第127話 ラーン男爵領探訪記

第127話 ラーン男爵領探訪記



 基本の計画案は相互に連携を取りつつ、自分の領地から魔境へと侵攻し、魔物を間引いていく。

 これを繰り返してある程度の成果を上げたら終了。というものだった。


「行き当たりばったりですね」


「ほかにやり様がないのよ~

 本当はもっと計画的にやるべきなんだけど、貴族家同士もこのレベルだと密な連携とか無理だから~」


「つまり貴族家同士だと足の引っ張り合いとか、利益の独占とかある」


「・・・助け合えばいいのに」


「そう言うのは個人の資質、少ない利益を分け合うのも人間、奪い合うのも人間」


 おおう、マーヤさん辛らつだな。

 向こうで嫌なことでもあった?


「とりあえずバックアップ役のニャチワ子爵家が連絡役をやるそうです…」


「あれが?」


「「そう、あれが…」」


 まあ、当てにはならないかもしれないな。


「いざとなったらぶちのめしてフレデリカおばさまに渡せばいいんですよ」


「そうですね、面倒なことは偉い人に丸投げがいいですよねー」


 シアさんのお母さんはずいぶんフレキシブルな思考の持ち主のようだ。

 マダムフレキシブル。


 とりあえずこんな感じであいさつは終了。

 男爵家に協力するにも情報がないから少し調べないと。

 で、まずは領内の見物にでる。


 シアさんたちはさっきの騎士さんたちと旧交を温めに行った。

 黒曜はまだ帰って来ない。

 スライムたちは暢気に散歩している。


 危険性のないスライムというのはどこでもそれなりにフリーダムだ。


「ほーらほらほら、この草食べるかい?」


 気が付けばスライムたちに餌を与えるメイドさんや執事さんがいる。


「あれは何をしているのかな?」


「餌付けです。この辺りはスライムが少なくて、水スライムぐらいしかいないんですよ。珍しいスライムの繁殖に成功したら領の利益になります」


 まあ、あいつら増殖するからね、ここが気に入って住み着く奴もいるかもしれない。

 って、あんた誰?


「おお、これは申し遅れました。スライム研究家のライムといいます」


 40歳ぐらいの初老の紳士だ。

 代々ラーン男爵家に仕えている人らしい。

 でもスライム研究家って商売として成り立つのか?


「あはははっ、まっさかー」


 言い切った。


「ここで働いて余暇で研究をしているんですよ。

 ここの汚物処理システムは王国一進んでいると自負していますよ。

 それでもあまりよそには行けませんからね、まさかここで光スライムとか闇スライムとか透明スライムとか会えるとは思いませんでした」


「ここで分裂してぜひ残ってほしいものです。

 それに私の推測が正しければものすごいことが分かるかもしれません。

 スライムって本当にラブリーですよね」


 うん、人の趣味はそれぞれだから、頑張ってね、うちの子たちがいいならそれでいいから。

 それから無茶はしないように。報復はちゃんとするよ。


「あははははっ、まーかせて!」


 不安だ。


■ ■ ■


 城を出て外を歩くとすぐに人が寄ってくる。

 お目当てはラウニーみたいだ。


「あれ、めんこい子だね~」

「おー、ラミアか、めっずらしいなー」


 とここら辺は大人の反応。


「この領は異種族の人が多いみたいですね」


 エルフもいるしドワーフもいる。そして獣人が沢山いる。

 しかもみんな仲良く暮らしているみたいだ。


「もともとは難民だったども、先代様が受け入れてくれて、ここに移住させてもらったんだよ」


「昔に獣王国で大きな戦があってね~わしらはその時に逃げてきたんさ」


 獣王国といったあたりでネムの顔がちょっと曇った。

 後で聞いたら歴史的な大事件だったらしい。

 獣王国というのは完全王政の国で、まあ、ここもそうなんだけど、王家が国を運営するのが当然。という風潮がある。

 ぶっちゃけ難しいことを考えたくない人が多いためにかろうじてそういうことに向いている王家に国という面倒を押し付けた。というのが真相みたい。


 まあ、そんな国だけど改革の機運が高まったことがあって、戦争が起こったそうな。

 古い話なんでネムもこのぐらいしか知らないようだが。その時国にいられなくなった獣人種が結構たくさん流出したんだとか。


 それでもともとここにいた人間とか、先代と仲の良かったエルフやドワーフとかとワイワイやっているうちに種族の違いなどは気にしない気風が育ったらしい。


 というわけでラウニー大人気。


「ねーねー、こいつ怪獣?」

「スゲーかっこいい」


 とこれは子供の反応。


 遠慮のない子供の反応にラウニーは避難しました。俺に巻き付いて上の方に。

 子供たちは。


「小さな女の子になんばいうとるか!」


 拳骨の雨を降らされていた。


 でもすぐに仲良くなるのは子供の良いところ。

 少し年かさの女の子たちにはラウニーはものすごくかわいらしく映るようで、体積の大きさに怯んでいた彼女たちも逃げ惑うラウニーの姿に母性本能を刺激されたのか、あっという間にラウニー親衛隊が結成された。


 あるいはラウニーを愛でる会?


