第98話 ラウニーの行方
第98話 ラウニーの行方
「まだいうことを聞かんか!」
男は怒声とともに棒を振り下ろす。
鉄格子の隙間からラウニーに向けて。
金属ではないが木でできた棒でそれなりに太さがあり凶器としては十分なものだ。
ラウニーはとっさに頭をかばうが…
バイーーーンッ
と棒ははじかれて、その反動で男は大きくのけぞってよろめいた。
「? ぎゃう~っ」
その様子を見て笑うラウニー。男は頭に血が上ったかのようにラウニーに棒を振り下ろすがそのすべてが弾き返されてしまう。
ふいに殴られると身構えてしまうラウニーだったが、来ると分かっていれば平気だった。
なぜならもらったお守りがすべての攻撃をはじいてくれるから。
イアハート様が作ってくれたお守りで、それなりに強い魔族。豚魔族の魔核を利用して作られたものなのでかなり強力だったりする。
少なくとも魔族にダメージぐらいは与えられる攻撃力でなければどんな攻撃も意味がないだろう。
豚魔族は防御力の強いタイプだった。
しかしなんでこんなことに?
とラウニーは考える。
にーにことマリオンを探して旅だったラウニーだったが何か根拠があったわけではない。
とりあえず以前会ったところに行けば何とかなるかと思ってズンドコ進んだ。
もちろん何ともならなかった。
一緒に遊んだ楽しい広場も今は動くものもなく。
「あきゃう。あい~」
と楽しげな声を上げて遊んでいるふりをしても誰も答えてくれない。
ラウニーはちょっと泣きたくなった。
だがくじけてはいけない。と自分を奮い立たせる。
ここから帰るという選択肢はなかった。
とにかくにーにに会いたかった。
なのでさらに進むことにした。
にーにが来た方向に行けば何とかなるかもしれない。
結果何ともならなかった。
最初は隠れるように街道に沿って歩いていたが次第に疲れてくると思考がいい加減になって街道を進んでいた。
街道をうろちょろして方向もわからず、森に帰って眠るような数日。
全くひと眼につかなかった。というようなことはなく、珍しいラミアのうわさがちらりほらりと人々の間に流れ始める。
もちろんラウニーは気づかない。
とてもおなかがすいてきて、とても悲しくなって。
「にーに、にーに」
と泣いてみる。
答えるものはやはりない。
このころティファリーゼが血眼になってラウニーを探していたが、ラウニーが迷っててぐるぐる動き回ったせいで後が追えなくなっていた。
そしてそいつらがやってきた。
密猟者。
網がかぶせられ。あっという間にす巻きにされて荷台の下にある馬車の隠しスペースに押し込められて気が付いたらこの薄暗い地下室の鉄格子の中だった。
ご飯をもらって普通に食べたがまずかったのであまり好きではなかった。
そのうち豚に似た男がやってきてごちゃごちゃ言い出した。
ラウニーは豚は嫌いだった。
あの豚魔族に似ているから。
でも食べる豚は好きだった。
おいしいから。
豚はラウニーをじろじろ見て一緒にいた痩せた男に何やら指示を出す。
人間の言葉を勉強しているラウニーだったがよくわからなかった。
内容が下品で言葉がひどすぎたからだ。
それから痩せた男。ラウニーは出来損ない骸骨と思っていたが、この男の暴行が始まった。
長い棒で殴るのだ。
鉄格子の外から。
さすがに怖くて泣きながら逃げ回った。
「にーに、にーに、ぎゃうよ~」
もちろん助けは来ない。だが、そのうち変なことに気が付いた。
攻撃が全く効いていないのだ。
いや、そもそも届いていない。
「いーあ、まも」
イアハートからもらったお守りの効果だった。
全然効かないのがわかったから余裕をもって反抗する。
結構いい性格をしているラウニーだった。
その結果。
「くっ、こやつ…しかしあいも変わらず全く攻撃が届かない。どうなっとるんだ」
豚が愚痴をこぼす。
「おそらく種族的な能力だと思うのですが、ここに運び込まれて三日になりますがどんな攻撃も受け付けずに…
調教が全く進んでいないのが現状です」
ガチャンと鉄格子を殴りながら二人の男は牢の中の幼女、つまりラウニーを睨みつけた。
室内は薄暗く、そこにいくつもの大小の檻が並んでいた。
ラウニーは夜目が利くのでその中にたくさんの魔物が閉じこめられているのを見て取った。
どうやら自分と同じようにつかまっている魔物らしい。と考える。
そして時々ここから運ばれている魔物もいる。
もちろんどういうことなのかわからないがよくないことだろうというのは分かった。
「しかしこやつはラミアだろう?
