第119話 ネムの新武装

第119話 ネムの新武装



 ネムが走る。

軽快な足音とともに。


 だがスピードはかなりの速さだ。


 流れるようなラインでよどみなく、姿勢を低くしてかけるその姿はまさに獣。


 そして軽く踊るようにステップを踏む、その瞬間彼女の姿はとらえどころなく霞み、次の瞬間手に持った双頭斧を思いきり振り下ろす。

 俺に向かって。


 あっ、別に夫婦喧嘩とかではないよ。

 完成した斧のテストをやってます。


「あきゃう~。あえ~」


 その証拠に見物のラウニーが声援を送っている。うん。


 俺はネムの斧を木刀でうけ…


「のわーっ」


 慌てて飛びのいた。

 木刀が見事に切断されてしまった。


「なぜだ。魔力でしっかりコーティングして…あっ、ペークシスを使ったせいだね」


 あの物質は魔力に対してかなり無敵な物質だったよ。

 しかも硬度は俺の知るかぎりこの世で二番目に高い。

 オリハルコンも目じゃないレベルだ。


 ネムのために作っていた武器が一先ずの完成を見た。

 試作品として二種類。少し付与された魔法の違うものを作ったのだ。


 種類としては柄の両側にブレードを持った双頭斧というやつだ。

 そして片手で持てる大きさ。


 柄とブレード、そしてそれをつなぐ骨格がペークシスで、その骨格にゴルディオンで肉付けをして形を整えている。

 なぜこういう面倒くさいことをするかというとペークシスは少し軽めの物質なのだ。なのでゴルディオンで重さを補っているというわけ。


 結果逆に少し重くなってしまったので小さな盾との併用を考えたんだけどネムは…


「両手に斧がいいです」


 と宣った。

 もともとが双剣使いなのでその方が慣れているということらしい。

 それにネムも獣人で力が強いからね、このぐらいの重さは平気なようだ。


 なので今ネムは両手に双頭斧をもって、俺と模擬戦をはじめ…ようとしたんだけど…

 ダメだったね。

 俺の武器がなくなってしもうた。


「やっぱり木刀では…ということですよね」


「いや、そうじゃないとおもう」


 俺はそういって手持ちの武器の中から片手剣を取り出した。

 安物だけど一応ちゃんとした鋼の剣だ。


 ネムは俺が何を言いたいのか察して斧を振るう。そしてもちろん…


「あっ」


 かつん。という音とともに剣、真っ二つ。


「その材質ものすごく硬いんだよね…でもって強靭だし。しかも魔力伝導率が高いから…」


 まずは刃物というのは硬い金属で作った方がよく切れるようになる。

 鉄は柔らかいのでこれで刃物を作ると鈍らになる。だから炭素を混ぜて鋼鉄にして硬度を上げる。


 じゃあ硬ければいいのか? というとそうでもない。

 金属は硬くなると脆くなる。

 しなることを知らない枝は折れるしかないのだ。


 なので硬くてしなる日本刀は芸術なのだと聞いたことがある。


 だがこの世界は魔法がある世界だ。

 その常識を覆す物質がある。


 ミスリルとかオリハルコンとかだ。


 そしてペークシスという結晶状物質はそれすら上回るのだ。


 すさまじく硬く、破壊する方法がほとんどないほど。

 つまりこれで鋭い刃物を作ればほぼ無敵の剣になる。


 おまけに魔力伝導率が高いので、持ってふるうだけで魔力によるコーティングが発生し、さらに切れ味が上がる。

 おまけに外からの魔力の干渉も受けないので魔法や魔力防御でも切れる。


 もしオリハルコンと打ち合っても絶対に勝てると俺は思う。

 これと打ち合って負けないのは同じペークシスか理不尽ナイフぐらいだ。


「これは俺も武器を新調しないとだめだね」


 この斧だったら龍気鱗とかも切れるんじゃないか? とおもう。


「まあ、練習相手がいなくなってしまったからもう少し奥に行ってそこら辺の立ち木を相手に使い勝手を確認しよう」


 草原エリアだと切るべき対象がない。

 森に行けば木が生えている。


「うん、そうしましょう」


 というわけで仕切り直し。


■ ■ ■


 ネムが走る。


 木の幹や枝を利用した立体機動で。