 ネムも村の獣人たち(大体3割ぐらいいる)の作った郷土料理、つまりネムの故郷の料理をつまみながら楽しそうに話をしている。

 和やかでいいところだなと思う。


 そうだ。この隙に温泉確認してこようかな。


■ ■ ■


 そのころ黒曜は暢気に魔境を散歩していた。

 もちろん魔境は敵陣なので防御陣地のようなものはあるが強行突破などしなくても空の上から行けば簡単なのだ。


 それにできることも増えている。


 空間属性の魔力が伸びている黒曜は空間に沈む【空間潜航】の能力を発現していてちょっと姿を消し、その隙に高空に上がり、そこから移動すればだれにも見とがめられないというのをベクトンの町で覚えてしまったのだ。


 なので空を駆けながらあっというまに魔境に。


「ちょうどよい敵、いないかなー」


 と魔境の上空から下を観測し、魔物の様子を把握していく。

 とりあえず攻撃とかは…


『ぴるるるるるるるるるっ』


 ぼんっ、ぼしゅっ。


 いきなり鳥型の魔物が飛び出してきて黒曜の吐いたブレスで燃え尽きた。


『? まあいいか』


 黒曜はあまり気にしない。

 ドラゴンは強くてそして長生きだ。

 細かいことを気にするには性格が向いていない。


 喧嘩をうってはいけない相手が分かればそれでいいのだ。


『あっ、強いのいた』


 黒曜は下にオーガを見つけた。

 戦闘狂でバトルジャンキーの迷惑魔物『大鬼』だ。


 強い敵を求めて魔力の濃い方に行く性質をしているために町を襲うようなことはほとんどないが、魔境で出くわせばなかなか脅威である。


『よし、ためす』


 そう考えた黒曜は瞬時に降下してオーガの前に姿を現す。

 オーガもいきなり現れた強敵に嬉しそうだった。


 そして激突する二者。


 腕を振り上げてつかみかかるオーガに黒曜は体当たり。


 どーんと簡単に吹っ飛んだ。

 そして…


「ケリケリケリケリケリケリリリ…」


 連続膝蹴り。

 オーガはあっという間によれよれになった。

 そして黒曜は考える。


『このぐらいならラウの練習にいいかも』


 黒曜にとっては一番逆らってはいけないのは主であるマリオンをぶっ飛ばすネムだ。

 ラウニーはその二人の家族で自分の妹分である。

 可愛がらねばならない。


 そしてドラゴンはかわいい子供には強敵を与えなくてはならない。


 かなり歪んだ教育方針である。

 ただラウニーはまだかなりの幼生体なのであまり強い敵はいただけない。


 このぐらいなら狩りの練習にちょうどいいだろう。

 黒曜はそう思った。

 ネコが生きたネズミを子猫に与える感覚である。


 ちなみにオーガは森で出会えば中堅どころの冒険者パーティーが勝利をあきらめて逃げに徹する程度には強い。

 ドラゴンの感覚は人とは違うのだ。


 黒曜は狩りが待ち遠しかった。しっかりラウニーに練習させようと思った。

 ついでにスライムも鍛えようと思った。


 それはちょっと無謀かもしれない。


 黒曜は最後にブレスでオーガを焼却し、魔石をポリポリと食べてしまった。


 おやつにはちょうど良かった。


■ ■ ■


 森の奥でひとつの存在が異変に気付いた。


 それは森の強者たるオーガの悲鳴だった。

 それはオーガが一方的に嬲られて殺される恐怖の悲鳴。


 それはその存在に興味を持った。

 それは強くなるために強い存在を求めていた。


 森のずっと奥から出てきて、このあたりに居を構えた。

 そこに魔力の吹き出し口があったのだ。


 ここ最近地底から魔力が噴き出して地上に影響を与えるという事件が多発している。

 この魔力泉をいち早く選挙できたのはよかった。


 魔力の影響で魔物が沢山生まれて食事に事欠かないのもいい。


 だが強いやつを倒して食うのはもっといい。

 つよくなれる。


 それは重い腰を上げてゆっくりと森を進み始めた。


● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 


 後半少し三人称でやってみました。

 難しいんだよね、三人称。神視点。

 でもいつかは描けるようになりたいですね。

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