第140話 とんでもない事態になった…ような気がする

第140話 とんでもない事態になった…ような気がする



「まったくスケベなガキだったぜ。いい女を見ると声をかけてよ、すぐに尻とかさわりやがんのよ」

「そうそう、そんで女にぶん殴られてよ」

「暴れだしてよ」

「お供のやつらが必死にとめてさ」


「俺は勇者だ~!!」


「と叫んでさー」


「お姉ちゃんのおっぱいに手を伸ばして金的くらってたこともあったな」


「ありゃ確かに勇者だ。いろいろな意味で勇者だったぜ」

「「「「ぎゃははははははっ」」」」


 どうやら勇者君はトラブルをまき散らして笑いを取っていたらしい。


「まあ、かなり馬鹿だよな」

「発情期の男なんて股間に血が集まってその分頭に血がたんなくなっちまうのよ。この世の心理だからな」


 誰かがそういったらみんなゲラゲラ笑ってた。

 工事現場の近くで弁当を使っていた肉体労働の人たちだ。

 なかなかうがったことをいう。


「勇者って弱いのかな?」


 俺がそういうと。


「まあ、神様のご加護かあるとかいうけどよ。殴った感じだとそれほど強くは感じなかったな」


 殴ったんか。


「賢者様の話でも分かるけど、なんつうの? こう、知恵がすごい。とかいうのがあいつらの特徴じゃん」

「それに馬鹿なやつもいるって聞くしな」


 この国では異世界から渡ってきた人が賢者様とかいわれて慕われている。昔それだけ活躍したわけだ。そのせいで異世界人には寛容なんだが、同時に馬鹿がいることも知っている。

 勇者はすごい(かもしれない)とわかっていても神聖視とかはしていないのだ。


 まあ、見つければ保護して大事にしているらしいから特別視はしていると思うけど。

 ただ珍獣あつかいのようなきもする。


 まあ、結局この勇者は下半身に理性を取付忘れたタイプの人間ということだ。

 ネムに合わせないか合わせる前に切り落としておこう。


■ ■ ■


「おう、久しぶりだな」


「はい、西のラーン男爵領に行ってまして」


「ほう、マルレーテの嬢ちゃんのところか?」


「ご存じで?」


「ああ、フレデリカのところに出入りしていた若いのだな。才能のありそうな小娘だったが…」


 なるほどそういう事なら話が早い。

 ということで山の上に温泉が出て、そこまで登るのが大変なので登山のための道具を作りたい旨を説明した。


「そりゃー、気持ちはわかるが、どうやってだよ。登山だろ? 魔導車で送迎とかやったら金がいくらあってもたんないぞ」


「それに関してはこういうのを考えてます」


 ちょっと絵にかいて説明。

 温泉からあふれる排水を利用して登山鉄道を動かすのだ。

 レールを二つ用意し、上下する箱、つまり客車に水受けを作って、滑車を挟んで作用に振り分け、どちらに水が流れるかで上下をさせる。


「スピードが出すぎないようにする仕組みとか、滑車の安全性とか、いろいろギミックは必要になると思うけど…行けると思うんだよね」


「うむ、面白いぞ。行けるな、細かいところはいろいろ手をかけないといけないかもしれないが…たぶんできる。いや、面白いぞ」


 カンゴームさんができるというのであればたぶん行けるだろう。試行錯誤はしてもらうようになると思うけど、俺には正確な設計図とか書けるだけの知識もないしな。


「というわけで現地でそういうことを研究してくれるドワーフのひと…じゃなくてもいいんですが職人さんを紹介してくださいません?」


「ウーム……」


 そういうとカンゴームさんは黙り込んでしまった。しばらくふんふん悩むように首を振って…


「わかった、わしがいこう」


 と言い出した。


「え?」


 大丈夫なのかそれ? カンゴームさんは公爵家でもかなり発言権のある重鎮だったと思うんだが…


「そうだな。あいつにも一言言っておくべきだろうな。よし、ちょっくら言ってくるぜ」


「親方、いくら何でもいきなりご老公に会えたりはしないでしょ」


 立ち上がったカンゴームさんを弟子の人が止める。


「何気にするな、ワシとあいつの中じゃ。忙しいようならロッテンのやつに行っと言っとけばいいんだ。

 ついでにほかの連中にも声をかけて来よう。んじゃな」


 そういうと工房を飛び出していくカンゴームさん。

 いいのかそれで?


