第76話 シアとマーヤ

 第76話 シアとマーヤ


「先日は…その大変あにがとうごじゃ…ございます」


 トリンシアさんが噛んだ。シアちゃんと呼ばれているらしい。

 マーヤさんはマヤちゃんだ。


 孤児院の談話室を借りてとりあえずお話と相成った。

 先日はそれどころではなかったが二人ともかなりの美少女だね。

 かわいい女の子たちだ。


 二人とも同じ構造の服を着ているから制服だろう。

 件の聖騎士養成学園のものだとおもう。


 丈の長いプリーツスカートに丈の長いブラウスのような上着を合わせている。

 この上着の特徴的なところはセーラー服のような襟が付いていることだな。そして全体としてはかわいいよりもかっこいいという印象だ。


 養成校というのは平たく言うと士官学校のようなものだからりりしさが前に出るのは当然なのかもしれない。

 足元は編み上げのブーツで、安全性が高そうである。


 だから先日のような緊急事態の際には駆り出されて実戦に出ることにもなる。

 もちろん命がけで。


 あのワイバーンは迷いが良い方に作用したため被害は小さかったが、それでもこの子はへたをすれば死んでいただろう。


 ただ今の様子を見る限り、なんであんなけがをしたのか…そんなに勇敢には見えないんだけど…


「この女は戦闘になると前に飛び出す。結構無謀」


「ああ、そういう」


 マーヤさんに言わせるとそういうところがあるらしい。

 臆病そうに見えて案外度胸があるのかもしれない。


 さて、そのマーヤさんだが小柄な美少女だ。

 疑惑の美少女。


 彼女は茶色の髪に黒っぽい瞳。

 彫は深くなく、体形もあまりメリハリ少ない。つまり日本人なら見慣れた感じの女の子だ。

 あくまでも少なめであって無いわけではないよ。ウエストは一応あるし、おしりはちゃんと女の子のおしりをしている。

 ん? なんでおしりかって?


 それは俺がおしりが好きだからだ。

 オッパイも好きだがおしりはいい。


 この子のことは前から気になっていた。何というか言動がね。おかしい。

 うん、まあ、これはおいおい。


 そしてもう一人。シアさんは普通の美少女だ。

 身長は普通。マーヤさんよりも頭半分は高いだろう。

 スタイルは細身で、胸は大め。おしりも大きい。実に女性らしいボディーラインだ。


 だからと言って大きすぎるようなことはなく、上から下まで流れるようなラインでかなりきれい。


 特徴的なのが褐色の肌だろう。そして銀の髪。瞳の色は青だ。

 性格はおとなしい子という印象だ。

 今も雰囲気的にマーヤさんの後ろに隠れる感じで恥じらっている。


 二人とも今年十七歳だそうだ。


「今更恥ずかしがらない。もう全部見られている」


「マヤちゃん!」


 マーヤさんはかなりあけすけな性格みたいだ。もしくは仲が良くて遠慮がないのかもしれないね。


「もう、そんなこと言わないでよ。お嫁の貰い手がなくなっちゃうわ」


「もう手遅れ、秘密の花園どころかおなかの中までかき回されて、赤ちゃんの部屋まで全開だった。もう隠せるものなんてない」


 シアさんがどんどん赤くなっていく。

 しかも俺とマーヤさんを見比べながら。


 これは誤解を招いてないか?

 隣でネムが気にしている気配。


「誤解がないように言っておくけどあくまでも医療行為だった。そうしなければ死んでた。でもこの女が、人に見せてはいけないものを全部さらけ出したのも事実。

 女の子の大事なところもマリオンさんの手が入っているからもうマリオンさんにもらってもらうしかない」


 きわめて不穏当な発言だ。あれは本当に医療行為なのに。

 なのにこのセリフでネムがびくりと反応した。

 それに気が付いたのだろう。シアさんがあわあわと否定する。


「あの…それ、医療行為ならノーカウントだよ。それに奥さんに失礼だよ」


 うんうん、良識のある人というのはいいものだ。だがなぜかシアさんが期待するようにネムを見ている。

 そしてネムも。


「いえ、私なら構いませんよ。むしろ歓迎です。マリオン様の奥さんが私一人というのは確かに変ですから」


「え~~~っ」


 と驚いたのは俺だけだった。

 ほかの人はあまり気にしていないようだ。


「一夫多妻制は常識」


 とマーヤさん。


「ええ、そうですね」


 とこれはネム。


 つまりここってハーレム有りなの?


