第79話 最初は近場から

 第79話 最初は近場から


 というわけで大魔境に出発。

 目的地は以前ゴルディオンの加工に使ったあたり、ちょっと距離があるのでとりあえず一泊のキャンプのつもりで行きましょう。

 町からは距離があるわけだけど、深い位置ではないし、てごろな狩場といえるかもしれない。

 

 なので今回は貸しラプトルを駆りてみました。


「気持ちいいですね」


「うん、なかなか快調だね」


 ラプトルというと恐竜みたいな聞こえるが現物は飛べない鳥といっていいものだ。

 小型のノーミンラプトルは荷車を引いたり、荷物を担いだりという使われ方をするのだが、人間が乗れるぐらいでかいやつもいる。


 トムラプトルというやつだ。やさぐれラプトル。


 騎獣として使われる最も一般的な強鳥ラプトルで単なる移動用の個体から、訓練された戦闘用の個体まで幅広い。

 このタイプの進化種や変異種などもいて愛好家も多いらしい。


 レンタル用のラプトルは騎乗用に調教されたもので、しかもレンタルショップのプライドなのかなんなのか、大変毛並み(?)もよく、さわさわもふもふでイイカンジである。


 最高速度は六〇km/時ぐらいで、巡航速度は二〇kmぐらい。巡航速度なら数時間走り続けても平気というタフな鳥さんだ。


 魔動車はもっと早かったけど、生き物に騎乗して風を切って走るとなかなかにそう快感がいい。


 ネムとならんで蛇行したり、スピードを上げたり。


「でもちょっと疲れたでしょうか?」


「ふむ、ならば…回復!」


 くえぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!


