第95話 ちょっとやばい新必殺技

 第95話 ちょっとやばい新必殺技


 ひゅんひゅんうなりをあげてシッポが振り回される。

 時折パーンと音がするのはたぶんしっぽの先端が音速をこえているんだな。


 当たったら痛そう。


 しかしこの長い尻尾はかなり自由に動くらしく正確に俺を狙って繰り出される。

 木刀ではじくたびにズドンとかズバンとかすごい音がしている。

 しかも尻尾の攻撃の合間を縫うように首を伸ばして噛みつき攻撃みたいなことまでやる。


 いやー、強いわ。こいつ。


 しかも意外と動きが速い。


 シッポと首、そして本体の意外と早い動きでほぼ全方位がカバーされている。

 困った。


「うーん、あれをやってみるか」


 あれというのはついさっき無意識にやった高速移動だ。

 あれなら反対側に回り込めると思うんだよな。


 よし、いく!


 シャッ!


 あっ、やばい、目測を誤った。


 バキッ! メキメキメキ!


 あっ失敗。勢いあまって木に突っ込んでしまった。

 しかも木が倒れていく…

 どんだけスピード出てたんだ。


 そしてありがとう歪曲フィールド。君がなかったら大怪我してたよ。たぶん。


 だけど少しコツがわかった。

 スピードを抑え気味にすれば十分行ける。


 飛んでくる炎弾を切り捨て、加速。

 一瞬でとはいかないがシャッシャッと亀の反応できないスピードで反対側に回り込み木刀の一撃。


 びしっとまともに入るがやはりだめだ。

 落ち着いてみると甲羅にも鱗にも魔力の流れが見える。たぶん防御系の能力が発動しているな。


 おまけにわずかな傷もどんどん修復されている。

 うーん、困った。


 亀の攻撃も多彩でしっぽや頭ばかりじゃない。

 突進もしてくる。


 これも同様にスキルだろう。首を引っ込め、あっという間に加速して突っ込んでくる。


 当然避けるがその威力はすさまじく、進行方向にあった樹木を何本もへし折っている。


「大きさが違うから威力が牛の比じゃ無いな」


 唯一の救いは態勢の立て直しに時間がかかることか?

 せっかくだから殴っとこ。


 亀の横に移動する。

 頭が引っ込んでいるので俺が分からないみたいだ。尻尾の攻撃もない。


「グラビトンアタック」


 適当な名前で腕に力を集めて掌底を叩き込む。重力場でぶんなぐる感じだ。

 多少は効くかも…あれ?


 思ったより手応えが…

 あれ? なんと吹っ飛んでいくし…

 木をなぎ倒して…ずずーんって…


 環境破壊とか言われないだろうな…


「しかしあの防御力の塊のような亀だ。どうせこれも…」


 きしゃあぁぁぁぁぁっ

 しゃあぁぁぁぁぁっ

 しゃあぁぁぁぁぁぁっ


「あれ、すっごい暴れてる…ひょっとしてめっちゃ痛がってる?」


 ・・・チーン。


「ひょっとして横からの揺さぶりに弱いのか?」


 ありうる。


 これだけの巨体だ。今まで投げられたりするようなことはなかっただろう。

 しかもこのデザインだ。転んだりするようなことはなかったはずだ。


 以前見たテレビだとティラノサウルスとかの大型の恐竜は激しく転ぶとその衝撃で致命的なダメージを受けたとか…うん、言ってたな。


 ではさっきの突進は何なのか? という話になるんだが、スキル的な、魔法的な何かがあるのではないか?


 とにかくやってみればいいのだ。


 俺は重力制御点を撃ちだして亀にとりつかせる。

 がっしりつかむイメージでグンと引っ張る。


 しゃあぁぁぁぁっ


 いきなり引っ張られてつんのめった亀が苦痛の叫びをあげた。


「おお、行けるか!」


 しかし意外と重い。

 以前持ちあげた瓦礫に比べれば。と思うんだが、ひょっとして生き物には効きが悪いのかな?

 魔力抵抗が影響するとか。

 ありそうだ。


 だが全く効かないわけではない。


 今度は半分の制御点を左側の抑えに回し、半分で右側をかちあげてみる。


 ぐらりと傾いだ亀が一度浮き上がってから落ちるように横倒しになった。


 しゃあぁぁあ! しゃあ! しゃあぁぁぁっ!


