第141話 そこのけそこのけドワーフがいく

第141話 そこのけそこのけドワーフがいく



「ぎゃははははははっ、カンゴーム、こりゃいい酒じゃないか」

「そうじゃろ。そうじゃろ任せるがいい」

「おう、お替りじゃ」


「そんなに飲んで大丈夫か」


 俺は後ろの惨状におののいてそんなことを聞いてみる。

 現在は馬車で移動中。

 馬車とはいっても引いているのは馬ではなくマストドンという象に似た魔物だ。

 力が強いので大型の馬車を引いたり、大荷物を運んだりするときに活躍する。


 そしてひかれているのは…なんだろ。お座敷?


 お座敷列車というのがあった。

 バスもあったような気がする。

 つまりそういうものだ。

 宴会場が動いている。


「なーにが大丈夫か? じゃ、ワシらがこれっばかしの酒で酔うわけなかろうが、ひっく」


 酔っているよってる。


「いやいやまて、ワシはこいつをしっとるがこいつは物のわかった男じゃ。つまりじゃ。こいつが言いたいのは酒が足りるの? ということじゃ」


 そんな心配してねえよ。


「なんと、そういうことじゃったか。それは失礼したの。大丈夫じゃ、まだ飲める」


 聞いてねえし。


「まあ、心配あるまい。あやつのもっとる収納袋は中身が全部酒じゃ」


 俺のすぐ後ろにいたイアハートがそう教えてくれたが知りたくない事実だった。


「おう、ばあさん、つよいのー、ええことじゃ。ほれいっぱい」


「おっとと」


 イアハートもがばがば飲んでる。

 でもこっちは本当に酔ってない、というかせいぜいほろ酔いだ。

 もともとの体がでかいからな。

 たいして効かないのかもしれない。


 意外なことにティファリーゼは少し飲んであっさりリタイヤした。


「うー、なんかぐらぐらする」


「ドラゴンって蟒蛇だと思っていたよ」


「蟒蛇は蛇だよ、竜じゃない…でもつぶれることもできない…」


「まあ、ドラゴンは酔っぱらうと大概暴れるんじゃ。これは飲んだことがないからの。なれればはじけるじゃろ」


 気持ちよくなって騒ぎたくなるんだってさ。

 でもドラゴンが暴れてはだめだからこいつには飲まさないようにしよう。

 というか魔法でアルコール分解しちゃおう。

 たぶん解毒で行けるから。


 ここはまだベクトンの近く、行き来する人も多い。だが大騒ぎの宴会馬車の進行で道行く人たちがよけていく。


 いやなモーゼがあったものである。


■ ■ ■


 いやー、マストドンって賢いよね、

 正確おとなしいし。

 ほっておいても勝手に歩くし。


 疲れたら勝手に休むし。

 って、おい。


 まあ、今日は早めにキャンプである。

 宴会は今まで続いていた。ひとまず一段落したのでキャンプだ。


「日頃よほどストレスにさらされているんでしょうね」


「まあ、ドワーフなんぞは土の中にいてなんぼの生き物じゃからな。街中ではきついんじゃろ。特に年寄りはの」


 ティファリーゼとイアハートがしみじみと言い合っている。

 飲む・・・騒ぐ・・・つぶれる・・・飲む・・・騒ぐ・・・


 というのがドワーフの基本原理だそうだ。

 それでやっていけるのかというとやっていけるのだ。

 そういう時代なのである。


 座って半畳寝て一畳というか、必要なものが少ないんだよね。この時代は。

 だからある程度実力を身につけてしまえば後はのんびり。

 普段から仕事をしているのは趣味的意味合いも強いのだろう。


 マストドンがキャンプ地について俺がテントを用意したらイモムシみたいにはいずりながらもぐりこんで寝てしまった。

 魔物よけの結界などはない。

 そんなもの魔族のイアハートがいれば何の心配もないのだ。基本怖がってよって来ない。


 なので俺はいったんネムたちの下に移動することにする。

 留守番はティファリーゼとイアハートに任せる。


「ええ? それはひどい」


 何がひどいのかわからんが、ならば一応誘ってみよう。


「じゃあお前も先行するか? 最速で飛べばあっという間だぞ」


「いえいえ、そうでしたね、私もつかれたので今日はもう休もうと思っていたところです」


 そういうと馬車に残っていた酔っ払いどもをつまみ上げてテントに放り込み、自分は馬車の荷台で横になった。


「なんか頭くらくらする…ひっく」


 そりゃー馬車の中酒のにおいが充満しているからな。

 まあ、放っておこう。


 そんなわけであとをイアハートに頼み、ラーン男爵の館まで全速飛行。


 事情を話してもどってくるのに数日かかる旨を伝えておく。