 俺が弟子の人(ドワーフだよ)を見ると彼は肩をすくめた。


「まあ、いつもの病気ですよ。

 わしらドワーフ町暮らしには最後の最後でなじめなくて、何年かに一回無性に山にこもりたくなるんです。

 特に年寄りは郷愁に勝てないみたいで。

 しばらく山で仕事をしたら元に戻りますから」


「なるほど、今回の仕事の依頼はちょうどいいというわけなんだ…

 ほかの人というのは?」


「同じような病気を抱えたドワーフはいますからね」


 なるほど、つまり都会にくたびれたドワーフたちの『しばらく山でゆっくりしようツアー』なわけか。

 まあ、それならありかな?


「って、あと小手を見せてほしかったんだけどなあ」


「いらしゃいませ!」


 弟子の人、満面の笑みで近づいて来た。

 ドワーフって言ってもいろいろあるな。


■ ■ ■


 できるだけ精巧で、自在に動くガントレット。

 という注文に弟子のドワーフ。ハライトさんは一本の腕…と見まごう程精巧なガントレットを持ってきてくれた。


 これはマーヤさん注文の武器を作るために必要な資料だ。


「さすがドワーフの名工。ほとんど腕と同じに動くじゃないですか。すごい構造だね」


 それはいくつものパーツを組み合わせた腕鎧。というより機械の腕のように見えるものだ。

 こういうのが空を飛び回ったらかっこいいんだけど、作りが繊細だと壊れそうで怖い。

 もちろん構造材はペークシスを使うつもりだからそれ自体が壊れたりはしないと思うんだけど、ジョイント部分が多くなると、強い衝撃があった時にはまり込んだりとかで動かなくなるのが怖いんだよね。


 こういう問題を解消するためには構造をもう少し単純にするとか…大雑把にするとか…


 いくつもの腕鎧をカチャカチャ動かしながらうんうんうなる俺にあきれたのかハライトさんはとうにどこかに行ってしまった。


 まあ、それはいい。ゆっくり観察できるしデーターもとれる。


「しかしなあ…ロケ〇トパンチって言ったって、いかにもではやだしなあ…」


 こう、驚きが欲しいんだよ、

 シアさんの盾みたいに半分浮遊していて、そこから飛んでいくっていうのなら簡単だけど、自分の脇に腕が浮いててそれを飛ばすっていうのはなんか違う気がする。


 せっかくなんだから腕を突き出して構えて、そこからズドンと行きたいのよ。


 とはいってもあまりノリが良くない。

 こういうのはいっしょにばかやれるやつが必要なんだよね、具体的にいうと今回はマーヤさんか。


 嫁は一人でいいけど友人として得難い存在ではある。

 だが彼女の婚期に影響が出てはいけないのでそこらへんは配慮しないといけない。

 距離感は間違わないようにしないとね。


 いつの間にか思考がそれてゴニャゴニャやっているうちにカンゴームさんが返ってきた。

 ちょっと年取った感じのドワーフを十数人引き連れて。


「おお、すごい、親方衆だ」

「うー、これだけの鉄人がそろうと壮観だな」


 いやも見た目コロボックルですけどね。


「親方、すぐに出るんですか?」


「おう、馬車も酒も用意した。山…じゃねえや、マルガリータ嬢ちゃんのところで息抜き…じゃねえや、仕事に行くぜ」


「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」


 正直な人たちだ。

 でも何で名前間違うんだ?


「つうわけだ。案内頼むぜ」


「え?」


 なぜそうなる?


「さすがによ、これだけのメンバーがそろうと連日宴会でちゃんとしたのがいないと永久に目的地に着かねえからよ。

 ああ、あとでフレデリカのやつもくるってよ」


「久ぶりに楽しくなりそうだな」


「おうよ、やっぱ俺らは山にいねえとな」


 仕方がないので一応引き受けた。

 夜間に行き来できるだろう。最速で飛べば。それで連絡を取り合おう。


 そんな感じで出発したら。


「ああ、恒例のドワーフ大移動か」

「へー、もう、そんなに経つんだねえ」

「今度は何日ぐらいで帰ってくるかな」

「賭けようぜ」


 風物詩扱いだ。

 状況説明のために屋敷によったら今度はティファリーゼが待っていた。


 イアハートも一緒だった。


 そういや、会いに行くって言ってたよね。


「こりゃ楽しそうじゃないか。私もご一緒しようかね」

「私も行く、絶対行く。ラウが心配だもん」


 ・・・・・・・・・・・・これ無事に済むのか?


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