第121話 黒曜爆誕(物理的に)
第121話 黒曜爆誕(物理的に)
「「というわけで協力をお願いします」」
はい、女の子二人にそろって頭を下げられました。
「もちろんよ、仲間ですもの。安心してください」
はい、ネムさん快諾。
まあ、その判断は支持するんだけどね、頭っから無視されるのは空気あつかいかはたまた信頼の明かしか。
うん、後者だな。
ちなみに話し合いにラウニーは参加していません。
あの子は既に夢の中。
こういう時はメイド見習いの女のこと一緒にねんこしたりします。
さて、話を戻すとシアさんの所にお母さんから手紙が届いたそうだ。
至急便であった。
ちなみにこの世界の至急便、冒険者が走ります。ええ、全力で。
通信の魔道具もあるが本当に主要なところだけだそうで、他はこんなもの。
閑話休題。
その手紙によると彼女の母親が治める領地、ラーン男爵領近くの魔境において魔物の活性化がみられる。というものだった。
魔境の魔物が多くなり、人間の領域に押し寄せてくる現象、スタンピードである。
これに際して支援のためにシアさんたちにいったん戻るようにという手紙だったのだ。
貴族の仕事は魔境の魔物から人類の生存権を守る事。
ひとたび魔物と対峙すれば女、子供でも雄々しく戦場に向かう。それが貴族。
まあ、話を聞くとそう言うのばかりではないようなんだがここキルシュでは脳筋気味でまじめにやっている貴族が多い。
今回も状況が悪くなる前に大々的に魔境に侵攻して魔物の間引きをする計画だそうだ。
参加はラーン女男爵と隣の領地のノーコ男爵。そしてその隣で、そのあたりのまとめ役をやっているニャチワ子爵がバックアップにつくという形らしい。結構は半月後あと15日ぐらいだ。
「ここから領地までは7日程かかりますから、支度に2日みて、向こうで5日は準備に充てられるような計算で行きたいのです。
急なことで無理は承知ですがよろしくお願いします」
「もちろん。仲間のフォローは仲間の仕事だよ」
「その通りです」
ネムの決断で協力するのは既に決定事項だ。
ただそこまでタイトなスケジュールでもないよな。
なんといっても車があるので余裕はいっぱいだ。
歩いて7日。ラプトルを使えば3、4日。車なら一日で行けるだろう。
どういう計算かって?
人間が一日に歩ける距離というのが大体30kmと言われている。シアさんたちは健脚で若いから少し増量して35とかんがえて7日で245km。
ラプトルの走行距離が一日60km~といわれているから4日で240km。
計算が合うからこんなものだろう。大体240kmぐらい。
直線距離ならもっと短いはず。
そして俺の車は時速で80kmは簡単に出るし、どんな道でも(道でなくても)走れるから3~4時間あれば楽に着く計算だ。
まあ、空を行けば一時間もかからんのだけどね。
「7日間準備して、8日目に移動。その日のうちに到着。それで7日余裕があるからこれでどう?」
「採用」
うん、あっさり決まった。
ネムとラウニーの武器習熟訓練もある程度はやりたい。
実戦もいい訓練にはなるだろうけど、それ以前にある程度はね。やっておくとあとが安心。
慣れない武器でけがをしてもつまらんから。
■ ■ ■
さて、そうなるといろいろやることがある。
まずフレデリカさんに連絡。
すぐに『いってらっしゃーい』という返事が来た。
あと、『お仕事よろしくね~』だって。つまり端っこにいる貴族の素行調査か?
次は訓練だ。ネムとラウニーと頑張ろうじゃないか。
あと作らなくてはならないものがある。
まずネムの斧を納める鞘に当たる物。今は俺が出し入れしているがそれだとネムが不便だ。
これに関してはカンゴームさんに斧用の鞘をお願いした。
腰に装着するスカート上の装甲に斧を挟んで保持するギミックをつければいいという話だ。
任せよう。
ドワーフって本当に素材だよね。
最初渋ってたのにゴルディオンで支払うといったおお喜びだった。
斧の素材が気になったみたいだけど、今はゴルディオンの研究が先らしい。
あと自分の武器も作らないといけない。
これはもういろいろ面倒なのでカンゴームさんの所にあった細身の片手剣を参考にすることにした。
形を正確に記録してそれをベースにデザインを変えてペークシスで型通りに作るのだ。
うねる棒で出来た護拳を持った細剣なのだが自分の使いやすさを考慮して竹刀のようなバランスにした。
装飾などはそっくりコピーさせてもらってね、これが簡単。
ペークシスの刃物は普通の魔力防御なら紙みたいに切れるからとっても便利。
食料などは町の料理屋さんに発注。弁当を量産してしまうぞう君にしまい込む。
我が家の厨房でもどんどん清算中。七日もあればかなりの量ができるだろう。
あともう一つは…ドラゴンがどうなるかだな。
毎日飛んで行って様子を見る。
一応俺の従魔のような位置づけらしいのだけど蛹から孵ったときに俺がいないとどうなるかわからない。
いやね、一応人を襲わないようにとしてはいるんだけど、暴れられても困るから。
それに俺のことを追いかけてきて進路上にある施設を破壊するとか、某・怪獣王のような事をやられても困る。
「いざとなれば蛹ごとしまうぞう君に入れて持っていくか?」
あー、生き物は入らないのだった。
まあ、ここは魔境の中層だ。あまり人の来るところではないから…きっと大丈…うーん、心配だ…
そんなことを考えながら毎日源理力を注ぎ続けた。早く孵ったらいいな~みたいに思いながらちょっと多めに。
そしたら5日目で『ぴきっ』と、さなぎが罅割れた。
「おおー、孵るのか!」
罅が大きくなってそこからきっとドラゴンが頭を…ってこれは卵のイメージか。
さなぎだからな。こう真ん中が裂けてそこからドラゴンが反り返るように…
なんとなくイメージしてみる。
ワクワクワクワク。
どっかーん!
