第78話 閑話 その後の幼女 言いがかり
第78話 閑話 その後の幼女 言いがかり
アタイはオーガの魔族、ロッキだ。
魔族といってもやっとまともな知性を獲得したばかりではっきり言って弱い…と思う。
だからここにいるわけだけど、仲間とかできてここは居心地がいい。
特にちびのラウニーに懐かれるのはいい。かわいいのだ。
そのラウニーから魔石を取り上げてガリッとかじった豚の頭が消し飛んだ。
魔石ってのは力の塊だから噛むとボンってなるんだよな。
ほんとはあれって少しずつ舐めたりしゃぶったりしないといけないんだぜ。いきなり取りすぎると腹壊すんだ。
まあ、噛むとバチバチ感が楽しくてついかんじゃうのもわからなくもないんだけど、魔石が強すぎるとボンってなるんだ。
だからこいつらそろって馬鹿だな。
馬鹿は死ななきゃ治らないっていうらしい、でも死んだらただの死体だな。
にしてもあの魔石は何だろ。
魔族って丈夫なんだよ。
確かにボンってなるけど、死んじゃうやつは少ない。
あの豚はそこそこ強かったはずだ。
しかもあいつら豚って食い意地張っているから大概のものは食えるんだ。
なのに一発でボンって…
どんだけ力の塊なんだ?
そりゃラウニーがめっちゃ強くなるはずだぜ。
「あう~~~っ、にーや…たまー」
そのラウニーだがめっちゃ泣いてた。
うずくまって丸まって泣いてた。
ラウニーはいい子で私たちにいいものはみんな分けてくれるけど、それでもとても大事にしていたんだ。
当然だな。
なんかむかむかしてきたぞ。
吹っ飛ばしてやるーーーってもう、死んでら…どないすべ。
「何だ今のは!」
そんなことを考えていたら親玉が出てきた。
ぶっとんた豚と同じオーク魔族で、こいつはかなり上位のオークロードだ。
三メートルぐらいあってかなり強い。
あとはウインザルだな。巨大なサルの体に猛禽の翼、爪。
こいつらはこの森で暮らしている魔族の、その中の乱暴なやつらの親玉だ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ、ローゼンマイヤー! なぜだ。何があった」
豚が豚の死体に取りすがって泣きわめく。
この豚ローゼンマイヤーって、そんな名前だったのかい?
「名前負け」
ニーニセアがつぶやく。全く同意で激しく頷く。
「貴様らか、貴様らがローゼンマイヤーを殺したのか!」
「いや、かつてに死んだんだよ」
「許せん、俺の…たくさんいる弟の一人だったのに!」
なんだよそれ。
「いやいや、違うんだな。こいつはラウニーの持ってた魔石を食べて死んだんだな」
「え? そうだったのか?」
意外なことに馬鹿がまっとうなことを言って割って入った。鳥はどうでもいいや。
「つまりこのガキがローゼンマイヤーに毒を盛ったんだな。許せん!」
この野郎人の話を全然聞いてねえ。
「豚はバカだもの」
それは本当の豚に失礼だぞニーニセア。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉっ」
どうしようかと思っていたら豚が大声を上げた。
こいつはロードだから統率ができるんだった。
あっという間に森の魔族や魔族未満のやつらが集まってくる。
そして寄ってたかってプレッシャーをかけてくる。
「事情は分かった」
全然わかってない。
「その餓鬼を引き渡せ、仲間を殺すような奴を野放しにはできねえ!」
「お前はアホ、悪いのは豚」
状況はよくないね。
この豚が『統率』を持っているから周りの魔族はみんなこいつの手下みたいなもんだ。
じりじりと包囲網が縮まって…ドペッとこけた。
「ざまあ」
ニーニセアが糸で何かやったな。
だけどそれが戦いの火ぶたをきっと落とした。
そこからは完全な殴り合いだ。
ラウニーを後ろにかばってアタイとニーニセアが壁になって寄ってくるやつらをぶんなぐる。乱戦だ。
