそれなりの仕事をこなしている結構えらい人だ。
ただ長いものにまかれろという性向があり、そのせいで出世できない人だったりする。
今回もエサイアスにすり寄って太鼓持ちをやり、あわよくば自分を引き上げてもらいたいなんて思っている。
だが現状エサイアスはおポンチ君だ。
『これは他のポストが埋まっていく中で、ご自分のポストが決まらない事への焦りなのだろうな。わかる。よくわかるぞ』
公爵家では次世代の育成が進んでいて、公爵の子息や親族。才能のある若者などが各部署に配属され、育成されている。
下っ端からの下積みだ。
公爵家の伝統である。
じつのところエサイアスにもそういう話はあったのだが、下っ端が気に入らなくてトラブルを起こしたりしたことがあるのだ。
あくまでも最初は下っ端でなければ仕事を与えないのが公爵家の伝統。
ちなみにカウナック君はえらいさんは性に合わないといって公爵家からのオファーは無視して暢気に旅などをしている酔狂な人だ。
今回はご老公にどうしてもと頼まれてここにきている。
おばあちゃんを尊敬しているので断れなかったのだ。
もちろん表向きの話ではないけど。
そんなわけで公爵家の各ポストは後継者の選定が進んでいる。
そんな中でまだ配置が決まらない場所がいくつか。
その一つがフレデリカが実質的に差配しているベクトンの町だったりする。
なのでおっさんには今回エサイアスとカウナックがここに回されてきたことで、彼らこそベクトンの後継候補である。というふうに見えた。
そして正妻の子であり、次期公爵の同腹の弟であるエサイアスに希望を見出したのだ。
所詮『鼠に獅子の気持ちはわからない』というやつだろう。
「エサイアス様、ご老公のやり様を見れば、いかにさりげなく全体を統括するかというのが大事なように思われます。
ここには冒険者ギルドがあって、ご老公はご自身も昔冒険者だったこともあり、ギルドを大切に扱っている様子。
ギルドとトラブルを起こすのはよくないように思われます」
「むむっ」
自分の言葉に感銘を受けたようなエサイアスにおっさんは胸を打たれた。
「しかしどうすればいいというのだ。迷宮を攻略しようにも断られてしまったではないか」
「あれは仕方ありません。ご老公の手のもの。勇者の暴走を止めるために配置された戦力です。
だいいちご老公の戦力を勝手に使うことはまずいことでございます。
であればあとは英雄ロイド殿。あるいは思い切って勇者を使うというのはどうでしょうか?」
「勇者は厄介者ではないのか?」
「確かにご老公は勇者を警戒しておられます。ですが別に敵対しているわけではありません。その証拠に勇者の排除命令が出ているわけではないのです。
問題児だから警戒し、トラブルが起きればエサイアス様に政治的な手腕を発揮せよということでしょう。
であればトラブルを起こされる前にうまくコントロールできればそれは間違いなく功績になるはずです」
「ふむ、なるほど」
おっさんは自分の献策が通ったことを確信した。
何らかのメリットを提示して勇者をこき使い、あの厄介な魔物を退治してもらってご機嫌よくお帰り頂く。
そうすればやってきた冒険者の出番もなく、エサイアスの功績だけが残る計算だ。
「なるほど良い考えた。
勇者にへばりついていたあの…側近。何といったか…まあ、いい、あいつと接触するのがいいだろうな。
すぐにセッティングを頼む」
「はい、お任せください」
二人は自分たちの計画がうまくいくものと信じて疑っていなかった。
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あけましておめでとうございます。
遅い? でも松の内だし。
昨年の暮れからの忙しさが後を引いてここまでおくれてしまいました。遅れましたが2022年が良い年になりますように。
執筆は遅れ気味なので出来次第順次上げていく感じで年頭はいきたいと思います。
では今年もよろしくお願いします。
ぼん@ぼうやっじ
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