第96話 帰還した。亀を売った。ちょっと食べた。

 第96話 帰還した。亀を売った。ちょっと食べた。


 さて、魔物というのは基本素材である。


 食べられもせず、肥料ぐらいにしかならないゴブリンですら魔石という役に立つものを持っている。

 あー…でも考えてみれば雀の涙かぁ…


 しかしこれは例外といえるだろう。


 わりと町の近くでも取れる一角ラビやハムハムハネズミですら魔石もとれるお肉も食べられる良品なわけだ。

 一角ラビなどは角が薬になるとかいう話まである。


 まして中層の魔物においておや。


 要塞陸亀フォートレストータスはまさに素材の塊だった。


 まず甲羅。これは磨くと大変に美しいもので、薄くそいで磨くと微妙に透け、琥珀色や緑色に輝く装飾品の素材となる。

 まあ日本でいうところの鼈甲みたいなものだ。


 さらに魔物素材なので魔術式を刻みやすいらしく、防御力を上げたり、回復力を上げたりするお守りの素材としても有用らしい。

 そして何よりその防御力が素晴らしい。


 魔法にも物理攻撃にも強く、限界以上の攻撃には自壊することで攻撃を反らし、さらには魔力の供給で自己再生まで行う。

 盾として最高級品。


 ものすごく高価な素材なのだ。


 さらに鱗もいい。


 防具の素材として大変に重宝されるもので、こちらは竜鱗ならぬ亀鱗の鎧とかになる。魔物素材は金属とは違う価値があるのだ。


 そしてお肉。


 これはすっぽんを考えればいいようだ。

 大変な珍味としてもてはやされているらしい。


 さらには特殊効果もある。


 まず美肌効果。

 さらには精力増進。かなり絶倫。

 男にも女にも大人気。


 目玉や肝などは生薬として高額で取引され、つまるところ捨てる部分がない。


「えっとですね、フォートレストータスのお値段ですが…非常に状態が良くて、えっと。金貨750枚という評価なんですけど…いかがでしょうか…あっ、買取金額で、解体費用などはうちもちです」


 俺が振り返ると三人ともうんうんと頷いている。

 7500万円相当だね。完品なら1億はいくかもしれないという大物らしい。

 値段が下がったのは甲羅の一部をもぎ取ったから。

 ちょっときれいなので加工してみようと思ったのだ。


 ものすごく硬かったけど、理不尽ナイフなら切れるんだよね。ほんとあれは理不尽だ。


 まあそれで残った部分がその値段なら御の字だ。


「ありがとうございます」


 そう言って受付嬢は頭を下げた。

 お名前はシャーリーさん。なかなかの美人さんだが活発そうなお嬢さんでもある。お転婆シャーリーといえばこの町では結構な有名人らしい。


 なんと今回からうちのパーティーの担当職員に抜擢されたとのこと。


 といっても彼女が担当してる冒険者は他にもいるわけだが、この町での活動を一貫して把握している職員がいた方が何かと便利である。ということらしい。


 彼女と彼女の上司が俺たちの情報を総括していて、それを通してギルドの上層部が俺たちの活動を把握していくということらしい。

 つまり冒険者としてこの町にとって重要なメンバーであると認識されたということだ。


 その彼女の説明でほかの評価も進んでいく。


 ビロードバイソンのお値段。

 オス×1=30金貨。

 メス×2=80金貨。

 子供×2=40金貨。

 ハムハムネズミ×12=2銀貨19銅貨

 一角ラビ×3=1銀貨12銅貨

 フォレストウルフその他・・・・7銀貨


 という感じで大体900金貨ぐらいになった。

 これを五等分。一人180金貨として、一人分の180金貨と半端がパーティー資金としてギルドに貯金する。

 つまり人数+一人で頭割りして一人分はギルドに預けておくことにしたのだ。これが俺たちのパーティーの分配ルール。


 俺とネムは夫婦なのでいったんまとめて経費などを引いてさらに細かく分けないといけないんだけどね。生活ってそういうものだから仕方ない。


 ちなみにだがギルドにお金を預けても利息なんかは付かないのだ。なせって運用をしないから。

 預かり賃をとられないだけましだね。


 俺とネムは自分の分を現金でもらった。しまうぞう君に入れておけばいいのだから問題ない。

 シアさんとマーヤさんはギルドに口座を使って預けることにしたようだ。

 ちょっと金額が多すぎて青ざめていたし、受け取っていいのかかなりフルフルしていたが、ルールで決まっているからいいのだ。


「しかし中層の大物ってやはり結構儲かるね」


 なんで浅層に中層の魔物がいるのかについては『そういうこともあるよ』という程度の話だった。本当に偶にはそういうこともあるらしい。

 びっくりはしたが、おかけで中層での冒険というのがなんとなく実感できたのはよかったと思う。


 ある程度の人数でも中層に突入し、獲物を狩れればそれなりに儲かる。

 というのも実感できた。

 ここまでお高い魔物はそうはいないらしいが、それでもそれなりに稼げるのだ。

 三か月に一回ぐらいミッションとして中層探索をやればまともに暮らしていけるわけだ。


 そこまでの実力のないやつは浅層で小物狩りをするということになる。


 さらに駆け出しのやつはギルドの救済クエストで食いつなぐと。


 うむ、なかなかよくできている。


 ◆・◆・◆


 冒険が終わったらそのまま解散…というのはいかにも味気ないので打ち上げをしないといけない。


 俺はバカ騒ぎはあまり好きではないのだけど、気心の知れた連中と飲むぐらいは楽しいからいい。


 それにみんな若い子ばかりだし、しかも貴族だのなんだのそれなりに育ちがいい。

 バカ騒ぎにはならなくて少しお酒をたしなみながらの食事会みたいなノリだった。

 こういうのは嫌いではない。


 メインは少し買い取ってきたすっぽんならぬ亀鍋だ。

 当然セバスやメイドさんたちにもおすそ分けをする。ここ大事。


 一緒にというわけにはいかないので俺たちとは別になるが、すっぽん鍋を楽しんでほしいものだ。


 あとは大きな風呂に入ってゆっくり休めば…


 あっ、はいはい。その前にイチャイチャですね。

 すっぽんのせいですね。あっ、亀か。さすが魔物。効き目がすごい。

 少しお預け気味だったから頑張らせてもらいます。


 いろいろ天国ですねえ~


 翌日目を覚ますとそこはスライム天国だった。

 あれ? 前にもやったか?


 昨日は警戒していたのか連れてきたスライム達いろいろはあまり活動していなかったんだけど朝起きたら我が物顔だった。

 顔ないけどね。


 敷地内で雑草食うから男の子たちの仕事がなくなった。

 仕方ない。セバスの手伝いをさせよう。


 しかし、スライム増えてないか?


 1234567…13、14、16匹。

 明らかに増えてる。なんでだ?


 まあ、みんながみんなテニスボールサイズだし、害がないからいいだろう。

 しかし、こんな小動物? でもいろいろ魔力の波長が違うものだ。

 おもしろい。


 そしてなごむ。


 でもまったりしていたらチリリという魔力の感触。

 とげとげしくて攻撃的なやつだ。


 凶悪ではないけどかなり大きくて強い感触。これはちょっと一大事かもしれないぞ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る