第99話 ティファリーゼ

第99話 ティファリーゼ


 連絡を終え、北門まで帰ってくるとそこには待っているはずのティファリーゼはいなかった。

なんでやねん!


 こういう場合ときって何か変なことでも言ってしまったか? と不安になるが思い返してみても門を出て待っているようにとしか言っていない。

 余計な指示は出していないはずだ。


 だが相手は人間の言葉に不慣れな魔族。

 何らかの行き違いがあった可能性はある。


「仕方ない、探すか」


 門の前できょろきょろしていても仕方ないのでそのまま北に向かいながら魔力視を伸ばしてティファリーゼの魔力反応を追う。


 ず~っと、ず~っと。


 するとかなり来た。境界域の方に反応が。


「この短時間でそこまで移動したのか」


 ちょっとびっくりな移動速度だ。

 騎乗鳥ラプトルなんかよりずっと早いぞこれ。


 まさか飛ぶわけにもいかないので普通に走っていく。

 走ること自体は苦にならないが時間がかかるなあ…


 そうしてたどり着いた境界域の始まり付近。

 そこにいたのは痴女…じゃなくてエッチなお姉さん? だった。


■ ■ ■


「よーよー俺らと楽しいことしようぜ?」

「そんな格好してるんだ。欲求不満なんだろ?」

「にしてもエロイ鎧だなあ…そんなの売ってんのか?」

「特注だろ? 腹真っ白。マ〇コぎりぎりまでしか隠れてねえよ」


 そこにいたのはティファリーゼと中年の小汚い感じの冒険者四人。


 対するティファリーゼは…まあ、そういう格好だ。


 平たく言うと全裸に装甲を張り付けたような恰好といえる。

 胴体から胸は黒鋼色の装甲版でおおわれている。前述したとおり素肌に装甲を張り付けたようなデザインだ。

 肩から腕の先までも隙間なく鎧におおわれている。細かいパーツを組み合わせたような鎧で動きを阻害しないようだ。

 足の外側、膝から下も同様だ。


 ただ腹は丸出し。

 真っ白い腹部が見えている。局部はギリギリ局部にだけ装甲を張って、見えてはいけないところだけ隠しているような心もとなさで、当然おしりも丸出し。ティファリーゼが動くたびにプルンプルン揺れている。


 きわめて扇情的だといえよう。


 そのティファリーゼは四人の男と喧嘩中(戦闘というほど上等なものになっていない)。

 そしてその動きを見ていて俺は気が付いた。

 鎧を着ているのじゃない。あれはティファリーゼの装甲だ。

 つまり龍の鱗のようなものなのだ。


 そうしてみるとデザインも納得がいく。


 動物は毛皮で身体を守っているが腹部は毛皮が薄いし局部やお尻も防御が薄いのだ。


 なーなーとなれなれしくティファリーゼの肩に手を回して抱き寄せようとした男は彼女が肩をゆするだけで吹っ飛んだ。


「へぶしっ」


 次の男が『てめえ何しやがる!』と走ってきたところをティファリーゼは一歩前に出て軽く頭突き。


「ぶぎょっ」


 ああ、頭にもヘッドギアのようなパーツがあるんだよ。スライドするやつでおろすとサレコウベみたいに見えるヘルメットか?


「てめえ、よくもけんちゃんを」


 誰がケンちゃんなんだろう?


「くそう、けんちゃんのかたきだ!」


 いやいやまだ死んでねえし。


 残った二人がとうとう武器を抜いた。

 そこでティファリーゼが足踏み、というかこれは震脚というやつか?


 ずどおぉぉぉぉん。と揺れた。

 二人の冒険者は転げた。そりゃもうころんと。


「ひっ」

「ひいぃぃぃっ」

「「ごめんなさーい」」


「なんだったのかしら?」


 逃げ去る四人によくわかっていないティファリーゼ。彼女にしてみたら集ってきた羽虫を払ったぐらいの認識なんだろう。


 まあ、死人も出なかったから問題ないよね。


「お待たせ」


「あ、おそかったですね」


 うーん、ここまで離れなければもっと早くこれたんだけど…というか、俺でなかったら君を見失ってずっと合流できなかったよ。

 まあ言わないけど。


「随分奥の方まで移動したね。この辺りにそのイアイアハーさんがいるのか?」


 あれ、名前違ったか? しかもちょっとやばい感じになっている。


「いえ、イアハートさまは最初ラウニーと会った森の奥の山ですよ」


「むっちゃ遠いやん」


「大丈夫。走れば一日ぐらいでつく。

 わたしがあなたを運ぶから」


 あーやっぱり移動速度に自信のあるタイプか。

 亀竜とかいうから鈍足かと思った。


「陸王亀竜は結構足が速い生き物です。しかも私は進化しかけだから。とても早い」


 進化しかけだからとても速い? じゃあ進化したら遅くなるんか?

 いや、これは揚げ足取りだな。


 それに進化か。魔物の進化。とても興味深いなあ…


 ゴブリンの話は聞いたがほかの魔物の進化の話はあまり効かない。

 進化しないということではなく詳細が分かってないかららしい。


 魔族自体が進化種みたいな…あれ?


「ひょっとして要塞陸亀って?」


「? 亀がどうかしましたか?」


「いえいえ名前から近しい感じなのかなって?」


「さあ? あれは亀です。私は亜竜です」


 ますますわからん。

 まあいいか。


「じゃあ行くか」


「わかりました。じゃあ私が抱えて…」


 とか言っているけどそんなんじゃ時間がかかりすぎるでしょ。


 俺は問答無用で重力制御点をティファリーゼにとりつかせる。


「ふわっ、何? なんなの?」


 おおー、いきなり空中に浮いたからじたばたしている。

 ほんと下半身無防備だな。

 あまり暴れないでほしい。


「それ!」


 俺は真上に向かって落下する。


「ひあああっ」


 いきなり空に運ばれたんで大慌てだが説明していると時間がね。

 それに人目が一応気になるからこのまま地上から見えないぐらいにまで上がってしまおう。なんて思っているから結構迫力があるのだ。


 数千メートルの真上に向かっての自由落下。

 これはなかなかに迫力がある。


「こんなものかな。ここまで上がれば下からは見えないだろう」


 見えたとしてもただの点だ。

 魔物やでっかい鳥類が生息しているこの世界では気にするやつはいないと思う。


 彼女はまだ空中でじたばたしている。

 ちょうど球形のボールの中にはいってくるくる転がっている感じだ。

 おもろい。


 今度ネムとやってみようかな?


 楽しそうなのでイメージしたら何とネムは裸だった。

 これはエロい。

 今度無重力エッチに挑戦してみよう。うん。


 さて、妄想にふけっているといけない気分になるから出発だ。


「加速!」


 ドン!


 慣性や重力から解放されているためにあっという間に加速する。

 空気抵抗があるから普通にやると亜音速。

 時速で900km以上。だね。


「みぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 空の上に女性の悲鳴が響きわたった。


 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●


うううっ、遅くなりました。

休み偏りすぎです。

これからは逆に休みが大目になるので何とか。はい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る