「大丈夫です。黒曜がいるので温泉を使ってのんびりします」

「いい休暇」

「申し訳ありませんがドワーフの皆さんのお守りをお願いしますね」


 カンゴームさんたちは有名人らしい。

 名前を言ったらびっくりされた。

 ただの趣味人だと思うんだけどな。


 そして夜のうちに取って返す。

 少しだけ仮眠して朝飯の支度。


 俺がおさんどんするのは何か違う気がするが、おっさんどもは放って置くと酒とつまみしか口にしないし、魔族と竜はそもそも料理なんて肉を焼くぐらいだ。肉食動物だからな。


 でおっさんどものケツを蹴り飛ばしながら飯を食わせて馬車に放り込んで出発だ。


「もっと脂身が食べたかった」


「朝から肉しか食わんのかお前は! 脂身なら自分ので何とかしろ」


 ちょっとムカッとしてティファリーゼの脂肪(おっぱいとも言う)をわしづかみにして思いっきり揺さぶってしまった。


「それは食べられないー」


「早く食べてくれるオスを見つけることだね」


 イアハートが意味深なことをいうが俺は除外してくれよ。いらんぞ。

 こいつは黒曜と同じペット枠だ。


■ ■ ■


 意外なことに出発した馬車の中では宴会が…始まらなかった。

 俺がした説明をもとにドワーフの職人たちがああでもないこうでもないと知恵を絞る。


 やっぱり職人なんだなとちょっと見直す。

 本気でただの酔っぱらいだと思ってた。


 俺はというと御者台に座って(本気で座っているだけだけどね)買ってきた小手をいじくりまわす。

 カンゴームさんの力作らしく関節部の動きが秀逸だ。


 ただこれをどうやってロケット〇ンチにつなげるか。


「おう、何をやっとるんじゃい」


 とカンゴームさんとハーキマーさんがやってきた。

 カンゴームさんは武器と金属加工が得意な人で、ハーキマーさんは防具、中でも小手のような精密な構造のそれが得意なんだそうだ。

 でも金属加工は苦手。

 なのでよくカンゴームさんと合作するとか。


 つまりはこれか…


 で俺は一応考えていることを説明する。


「小手がすっぽ抜けてどうするんじゃ」


「いや、そのままとん飛んで行って相手の顔にゴーン! って面白いかな? なんて主張する人がいて…」


 カンゴームさんが「そいつはアホか?」とあきれてた。


 マーヤさん、アホって言われたぞ。

 でも。


「それは面白い。なるほど、ワシもドワーフじゃ。良い武器を作ってみたいという気はあった。じゃがそういう大雑把なものは苦手でな」


 あっ、カンゴームさんの額に青筋が。ビキビキ!


「どれどれもう少し詳しく話してみるのがいいじゃろ」


 そういうとハーキマーさんが御者台の隣に座り込む。カンゴームさんは肩をすくめて後ろに戻っていった。


「じゃが指を作るとなるとたとえゴルディオンを使ったとしても損耗は避けられんじゃろ」


 もっともな指摘だ。

 だがそれは一応考えがある。それを絵にかいて説明。


 つまり二重構造なのだ。

 繊細な動きのできる小手をまず装着し、その上に飛ぶパンチとなる大きめのナックルをかぶせる。

 ナックルに繊細な指とかはいらない。極端な話塊でもいいのだ。

 でもそれだと普段困るので開閉式を考えている。

 例えばぐっとこぶしを握るとぶ厚いカバーがスライドしてぶん殴るためのグローブになるような構造だ。

 普段はカバーが解放されていて手が自由になる。


 そしてこれが空を飛ぶ。

 リモートコントロールで自由に。


「ぼはははははははははっ。面白い。すっごく面白いぞ。細かい設計はわしに任せろ。飛び出す機構とかは問題ないんじゃ?」


「ええ、それは魔道具として構築できます。打ち出すときの反動もなくなりますのでものすごいスピードで打ち出せますよ」


「うーもとなると構造上…中の小手はシンプルな形にしたほうがいいかの? 柱みたいにか…うーむ…」


 二人であーでもないこーでもないと楽しい時間を過ごしてしまった。

 マーヤさんのところにつけばきっといいロケット某が…

 あっ、連れてくればいいのか。

 よし、今日は連れて来よう。


■ ■ ■


 後日マーヤさんのコメント。


「私、もう、絶叫マシンなんかぜんぜん怖ないで……」


 目が死んでいた。

 そんなに空を飛ぶのって怖いか?


「スピードに問題があるんじゃろ」


 なんてイアハートが言っていた。

 そういうもんかな?

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