第142話 そこのけそこのけドワーフが…パートⅡ
第142話 そこのけそこのけドワーフが…パートⅡ
「おう、兄ちゃん。今度はこれを切り倒してくれ」
「はいよー」
ぴきん。という音がして巨木がめきめきと倒れていく。
「いやー、大したもんだな。まさか石の木がこんなに簡単に切り倒せるとか。普通は思わんぞ」
ドワーフがガハハと笑う。
その間も後ろのほうで『メキメキメキメッ』と『バサバサ、ずずーん』とか音が響いている。
こちらは普通(説いても魔境の木なのでとても上質)の木なのでドワーフたちでも簡単に切れる。
石の木に関しては俺が理不尽ナイフを刺して力場による分断を使って伐採しているのだ。
といっても石の木はそれほどたくさん使う予定はないのでこれで三本目。
普通の木のほうはすでに百数十本。
伐採というより開拓という勢いだ。
「よっしゃ、じゃあ、こいつを材木にしちまうか。指示道理に切ってくれや」
石の木はさすがにドワーフでもてこずるらしく加工は俺の仕事というか俺に押し付けられた。
指示通りに何本もの柱を切り出し、しまうぞう君に収納する。
そしたら今度は山の上の工事現場に飛んで(ほんとに)行ってそこで建物を建てているドワーフに渡すのだ。
ドワーフたちはラーン男爵領について歓待された。
カンゴームさんはフレデリカさんつながりでマルグレーテさんとも面識があり、昔お世話になった人を歓迎するのは自然な流れだ。
翌日は山の上に温泉に案内して、温泉を見せて、ここを何とかしたいんだ~みたいな話をしたら面白そうだと山の上の湯治場計画が前倒しになった。
仕事というより息抜きの遊びみたいな感覚だったんだと思う。
そしてドワーフの長老格が集まっていたことも一つの要因だ。
つまりノリと勢いなのだ。
それほどドワーフたちは山に飢えていた。らしい。
すぐに工事が始まり、山の中腹、温泉までの登山鉄道は一〇日ほどで完成した。
何度かの実験を繰り返した後、まるでそうすればできるとわかっていたかのように登山鉄道は完成したのだ。
この技術力は舌を巻くほかない。
そして二週間ほどたった今では試験も終わり、登山鉄道は稼働状態になってしまったのだ。
純粋に水の力だけで上下する瀟洒な箱。つまりケーブルカー。
なかなか手が込んでいて作りに手を抜かないのはドワーフクオリティーらしい。
温泉からあふれる水を重しに受けて上下する。
スピードが出すぎないように支点となる滑車に細工がしてあるらしい。
ワイヤーの両脇に客車があって、片方が上がると片方が下がる。
片道45分ぐらいで到着だ。
切り替えは支点となる位置で流れを切り替えるだけ。
ドワーフってすごいんだね、と改めて感心した。
「こんなに早くできると思わなかったよ」
と言ったら
「まあ、専門家がいなかったからな。こだわったのは箱の装飾ぐらいだ。あとはちゃんと手を抜いたからな」
最初は『?』と思ったが悪い意味ではなかった。
構造としては100点満点なら95点~満点ぐらいの仕事になるだろう
つまり機能的、効率的であればよい。そういうコンセプトで作られたということらしい。
じゃあ普段はなんなのかというと一切の妥協がなくなるようだ。それが専門家。
例えばカンゴームさんは金属加工の専門家で武器職人だけど、カンゴームさんの店に100点という武器はない。
客が求めているのが100の性能であったとしてもドワーフはできる限り遠くへ。可能な限り高くへと試行しちゃう生き物で、100の性能でOKという仕事はしないのだそうな。可能ならば500でも1000でも目指しちゃう。
そういう生き物なのだ。
だがこれが専門外ならちゃんと十分、十二分というのをわきまえて理想的な仕事をする。
存在自体がギャグみたいな生き物だなこいつら。
というわけだ。だからちゃんと登山鉄道も十分な性能。十分な安全性。十分な快適さを持ったものに仕上がった。
うんお前ら専門外の仕事だけしてろよ。
山の工事現場に着くと木材をすべて放出する。
石の木は大変らしいが普通の木ならあっという間に適切な木材に加工されていく。
ドワーフは素材をかなり簡単に加工できるという特性を持っているのだ。石とか木とか金属とか。
普通の素材ならあっというま。
そして力も強い。
大きな柱を一人でひょいと担いでひょこひょこ運び。ズドーンと立ててしまう。
小さいのに、コロボックルなのに。
「おう、坊主、今度は石切り場に行ってきてくれや。
石材が足りん」
「はーい」
えっ? ぱしりだって? 仕方がないんだよ。どうせ言ったって話なんか聞かないんだから。
■ ■ ■
石切り場は同じ山のかなり離れたところにある。
ここは縦に伸びる山脈なのでかなり大きい、そのうちの北のほう、つまり魔境に張り出したあたりにこの石切り場はある。
もともと石切り場ではないのだが、石材が必要ということで探して見つけた場所だ。
