第75話 大地母神殿
第75話 大地母神殿
大地母神殿とは何か?
大地母神ステルアを奉った神殿である。
当たり前か。
ではどういう信仰なのかというとステルアは大地の恵みをもたらす女神さまだ。
なので農民や、猟師などに多くの大地にかかわる人に信仰されている。
だがそれだけではない。
命を生み出す女神、みんなの母。産土神ということでもあり、子供たちの守護神でもある。
なので孤児院などがしっかりと整備されているし、命つながりで治療院などもあったりする。
人を雇うという話が出たとき。
「だったら、うちの子供達を使ってくれないかしら~」
というのがミルテアさんの提案だった。この孤児院の子供達のことだ。
さて、どういう場所かというと、最初に通りがかったときに森のようなものが見えて、その奥に神殿があるという話を聞いたのだが、中にはいってみると…
『神殿いうより神社?』
という印象を受ける。
町の中にそれなりの広さを持った森があり、そこが神殿の神域として機能していて、そこに各施設が配置されている。
建物自体はこの国風の石造りに見える建物なのだが、なんというか配置が日本風で、参道があって、拝殿があって本殿があって、神楽殿とか社務所があってと、いろいろなものが配置されているわけだ。
なので建物の構造を除けば神社に見えるのだ。
神社はあまり行ったことはないのだけれどね。こんな雰囲気だったように思う。
そしてこの神社。表と奥の二つに分かれている。
現在俺たちがいるののは表向きと呼ばれるところで、ここは神殿に用のある人ならだれでも入れるエリアだ。
対して奥向きは男子禁制になるらしい。
なぜかというとこれも女神の属性によるものだ。
女神ステルアは女性の守護神という側面も持っている。
なのでココで働く神官さんそのほかは全部女性だったりするのだ。
言ってみれば尼寺が近いだろう。
当然のように駆け込み寺のような機能も持っていて、どんな境遇の女性もここに助けを求めれば必ず守ってもらえる。ということらしい。
「でも無条件じゃありませんよ、そのあと世俗にかかわらないというのが条件になります」
ということらしい。
普通の神官さんは結婚もするし、子供も産む、つまりエッチもありなのだが、駆け込んできた女性はそういうものと完全に縁を切るのが条件になるらしい。
その代わり借金で売られた女性であれ、貴族に囲われていた女性であれ、必ず守る。そういうところだ。
なので奥向きは当然に男子禁制。
で、孤児院はというとこの境界線に在ったりする。
ここまでは男も入ってよし。
で、その子供達だが現在は一五〇人ほどいるらしい。
「これって多いのかな?」
「うーん、こんなものだと思いますよ、ここでは貴族に子供たちの保護とかが義務付けられていますし、他の神殿でも孤児院はあります。
それに子供は親が育てるのが普通ですから」
そうか、親は結構まともに子供を育てているのか…
俺はもっとすごく多いのかと思っていた。
今まで見聞きした限りだと冒険者というのは数が多い。
そして刹那的なものも多くてお構いなしに子供を作っているような奴も見かけた。
で冒険者は死亡率が高い。
となると子供はあふれるのでは?
