第120話 ラウニーの武装開発
第120話 ラウニーの武装開発
「帝国ってこの国のずっと南にある国だよね」
「正確には南東でございますね。ただ行き来には南側を回らないといけないので南にあるでも間違いではないかと」
セバスが簡単な地図を描いてくれた。
まず正方形を描く。
その右上から左下に線を引く。出来た三角形のうち左側がコウ王国だ。
キルシュ公爵領というのは上側の右にある領地で。北にある広大な魔境に対処するのが役割となる。他にはさらに東に獣人の国があるのでこことの対応もそのお役目といえる。
この国は周辺を魔境や森に囲まれているので三つの公爵家と王家がそれに対処する形になっているのだそうな。
そして南側にあるのが『オルキデア公爵領』という場所だ。
ちょっと戻るが二つの三角形のうち右側は広大な湖と豊かな森になっている。
これが王家の担当。
森の魔物は弱い。脅威になるような強い魔物はいない。
だが湖はダメ。やったら強い水棲魔物が沢山いる。
岸のそばを連絡船が通っているが利用できるのはこの程度だな。とても横断なんかできない。
だから公爵領経由になるわけだ。
その下側にあるのが帝国。『クラナディア帝国』と呼ばれる国になる。
オルキデア公爵家は西の魔境と帝国との外交の窓口になる場所だ。
昔から帝国とは親交が深く、コウ王国が全体的に脳筋であるのに対して彼の公爵家はちょっと帝国的な退廃的で爛熟した感じの文化を持っているらしい。
つまり仲が悪いのね。生理的に無理。みたいな感じで。
「んで、そこから勇者がやってくると」
「はい、さようでございます。とは申しましても先ぶれがあったという段階ですので、到着は一月ほど先になるかと」
「何だ随分先の話だな」
「いえいえ、政治的に考えるとかなりの速さでありましょう」
そういうものか。
「その段階で俺のところに話を持ってくるというのは何か期待しているのかな?」
「いえ、それは何とも。ただ勇者の情報はあまり多くありません。噂話ではいろいろと聞こえてきますがあまり評判は良くない感じですな。
ただ国としてたたき出すのは外交的に問題がありますし、冒険者同士であれば、それはまあ…。というようなお話ではないかと」
つまり目に余るようならぶっ飛ばせってことね。
「で目的がドラゴンというのは?」
「これもそのうちの一つという話でございまして、まず目的の一つは我が国の英雄殿。ロイド氏の品定めではないかと。
魔族の討伐などというのは本来勇者が活躍するような話ですので、それを成した冒険者が気になるというのは確かかと」
ふむふむなるほど。
「さらに。新しい迷宮のことがございます。名目としては修業のために迷宮に挑む許可を。ということだったようです。
なんと申しましても迷宮の初攻略は見返りがおおきいですから」
「ふむふむなるほどそりゃそう…あれ?
迷宮って攻略すると何かあるの?」
御存じありませんでしたか。とか言ってセバス吃驚。なんか常識的なものなのかな?
「迷宮を攻略するとすごいマジックアイテムが手に入るんですよ。というか作れるんです。
初攻略の時はおそらくものすごいものができると思います」
よくわからんので説明プリーズ。
で話を聞くと迷宮の最深部というのはその迷宮がため込んで魔力がたまっているということらしい。
この溜まった魔力は普段は迷宮主、つまりダンジョンボスに制御されているらしいのだが、まあ、これが人間が制御するのとはイメージが違うらしいのだが、この迷宮主を倒すとそのエネルギーがフリーになり、それに触れで何かを願うとその莫大なエネルギーがそれをかなえるために変容する。
そう言うことらしい。
つまりエリクサーおくれ! と願えばそれがかなう可能性があり、また剣などを持ち込んですごい剣になれ! とか願うとものすごい魔剣とか聖剣とかできるし、回復の杖とか魔力の杖とかも作れるらしい。
「すごいな、ギャルのパンティーおくれもできるのか…」
「? なんですか、ぱんてぃーって」
おっと危ない。この世界パンティーという言葉はないのだよね。パンツかふんどし。紐パンとか。いやー、良かったよかった。
ネムよ世の中には知らなくていいこともあるのだ。
まあ、そんなわけでダンジョン攻略というのはとても意味があることなのだそうだ。二回目とか三回目とかでもそれなりにね。
でも一回目はそれまでたまった魔力がいっぱいなのですごいアイテムができる可能性があると。
うむ、ちょっと迷宮に興味が出てきちゃったぞ。
でもドラゴン関係なくね?