「あう」
「どうした?」
「足もげた」
クモだからな、足とか割と簡単に取れるんだ。
「何やってやがる! お前らもいけ!」
「おおー、まかせろ~、よくわからんけど!」
鳥が飛び込んできた。
「え? あれ? そう言こと?」
馬鹿も飛び込んできた。
こいつら本当に馬鹿だな。いつの間にか向こうに取り込まれてる。
でも力は強いんだよな。
「ぎゃふ」
ああーっニーニセアがやられた。
「にゃーにゃーにゃー!」
ラウニーがものすごく泣いている。倒れたニーニセアに取りすがって守ろうとしている。くそう。なんていい子なんだ。
「このやろ、小さい子を泣かせるな!」
でも多勢に無勢だ。
アタイ一人じゃ壁になりきれない、その隙をついてバカ二人組がラウニーにつかみかかる。
「ぎゃはははっ、正義は勝つのだ『バキ!』ーーーーあーーーーーーーっ」
あっ、鳥が飛んでった。
いいのか鳥だから。
「よかった。間に合った。お財布忘れて正解」
おー、ティファリーゼの登場だ。
あー、そうだった、こいつは微妙にドジなんだ。でも助かったよ。
◆・◆・◆
なんてことでしょ。私が買い物に出た隙をついてこんな騒ぎを起こすなんて。
しかも寄ってたかってラウニーをいじめるなんて。
この森は力の弱い魔族がかを寄せ合って生きている森なのに…。
途中で人間の町で物を手に入れるためにはお金が必要なことを思い出して戻ってきたのは実に運がよかったよ。
お金は結構あるのよ。
この森にも一角千金を狙って冒険者が突撃してきたりするから。
冒険者って素敵よね。私たちにお金とか武器とは服とか持ってきてくれるから。
しかも本人はお肉にクラスチェンジして栄養になる。
まあ、ラウニーにあんなバッチいものは食べさせないけどね。
ほとんど豚どもの独り占めだから。
「さあ、私が来たからには好き勝手にはさせないわ」
はっきり言って私は強い。結構。
豚よりは強い。
一対一なら負けないわ。
「トトノス、こいつは厄介だ、二人がかりでやるぞ」
あっ、ずるい。
「ふむ、まあ、雑魚と戦うのは面白くないから傍観していたが、まあこいつならいいだろう。
しかも結構いい感じで育っているな。
手足を食った後、子供を産ませるのに使ってもいいだろう」
「おお、そいつは名案だ。魔族はもっと数を増やさないとな」
あっ、やだ。豚のイチモツが話だけでおっきしたわ。
ああいうのは教育のためにもラウニーに見せたくないんだけど…
それにこいつらの子供を産むのはぜったにお断りなんだけど…
だけどちょっと分が悪いかな。
豚はパワーがあって、でっかい武器を振り回して襲ってくる。
カラスは飛び回って爪でつかみかかってくる。
私は種族的に防御力高いんだけど、それでも少しづつ傷付いてしまうわ。
「ふぃー。がんば」
ラウニーも頑張っている。
結界みたいなドームが発生してほかの魔族の侵入を阻止しているわ。
傷付いたニーニセアを守って奮闘している。
本当にいい子だ。
それをこんなバカに!
「ロッキ、変身を解くからそのすきに逃げて」
「おい、大丈夫か? 力足りるのか?」
「大丈夫、何とかなるわ」
ラウニーが少しずつ分けてくれていたあの力があれば、少しの間なら全力が出せるはず。
命がけだけど…あとのことはロッキに頼むしかない。
「行きます!」
「させるかーーーーっ!」
と豚が叫んだ瞬間、グシャッと音がした。
突っ込んできていたカラスも急旋回で逃げている。
そして上からものすごい圧力がのしかかる。
「あんたたち、好き勝手やるのはしこまでにしな!!」
上から私たちを睥睨する巨大な魔物。高位の魔族。
獅子の体。鷲の前足。巨大な翼。そして眼光鋭い老婆の顔。
豚の頭を簡単に握りつぶした森の主がそこにいた。
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