第77話 今、求められるもの

 第77話 今、求められるもの。


 結局のところ俺たちは男の子二人、女の子二人を雇うことにした。


 ウチの規模だとちょっと多いのだが、あくまでもちょっと。十分許容範囲だというからいいだろ。

 なんといっても一〇歳前の子供達だ。少しでも応援になるならその方がいい。


 孤児院の方にもなにがしか、と思わなくもないが、収入がどのレベルで安定するかまだ分からないから無理はできない。

 落ち着くまで持ってもらおうと思う。


 さてこの四人だが男の子はセバスの下で雑用をする。


 庭などは専門の庭師などを呼んで定期的に整えるらしいが、普段は彼らが草むしりとか軽い剪定などをセバスに教わりながらすることになるようだ。

 ほかにもいろいろ仕事はあり、ほとんど何でも屋の様相を呈している。

 執事というのはそういう仕事らしい。

 つまり彼らは執事を目指して修行するということだ。


 女の子二人はメイド見習いになる。


 先輩二人にくっついて、手伝いをしながら仕事を覚える。執事ほどではないがこちらもいろいろできないといけないようだ。

 掃除、洗濯、料理、着付け、もろもろ…

 頑張ってほしい。


 こうして仕事をしながら手に職をつけて将来的には仕事のできる大人になっていくのだろう。


 そして彼らの給料だがこれは何と無しだった。


 衣食住を面倒見る代わりに働くわけだが、仕事を教わるという側面もある。

 徒弟制度のようなもので、見習いに給料などはない。


 十六歳で成人なので、そこまで勤めたら一人前として以降は給料が発生するようになるらしい。

 それまでは無給。


 でもそれだと面白くないだろうから毎月少しばかり小遣いを渡すことにした。

 銅貨五枚ぐらいだから本当に小遣いなんだが、それでも破格らしい。

 まあ、小学生のお小遣いと思えばこんなものだろう。


 あと、月に二日ほど休みを与えることにした。


 これはセバス達も同様だ。

 ちょっとした息抜きに使ってほしい。


 この世界って休日っていうのはないんだよね。

 というか仕事と生活と休みの区別がついていないのだ。


 仕事の中で余裕があれば休憩するし、例えばウチの場合などは俺たちが仕事に出ていれば仕事は減るわけだ。

 毎日の家事や雑用が終わればそれ以外にやることのない日もあるし、あるいは客が来てすごく忙しい時もある。

 そんな日常があって、普段はあまりハードにはならないようだ。


 あと冠婚葬祭とかには別途休みが取れるのが普通だし、盆、暮れ、正月のような特別な日には少しまとまった休みがもらえるのが普通らしい。

 そこらへんはネムやセバスと相談してやっていくしかないな。


 俺としては公私はちゃんと分けてないと気持ちが悪いのだが、この世界の人たちにはそれは理解してもらえない。

 まあ、冒険者だって似たようなものだ。

 適当に働いて余裕があれば、あるいは疲れたら休みにする。そんな生き方。


 自分でやるとあまり気にならないけど人がやってるとどうも落ち着かないというのは何だろうね。


 しかし一つだけわかっていることは、俺が働かないと彼らの給料がなくなってしまうということだ。

 なんとなくフレデリカさんあたりが喜んで肩代わりしてくれそうな気がするがそれは危ない。

 なんかいろいろ危ない。


 俺は庭でチョロチョロ元気に働く子供達を見てそろそろ働くか。なんて考えていた。


 ◆・◆・◆


 さて、冒険者が働くといえば冒険者ギルドである。

 だがこんな時間に来て条件のいい依頼が残っているはずもなかった…


「えへへ、そうですね。さすがに無理ですよ」


 依頼啓示版を見ていた俺たちに声をかけてきたのはギルドの職員のお嬢さんだった。


「こんにちはサリーちゃん。何かいい依頼ありませんか?」


「うーん、残念ながら」


 ネムがその受付さんと仲良く話している。


「今回のワイバーン討伐戦の時に仲良くなったんです。新人さんで、サリーちゃんです。でもなかなかできる子ですよ」


 ということらしい。


 俺も冒険者になって日が浅いので知らなかったのだが、依頼というのは緊急以外は依頼が持ち込まれた翌日の朝いちばんに張り出されるものだったのだ。


 朝六時に一の鐘が鳴り、八時に二の鐘が鳴る。

 この二の鐘がギルドのオープンの時間。

 前日のうちに用意された依頼は夜のうちに依頼掲示板に張り出され、朝のうちにギルドのホールに運び込まれる。


 冒険者は入り口の前にたむろして、その時をいつかいつかと待ちわびる。そして二の鐘とともにギルドの鍵が開き、それと同時に冒険者がギルドになだれ込み我先にとよい依頼を奪い合う。

 これが冒険者ギルドの朝の風景だそうな。


 うわー、かかわりたくねえ…

 まあ、そんなことも行ってもいられないんだが…


「でも裏技的なものもあるんですよ」


 ?


