第83話 俺たちの戦いはこれからだ! みたいな?

第83話 俺たちの戦いはこれからだ! みたいな?


 カンゴームさんのおかげで大金が手に入った。


 まさか瓦礫がこれほどの大金になるとは夢にも思わなかったなあ…

 俺の持っている総量を換金したらいくらだ?

 まあ、その時は値崩れするから計算の意味がないけどね。


「しかし思いがけず生活が安定した」


「はい、金貨二五〇〇枚は大金です」


「確かにこれで狩りに血道を上げる必要がなくなったね」


 そう言ったらネムがちょっと変な顔をした。なんだろ。


 だが金貨二五〇〇枚。一か月のかかりが贅沢に金二〇としても一〇年は遊んで暮らせるお金だ。

 それをポンと出せるんだからカンゴームさんはものすごい鍛冶屋なのかもしれない。

 地球でいえば大企業みたいなやつ。

 いや、人間国宝とかかな?


「さて、これからの活動方針だけど、お金を稼ぐ必要がなくなったので趣味に走って探索してみるとか冒険してみるとかはどうだろう」


 何の気なしにそう言ったらネムががばって顔を上げた。


「それって生活のための狩りはしなくていいから魔境を探索しようってことですか?」


「うん、そうそう、そういうこと。もともと無理する気はないんだけどね。毎日毎日ネズミと兎ばかりじゃね。なんつうの? ロマンが足りない?」


「はい、私もそう思います。もっと冒険したいですよね」


 笑顔が輝いている。

 そうか、俺が大金を手に入れて冒険者活動をやめないか心配していたのか。

 ネムちゃんてば狩りとか戦闘とか好きだもんね。


 俺は改めて大魔境を冒険しようといってネムの頭を撫でた。


「えへへっ」


 コテンと頭を預けてくるネム。

 一人ではないというのはいいものだと思う。

 こんな異世界の知る人もないところでは、なおさらそう思う。


 だからネムの願いもできるだけかなえてあげたいと思うのだ。


 それに冒険は望むところだよね。


 確かに俺は大金を手に入れた。

 この屋敷を維持していくのも一先ずは心配ないだろう。


 なら働かなくてもいいか? とは俺は思わない。


 地球にいるとき俺はまっとうに働いていた。

 生活のためだ。生活するためには誰だって働かないといけない。


 でももし一生働かなくてよいだけのお金があったら?

 それでもたぶんなにがしか働くのだと思う。


 お金があればなおのことね。


 貧すれば鈍すという言葉があるけど、お金がないと、つまり選択肢がないと働きたくても働けないというのがあるんだよね。


 もし地球で潤沢なお金があったら俺は趣味に走った仕事をしたと思う。

 エアガンを扱うお店とか、プラモにこだわったお店とか、あるいはそういうものにこだわった喫茶店とか。

 それで暮らしていかなければならないというのでなければできることは無限だ。


 親が死んだとき一時期引きこもりかけたがあれは逃避だ。

 現実逃避だ。

 仮想現実にしか居場所がないというのはとても悲しい。

 だってその先には破滅しかないんだから。


 だからお金があっても働くだろう。採算を度外視するというぜいたくさで。


 つまりいま、おれはそれを許される環境にいるということだ。


 なら趣味に走るか? というとそうではない。


 この世界でならやらないといけないことはあるのだ。


 例えば力をつけること。


 依然フレデリカさんと話した、ちょっかいをかけてくるヤツがいてもはねのけられる力。それを身につけることだ。


 今回のカンゴームさんのこともそうだ。

 持っているものが所詮は瓦礫で、売り飛ばしたところで痛くもかゆくもないものだからよかったが、これが貴重なもので、『売らない』なんてことになったらトラブルになったかもしれない。

 そして町の名士であり、世界的に有名な鍛冶士であるカンゴームさんは、喧嘩をするには分の悪い相手といえる。


 その意味でもちゃんと取引ができたのはよかったな。できれば恩を売っておきたいところだ。


 ほかにも物理的な力も必要だし、冒険者としてのランクアップも必要だ。

 できることは増やさないといけないし、作れるものは作らないといけない。


 と、このようにやらねばならないことはまだ山積みだ。


 その意味で、生活に追われることがなくなったというのは実にありがたいことなのだ。

 生活に余裕があってスキルアップに時間が使えるようなものだからね。


 ふと気が付けばうちのお姫様が潤んだ目で見つめている。


 ふと気が付けは左手にやわやわと素敵な感触…

 いかん。無意識に揉んでいた。

 どうりで幸せな…


「ふっ」


 ニヒルかどうかわからないがちょっと笑って俺は男の、もう一つの戦いに身を投じる。こうなった以上、戦うしかないのだ。

 男だから。


 俺はネムを寝室に運び込んで、大切な戦いに身を投じたのだった。


 ◆・◆・◆


「旦那様、お客様がお見えです」


 セバスが来客を継げたのは翌朝遅い朝食を取り終えて少しした頃だ。


 いろいろ頑張った結果ネムはつやつやになって、俺たちは寝坊した。

 精神的なものだけじゃなく充実感がいい。


 エッチの時には愛撫に乗せてネムの魔力の流れをよくするようにマッサージもしているのだ。これがかなり気持ちがいいらしい。

 そのおかげでHの後のネムは絶好調なのだ。


 俺も絶倫リングを体験した後魔力循環を精力強化に使えることを理解したのでこの程度でやつれたりしない。


「どなたです?」


 と答えたのはネムだ。

 彼女がここの女主人なのでこういうのを仕切るのはネムなのだ。


「学生の方でトリンシア様、マーヤ様と名乗っておいでです。以前お助けいただいたとか」


 ふむ。


 俺は話を聞いて魔力視を玄関に向ける。

 間違いなくあの二人だな。


「お通ししてください」


「承知しました」


 といってもこの部屋に通されるわけではない。

 ここは居間だからね。

 応接室にお通しして、そこに俺たちが行くのだ。

 もちろん着替えて。だらしない(ってほどじゃないけど)室内着はダメなんだって。


 そんで「やあ」といって会いに行ったら。


「お願いします。私たちとパーティー組んでください」


 って言われた。

 どゆこと?


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