第97話 魔族襲来?

 第97話 魔族襲来?


 ちょっと歩いてくるとセバスに言い置いて町に出る。


 目標は北から門をくぐったあたりをうろついているようだ。

 あの辺りは広場になっていて結構人通りも多い。

 もう一度注意深く観察。


 うーむ、これは魔族に間違いないかな。


 なんというか存在の質量が違うのだ。

 今までにない感覚だ。


 町の中にピンポン玉(人間)がちりばめられていて、それがちょろちょろ動いていて、そしてその中に一つ砲丸投げの球が混じっているような感触。


 存在感がありすぎてなんとなく逆に目を引き付ける。

 注視しているうちに俯瞰するように周辺を見下ろせてしまった。


 町全体を見渡すような感覚があって、そこにいろいろな反応がちりばめられているような。

 そんな感覚を覚えてしまうほど存在感がある。


 そしてその反応は周囲にとげとげしい感触をまき散らしている。


 これは魔族の襲撃とかいうことなんだろうか。


 そばまで行って建物の陰からそっとその対象を観察する。


「人間だ」


 いや、魔族だと思うんだけどね。見た目は完全に人間だ。

 魔族って人間に化けたりできるのか…すごいな。


 少し観察するとどうも襲撃に来たわけではないらしい。

 何かを必死に探している感じだ。


 そして人間に対して強い警戒感を発している。

 これがとげとげの原因だろう。


 さて、どうしたものか。とりあえずフレデリカさんに知らせるか?


 しかし余計なことをする人間というのはどこにでもいるもので、その魔族に数人の男が声をかけた。


 いったい何を考えて…ってナンパかよ。


 よく見ればその魔族の見た目は妙齢の美女に見える。


 目鼻立ちは整っているしスマートで胸とおしりが立派だ。

 つまりグラマーだ。

 発情期の男から見ると非常に食べごろに見えるのだろう。

 見た目だけは。


 声をかけているのは冒険者だな。

 四人組で、みんな二十歳ぐらいか。

 なんか欲望が、はっきり言うと性欲が駄々洩れな感じだ。


 まともな女ならこいつらにナンパとかされないだろう。そんなろくでなし感が漂っているのだが…


「見捨てるわけにもいかんか」


 このままだと若造どもが『ぷちっ』とつぶされちゃうかもしれない。


 そうなると当然官憲も出てくるだろうし、そうなると戦闘になったりして、そうなると町がドカーン! みたいな?

 こいつはこの間のカラスゴリラよりも強いみたいだしね。


「よう、あんたら。その人にちょっかい出すのはやめてくれ」


「にーに!」


 は?


 あれ?


 魔族が俺のこと『にいに』とか呼びながら嬉しそうに走ってくるんですけど。面識とかあったか?

 いやいや、ないって。


 結構すごい勢いで突っ込んできて、俺の胸に飛び込む。

 嫁のいる身なので困る~とか言う以前にものすごいぶちかましだ。俺でなかったら死んでるぞ。


 事実集っていた男たちは二人ほど跳ね飛ばされて転がっているぞ。

 ちょっとしたトラック並みじゃね?


「にーに、ラウニーがいないの!」


 はい、意味が分かりません。


 ◆・◆・◆


 というわけでお話しタイム。


 話を聞くとかなり要領を得ない。


 だが彼女が魔族てあることは間違いない。

 名前はティファリーゼ。陸王亀竜という魔物の進化個体であるようだ。


 彼女の話によると、彼女自身人間を『敵』と認識しているわけではないらしい。


 人間の町に買い物とかにも行くこともあって、ある程度人間の常識のようなものも把握しているようだ。


 彼女の側にしてみれば『人間は自分たちを見るといつも襲ってくる生き物』という認識でいるようで、なんだかなあ…みたいな気にはなる。

 不倶戴天の敵なんてのはそんなものかもしれない。


 たがいに敵という名で指をさし、戦いあう間がら。

 魔族は魔物だから人間を捕食するし、人間だって魔物を食うからこれもお互い様。


 ただ人間と敵対しない魔族というのもいて、そういうのはひっそりと暮らしているらしい。

 驚愕の事実。


 で、彼女の言うことにゃラウニーというのはあの森であったやたらかわいいラミア幼女であるらしい。

 あの子が俺を呼ぶとき『にーに』と呼んでいたのでそう呼んだということだった。


 噴水に座って話を聞くと、どうやら俺が与えた魔力の球が失われ、ついでに焼肉のタレも失われ、それを求めてラウニーは俺を探す旅に出たらしい。

 って、ちょっと順番違わんか?


 俺に会いたくてとかならうれしいが、焼肉のタレが欲しくてというのはね。


「あっ、そうです、ラウニーはにーにに会いたがってました」


 この魔族の言語能力は若干の問題をはらんでいるな。


 で、ここからは話を端折るがちび助が手紙を置いていなくなった後、彼女はすぐに探しに出たらしい。

 だがあっちへチョロチョロ、こっちへチョロチョロしていて追跡に時間がかかり、見失ったということだった。

 臭いで追いかけたらしいよ。


 で、見失いはしたものの街道のそばで争ったような跡があり、その後ちび助のにおいは馬車のにおいに紛れてしまったというので連れ去られたのは間違いない。という結論に達したようだ。


 その後馬車のにおいを追いかけてずっと来たらこの町にたどり着いた。ということらしい。


「でもこの町は臭いが多すぎ、私もあまり臭いの追跡とか得意じゃないから…」


 というわけでここで手掛かりがなくなったわけだ。

 これは良くない。

 可愛い者は守られなくてはならないのだ。


 俺は意識を済ませて町中に探査の網を広げる。

 いつもやっている魔力視で周りを見るわけなんだが、これが分かりずらい。


 水平方向だからいくつもの魔力が重なって、探っていくのがかなりつらい。


 で、ちょっと思いついた。

 さっきの俯瞰する視点はどうだ。あれはこの魔族の存在がはっきりしすぎていて、それを目印にして俯瞰した視点が取れたわけだが、あれと同じようにできないかな?


 俺は魔族美女を見つめてそのまま始点を空に持っていくように…


「おっ、できた」


 空の上から魔族美女と自分を見下ろす視点だ。


 うん、このまま視線をずらして…


「よしよし、うまくいった。見えるぞ」


「ラウニーいた?」


 いやいやそれはまだ。


 上からじっくりおろしていると知った反応があちらこちらに…


 おっ、俺んちだ。ネムがいる。

 セバスやガキどももいる。

 庭にいる変わった反応はスライムたちか。目立つなこいつら。


 お城には…フレデリカさん発見。脱走中。

 すごいなロッテン師の追跡をかわすとは…フレデリカさんもかなりの達人かもしれない。


 ほかにも知ったような反応が…

 でもちび助の反応は見つからない。


「うーん、変だ…知っている奴なら魔力で見えると思うんだけど…どこにいもいない…

 本当にこの町なのか?」


「間違いないよ。ちゃんと追いかけてきた…から…たぶん…」


 馬車のにおいは特徴的で間違わなかったと言い切れるらしい。

 そこからちび助のにおいが分かれたような痕跡もなかったと思う。ということ…

 とするとどういうことだ?


「あっ、ひょっとしてあれのせいかも」


 ん? 何かな。

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