「つまり『受付嬢に直接聞く』です」


「いいのかそれ?」


「ダメと言えばダメですけどいいといえばいいんです。そもそも…」


 そもそも依頼が張り出されると取り合いになっていい依頼からなくなるのでこの時間、掲示板に残っているのはまあ『ハズレ』と認識されている依頼だ。


 だが受付の人は裏の事情を知っていたりする。


 つまり一見ダメそうな以来でも実はよさげなものとか、まれにあったりするのだ。

 そういうのを受付さんと仲良くなっていると教えてもらえたりするのだ。

 でも今日はなし。


「例えばこっちはお役所なんですけど本当にしみったれで、一日重労働なのに日当やすいんですよ」


 なんか廃材置き場の片付けらしい。


「放っておいても大丈夫なものなの?」


「大丈夫です。どうしようもなくなったら囚人を導入して片付けるでしょうから。それができないようなら最後はもっと依頼料が上がります。

 今受けてはだめです」


 ふむふむ。これも職員ならではの情報だ。


「じゃあこっちは?」


 もう一つの依頼を刺す。こちらは魔物の素材納入で、金額も悪くないのだが…


「ここは商会なんですけどもしみったれで、なんかしゃっか文句をつけて値切ろうとするんですよね。例えば小さなシミがあるとか…

 違法とまでは言えないクレームのつけ方で、結構悪評が広まっているので受ける人がないんです。

 ここも切羽詰まればギルドから高い素材を買うようになるので受けないでもらえると助かります」


 おお、すごい、やり手だ。やり手がおる。


「ということは今日はいい依頼はないってことですか…」


「ところがぎっちょん。実はいい裏情報があるんですよ」


 お前どこの生まれだ。


「なになに? なんなの?」


「ネムさんはあれ知ってますよね、『チャールストン』」


「ん? ああ、あの小豚?」


 ん? こぶた?


「はい、非公式なんですけどあれが手に入らないかという方がいて、何でもお祝いに使いたいとかで…

 一応、知己である高位の冒険者に頼んではいるらしいんですけど…

 でもあれって高位だからって簡単に取れるものじゃないですし、あれ自体がものすごく高価な希少食材ですから、もし取れればそれだけでも儲かりますよ、今ならそのお貴族様が買ってくれますから…たぶん一匹で金貨六〇枚はかたいかと…」


「うーん、それはおいしい情報ですね…でもあれって本当に取れないですよ? わたしだってたぶん難しいし」


 えっと話が見えないんですけど…


「このぐらいの小さな豚なんですよ。背中に羽があって、ものすごく賢くて、ものすごく早く動くんです。

 逃げるときにとても複雑なステップを踏んで、なかなかに小粋なダンスが…」


 むっ、それって見たような記憶が…


「それって、ピンクの羽根つき子豚?」


「はい、そうです。あれおいしいんですよ。ものすごく」


 ネムがよだれ気味に力説している。


「うんうんわかるわかる。すっごくおいしかったよ。焼肉にしたときは本当にくらくらするぐらい美味かった」


 あれだね。あのラミア幼女と一緒に食べた豚。

 いやー、うまかったよね。


「ねえ、マリオン様るどこで食べたんですか?」


 あれれ、いつの間にか空気が重くなっている。


「タ…ターリのそばの森だよ、しとめてその場でバーベキュー、本当は熟成させた方がうまかったのかもしれないけど、まあ、緊急性があったらね」


「その残りってどうしたんですか?」


「いやー、ちょうどおなかをかすせていた幼女がいてさ、その子にせがまれて取ったんだけど、残りは全部お土産に持たせてあげたよ」


「・・・・・・な・・・」


「な?」


「な…で…」


「ん?」


「なんで持ってきてくれないんですかー。あれって私だってめったに食べられないんですよー。食べたかったのに。食べたかったのに、食べたかったのにー」


「そうですよ、なんであげちゃうんですか。大儲けだったのに。ギルドの評価が、私の成績がーーー!」


 えー、ちょっと待って、あれってそれほどの物なの?

 というか君らすごく正直だな。


 その後ぐずるネムをなだめるのにちょっとかかった。

 ネムもわかってはいるんだよね、自分が無茶を言っているって。

 でもそれでも悲しくなるらしい。

 それほどおいしいお肉なんだって…


 うーん、確かにおいしかったけど…それほど騒ぐほどの物だろうか…

 なんて考えたけど俺ってもともと食にはあまりこだわりはなかったよな。


 そこそこ美味しければしければOKで、ボリュウムが大事。そういうスタンスでした。

 おいしいものは好きだけど、どうしてもまた食べたい。と思ったようなものもなかったなそう言えば。


 だからと言って何事にもたんぱくであった。とは思わない。


 オタク趣味とエッチなことには情熱的で研究熱心であったと思う。

 まあ嗜好の問題だろう。


 その後、その貴族様のパーティー関係でお肉類はいま全体的に高騰している。という話をサリーさんは教えてくれた。つまりいまお肉は高く売れるのだ。


 俺はなんとなく納得いかない風のネムの肩を抱いて狩りに向かった。


「大丈夫大丈夫、次、取れたら一緒に食べような」


「ほんとですよ、約束ですよ」


 いやー、すねてるネムもかわいい。

 よーし、全力でなんとかなしようじゃないか!





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 いつも応援ありがとうございます。地道に更新できるのも読者様の応援のおかげです。


 もし面白いと思っていただけたなら応援をお願います。

 出来ましたら★ですとか…

 これが意外とものすごくモチベーション上がるんです。ビックリ。

 なので読者様、そして★をくださった皆様に心からの感謝を。


 また次回もお会いできることを願いつつ、皆様にも祝福が訪れますように。


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