「いえ、先ぶれに来たオルキデア公爵の使いがこの町のドラゴンの騒ぎに非常に興味を示していたそうで。
勇者などというのは功績を上げなければただの偶像ですので、なにがしかの名誉を欲しているのではないかと」
「それはありますね。『英雄に勝った』『迷宮を攻略した』『ドラゴンを倒した』どれも立派な称号です」
なるほど…
「どちらにしても面倒ごとがやってくるというわけか」
「まあ、おそらくは」
いやだねえ~
■ ■ ■
でもまあ、一か月も先ならばまだ放置だ。
迷惑になるようなら殴ろうと思う。
今はそれよりも新しい武器。
ラウニー用だな。
あっ、あと俺用はとりあえず棒を作りました。ペークシスで。
ただの六角棒だよ。がっちり固めた奴。
照り合えずネムの練習相手になれればいいからね。
で、マリオン君プレゼンツ、家族のための新武器開発パートⅡ。『玉振りの玉(仮)』
ファンファーレが欲しい。切実に。
もし俺が迷宮を攻略したらアイテムを出すときに虹色の光と景気のいい効果音を出す魔道具を願おう。
…はったおされそうだな。
「はい、ラウ、やってごらん」
俺が渡したのは六っこのゴルフボールのような大きさの玉。
これも魔法が付与されているのだ。
【慣性制御】【誘導】【浮遊】【追尾迎撃】が付いています。
「あい」
元気のいい返事でラウニーが玉をばらまく。玉は地面に落ちることなく浮遊してゆっくりとラウニーの周りを漂っている。
「よし、じゃあラウニー、軽く模擬戦だ」
俺は六角棒を構えてラウニーと向かい合う。
「あうー」(いくよー)
「いいよー」
ずどーおぉぉん!
周りを浮遊している玉のうち二つがものすごい勢いで飛んできたよ。
地面に小さいながらクレーターができるレベルで。
「うん、ラウ。俺以外とはやらないようにね」
歪曲フィールドがあるから逸れたけど、じゃなかったらふつう死ぬわ。
撃ちだしたのは【誘導】だよね、でもそんなに威力はないはずが…あっ、そうか。【慣性制御】か。ラウニーって重力魔法が使えたんだね。
そのせいでものすごい加速と質量増加が発生したんだな。
しかもこの程度じゃペークシスって小動もしないから。
よし、今度は俺から行くか。
俺は加速でラウニーに接近する。でもちょっとスピードは加減するよ。
しかし俺の行く手はまた玉によって遮られた。
【追尾迎撃】だ。
ラウニーが攻撃対象と認識すると玉が自動で襲い掛かる機能だ。
なんかそう言うとすごそうだけどラウニーの認識を起点にして発動するホーミングの魔法というだけなんだけどね。
しかし我ながらいい組み合わせを思いついたものだ。
交互に向かってくる玉を六角棒で捌く。
「うんうん、なかなかいい攻撃だ」
その中でラウニーが制御する玉が時折攻撃してくる。
すごい勢いで飛んできたり、弧を描くように上から打ち下ろしてきたり。
しかしどうやらラウニーが直接制御できるのは二個までらしい。
四個が半自動で防御をしている感じだな。
これだとちょっと防御が甘いか?
「じゃあラウニーこの棒持って」
「あい」
俺は六角棒をラウニーに渡した。ラウニーが嬉しそうに棒を振っている。
なんか楽しそうだ。
俺は全身に龍気鱗を展開し素手で襲い掛かる。
「おお、今度はいい」
玉四個が自動で俺の邪魔をして、二個が結構な勢いで飛んでくる。
それをかいくぐって近づくと今度はラウニーの長棍がうなる。
まあ、振り回しているだけだが一手加わっただけで格段に硬くなった。
その長棍を俺は龍気鱗で受け止める。そのたびに『ゴーン』『ドーン』と音がする。
ペークシスは魔力に対して優位ではあるんだが、竜気鱗は半分実体化した源理力の塊なので何とか打ち合えるみたいだ。
それに歪曲フィールドはペークシスが相手でもちゃんと効いている。
でも、ネムの斧とかと打ち合うのは嫌だな。
「なにやってんですかー!」
「びくん」
「びびくん」
びっくりした。超吃驚した。
ネムにいきなり怒鳴られた。
「庭が穴だらけじゃないですか。スライムたちも端っこに逃げてます。危ないと思わないんですか!!」
あっ、ほんとだ、庭が穴だらけ…
謝りましたよ、謝りましたとも全力で、正座して。
ほんとゴメン。気をつけます。
「あい~」
うん、気をつけような。
■ ■ ■
その夜シアさんたちが思いつめた顔で訪ねてきた。
何があった?
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