ラミアにこんな力があるとは聞いたことがないぞ」
豚がそう文句を言う。
ラウニーは魔族でラミアではないのだが、見た目は同じようなものなのでそう見えるのだ。
「はい、下半身が蛇なのですからラミアであることは間違いありません。一応獣人の一種に数えられるラミアですが、知能が低く魔物と混同される場合もしばしば。その生態もわからないところが多ございます。
何らかの変異種か、あるいは上位種のようなものではないかと…」
「であればラミア狩りも面白いかもしれんな…
それにこの防御力。
どういう理屈か物理も魔法も全く効かない」
「はい、極めて高い防御力です」
「ふむ、そうだな、方針転換もいいかもしれん」
「と申しますと?」
「いや、見た目がいいから最初は愛玩用に売り飛ばそうかと思ったんだが、これだけ防御力があれば、兵器としての運用もできるかもしれん。
それに希少性も高い。
せっかくこのベクトンに作った拠点もキルシュの犬どもにかぎつけられて大打撃だ。
だがこの珍しい獣を使えば、失地を回復できるかもしれん。
何とかして調教するのだ」
「はい、では食事抜きで弱らせるというのはいかがでしょう。
魔物は飯を抜くと途端に弱るのでちょっと危ないのですが、弱らせて食事を与えての繰り返しで、かなり行けると思います」
「少々時間がかかりそうだな」
「どんな魔物の調教も同じでございますよ。いうことを聞かせようとすれば時間のかかるものです」
「ふむ、やむなしか」
そんな話をしながら地下からの階段を上っていく男たちをラウニーはじっと睨んでいた。
そしてどうやらしばらくご飯は食べられないようだと理解した。
お勉強の甲斐があってこの程度の会話は多少は理解できるようになったのだ。
でもまあいいか。
と楽観する。
森の主であるイアハート様が作ってくれたお守りがあればどんな攻撃もたぶん聞かないし、もしお守りが壊れればその時はにーにがくれた力に頼ればいいのだ。
とりあえず眠くなったからねちゃおう。とラウニーは思った。
そしてくるくるっと丸くなったら〝すぴーっ〟と寝息を立て始める。
たくましい子供だった。
■ ■ ■
「というわけで今ラウニーはイアハート様の作ったお守りに守られています。
豚ですがかなり強力な魔族の魔石を使っているのでそれなりに強力ですし、たぶんその魔力で包まれているような感じだと…」
ティファリーゼの推測を聞いてマリオンはうなった。
「うーん、つまりほかのやつの魔力でコーティングされている。ということか…じゃあわからんのも仕方ないか…
でもどうする?
…そのお守りの魔力というのが解析できれば、そちらで探せるかな?」
ティファリーゼの説明を聞いて、もう一度町の魔力を観測するがやはり特に目立ったものはない。
いや、あるんだが、結構あるのでどれかわからない。
この町は魔道具とか宝具とかがある町で、貴族なんかはその手のアイテムを持っているものも多いし、魔力で動く機械のようなものもあったりする。
変わった魔力反応、大きな魔力反応といったっていろいろあって、そのすべてを知っているはずもない。
そしてまさか貴族の屋敷やお役所に突入して調べて回るわけにもいかない。
「だったらお守りを作ったイアハート様にあってみますか? 確か残骸もあったと思います。それにイアハート様も」
残骸っていうのはその魔族の死骸のことらしい。
ひどいいいようだが、どうも人間の言葉にあまり慣れていないせいのようだ。微妙に何を言いたいのかわからないところがある。
今回はお守りの核になった魔物の死骸。そしてお守りを作ったそのなんちゃらいう上位魔族。そのどちらかの魔力反応で何とかならないか? ということだ。
「現状ではほかに方法がないからそれいってみようか。ちょっと待ってくれ、連絡してくる」
俺はその魔族の所を訪ねてみようと思い立った。
どうもこの世界の人間は魔族というと手にも核にも恐れるが、必ずしもそうではないように思える。その証拠がラウニーでありティファリーゼだ。
であればラウニー探索に協力できるかも。
もちろん戦いになる可能性はあるが、それだって逃げるだけなら楽勝。かもしれないしな。
俺はネムたちに出かける旨を知らせるためにいったん家に帰った。
ティファリーゼとは外で待ち合わせる予定だ。
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子供がいじめられる話とかほんと書きづらいです。でも書かないとだし。
でもどちらにしてもうまくかける自信ないし。
ギリギリこんなもので…
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