第138話 欲に目がくらむと大事なことを見落とすよ。という話。
第138話 欲に目がくらむと大事なことを見落とすよ。という話。
「うーん、なんというか、幸運ですね~」
「はい、本当に、まさかドラゴンか出てくるなんて…」
マルグレーテさんと騎士の人が話をしている。
この世界において竜族というのはかなり特殊な位置づけにいる。
出自に関しては依然イアハートから聞いた通りなのだろうが、人類の脅威ではあるが魔物のように不倶戴天の敵。とは思われていない。
感じとして近いのは『触らぬ神に祟りなし』だろうか。
なのでたまに人間の世界に出てくるとほぼ天災扱いである。
また種族的なつながりというか家族愛に基づく行動というものをしない。
例えば幼い竜が殺されたから報復しよう。というような行動をとらないことでも知られている。
姿もいろいろで、竜とひとくくりにするが実は別個の生き物である。と主張する学者もいるそうだ。
まあ、黒曜を見るとなんも考えてないだけのような気がする。
それはともかく巨大な魔物が奥地から出てきて、ドラゴンとドンパチやって負けた。
ドラゴンはそのままどこかへ行ってしまいましたとさ。めでたしめでたし。というのがまかり通ってしまったりするのだ。
ちょっと困惑する俺だった。
「問題はあれをどうするかよね~」
あれというのは魔物の死骸。
ほぼすべての物理攻撃を跳ね返し、魔法もほとんどきかない。
素材としては飛び切りのものだ。
しかもでっかい魔石もとれた。
「純度は二級だけど大きさと保有魔力はぴか一だね」
とはライムさん。
あの魔物からは実に巨大な魔石がとれだのだ。
形はごつごつした塊から翼を広げるような殻を張ったもの。
鯛の鯛じゃないけど大きな魔物からは何か意味のありそうな魔石が取れるらしい。
「まあ、これはこれですごいんだよ。あと真球とかもいいよね。
にしてもここまで魔石が高まっているということは、ひょっとするともう少しで魔族に進化していたかもしれないね。
そうすれば大惨事だ」
まあ、これでも十分に大惨事な可能性はあったけどね。
やっぱ異世界は予想を上回ってくる。
ふと見ると隣でマーヤさんがコクコクと頷いている。
たぶん俺と何かを共有しているのだと思う。
単なる予測だけどね。
さて、問題は…
「だからこの魔物の所有権は私にあるのだよ。この討伐の主導は私なのだから」
「いやいや、子爵閣下。今度ばかりはそれを飲むわけにはいかないです。我々もずいぶん被害を出した。
この魔物の所有権は男爵家にある。これは間違いないのです」
と、欲の皮の突っ張らかった貴族が二人。
まあ、この規模の魔物だからね。もしうまくお金に替えられれば領地を買えるほどの金額になる。うまく変えられればね。
そしてこの件に関してノーコ男爵はニャチワ子爵の腰ぎんちゃくをやめることにしたようだ。
誰が倒したかと言ったらさっきも言った通り通りすがりのドラゴンだったわけだから、彼らが所有権を主張することもできなくはない。
はたしてこの騒ぎに収拾はつくのか。
マルグレーテさんもため息をついている。
「まあ、大騒ぎのようですので、私が仲裁に入りましょう」
いきなり知らない人が出てきた。
あんただれ?
「あっ、申し遅れました。わたくしご老公から派遣されました執政官のユスト・ハウゼンと申します。
ニャチワ子爵殿に問いただしたき義があり、まかり越しました」
あー、あの通行妨害風強盗集団のことか。
早いなフレデリカさん。
■ ■ ■
「で、ですからそれはわたくしとは関係のないことでして…あの者たちが勝手に…」
まずユストさんはラーン男爵家から訴えがあったと説明し、子爵の話を聞きたいと申し出た。
「そう言えばそういう事もあったわ~。あとから捕まった子たちもいたし~」
というわけで白金の牙が引き出されて来た。
彼らは一応犯罪者ではあったが被害を被ったのが自分たちだけであったので寛大な処分にということで方針が決まっている。
なんといってもスライムに負けた冒険者。の肩書はかなりつらいものになると思われたから。
これによって彼らは犯罪者ではなく『ネタ』になってしまったのだ。
「いいんだか悪いんだかわからないな」
「たぶんいい、この貴族社会で貴族に対する犯罪はとても悲惨」
うーん、であればスラ負けの冠を被ってもそちらのほうがいいのか?