 ◆・◆・◆


 しばらく説明の時間をいただきました。


 先ほどの『ゆとりのある家は人を雇わないといけない』というのと同じで、甲斐性のある男は奥さんを複数持つのがふつうなんだって。

 びっくりだ。


 なぜならこの世界の人間の死亡原因の上位に魔物に襲われて。というのがあるからだ。

 そして魔物に襲われるのはやはり外で働く男が多い。

 結果として人口の比率は女性の方が圧倒的に多くなり、一人の男が複数の奥さんをもらわないとあぶれてしまうのだそうな。


 ただ奥さん一人という男が一番多いというのも事実。なぜならたくさんの女を守っていけるほどの甲斐性を持った男というのも少ないからだ。

 なので甲斐性のある男が数人の奥さんを持つのは当たり前のことらしい。


「それにネムさんは虎系の獣人。だったら奥さん多数はOKのはず」


「ええ、そうですね。うちは普通に奥さん多数ですよね。ハーレムではないんですけど。種族的に」


 よくわからん。と思っていたらシアさんが説明してくれた。


 この世界は奥さん多数OK。これは人族。

 エルフやドワーフは一夫一婦制が普通。これは性差が少なく男も女も同じように外に出るからだ。

 獣族というのはその動物の特徴を引き継いでいるらしい。

 狼とか獅子とかならハーレムを作る。

 狐人なら一夫一婦。

 そんな感じだ。


 で虎はというと一夫多妻制。でもハーレムはなくオスをシェアするような感じらしい。


 つまり大きなオスの縄張りがあって、そのなわばりの中に小さな雌の縄張りがあって、そのオスは自分の縄張りに住むメスを自分の女として守る。みたいな。

 うーん、知らんかった。


 だからネムとしては俺が活動範囲のあちらこちらの町に女を作るのはいいらしい。

 港々に嫁がいるみたいなやつだ。


 もちろん獣族は獣ではなく人なので必ずしもではないが、この世界で生まれた女性は一夫多妻制を当たり前ととらえているらしい。

 まあ、そうでないと結婚もできないみたいだからね。


 ただ俺にはなじまない気がする。


「だからマリオン様もあと何人か奥さんをもらうべきだと思いますよ」


 いやいや、新婚のネムにそんなこと言われてもね…

 ん? 新婚? そうだよ、俺たちは新婚じゃないか。


「まあ、わからなくもないけど(いや、実際は全く分からんけど)ほら、俺たちって新婚でしょ? まだしばらくはネムとイチャイチャしたいなって…それにまだネムのことも開発しきってない気がするし、堪能しきっていない気がするし…(よーし、いい言い訳だ)」


「ああ、確かにそれはそうですよね。私ももっとマリオン様といろいろしたいです(エッチなこと…)」


 最後は俺の耳元にささやくように告げられた。

 いやー、嫁っていいな。いろいろ元気になるよ。

 早く家に帰ってベッドに…ってだめか。


「熱すぎる、新婚は手ごわい」

「ええっと…うらやましいです」


 かくして俺の思惑通りこの話はうやむやになった。


 今だってネムといろいろ、エロエロ楽しいことがいっぱいなのにそんなよその女に手を出している暇なんかない。という感じか?


 ◆・◆・◆ side お嬢さんたち。


「残念。うまくかわされた」


 孤児院から帰り道、私は隣を歩くシアにそうささやいた。


「マーヤちゃん、なんでそんなに私を売り込むの?」


「親友として心配している」


「大丈夫だよ、わたしまだ若いし、焦らなくてもいい男が見つかります」


 シアが自信をもってそうつぶやく。だけど私は否定できる。


「絶対無理」


「なんでよー」


 大声で文句を言うがこればかりは仕方ない。はっきり言ってこの女は男運が悪いと思う。

 このままだとろくでもない男につかまってしまう気がする。


「そんなことないもん」


「そんなことある。前にも言った。あなたはまるで男にレイプされるために生まれてきたような女だと」


 これは私の確信だ。シアは見た目は実に美少女だ。

 はかなげで押せばそれだけで行けてしまいそうなほどたおやかな美少女だ。


 おまけにスタイルもいい。


 一緒にお風呂なんかに入るとその艶めかしいボディラインはうらやましいの一言。男ならこんな女をぜひ手に入れたいと思うだろう。


 なのにこの女は隙が多い。


 ふとした時に露出が多くなったり、くねくねしたときにおっぱいが魅力的に揺れたり、ボディラインのはっきりしたズボンなんかをはくから歩くとおしりが蠱惑的に揺れたりする。


 この女はその自分を見て男が生唾を飲み込んでいることに全く気が付いていない。


 しかも男と女をあまり意識しないから遊びに誘われるとホイホイついていく。


「この間だって私がフォローしなかったらあのまま連れ込まれて処女から男性経験数十人に一気にレベルアップするところだった」


「うう、ああいうのは…めったにないもん」


「普通の女なら一生に一度だってない」


「うううっ」


 毎度毎度こうして注意喚起して、なお隙が多いっていうのは問題がある。

 でも、今日は珍しくシアは自分の『女』を意識していた。

 男の前で自分が『女』なんだと意識していた。

 つまりガードが堅かった。これはよい傾向。


 ガードが堅いとかえってダメだと思うかもしれないけど、逆だと私は思う。


 あのマリオンさんの前ではシアは女で、シアにとってあのマリオンさんは『男』だった。


 つまりシアはあのマリオンさんを『セックスの対象』として意識していた。


「つまりあなたはマリオンさんに犯されたがっている」


「そそそそそそんなこと!」


 うん、この反応でさらに確信した。


「あなたはあの人と結ばれないと絶対に幸せになれない。シアが幸せになるための条件はあの人とのセックス。それだけ」


 シアがズガビーンと衝撃を受けた。漫画なら背景が雷だ。

 できればマーヤちゃん恐ろしい子とか言ってほしい。

 無理か。


「でででも、私の家は一応貴族だし、私後継ぎだし…お嫁さんのいる人をお婿に来てもらうとか無理だし」


「だから一夫多妻制。あなたの母親も未婚の母。跡継ぎを作るために結婚せずに気に入った男と子供だけ作った。

 ネムさんのことを考えればあなたがターリの町の現地妻になるのは難しくない」


「でもそんな…ああ、でも…」


「グダグダ言っていると私がもらう。私もあの男にならぶち込まれてもいい。私が先に犯られたらあなたの出番はない」


「うっ」


 シアがよろめいた。落ちたな。


「大丈夫、まだ時間はある。あの人は犯れるからといって簡単に女に手を出したりしない。でも一緒に活動していて情がうつれは見捨てたりできない。そういう人。やりようはある。

 とりあえず…今度のあれを利用する」


「あれ?」


「そう、パーティー結成あれ


 ◆・◆・◆


「はっくしょん!」


「マリオン様。大丈夫ですか」


「ああ、大丈夫。ちょっと寒気が…」


 なんだべ?

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