 おお! かなり痛そうだ。

 あまりにいたくて大佐に助けを求めているのかもしれない。

 いや、冗談だよ。


「しかし、うん、行けそうだ。行けるだろう。行かねばならない」


 さすがに痛い思いをすると警戒心が湧くのか亀も慎重だ。

 だが逃げようとはしない。

 あくまでも俺に向かってくる。


 走る速度も意外と早い。

 ズドドドン! ズドドドン! 近づいてくる。


 今度こそ。


『大〇山おろし!!』


 俺は叫んだ。

 まずいかもしれないので名前はあとで考えよう。


 まず一つ目の重力場を板のようにして斜め前から右前足にたたきつけるように滑り込ませる。


 亀が足を取られて斜めにつんのめった。


 板状の重力場がそれを掬うように滑り込む。これによって亀は完全にバランスを崩して足が宙に浮いた。


 左手で亀をがっしりとつかむイメージで制御点を取りつかせ、思いきり引っ張る。


 ダンと右足を踏み出し右手を突き出し、重力場を送り出す。引き寄せる左手とすれ違うように送り出す。

 重力場のイメージは亀の下に力を差し込み左側を持ち上げる感じだ。


 完全にひっくり返った亀が滑るように引き寄せられてくる。


 ひっくり返り、板の上をすべるように近づいてくる亀を巻き込むように大車輪に持ち込んだ。


 一度浮いてしまえば簡単だった。

 重力場で楽に振り回せる。


 ぐるぐると回転する俺。亀という巨大な質量が回転することで風が渦を巻きつむじ風のように登っていく。


「うおぉぉぉぉぉぉぉっ」


 完全にとらえた!


 亀は俺の頭上で重力場の竜巻に翻弄され、めちゃくちゃな方向に振り回され、そして最後に天高く放り投げられた!


「かんぺき!!」


 理想通りの投げ技だった。


 三〇mも上がっただろうか。そのまま落下して激しく地面に激突。


 ズズーン!


「キシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 かなり効いた。

 亀は立ち上がろうとして果たせず、何度も倒れ、それでも首を伸ばして火球を吐く。


「ここまで来てまだ逃げないのか」


 この魔物という生き物を突き動かすものは何なのだろう。

 動物であれば生きることが第一。

 危なくなれば逃げもしように、この魔物はあくまでも俺を殺すことしか考えていない。


 魔物とはいったい…


 そのあり様には恐怖を感じる。だが怯んではいられない。

 俺も不思議とたぎるものがあるのだ。

 俺は戦いを楽しんでいる。ような気がする。うん。


 俺はもう一度『大雪〇おろし』をかける。

 でも名前は変える。


「重力旋風投げ! 二段返し!!」


 こんな感じでどすか?


 同じように重力の乱流に巻き込まれギュルギュル回転する亀を、今度は高く巻き上げる。

 どうせ重力で投げるんだから大した手間じゃない。


 しかしこれでは前回よりちょっと威力が増すだけだ。

 ここで追撃を繰り出す。


 空間を圧縮し歪みの球を作り出し、それを亀に向かってうち上げる。

 自動追尾はまだできないが誘導ぐらいはできる。


空震魚雷くうしんぎょらいストーム!」


 空震魚雷と名付けられたそれは舞い上がった亀を追いかけるように天に駆け上り、亀に接触すると同時にその歪みが解放され、戻るときの副作用として空間に衝撃を発生させる。


 きしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 ドン! ドドン! ドドドドン!

 と炸裂する空震魚雷。その中で亀の絶叫が響く。


 空震魚雷の役割はもう一つある。

 亀の位置を調整し俺の真上に持ってくること。


 ゆっくりと回転しながら落ちてくる亀。

 俺は重力場を展開した手のひらを突き上げる。

 強い斥力場を展開した手のひらを。


 重力加速度に従って落下してくる亀。

 運動エネルギーは質量×速さ×速さだ。

 この巨体、このスピードなら大変なエネルギーだろう。


 それが俺の斥力場で一気に打ち返される。

 莫大な破壊エネルギーが亀の体で荒れ狂った。たぶん。


 どーんと再び打ち上げられる亀。

 その時俺は何かが確かに切れた感触を得た。

 それは亀の命が立たれた瞬間の、その感触だった。


 ズズゥウゥゥゥン!!


 横倒しに地面に落ちた亀は果たして二度と動くことはなかった。

 要塞は陥落したのだ。


 俺は手を挙げて勝利を宣言。

 それを見たネムたちが小屋を出て走ってくる。


 こうして俺は新たな攻撃手段『重力旋風投げ、二段返し』を手に入れた。この技はこれから数多の魔物を膝下にねじ伏せることになる…のかもしれない。

 先のことなぞ分からんがね。


 ■ ■ ■


「フラグが回収されなかった…なぜ…」


 戦闘の後マーヤさんが石の木の小屋の前で黄昏ていた。

 どうやら火炎弾の流れ弾が当たることを期待していたらしい。


 いやいや、そんなの期待しないでよ。たぶん大丈夫だとは思うけどいきなり実戦で試さないでほしい。

 でも確かにそう考えればどの程度の防御力があるのか知りたくはある。


 というわけでレッツゴー。


 シュゴッ、シュドッ、シュバッ。


 ストレスを解消するようにマーヤさんのファイアボルトが唸る。

 というか本気でどこどこ打ち込んでるな。人の家に。

 さんざん打ち込んで満足げなマーヤさん。


 この人の性格を見誤っていたかもしれない。


 しかしおかげで俺の小屋は十分な耐火性能を持っていることが判明した。


 【着火】の魔法ならたぶん行けると思う、全体の熱運動を加速してやれば燃やせるだろう。だが外から火をたたきつけるような攻撃ではこの小屋が燃えるようなことはないようだ。


 いろいろと得るところの多い一日だった。


 とりあえずまた風呂に入って少し休みましょう。


 あっ、風呂作るのも俺だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る