第100話 天翔ける裂爪イアハート①

第100話 天翔ける裂爪イアハート①


 ちょっとスピードを落としました。

 だってティファリーゼがもうなんか最初全身がこわばって硬直していて、そしたら次はものすごく暴れだして、しばらく暴れていたと思ったら力が抜けでぐったりしてしまったんだ。


 やっぱり空を飛ぶのは怖いのかもしれないな。


 それにしても上空、数千mを飛んでいるとなんかあまり動いているような感じがしない。力場で風を遮ってしまうとなおさらでただ浮かんでいるような気にすらなってくる。

 やはり空はいいね。


 なんてね、俺が昔高所恐怖症だったって言っても誰も信じないよね。きっと。

 自分で飛ぶと怖くないんだよ。不思議だなあ。

 やっぱり高いところの恐怖というのは落っこちる恐怖なんだよね。


 落っこちないのが分かれば平気なのだ。

 というか俺ってば好きな方向に落下しているといえるわけで、もう落ちることなんか怖わないで~みたいな感じ。


 さて、ちょっとスピードは落ちたけどこの調子でも一時間もあれば付くだろう。


 ちび助と遊んだ場所はちゃんと覚えているからね。どの方向、どのぐらいの位置か意識上のマップで確認できるのだ。


 そんで目的地上空に到達、そこからは当然自由落下。


「ふぎゃあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ!」


 今度は地面が付かづいてくるからものすごい迫力があった。

 ティファリーゼがものすごい勢いで悲鳴を上げる。

 声をかけるがまったく聞いていないようだ。


「お願い、やめて、やめてください、何でも言う通りにしますから…」


 ハラハラと涙を流し懇願する半裸の美女。

 ものすごく人聞きが悪いし見た目が犯罪っぽい。

 聞こえてたんなら落ち着いてほしいよ。


「はい到着~」


 俺は懐かしの広場に降り立ったのだった。


 そしてティファリーゼ嬢はというと…


「ああっ、目が死んでる」


 地面におろしたらそのままくたって地面に広がった。

 全身の力が抜けている。

 しかも何も映してない瞳から涙を流してピクリとも動かない。

 これがレイプ目ってやつかな?


 だが俺は容赦しない。

 ちび助が助けを求めている。ような気がするからだ。


「ほら次はどっち?」


 襟首をつまんで引き上げて質問する。


 もちろん本当にじゃないよ、重力制御点でちゃんと支えているさ。


「あっ…あっち…」


「おっ、少し復帰した」


 俺はティファリーゼの指す方向を見た。

 その瞬間!


 ゴバッ!


 その方向からすさまじい魔法が飛んできた。


「いかん! バリア!!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 あっ、ティファリーゼバリアになってしまった。


 わざとやないんや!

 重力制御点を前に出して魔法を受け止めようとしたら左手が動いて、でもってティファリーゼが盾になってしまったんや。

 事故なんや!


 いや、もちろん攻撃は力場で全部はじきましたけどね。

 なんか絵面的に俺ってば極悪人になってない?


「おのれ人でなしめ。よくもうちの娘を!」


 そこにいたのはでっかい魔物だった。


■ ■ ■


「おおーっ、すごい」


 身体はライオンみたいだ、鬣がふさふさで、でも顔は人間の物。年経た老婆の顔だ。結構整っているので老婦人といった感じか。

 だが今は戦意に満ちて眼光鋭く俺を睨んでいる。


 前足は猛禽の爪のようになっていて背中には巨大な翼。

 ネコのような尻尾が七本。ゆらゆらと揺らめいている。


 体毛は白が目立ってちょっと神々しい雰囲気まである。


 でもこれってたぶん誤解しているよね。


 俺は左手のティファリーゼをぷらぷらと揺らしてみる。

 返事がない。ただの屍のようだ…ってそれじゃダメなんだよ。

 まだ自失から抜けてない。いや、復活しかけたところでバリアにされてまた行っちゃったようだ。

 復活には時間がかかりそうだなあ。


「仕方ない」


 まさかぴよってるご婦人を巻き添えにはできないから彼女を置いていったん空に離脱。


「待ちな!」


 確か天翔ける~とか言う別名がある魔族らしいが、飛行速度は俺の方が速いかな。

 まあ俺の場合は天翔けるではなく天落ちるなんだけどね。


 そしてあまり離れたりもしない。

 ここに来た目的はちび助を探すための手がかりを求めてだからこの魔獣と話ができないと意味がない。


 何とかお茶を濁しているうちにティファリーゼが復帰してくれることを祈ろう。

 そうすりゃ止めてくれるだろ。


「ええい、ちょこまかと変な飛び方を!」


 飛んでねーし、落ちてるだけだし。

 まあ上下左右関係なしに逆さだろうが後ろ向きだろうが飛び回ってしかもグリングリン好きな方に旋回しているから確かに変なではある。


「しかしどうしたもんか…」


 そんなことを思っていたらイアハートの肩あたりでバチバチという光の球。

 その球から一回リングが発生したと思ったらそのリングが収束。


 ごばっ!

 びぃぃぃぃぃぃぃん。


「ビームじゃんか! 荷電粒子砲じゃんか!」


 なんかSF作品に出てきそうな攻撃が来た!

 真っ黒い宇宙要塞みたいなやつ!

 マジか!


 慌てて急加速。地面に向かって全速前進!


 もともと引力がある地面方向の方が加速しやすいんです。

 しかもビームに対して思いきり斥力場を構築して。


 どこーーーーん!


「どわー、マジで地面に突っ込んだ!

 って、待った待った。バリアー!」


 歪曲フィールドを強くして周辺に展開。


 その直後にイアハートからウインドウカッターみたいなやつが。何枚も何枚も重なるようにして飛んできたそれはまるででっかいドリルだった。


 歪曲フィールドに接触したそれはフィールドの特性によって密度を均一化され引き延ばされ、薄められて消滅した。


 でも外れた攻撃で周辺の樹木や地面がずたずただ。


 縦横無尽に空を飛び、カッターを連射してくる大魔獣。

 さすがにビームは簡単には打てないようだ。


 よかった。

 さすがに荷電粒子砲をどこどこ打ち込まれるとたまらないからね。


 ピカッ! ダダンッ!


 とお思っていたら今度は落雷か。

 雷がどこどこ降ってきた。


 ものすごい迫力だった。


 このままではさすがにたまらないな。

 反撃しよう。そうしよう。


 風属性はたぶん効かないかな。


 だったら一番使いやすい…


「【魔光神槍】多弾頭型。いけ!」


 俺の周囲に構築された万能属性のミサイルの群れが次々と打ちあがっていく。

 手加減はしているけど…さあ、どうだ?

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