第84話 閑話 その後の幼女 旅立ち?
第84話 閑話 その後の幼女 旅立ち?
オーク魔族の頭を握りつぶしたのは猛禽の爪だった。前足である。
オーク魔族は三mになんなんとする巨体で、豚の頭も相応に大きい。
でもその前足は大きな頭を楽に握りつぶせるほどの大きさがあった。
獅子の体もそれに見合うほど大きく、背中の翼は白く巨大で悠々と羽ばたいて、しかし羽音をさせない。
シッポは猫に似ていて長く、悠々と揺れている。しかも七本も。
顔だけが人間でその老婆の顔は皺深いが整っていて知的。白い鬣はまるで白い髪の毛のよう。
ラウニーと同じ合成獣型の魔物で高位の魔族。
正確な所は知らないけれど一〇〇〇以上年生きているといわれる森の賢者イアハート。天翔ける裂爪イアハート様。
人間たちに追われ、行き場を無くした弱い魔族たちの守護者。
「ばあさん、いきなりすぎるんじゃないのか? われらはお前の保護すべき魔族だろう?」
ウインザルのトトノスが抗議をする。
ただし飛び上がり、逃げながらね。
その抗議をイアハート様は悠然と笑い飛ばした。
「何を寝ぼけたことを言ってるんだい。私が保護しているのは虐げられた魔族たちであって、お前のように強者ごっこをしたがるやつじゃないよ。
他では生きていけないチビたちを保護しているんだ。
お前みたいな力のあるやつを置いておいてやるのはチビたちを守るのに役に立つと思ったからだよ。
私の保護してるチビを攻撃するんならお前も私の敵なんだかね」
「いや、待ってくれ。
それは誤解だ」
ばっさぱっさと激しい音を響かせながらトトノスがイアハート様の周りを飛び回り弁解する。
「こいつはそのガキが同じ魔族を殺したから…」
「黙りな!!」
まさに雷のような声でした。
空気までもががビリビリと震え。ラウニーはもちろんロッキやニーニセアも固まって震えている。
すごい覇気ですね。
「私が森の出来事を把握していないとでも思っているのかい?
お前たちは人間に対抗できるだけの力があるくせにこの森に住み着いた。
この森が安全だったからだろう。
それ自体はいいさね。さっきも行ったように弱い者の盾になるならね。
だけどお前たちの目的は私を盾にして自分たちが楽をするためだ。
それでも役に立つならと見逃してやってたがね、チビ達の物を盗もうだの、自爆したくせに腹いせにチビたちを攻撃するだの、もう見逃しては置けないね」
どうやらイアハート様はすべてを知っているみたいですね。
トトノスは黙ってイアハート様の周りを飛び回り、悔し気に…
いえ、これは…
「あっ、バカ」
つい声が出てしまった。
それほど無謀に見えのよ。
つまりトトノスはイアハート様に襲い掛かったの。
轟と風が鳴り、渦を巻き、細い錐もみ状の槍になる。
空中をのたうつ蛇のような十数本の槍。
槍を引き連れ高速で突っ込んでくるトトノス。
トトノスの前爪が翻り、槍が突き抜ける。
「「「ああっ」」」
一瞬イアハート様が攻撃を受けたように見えたけどそれは残像だったみたい。
トトノスは何の手ごたえも感じられずきょろきょろ。槍も目標を見失って崩れていく。
その瞬間血が舞った。
「ぐあっあぁぁっ」
「おや、手加減しすぎたかね」
えっと、何があったのかしら?
いつの間にかイアハート様は移動しているし、何か攻撃したような様子もなかったのにいきなりトトノスが切り裂かれたわ。
「うおぉぉぉぉぉっ」
トトノスはその瞬間逃走に転じた。いい判断だと思う。そのまま戦っていても絶対に勝てないでしょうから。
ただ逃げ方がひどいわね。
自分に味方した魔族、魔物たちの中に突っ込み、手当たり次第にイアハート様に向かって投げつける。その過程で少なくない数の魔物が切り裂かれて死んでしまった。
それでも残った魔族はトトノスを追いかけていく。
鳥頭も馬鹿頭も。
ここに残ってもイアハート様に殺される。とか思ったのかもしれない。
たぶんそんなことにはならないんだけど。
「大丈夫だったかい、チビすけ」
「あい、やっ、あい」
地に降り立ったイアハート様はラウニーのそばに降り立つとその自在に動く猫の尻尾でラウニーの頭をなでる。
この七本のしっぽはまるで手のように動くみたい。
ラウニーを優しく持ち上げ、自分の背中に運ぶイアハート様。
ほかにも隠れていたまだ幼い魔族、力のない魔族たちも出てきた。
この方は普段は本当に子供好きのおばあちゃんなのだ。
「まあ、なんだ。ここで静かに暮らす分には構わんさ」
私たち年長の魔族にそういうとイアハート様は森の奥に帰っていった。
いきなりの登場だったけど、一件落着かな。
私たちはここで、遠くから見守ってくれるイアハート様の森で子供達を育てていく。
もう乱暴者が森に住み着くことはないだろう。
少なくともしばらくの間は。
私はほっと息をついた。
◆・◆・◆
と思ったら少ししてイアハート様が帰ってきました。
やっぱり子供たちと暮らすことにしたんですって。
私たちはイアハート様のそばで子供たちを守って暮らしている。
今回の直接の被害者であるラウニーはイアハート様に魔石をもらった。
あのオーク魔族の魔石を強化したもので、強い守りの術がかけられているらしい。
「この子は珍しい子だからね。無事に育ってくれるといいけど」
とはイアハート様にのお言葉だ。
安心して子供たちを育てられるのはいいことだとおもう。
イアハート様がリーダーで、その下で私とロッキとニーニセアが補佐でここを切り盛りしている。
ラウニーを含め魔族として立派に育ちそうな子が四人。
食料も安定しているし、焼肉のタレとかいうものもイアハート様の知恵を借りて手に入れる方法が判明した。
さすが賢者。
人間の世界のことにも詳しいみたい。
そのついでに人間の世界のいろいろ珍しいものも手に入るようになった。
穏やかな時が流れた…このままずっと…
◆・◆・◆
なんて思っていたらラウニーがいなくなった。
「やっ、にーに、うんばっ。るぱ」
手紙が残ってました。
「よう、これってなんて書いてあるんだ?」
基本的にラウニーの字は読めません。まるで落書きだから。
でも込められた魔力というか思いから類推はできる。
「たぶん『にーにを探しに行きます。心配しないでください』って書いてあるのよ」
「あのばっか」
「やれやれ、仕方ないね、探しに行くしかあるまいよ」
イアハート様の決定で私がラウニーを連れ戻しに行くことになったわ。完全に人間に化けられるのがイアハート様を除くと私だけだから。
「全くもう、あの子はやんちゃなんだから!」
でも人間に世界は危ないから早く見つけてあげないとね。
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