という気もするのだが。
「そうですね、村単位だと村で子供を育てますし、子供を捨てる親はあまりいませんから」
ふーん、そういうのを聞くと、なんか日本よりましなように思える不思議。
とりあえず孤児院に行ってみよう。
◆・◆・◆
さて、この国のいいところは日本的な文化があるところだとおもう。
どこがというと畳がということになる。
建物がしっかりしていれば寝るときは畳に布団を敷いてみんなで寝られるので収容人数がでかい。
食堂とかも別に作る必要はないのだ。
その部屋に折り畳み式のテーブルを出せばいい。
つまり大部屋文化だ。
ミルテアさんは建物に入るなり、子供たちにもみくちゃにされていた。
ネムも人気者だ。
ここにも獣族の子供はいて、ネムの白い虎シッポとかは珍しいらしく、揺れるシッポを小さい子供たちが追いかけている。
俺はと言えばなぜかと棒倒しの棒のようになってしまっている。
泣いている幼児を抱き上げて肩に担いだのがきっかけらしい。他の小さい子供たちがわらわらと寄ってきて俺に登り始めた。
最初はおっかなびっくりの感もあったが、怒られたりしないと分かったとたんに蟻のようにたかってきた。
まあいいけどね。
重力制御点で落っこちないように支えながら好きにさせておく。
そんな光景を少し離れたところで女の人たちが見ている。深くフードをかぶり、顔を見せず、体の露出もほとんどない。
この人たちが駆け込んできた人達らしい。
神官さんは顔を見せているからわかりやすい。表向きに出てくるときの格好らしい。
そしてミルテアさんは神官の一人に話しかけている。
ミルテアさんよりもちょっと装飾の多い服装の女性でたぶん院長とかだろう。
「というわけでぇ、就職口を見つけてきました~」
「えらい、よくやった!」
うむ、間違いではない。
◆・◆・◆
この世界では金を持っている奴はそれをみんなのために使わないといけない。みたいな常識がある。
余裕があるなら家を構えて人を雇え、みたいな風潮もその一つ。しかも一応法律に明記されているらしい。
なので大きな家には大概メイドや執事がいたりするようだ。
人数の規定などはないらしいのだが、これが少ないと『
じゃあ多ければいいのかというとこれも駄目。人的資源の無駄遣いということで愚か者と呼ばれることになる。
難しいなあ。
「家だったらあと二人もいれば十分ですよ」
すでにいる執事とメイドのおばちゃんも雇っているわけだしね。
そこに将来を見据えて見習いが一人ずついればどこからも文句は出ないだろう。ということだった。
「うーん、じゃあ、メイドの見習いが二人で、セバスの下に下働きが二人?」
「うん、そのくらいまでなら許容範囲ですね。でもいいんですか?」
「いいんじゃない? 食費だけだし。それに知らないところに働きに出るのに知り合いがいないのもつらいだろう」
こういったらネムたちは賛成してくれた。
今回雇うのは見習いなので一〇歳ぐらいの子供になる。給料とかはなし。衣食住を保証してやれば十分なのだそうだ。あとほんの少しのお小遣いかな。
成人して一人前と認められたら初めて給料が発生する。
基本的に終身雇用なのでしっかりした教育もしないといけないようだ。
「その意味でも家はいいと思います。
セバスはけっこう凄腕ですし、メイドたちもいい腕をしています。特に料理がいいですから、うちで仕事を覚えればたぶんどこででも生きていけます」
終身雇用なのにどこででも生きていけるとはこれいかに。
つまりうちがつぶれる可能性があるということだね。
子供たちにしてみればそれこそ一生が決まるわけだから向こうも真剣だ。
◆・◆・◆
「「「きゃーーーー♡」」」
と、いきなり歓声が聞こえた。
なんだと思って振り向く。俺にへばりついていたガキどもも一緒に振り向く。
すると…
「あっ、お姉ちゃんたちだ!」
「シア姉ちゃんだ」
「マヤ姉ちゃんだ」
子供たちが俺から降りて走り出す。
その流れの先には二人の女の子が立っていた。
面識はないがよく知っている女の子。あのワイバーンに噛まれて重傷を負っていた女の子だ。トリンシアさんと言ったか。
そしてその隣にこちらは面識はあるがよく知らない女の子。マーヤさんだったな。
微妙に怪しい女の子だ。
子供たちが一斉にそちらにかけていって、新しい獲物にたかっている。
ある程度大きな子は就職がかかっているので神官さんの所に集まってネムと、そしてミルテアさんと話をしているが、もっと小さい子には大人気だ。
中には俺の頭につかまったままぺしぺし顔をた叩いてそちらを指さす子もいる。
つまり俺に行けというのだな。
だがそれはちょっと…
と思っていたらマーヤさんが俺に気づいた。
トリンシアさんをつついて俺を指さし、何やらささやいている。
トリンシアさんは一瞬吃驚して、そのあと大きく頭を下げた。
うん、どうやらまともなお嬢さんのようだ。
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