第132話 討伐作戦② そして何もいなくなった?
第132話 討伐作戦② そして何もいなくなった?
「俺たちはラーリの冒険者で『白金の牙』というんだ。俺はリーダーのクスター・ハーンパーという」
「これは丁寧にどうも。私はマリオンと言います。ベクトンの冒険者です。一応」
うちってパーティー名前決めたっけか?
決めてなかった気がする。
おぼえがない。
「それで首都の冒険者さんが何か?」
そう、ラーリというのはこのキルシュ公爵領の領都のことだ。一般に首都と呼ばれる。
「あー、実は人を探しているんだ…冒険者なんだが…不死鳥の翼って呼ばれている男なんだ」
「不死鳥の翼…聞いたことないなあ…」
「うーん、結構有名な冒険者だと思うんだ…俺が駆け出しのころ世話になった人たちで…」
男ばかりで30代ぐらい。
この作戦に参加予定…と。
「もともとは彼らに誘われて参加を決めたんだよ。昔随分世話になったから…でも来てみたらどこにもいないんだ…
ニャチワ子爵領のギルドで落ち合って詳しい話を聞く手はずだったんだけど…
君の所にはいないかなあ…」
ノーコ男爵は冒険者は使っていないらしい。
となるとあとはうちだけということになるそうなんだが…
「うちはラーン男爵のお嬢さんの所属しているパーティーでね、依頼を受けたというわけじゃないんだ。そういう意味ではラーン男爵も冒険者は使ってないということになるかな…」
「そうなのか…わかった。すまなかったね。今度の作戦頑張ろうな」
「ああ、お互いに」
なかなか好青年だ。
今合流しているのがパーティーメンバーかな。
男三人、女三人のパーティー。そういう構成でうまくいくのかな?
まあ、よそのチームのことなんか知らんけど…
というか修羅場とかあるだろうか? ちょっと興味があったりして。
「それって私たちがぶちのめしてベクトン送りにした人たちの中にいたんでは?」
みんなに話したらそんなこと言われた。
そういえばいたね。そんなの。すっかり忘れていたよ。
■ ■ ■
さて、ラーン男爵家の陣地に戻ればマルグレーテさんが騎士たちに激励をする。
男爵家の戦力は騎士が20人。領民からの自警団が20人。冒険者として俺たちパーティーが四人にマスコットのラウニーと黒曜。
実際黒曜だけで済んでしまうような話なんだが…
「くあぁぁぁぁぁあっ」
大あくびしてるし。やる気ねえな。
あっ、黒曜の欠伸を見た騎士さんがビビっている。
こいつドラゴンだから口が大きく裂けるんだよね。しかも鋭い牙びっしりだから。
口を開くと竜馬に見えない。
「では時間なので進軍を開始します。今日の目標は遺跡の廃墟まで。総員気を緩めることなく進軍せよ」
「女将軍といった感じですね。あそこまで様になる女性も貴重です」
「うん、かっこいいかもね」
マルグレーテさんは意外とかっこいい。騎士たちの忠誠心も高いのだ。
かくして作戦は開始された。
みんなが緊張感をもって進軍した。進軍したのだ。大体一時間ぐらい…
そしてたるんだ。
だって魔物が全くいないのだ。
「変ねえ…ここまで何もないなんて…何かの前触れかしら…」
「でもお母様、魔物が逃げてくるようなことも確認されてませんわ」
マルグレーテさんが首をひねり、シアさんが意見を述べる。
魔境から魔物がいなくなる現象というのは偶にあったりする。それは強力な魔物が出現し、他の魔物が逃げてしまうときだ。
そう、黒曜が暴れたときもそうだ……った?