「おお、来たかい、そこらにある石は全部収納して運んどくれ」
石切り場にはたくさんの切り出された石と巨大な妖魔がいた。
まあ、イアハートだ。
「また随分と凝った作りだね…」
イアハートは単に岩を切り出しているだけではなく巨大な岩山をくりぬいてなにがしかの建造物を作っている。
石窟宮殿という感じか。
「あのあたりも魔族やら人間やらが近くまで来ていての、困っておったのよ。
この辺りは魔境で魔力もよいし、人間もおらん。しかも山脈の中だ、まずやってくるものもおらんじゃろう。
いい場所が見つかった。
当文ここに住み着くことにしようと思うてな。せっかくだから少し手をかけてみる」
面白がって保養所用の意思を切り出しているうちに自分の住処を作ることを思いついてしまったらしい。
まあ、イアハートがここにいればラーンは今よりも安定するだろうからいいけどね。
俺は大量の石の塊を収納し、建築現場に取って返す。
ドワーフにかかればこの石を加工して土台だのなんだのを詰まるのは簡単なこと。
ほかにも金具や釘などの金属部品を食っているドワーフもいて、この調子ならば最初の、そして一番大きくなるはずの建物の完成もそう遠くはないだろう。
ちなみに保養施設の設計はドワーフたちに丸投げである。
彼らが『どうせやるのなら全部やらせてくれい』と言い出したからだ。
どうもこの施設の建造自体が彼らの息抜きであるらしい。
ちなみに金はかかってない。けどかかっている。
なんといっても彼らが勝手にやっていることなので有料ではないのだ。
それに材料はほとんど俺が用意しているし運んでいる。
まあ、手弁当というわけにはいかないので飯と酒はラーン男爵家で用意している。
これが結構かかっているの部分だね。
「よー、そろそろ暗くなってきた―――。今日は引き上げるぞーーー」
カンゴームさんがそう叫ぶとドワーフたちは仕事を切り上げて登山鉄道に乗り込む。
自分で流れを切り替えて勝手に帰っていくのだ。
それを見送って俺は自力で飛び立って下に向かう。
ドワーフがついてからの二週間。忙しすぎる。
ちなみに樵組はラーン男爵家の馬車が迎えに行っている。
■ ■ ■
下に着くのは当然俺のほうが早い。
直接飛んでくるしね。
俺が付くと男爵家の馬車がカンゴームさんたちを迎えに山のふもとまで出かけていく。
すっかり慣れたものだ。
出かけていく彼らに手を振り館に戻る。
「お疲れ様」
「さまー」
ネムとラウニーのお出迎えである。
こういうのが微妙にうれしい。
すると『ガーン』とか『ゴーン』とかの音が響いてくる。
「今日もやってるんだね」
ちらりと覗くとそちらではマーヤさんが複数の騎士相手にブラストナックル(マーヤさん命名)の習熟訓練をしていた。
小柄な女性が手に大きなナックルをはめて盾を持った騎士を殴り飛ばしている。
ただの打撃武器としてもなかなか性能がいいようだ。
ここの向かってくる間、拉致ったマーヤさんの手を実測しながらドワーフのハーキマーさんと一緒に設計し、こちらについてからペークシスその他を使って作り上げた逸品だ。
もちろん飛びます。
でもあれは危ないから訓練では使用禁止。
「にしても圧倒的だね」
「そうですね。もうマーヤちゃんと渡り合えるのは私かシアちゃん。あとティファリーゼさんぐらいですかね」
『まだまだーーーーっ』
壮年の騎士か大盾を構えマーヤさんに向かって突進していく。
マーヤさんはさっとこぶしを構え。
『炎のロンド』と魔法を発動させた。
やっぱり勇者だから魔法が強い。しかも地道に練習していたらしくちょっと性能がとびぬけてきている。
炎のロンドはマーヤさんの後ろで火球が輪を作って回転し、連続で射出されるというマーヤさんのオリジナル魔法だ。
言ってみれば炎のガトリングガン。
こういう魔法に対する適性みたいなものが勇者の勇者たるゆえんなのだ。
今まで内緒にしていたみたいだが最近は気にしなくなったな。
一発一発は小さくても際限なくたたきつけられる火球の連打に騎士の足は止まり、そこにでかいナックルの一撃。
『のわーーーーーっ』
「ちょっと現状ではシアちゃんが一番弱くなっちゃったかも」
ネムがしみじみ言う。
ネムは身体能力で他のやつを圧倒しているから平気なのだ。
しかしそうか、シアさんか…
「そうだね、ライフルはシアちゃんに使わせようか。使い方を教えてみよう」
取り回しがちょっとやりずらいかもだが。盾で防御しつつ遠距離攻撃。接近したら盾を使ってぶっ飛ばす。
あの盾のシールドバッシュならばかなりの威力だろう。
相性がいいといいんだが。
しかしパーティーが充実してきた感じがある。
というか隙がなくなった感じ?
回復役がいないか。それを何とか…
カンカンカンカンーーー!
その時いきなり非常時を知らせる鐘が鳴り響いた。
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