「わっ、元気になったです。すごい」


 疲れた感じのラプトルに回復の魔法をかけたらすごく元気になった。

 魔法は大変便利なものだ。


「すごいですね、確かに疲れた騎獣にヒールをかけるという話は聞いたことがありますけど…うーん、でも気休め程度に回復する…という話だったような…

 聞き間違いかしら…」


「それはたぶん魔法が違うんだよ。この魔法は【回復】であって【ヒール】じゃないから」


「そうなんですね。さすがです。マリオン様」


 嫁に尊敬されるのはいい、とてもいい。

 まあほどほどにしないとあとが怖いけど…


 そんな旅路で三時間。

 魔境に沿って西進する形だけどもここまで離れると同業者にあうことはめったにない。 

 そして俺たちは目的の川のほとりにたどり着いた。


 いつかは魔境の奥に行ってみたいけど、お試しということならまずはこんなものだろう。


 ◆・◆・◆


 すぐにテントを設営する。


 テントには魔よけのにおい袋を設置する。

 これでテントの周辺には魔物が嫌うにおいが立ち込めるわけだ。


 基本的にいいにおい系の物をチョイスして買ってきたが、この手のアイテムは基本的に臭い。

 いいにおいなのに臭いとはこれいかに。

 臭いが強すぎるんだよね、いいにおいでも強くなりすぎれば悪臭だ。


 人間でもちょっときついので獣人のネムにはつらいみたい。鼻にしわが寄っている。かわいそうに。


 これは何か考えないといけないと思う。


 だが今は狩りだ。

 狩りをしないといけない。


 俺はライフルを構えて周囲の獲物を撃っていく。

 俺が獲物を撃つとネムが走り出して倒れた獲物にとどめを刺して回収してくれる。

 虎なのにわんこみたいに働いてくれている。かわいいのだ。


 相変わらずライフルのビームは威力が弱めで、当たり所がよくないと一発で獲物をしとめるというところまではいけないのだ。

 だからとどめ要因としてネムが活躍する羽目になる。

 ごめんね。


「そんなことありませんよ。魔法が撃てるなんてすごいアーティファクトです。それにマリオン様の索敵能力もすごいです」


 俺はネムの言葉にはっとした。

 俺のライフルは魔力粒子を撃ちだすもので魔法を撃つものではない。

 ないのだが、これってあの地下施設で“あいつ”が手を入れたから魔法を撃てるようになっていたんだよね。

 使い勝手の関係であまり使わなくて、使わなくているうちにただのビームライフルになってしまっていたのだ。


 それに最初のころは攻撃魔法である二つ、【天より降り注ぐもの】と【地より沸き立つもの】がどんな魔法がいまいちわからなかったからね。


 だが今はそれが分かる。

 ふうむ、やってみるか…


「【天より降り注ぐもの】よあれ」


 俺は術式をイメージし、ライフルのマガジンの中で魔法を展開する。

 これでこの銃のビームはあの黒い雨と同じ性質を持ったはず。


「ネム、危ないかもしれないからちょっと下がってね、あと確認は一緒に行くから」


 俺は目に力を入れ周囲を観察する。

 意識すると俺の目は――目じゃないかもしれないが――魔力を優位にしてものを知覚する。

 森の中でもいろいろな魔力が見えるものだ。

 気には木の魔力が、生き物には生き物の魔力が、そして魔物には魔物の魔力が。

 もっと言えば生き物ごとに固有の魔力を持っている。


 なので森を見回せばそこに生き物がいることが分かるし、よく見ればそれがどんな生き物なのか、過去に見たことのある者であれば把握できる。

 さらに知覚を集中させればピンポイントでその生き物を精密に観測できる。


 障害物などで変動するので一概に言えないがこの使く能力は圧倒的なアドバンテージだ。


 俺は知覚範囲の中から

 おなじみ一角ラビを選んで狙撃する。


 ぱうっ!


 一条のビームが走った、漆黒の闇のようなビームだ。

 それが一角ラビを貫く。


 いつもならこれで怪我によって弱った一角ラビがよたよたと逃げようとして、それをネムが強襲してとどめというのがパターンなんだけど、今度は少し違った。


 撃たれた一角ラビは確かにビームが当たったのにそれが分からないかのように不安げにきょろきょろしていた。

 だがすぐにビクンとなって、まるで心臓麻痺でも起こしたかのように倒れて動かなくなってしまったのだ。


 それは俺の目には魔法と同じ現象に見えた。

 あれは【死】だ。

 黒いビームは死と闇だ。

 死に貫かれた一角ラビは文字通り死んだのだ。ただ死んだのだ。


 ネムと一緒に入っていって確認。確かに死んでいた。


「死をもたらす魔法は、死をもたらすビームとなった…」


 まるで魔弾だ。さしずめ俺は魔弾の射手。

 なんかかっこいい。


 込めた魔法は少し時間がたつとほぐれて崩れてしまう。それと同時に属性も元のニュートラルに戻るのだ。


 俺は二つの魔法を交互に切り替えながら狩りをつづけた。

 そして一つの重要な事実に気が付くことになる。


 ◆・◆・◆


 さすがに日が暮れて、まあ明るさは関係ないけど夜は休む時間なのでテントに入ったのだが、異変はすぐにやってきた。


 あおーーーーんっ!


「わんこか?」


「狼ですね」


 うーむ、こうしてみるとミルテアさんの結界は偉大だった。

 どんな魔法も観測できれば再現できると思うんだけど、神聖魔法はね、あれは神様的な奇跡だらか術式とよくわからん~。


「狼は鼻がいいですから魔物除けでさけられます。問題ありませんよ」


 なるほど…と思ったのだが…


 がうがうっ。

 わおーん。

 わふわふっ。

 ばうわうっ。


「ちょっとうるさすぎます」


 ネムが切れた。

 ただでさえ臭いので参っている所にずっとワンワンニャーニャーだ…いや、にゃーにゃ―はないか。


「ちょっと行ってたたき切ってきます」


 ばっとテントの入り口をはねのけ!


「いやーん」


 すぐに戻ってきた。

 狼の数は実に30匹ぐらいいたのだ。


「すっごい数だなあ…」


「えっと、なんででしょうか? 餌でも不足しているんですかね?」


「あー、つまりあれか、魔物除けは嫌だがどうしても獲物が必要だから立ち去ることもできないと…」


「昼間ちょっと獲物を捕りすぎたかもしれません」


 ああ、なるほど、そうつながるのか。


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