「黒曜…なんかやった?」
じろっと見たらふいって目を反らしたぞこいつ。
「そういやお前連日散歩と称して魔境に出かけていたよな」
ふいっ。反対側に目を反らした。
「でも、ラウニーの訓練にちょうどいいって、準備するって…言ってたよな?」
ふいっ…
そしたら言い訳を始めたよこいつ。
ラウニーにいい敵を残してほどほどに間引きをしようとしたらしい。
でもなかなかいい魔物がなくて、間引きを続けているうちに魔物がいなくなったそうな。
あはははははははっ
おまけに雑魚は黒曜を恐れて全部別方向に逃げ去ったと。進行方向の反対側だから子爵軍がいる方向か…
ひゅ~。ひゅ~。ひゅ~。
いつの間に口笛吹くとか覚えたんだ。しかも口の構造上音なんか出ないのに…
「何かありましたか?」
みんなが戻ってきたので相談してみる。
「楽ができていいですね」
「こんなに強い竜馬ってはじめてみたわ~」
「でもどうします? このままだと何も成果がないままになっちゃうかも…」
俺は決断した。
「黒曜、お前お家帰ってお留守番。どうせやる気ないし」
《はーいっ》
という元気な返事を残して黒曜はラーン男爵の館に向けて帰っていった。
最後ラウニーに頬をすりすりしていったのは《頑張れよ~》ということらしい。
「仕方ないわね。遺跡まで進んで野営の準備をしましょう…斥候は先行させるわ」
さあ出発、と思ったら今度はラウニーが座り込んでしまった。
「ちかれた…」
「体力的にはまだ余裕のはずだけど…」
確かにくたびれている。
「仕方ありませんよ、周辺を警戒しながらの行軍で、みんなピリピリしていましたから」
「あーなるほど、確かにそれは子供にはきついか」
緊張の連続で気力が尽きてしまったらしい。
これは俺が悪かった。ごめんね。
仕方ない、俺が背負っていこう。
背負ってというかかついで? 下半身が蛇だから普通に背負うと引きずっちゃうんだよね。だから肩にかついで胴に巻き付く感じで抱え上げる。
そのうえで重力場でやんわり支える。
これは俺の仕事だね。
車もしまって…
よし、出発だ。
■ ■ ■
ということで遺跡まで何事もなく、本当に何事もなくたどり着いてしまった。
遺跡はよくゴブリンなどのたまり場になっていることがあるので確認したら全く何もない。鼠一匹いやしない。
しかも遺跡のあちこちに黒曜のマーキングの後。
『すわ、この魔物は!』
すみません、うちの駄馬です。
ドラゴンのマーキングだからそりゃなにもいなくなるわ。
俺が運んできた糧食を出して、申し訳ないから料理も作っちゃうよ。
ほんとはここに来るまでで何か獲物をしとめたらそれが食卓に上るはずだったんだよね。
お肉も出しますよ。はい。いっぱい入ってますから。
遺跡の中のしっかりした部屋をざっと魔法で掃除して、そこにいっぱい敷物を並べる。今日は雑魚寝だ。
「いいわねー、それだけたくさん入る収納があると、何をやるのも楽でいいわー」
部屋いっぱいの毛皮の敷物と潤沢な食料。
そして可愛いアイドル。
ラウニーがみんなにかまわれてうきゃうきゃ言っている。
じたばた転がりながら。
「いやされるー」
「ちっちゃい子可愛いー」
「こんなむすめほしー」
「どうだ、俺と子作りしないか? 責任はとるぜ」
どさくさに紛れてプロポーズしているやつがいるよ。
「えー、どうしようっかなー」
なんてやっていたけど少し後この二人は広間から消えました。
いゃー、わかいねー。
他にもカップルはいたらしく隠れて立ち上るピンクの煙。
仕方ないよ、一応見張りやっているからさ。
しかしどうせ何もないのだから少し武器の開発でもしよう。
ちょうど進捗を聞かれたから。
実はマーヤさんに頼まれたロケットパンチが難航しているのだ。
「なぜ?
飛ぶ、戻る、問題ない」
いやいやそんなに単純なものじゃないんだよ。
特に難しいのが指な。単純に飛んで殴って戻ってくるなら簡単なんだよね。
「それでいい」
「それはダメ。それじゃただのハンマーでロケットパンチじゃありません」
最低限パンチと呼べるものにしたいんだよ。
ただの塊はパンチじゃない。
それはロマンを冒とくしている。
それは冗談だけどそういうのを腕にはめたらなんもできんでしょ。
ただの塊では普通の戦闘がただ殴るだけになっちゃう。しかも威力が期待できない。
このジレンマを…
「くろーあーむ」
「そのてがあったかー」
青天の霹靂!
■ ■ ■
「子爵様、予想より魔物の数が多いように思われます」
「ふむ、苦戦しているのか?」
「いえ、ほとんどが雑魚ですので戦闘というよりは駆除の類ですから」
「なら問題ない。そのまま進むのだ」
「はっ」
ニャチハ子爵は配下の報告に鷹揚に頷いた。
進行具合は問題があるようなものではない。
問題があるのはむしろ…
「子爵閣下。件の冒険者を呼んでまいりました」
「おお、来たか」
子爵の前に跪く6人の冒険者。
「お呼びと聞き参上いたしました。『白金の牙』のパーティーリーダー。クスター・ハーンパーと申します」
子爵はにやりと笑ったが頭を下げている彼らには見えない。
「そなたら不死鳥の…冒険者を探しているとか…実はそのことで話さねばならんことがあるのだ」
クスターは子爵の言葉にはっと顔を上げた。
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