 縦横に走り回り、飛び回り、斧をふるう。


 太い枝など簡単に切り落とされていく。

 勢いをつければ三〇cm越えの幹すら一発で断ち切れる。


 そして幹をけってバク転、その瞬間に斧を投げる。


 斧には【慣性制御】【自動追尾】【呼び戻し】【魔蓄】の魔法式が仕込んである。


 慣性制御と自動追尾があるので目標を決めて投げれば勝手に飛び回って攻撃を…


 ギュルギュル回転して飛び回り、目標とした気に何度も攻撃する空飛ぶ斧。木の幹はガンガン切り込まれて削れていく。悪くないように見える。

 ちなみにそれらの行動を可能にする動力が【魔蓄】の魔法だ。

 使わずにいるうちに余剰魔力を蓄えるというもの。


 でもなんかネムの眉間にしわが…


「戻れ」


 ネムの声に合わせて斧がネムの手に戻った。


「どうした?」


「なんか気持ち悪い。えっと、思うように動かないというか…イメージと違うというか…」


 ふむ、なるほど。

 うーむ、なんとなくわかるような分からないような…


「じゃあ右と左を取り換えてもう一度投げてみてくれる? そっちは【誘導】の魔法が付与してあるから、ネムがおもったようにうごくよ…ある程度」


 あくまでも投げることに拘る俺。

 だってトマホークは投げないとだめだよ。その方がかっこいいし。


「きゃいね」


 ほらー、ラウもそうだって言ってる。(適当)


 俺は誘導の使い方をネムに教えてもう一度やってもらう。


「いっきまーす」


 ブンッ! と双頭斧が放たれた。

 それはギュルギュルと回転(ここ大事)しながら木の幹にぶつかる。木の幹が半分ぐらいえぐり取られたな。

 そして反動ではじかれるのだが…


「それ!」


 ネムの指示で弧を描いて戻ってくる。

 慣性制御は付与されているんだけど急な反転や逆加速は魔力のロスが大きすぎてできない。あくまでも誘導にしかならないのだ。

 だがそれが良かったみたい。


 ネムがぺろりと唇をなめた。

 舌なめずりというんだけどネムがやるともっと可愛いものに見えます。


 そして斧はもう一度同じ場所に突っ込み、見事に木を切り倒してしまった。


「おおーっ」

「お?」


「やったー。

 うん、こっちのほうがいいわ。なんかしっくりくる。もう少しって感じはあるんだけど…それも練習すればよくなるかも」


 なるほど分かった。


「じゃあ、そっちを正式採用するか。もう一本は作り直しておくよ」


 でもねむは首を振った。


「これはこれで使い道があるわ。牽制に使うならこっちのほうがいいと思うの。要は使い分ければいいの。だから」


 右が誘導、左が追尾ということか。

 うん、そう言うのもありだね。


 その後ネムは一人で森を駆け回り斧の習熟に専念した。


 実際に獲物に出くわしたりもしたが自動追尾斧に魔物が気を取られているうちにネムが近づいて首をスポーンとか。

 高く投げた斧が重力を利用して加速してまっぷたつーとか。

 両手に持った斧で踊るように魔物の群れをズンバラリンとか…まあ、戦闘センスの高い人ってとんでもないわけだ。


 スペックと権能のごり押しで勝てると思うけどそれがなかったらもう無理だね。

 夫婦喧嘩はできるだけ避けよう。うん、そうしよう。


■ ■ ■


 次はラウニーと俺の武器だな。

 あっ、斧の鞘も作らないとだ。

 やることいっぱいだ。


■ ■ ■


「勇者?」


「はい、勇者がこちらに向かっていると連絡がありましたそうで」


 家に帰ったらセバスがそんな報告をくれた。

 フレデリカさんから連絡があったらしい。


「勇者ってあれだっけ? ロイド君」


「いえいえ、彼はターリの英雄・・です。勇者ではありません」


「あっ、そうか、なんか神様から特殊なスキルだとか加護だとかもらっいる人だ」


 つまり地球人だ。

 そう言えば一応マーヤ君も勇者だった。


「でもそれが何でまた?」


「おそらくはドラゴンではないかと…」


 おおうっ。

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