で、こいつらが出てきて子爵はしどろもどろに言い訳をしているわけだ。
不死鳥の翼を探していた彼らが勝手にやったことだと子爵は主張する。
自分は彼ら理先輩冒険者の情報を伝えただけだと。
白金の牙の面々は愕然としてた。
だまされたのに気が付いたのだ。
「こんなに人が良くて大丈夫なのか?」
「都会ではああいうのは当たり前にあるから大きな問題にならないのよ~」
「いやな町ですね」
「私たち獣族には合わないんですよね」
つまり田舎貴族は洗練されてないということだ。
「ああ、そういえばその不死鳥の羽ですか?」
微妙にグレードが下がったな。
「彼らはベクトンにいますよ。
全員出頭して罪を認めています。
侯爵家謹製の犯罪者捕縛用リングをつけられて送られてきたんですよ。
子爵家の騎士とともに。
ええ、全員元気に自分のやったことを証言しています。
少しでも罪が軽くなればと…。
まあ、強盗殺人までやってますからただじゃ済みませんけどね」
白金の牙のみんなはまた愕然。話ではかなり尊敬する先輩だったらしいからな。
そして今度は子爵閣下も愕然。
「あら~、そういえば捕まえた全部フレデリカ先生のところに送っちゃってたんでした」
愕然とした顔のまま子爵の顔がグリンと動いた。
なんか信じていたこの世のすべてに裏切られたような顔だ。
すごいものを見た、ような気がする。
「というわけで子爵閣下にはベクトンでいろいろお話ししていただかないといけないことがあります」
「あっ、あれは…ゴードナーが…」
ユストさんがこちらを見る。
「子爵殿の腹心の方ですね。現在は行方不明とか~」
「ああ、彼、行方不明なのか」
土砂のしたとかかな?
化石になってたりして。
「捕まった皆さんは隷属状態でしたので、証言はすべて本当のことだと判断されます。
子爵殿の直接の指示をもらった。という証言もありますから…
まあ、釈明するのならベクトンでどうぞ」
「で、この魔物の分配ですが…」
そこで俺が手を挙げた。
「魔物の魔石をラーン男爵家で、魔物本体はニャチワ子爵家とノーコ男爵家で分けていただくということでどうですか?」
マルグレーテさんが不思議そうに俺を見た。
この魔物の特性を考えれば本体の価値もかなりあると思われる。でもね。
そして何を考えたのかフレデリカさんは俺の提案を受け入れてその分け方で了承してくれた。
欲張り貴族も賛同した。
全長100メートルからの超一級素材の山だ。どれほど価値があるか。という思わくなんだろう。
「じゃあ、この魔物は僕が責任をもって両家の指定の場所に届けますよ。
ここに置いておかれても迷惑ですし」
そういってこれをしまうぞう君に収納した。というか領地の近くまで持ってくるのも俺がやったんだよ。
魔物の死体は両家の境界の荒野に出すことになった。
双方で人を出して解体するんだと。
解体するんだと。
解体。
どうやってするつもりなんだ?
オリハルコンの剣だってたぶん役に立たないぞ。
やるとしたらペークシスでのこぎりでも作るしかない。
のこぎりは理論上何でも切れるらしいし。
でもそんなの俺しか用意できないぞ。
というわけで頑張ってくれ。
というわけでちゃっちゃと魔物を運んでしまう。
ニャチワ子爵は大急ぎで領地に帰ってそのあとベクトンに出頭するらしい。
ユストさんは一晩ラーン男爵家に滞在した後、白金の牙のメンバーを連れて子爵に先行して帰っていった。
マルグレーテさんとは旧知らしい。
「私たちはこれからどうしますか?」
そんな話もあったが当面ここに居残りだろう。
まだ森はあれているから魔物狩りはしないといけない。
あのでか化物のせいでオーガとか手前に出てきているから押し返さない手いけないし、まあ、黒曜が勝手にやると思うけど。
「じゃあ~あ、その間にフレデリカ先生のところに魔石を届けてきてくれる?
うちで持ってても仕方ないから侯爵家に買い取ってもらわないといけないし。
そこから税金とか払わないとだし~」
「あっ、いいですよ。
ついでに知り合いのドワーフに話を通しておきます。ここの温泉町計画。
あの人顔が広いからたぶんやりたがるやつ知っているから」
なんか俺の中でカンゴームさんが便利道具化している気がする。
善は急げということで俺はさっそく飛び立った。
さあ、どんどん行こう。
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