「きやーーーーっ」
さなぎの中で魔力が渦巻いたと思ったらさなぎがはじけ飛んだ。
爆風が俺の髪を逆立てて…ちょっと傍から見てみたいシーンだ。
そしてちゃんとさなぎは孵った。
そこにいたのは。
「麒麟か!?」
おそらくそうだろう。たぶん麒麟だ。
頭に一本の角がある。全体は馬に似ているが胸がたくましい。顔は龍に近く鋭い牙が並んでいる。
全身は鱗に覆われ玄と蒼で彩られていてかなり渋い。
あごには鋭い髭があり、頭のうしろから首の付け根までゆらゆらと燃えるような鬣がある。
シッポは鱗のある短めのシッポでその先にやはり燃えるように毛が揺らめいていた。
一言でいうと。
「おおーっ、かっこいい!」
《兄者、兄者、おれ、爆誕。ありがと》
以前に比べるとずいぶんコンパクトにまとまった感じがあるが、その分魔力は濃密で圧は比べ物にならないぐらいに強い。
そのせいか意志がはっきり伝わってくる。
まあそれでも印象はワンコだけどね。
俺は周囲を回りながらじっくりと観察する。
「足も太いね。足首とかにある鬣もまるで炎みたいだ。ちょうど日本にいるときに見た龍の画のようだ」
《いい? かっこいい?》
「うんうん、かっこいいぞ」
《わーい》
小躍りしながら飛び跳ねている。
頭までの高さが2m強。鼻先から尻尾までは3m。馬ならかなりの巨馬だ。
おまけに胸が熱くたくましく、足も太い。
体重はたぶん1トンぐらいはあるんじゃないかな。
そんなのがぴょんこぴょんこ跳ね回れば結構振動が来るな。
すごいぞ。
「でも翼がないな、飛べるのか?」
《とべる、とべる、とくい、じょうず》
へ―やっぱり飛べるのか―…とか思っていたらばさりと翼が広がった。
やはり本体と同じ玄で、鳥の翼のようにいくつもの羽が重なり合ってできている。
でも実体がない。
体ともつながっていない。
「力場の翼か…」
いや、空中を走ったと言うべきだろうか。
《のる? 乗る? のせる。兄者》
どうやら俺は兄貴分という扱いらしい。
じゃあということでひらりと背中にまたがると玄麒麟はシュパッと空中に駆けだした。
「すごい、飛行能力は前以上じゃないか」
加速といい右に左に撥ねるように飛ぶさまはあの時の俺のようだ。
「うんうん、これはいいな。麒麟といっても馬にも似ているし、これなら
竜馬というのはこの世界で使われる騎獣の一種だ。
馬に似た動物で装甲や鱗を持っていて竜の特徴がある。だから竜馬。
個体差が激しくいろいろなのがいるらしい。
さすがにドラゴンは街中に連れていけないと思ったから普段は魔境の奥で放し飼いかもと思ったんだが、これなら竜馬で通るかもしれない。
それにこいつならあの車を引くこともできるだろう。
俺がいないときとか、普通の馬車っぽく見えるかも。
《わーい、おしごと。おしごと~》
なんか喜んでいるからいいんだろうなきっと。
「だったら名前をつけなきゃだな。うーんと…こくよう…黒曜にしよう。なんかいいイメージだ」
黒くて玄くて蒼くて結晶っぽい感じがいい。
《わーい、こくよう、こくよう~。黒曜はしごとやる~》
なんか舞い上がった黒曜は一気に加速し、天高く舞い上がった。
地上の森が芥子粒のようだ…大気圏大丈夫か?
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